会計ニュース2003年04月14日 衆議院議員塩崎恭久氏にインタビュー ニュース特集 第2部 公認会計士法改正のキーパーソンに訊く
ニュース特集 第2部
公認会計士法改正のキーパーソンに訊く
衆議院議員塩崎恭久氏にインタビュー
国会議員の中では数少ない「会計通」であるとともに、今後の公認会計士法改正案の国会審議を左右するキーパーソンの一人である衆議院議員塩崎恭久氏(自由民主党財務金融部会長・企業会計に関する小委員会委員長)に改正の真意を尋ねてみた。
編集部:「法改正のねらいはどこにあるのか?」
塩崎議員:「日本の経済や監査に信頼を取り戻すという点にある。金融ビッグバンを経て、間接金融から直接金融へシフトしてきている。そこで、証券市場を公正かつ健全かつ活性化されたものに整備する必要がある。そのためには、①企業のコーポレートガバナンスの充実、②会計基準の整備、③公認会計士監査の充実が必要となる。今回の改正ではいかにして信頼を回復するかという点に気を使った」
編集部:「きっかけはエンロン事件か?」
塩崎議員:「公認会計士法改正はエンロン事件発覚(2001年)以前から取り組んでいる。自民党内に企業会計小委員会ができたのが1999年。そこで3つの大きなやるべき柱を設けた。①会計基準の設定主体を民間の常設の機関に移す(※1)、②ルールの執行と監督主体の見直し、③公認会計士法の改正の3つ。その背景には、レジェンド・クローズ(※2)を外させないといけないという思いがあった」
編集部:「今回の法改正によりレジェンド・クローズは外れる方向に動くか?」
塩崎議員:「難しいのでは。私は、ローテーションはアメリカ同様、5年監査を担当したらインターバルも5年とすべきと主張していた。そこまでしないと、日本の会計・監査の信頼は回復されないし、レジェンド・クローズも外れない。監査を担当した期間が短いと(7年でなく5年とすると)監査の質が落ちると主張する人達がいるが、それはおかしい。5年だと質が落ちるというのであれば、7年やる場合の5年目もまだ質は落ちたままなのですかと問いたい。監査は通常はチームで行っている。5年経った人がぬければいいだけの話なのにそれだけで質が落ちるのか?その上、2年待てばまた帰ってくるというのでは信頼回復も程遠い。そんな甘いローテーションでレジェンド・クローズが果たしてとれるのかと逆に訊きたい。それに加えて、減損会計の導入延期、時価会計のルール変更なんていう話も出てきている。この調子ではレジェンド・クローズが二重・三重とついてしまいかねない」
編集部:「会計士の使命が新設されたのは?」
塩崎議員:「医師法や弁護士法等は第1条に使命・目的が記載されている。昭和23年にできた公認会計士法は、第1条が財務書類の定義から始まるという哲学がない法律。使命を盛り込むことで、証券市場を支える公認会計士のあるべき姿を公認会計士法に示すことができた。
なお、その中の「会社等の公正な事業活動」という文言を捉えて、使命としてふさわしくないのではないか、といった報道も一部にされているようだが心配は不要。読点に注意してよく読むと「公正な事業活動…の保護」ではなく「公正な事業活動…を図り」と書いてある。「専門家として、独立した立場において」会社の事業活動が公正なものとなるように図ることという使命が追加されたので、公認会計士のやるべき仕事がひとつ増え、公認会計士にとっては厳しくなったと考えるべき」
編集部:「合格者を増やすとのことだが、増加した人数は現状の監査業務だけでは吸収できない。例えば、商法特例法のいわゆる中会社にも法定監査を広げるというような職域拡大のプランがあるのか?」
塩崎議員:「合格者を公開企業等の経理部・財務部・内部監査室等で受け入れたいという産業界のニーズがある。さらに、行政・NPO等にも合格者受け入れのニーズがある。今回の改正では職域拡大の話は検討していない」
編集部:「公認会計士・監査審査会はどのような役割を持つのか?」
塩崎議員:「機能を強化した。それにより、公認会計士・監査審査会は公認会計士の身分をモニターする役割と監査業務をモニターする役割の2つがあることとなった。それを明示するため、公認会計士審査会から名称変更させた。2つの役割はお互いに独立していなければならない。ゆくゆくは、アメリカのSEC(証券取引委員会)を参考に日本版SECを作るべき」
編集部:「今回の改正でやり残したことは?」
塩崎議員:「監査法人自体のローテーション、監査法人制度における有限責任組合(リミテッド・パートナーシップ)制度の導入、公認会計士の登録の更新制度の導入などだ。また、監査役や監査委員会取締役の専門性の向上の為、財務専門家を必置すること、株主代表訴訟の対象に会計監査人を含めること等につき関連法律の改正も検討していきたい」
編集部:「上場企業の6割超がFASF(財団法人 財務会計基準機構)の会費を払ってないが?」
塩崎議員:「民間の企業会計基準設定主体の運営を支える為に、会費徴収は不可避。フリー・ライダーは許されるべきでない。まずは、証券取引所に要請しようと考えている。会計は自分の企業の中長期的発展にとって必要だということを経営者が理解しないといけない。そのために不可欠なコストなのだから自発的に払って欲しい。しかし、払わない会社が6割を超える現状では、強制化も視野に入れざるを得ない」
一口解説
※1 この構想に基づき、2001年にFASF(財団法人財務会計基準機構)が設立される。
※2 レジェンド・クローズ
1999年3月期から日本企業(SEC基準による財務諸表作成会社を除く)の財務諸表を英訳した際に、財務諸表や監査報告書に付されることとなった「この財務諸表は日本の会計基準で作成されており、国際的に通用するものとは異なる」といった旨の投資家に対する警句(Legend Clause)のこと。アジア経済危機や相次ぐ大型倒産をきっかけに世界銀行の要請を受けた国際的会計事務所であるビッグ5(現在はビッグ4)がアジアの国を中心に要求することとなった。一部の企業では、この警句を外した例も見られるが、ほとんどの企業ではまだこの警句が付されているのが現状である。
なお、このレジェンド・クローズはマスコミ等では前述のように「警句」と訳されているのが一般的だが、実際には「文書による記述の一部分」という意味。いずれにしろ、特別扱いされてしまった日本企業や日本の公認会計士にとってはゆゆしき一文である。一刻も早く世界に通用する会計基準の策定並びに監査の質の向上が待たれるといえよう。
公認会計士法改正のキーパーソンに訊く
衆議院議員塩崎恭久氏にインタビュー
国会議員の中では数少ない「会計通」であるとともに、今後の公認会計士法改正案の国会審議を左右するキーパーソンの一人である衆議院議員塩崎恭久氏(自由民主党財務金融部会長・企業会計に関する小委員会委員長)に改正の真意を尋ねてみた。
編集部:「法改正のねらいはどこにあるのか?」
塩崎議員:「日本の経済や監査に信頼を取り戻すという点にある。金融ビッグバンを経て、間接金融から直接金融へシフトしてきている。そこで、証券市場を公正かつ健全かつ活性化されたものに整備する必要がある。そのためには、①企業のコーポレートガバナンスの充実、②会計基準の整備、③公認会計士監査の充実が必要となる。今回の改正ではいかにして信頼を回復するかという点に気を使った」
編集部:「きっかけはエンロン事件か?」
塩崎議員:「公認会計士法改正はエンロン事件発覚(2001年)以前から取り組んでいる。自民党内に企業会計小委員会ができたのが1999年。そこで3つの大きなやるべき柱を設けた。①会計基準の設定主体を民間の常設の機関に移す(※1)、②ルールの執行と監督主体の見直し、③公認会計士法の改正の3つ。その背景には、レジェンド・クローズ(※2)を外させないといけないという思いがあった」
編集部:「今回の法改正によりレジェンド・クローズは外れる方向に動くか?」
塩崎議員:「難しいのでは。私は、ローテーションはアメリカ同様、5年監査を担当したらインターバルも5年とすべきと主張していた。そこまでしないと、日本の会計・監査の信頼は回復されないし、レジェンド・クローズも外れない。監査を担当した期間が短いと(7年でなく5年とすると)監査の質が落ちると主張する人達がいるが、それはおかしい。5年だと質が落ちるというのであれば、7年やる場合の5年目もまだ質は落ちたままなのですかと問いたい。監査は通常はチームで行っている。5年経った人がぬければいいだけの話なのにそれだけで質が落ちるのか?その上、2年待てばまた帰ってくるというのでは信頼回復も程遠い。そんな甘いローテーションでレジェンド・クローズが果たしてとれるのかと逆に訊きたい。それに加えて、減損会計の導入延期、時価会計のルール変更なんていう話も出てきている。この調子ではレジェンド・クローズが二重・三重とついてしまいかねない」
編集部:「会計士の使命が新設されたのは?」
塩崎議員:「医師法や弁護士法等は第1条に使命・目的が記載されている。昭和23年にできた公認会計士法は、第1条が財務書類の定義から始まるという哲学がない法律。使命を盛り込むことで、証券市場を支える公認会計士のあるべき姿を公認会計士法に示すことができた。
なお、その中の「会社等の公正な事業活動」という文言を捉えて、使命としてふさわしくないのではないか、といった報道も一部にされているようだが心配は不要。読点に注意してよく読むと「公正な事業活動…の保護」ではなく「公正な事業活動…を図り」と書いてある。「専門家として、独立した立場において」会社の事業活動が公正なものとなるように図ることという使命が追加されたので、公認会計士のやるべき仕事がひとつ増え、公認会計士にとっては厳しくなったと考えるべき」
編集部:「合格者を増やすとのことだが、増加した人数は現状の監査業務だけでは吸収できない。例えば、商法特例法のいわゆる中会社にも法定監査を広げるというような職域拡大のプランがあるのか?」
塩崎議員:「合格者を公開企業等の経理部・財務部・内部監査室等で受け入れたいという産業界のニーズがある。さらに、行政・NPO等にも合格者受け入れのニーズがある。今回の改正では職域拡大の話は検討していない」
編集部:「公認会計士・監査審査会はどのような役割を持つのか?」
塩崎議員:「機能を強化した。それにより、公認会計士・監査審査会は公認会計士の身分をモニターする役割と監査業務をモニターする役割の2つがあることとなった。それを明示するため、公認会計士審査会から名称変更させた。2つの役割はお互いに独立していなければならない。ゆくゆくは、アメリカのSEC(証券取引委員会)を参考に日本版SECを作るべき」
編集部:「今回の改正でやり残したことは?」
塩崎議員:「監査法人自体のローテーション、監査法人制度における有限責任組合(リミテッド・パートナーシップ)制度の導入、公認会計士の登録の更新制度の導入などだ。また、監査役や監査委員会取締役の専門性の向上の為、財務専門家を必置すること、株主代表訴訟の対象に会計監査人を含めること等につき関連法律の改正も検討していきたい」
編集部:「上場企業の6割超がFASF(財団法人 財務会計基準機構)の会費を払ってないが?」
塩崎議員:「民間の企業会計基準設定主体の運営を支える為に、会費徴収は不可避。フリー・ライダーは許されるべきでない。まずは、証券取引所に要請しようと考えている。会計は自分の企業の中長期的発展にとって必要だということを経営者が理解しないといけない。そのために不可欠なコストなのだから自発的に払って欲しい。しかし、払わない会社が6割を超える現状では、強制化も視野に入れざるを得ない」
一口解説
※1 この構想に基づき、2001年にFASF(財団法人財務会計基準機構)が設立される。
※2 レジェンド・クローズ
1999年3月期から日本企業(SEC基準による財務諸表作成会社を除く)の財務諸表を英訳した際に、財務諸表や監査報告書に付されることとなった「この財務諸表は日本の会計基準で作成されており、国際的に通用するものとは異なる」といった旨の投資家に対する警句(Legend Clause)のこと。アジア経済危機や相次ぐ大型倒産をきっかけに世界銀行の要請を受けた国際的会計事務所であるビッグ5(現在はビッグ4)がアジアの国を中心に要求することとなった。一部の企業では、この警句を外した例も見られるが、ほとんどの企業ではまだこの警句が付されているのが現状である。
なお、このレジェンド・クローズはマスコミ等では前述のように「警句」と訳されているのが一般的だが、実際には「文書による記述の一部分」という意味。いずれにしろ、特別扱いされてしまった日本企業や日本の公認会計士にとってはゆゆしき一文である。一刻も早く世界に通用する会計基準の策定並びに監査の質の向上が待たれるといえよう。
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