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コラム2021年02月01日 SCOPE 新株予約権放棄による補償金、合意文書なく原告の請求を棄却(2021年2月1日号・№868)

東京地裁、自発的放棄に疑問の余地はあるが
新株予約権放棄による補償金、合意文書なく原告の請求を棄却


 新株予約権を放棄することにより得たであろう利益相当額の補償合意が成立したか否かが争われた裁判で、東京地方裁判所(渡邉充昭裁判官)は令和2年9月3日、会社と顧問契約をしていた公認会計士である原告の補償金請求を斥ける判決を下した。裁判所は、新株予約権を放棄する理由はないと考えていた原告が被告(当時の会社の代表取締役)からの何らの働きかけもなく、自発的に新株予約権を放棄するとの決断をしたと考えることには疑問を差し挟む余地があるとする一方、補償合意の内容を記載した文書が存在しないなど、補償合意の成立を認めることも困難であると判断した。

アクティビスト対策で新株予約権を発行も、その後株式非公開化の前に放棄

 本件は、新株予約権を放棄することにより得ることができたであろう利益相当額の補償合意が成立したか否かが争われたもの。平成30年3月27日まで名古屋証券取引所に上場していたツノダが活動的株主(アクティビスト)への対策の一環として新株予約権を発行したことが契機となった事件である。
 ツノダ社では、平成24年当時、被告(同社の当時の代表取締役)を強く敵対視し、定時株主総会で感情的・攻撃的な不規則発言を繰り返すなどの活動的株主による企業価値の毀損が顕在化し、活動的株主の影響力によって安定的な経営をすることができなくなるというおそれがあった。このため、同社は経営陣などに新株予約権を発行することで活動的株主をけん制し、必要がある場合には新株予約権を行使し、活動的株主の影響力を低下させることができるように見せる計画が立案され、その後、新株予約権を発行することになった。原告は、当時、同社と顧問契約を締結していた公認会計士だが、新株予約権の発行により、70個の新株予約権を取得した(その後5個を追加取得)。
 その後、同社は祖業である自動車事業を縮小させ、主たる業務を不動産賃貸業に転換し、毎年安定した収益を得ていたものの、今後の成長戦略を描くことができなかったため、弁護士やファイナンシャル・アドバイザー等とともにプロジェクトチームを設置して検討し、既存株主が今後の成長及び企業価値向上に伴うリスクを負担することを避けるために第三者による株式の取得等による非公開化を選択した(その後、上場廃止)。
 原告は、被告から活動的株主による自身に対する株主代表訴訟を避けるため、同社の株式公開買付け実施前に新株予約権を放棄することなどを求められたと主張。原告は新株予約権を放棄する代わりに、被告が利益相当額を補償する提案に合意したとし、当該補償金の請求を行った(参照)。

【表】当事者の主な主張

原  告 被  告
・原告は、新株予約権を放棄する意思はなかったが、被告に補償合意の内容を提案したところ、被告が応じたため本件補償合意が成立した。したがって、原告は被告に対して、補償合意に基づき、原告が本件新株予約権を行使していれば得られたであろうツノダ社の株式7,500株に公開買付けに係る1株当たりの買付け価格1万3,950円を乗じた価格から新株予約権を行使した際に同社に払い込むべき金額を控除した後の7,984万5,000円の支払いを求めることのできる権利を有する。
・プロジェクトのメンバーであった原告及び被告も、同公開買付けに関する条件の概要を把握認識していたから、原告が新株予約権を行使した場合に相当な経済的利益を得ることは確実な状況にあった。したがって、原告が何らの経済的補償がないまま、無償で新株予約権を放棄するなどということはおよそ考え難い。
・原告と被告との間に、補償合意は成立していない。本件プロジェクトにおいては、第1フェーズではプロジェクトの実行可能性を探るに止まるが、第2フェーズではメンバーがプロジェクトの内部情報(買収価格等)を把握することができ、自身が新株予約権を行使した場合に得ることができる利益を計算することができる。このため、プロジェクトのメンバーは同社の新株予約権を保有する者が第2フェーズ以降に関与する場合には、新株予約権を放棄する必要があるとの認識を持つに至っていた。
・プロジェクトが成功する蓋然性は不透明なものであり、原告が新株予約権を行使して経済的利益を得ることができるかも不透明であった。そうすると、原告が新株予約権を行使し、2,478万円を払い込んで株式を取得することは高い投資リスクがあったといえる。

裁判所、補償合意の文書が作成されてしかるべき

 裁判所は、プロジェクトの第1フェーズにおいても1株当たりの修正後純資産額の試算がされていたことなどから、原告において、同社の株式が公開買付けの対象となった場合の買付け価格を予測し、新株予約権を行使した場合に相当額の利益を得ることができるとの考えを持ったとしても、何ら不自然ではないと指摘。自身の保有する新株予約権を放棄する理由はないと考えていた原告が被告側からの何らの働きかけもなく、自発的に新株予約権を放棄するとの決断をしたと考えることには疑問を差し挟む余地があるとした。
 その一方で裁判所は、補償合意の成立を認めることも困難であるとし、原告の請求を棄却している。裁判所は原告が自発的に新株予約権を放棄するとは考え難いにもかかわらず、新株予約権を放棄する旨の書面を提出したという事実からすれば、被告側から原告に対し何らかの働きかけがされたとの事実が推認され、原告が被告に対して送信した「ツノダ株式のストックオプションに関連して、私の得べかりし利益を補償して頂けることになっていたかと思いますが(但し、贈与税は私負担)、この件、如何なりましたでしょうか?」との電子メールと、「2000万円では、ご納得いただけなかったでしょうか?」との被告の返信を読めば、被告が新株予約権の放棄に際し何らかの見返りをするとの合意がされたと考える余地はあるとしたが、電子メールのやり取りは、原告と被告との間の合意内容に関する認識が一致していないことも示しており、合意の内容の特定は困難であるとした。また、補償合意が成立したのであれば、合理的な理由がない限り、補償合意の内容を記載した文書が作成されてしかるべきであるが、書面が存在しないとの事情は補償合意が成立したことに対する重大な疑問を生じさせるものであるとした。

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