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税務ニュース2006年10月16日 土地改良区決済金は譲渡費用、差戻し審で納税者完勝(2006年10月16日号・№183) 「客観的に見てその譲渡を実現するために必要であったか」

土地改良区決済金は譲渡費用、差戻し審で納税者完勝
「客観的に見てその譲渡を実現するために必要であったか」


東京高裁第19民事部(岩井俊裁判長)は9月14日、土地改良区決済金等の譲渡費用該当性が争われていた差戻し控訴審で、譲渡費用該当性については上告審(最高裁)の判示を全面的に引用したうえで、「本件決済金の中には、本件土地を転用目的で譲渡するか否かにかかわらず決済の時点で既に支払期が到来していた賦課金等の未納金は含まれていなかった。」との判断を示し、納税者の請求どおりに更正処分等を取り消した。

事案の概要
 控訴人(納税者)は、平成10年分の所得税の申告において、長期譲渡所得の金額の計算上、A土地改良区へ支払った決済金等113万6171円(以下「本件決済金等」という)は譲渡費用に当たるとして、この金額を収入金額から控除して申告したところ、被控訴人(税務署長)は、これを否認し、増額更正および過少申告加算税賦課決定を行った。
 本件は、控訴人が、本件決済金等は本件土地の譲渡費用に当たるとして、本件更正のうち申告額を超える部分および本件賦課決定の取消しを求めた事案である。
 本件決済金等は、土地改良法42条2項(土地改良区の組合員たる資格の喪失)に基づくものである。控訴人は、株式会社Bとの間で、農地法等による許可(転用許可)を停止条件として本件土地を売り渡す旨の売買契約を締結していた。

第一審・控訴審の判示
 第一審(新潟地裁)・差戻し前の控訴審(東京高裁)では、「本件決済金は、本件土地の転用による組合員資格の喪失に伴いA土地改良区との間でその事業に関する権利義務につき一時に決済が必要となった清算金にすぎず、その支払が農地法5条の転用移転の許可自体の法律上の手続に不可欠なものとなっているわけではない。また、本件協力金等は、転用された土地につきA土地改良区内の土地改良施設を将来にわたって使用するための負担金にすぎない。本件決済金等は、本件土地の譲渡を実現するために直接必要な支出として実質的関連性があるものではなく、譲渡に際しての増加益のために必要な支出として合理的関連性があるものでもないから、本件土地の譲渡費用に当たらない。」と判示して、原告(控訴人)の主張を斥けた。

上告審の判示
 一方、上告審(最高裁)では、「資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである。上告人が本件土地を転用目的で譲渡する場合には土地改良法42条2項及びこれを受けて制定された本件処理規程により本件決済金の支払をしなければならなかったのであるから、本件決済金は、客観的に見て本件売買契約に基づく本件土地の譲渡を実現するために必要であった費用に当たり、本件土地の譲渡費用に当たるというべきである。」・「仮に本件決済金の中に本件土地を転用目的で譲渡するか否かにかかわらず決済の時点で既に支払義務が発生していた賦課金等の未納入金が含まれていた場合には、本件決済金のうち上記未納入金に係る部分は本件土地の譲渡費用に当たらないというべきである。」・「A土地改良区の組合員がその地区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり本件使用規程及び本件徴収規程に基づく施設等使用負担金を支払った場合には転用された土地のために土地改良施設を将来にわたり使用することができることになるのであるから、上記の施設等使用負担金の支払は当該土地の譲渡価額の増額をもたらすものということができる。そうであるとすれば、上告人が上記の施設等使用負担金として支払った本件協力金等は、本件土地の譲渡費用に当たるというべきである。」と判示し、原判決を破棄し、本件決済金の中に本件土地を転用目的で譲渡するか否かにかかわらず決済の時点で既に支払義務が発生していた賦課金等の未納入金が含まれていたのかどうかについて審理させるため、東京高裁に差し戻す判決を言い渡した。

差戻し控訴審の判示
 差戻し控訴審では、税務署長側で、「本件決済金の中に決済の時点で既に支払い義務が発生していた賦課金等の未納入金は含まれていなかったものである。」との弁論を行っており、岩井裁判長は、譲渡費用該当性について、前期の最高裁の判示を全面的に引用したうえで、「本件決済金の中に決済の時点で既に支払い義務が発生していた賦課金等の未納入金は含まれていなかったものであるから、結局、本件決済金から控除すべきものは存在しないことになる。」と判示して、納税者の請求どおりに更正処分等を取り消した。税務署長側で上告を断念したため、本件は納税者の完勝で確定した。

実務家は最高裁の判示を吟味する必要
 土地改良法42条2項に基づく決済金等については、同じ争点が争われた事件で、納税者の請求を棄却する第一審判決がそのまま確定した例がある(平成8年1月30日新潟地裁判決)。譲渡費用の意義と範囲については、必ずしも明確ではなく、決済金等の支払いが、事実上転用手続きに組み込まれていたこともあり、当該判決の「譲渡費用」の解釈には、批判が寄せられていた。
 本件上告審判決は、その射程範囲は必ずしも明確なものとはなっていないが、譲渡費用該当性の判断基準を示している。右山訴訟では譲渡所得における取得費の見直しが行われたが、本件判示は、譲渡費用の見直しにつながるものである。具体的な見直し(本判決の射程範囲)は明らかではないものの、実務家は譲渡費用の範囲について、判示に基づいた判断が迫られよう。


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