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解説記事2019年09月09日 SCOPE 通達評価額に乗じた節税策に警鐘を鳴らす(2019年9月9日号・№802)

経緯(一連の行為)に総則6項の「特別の事情」
通達評価額に乗じた節税策に警鐘を鳴らす


 東京地裁(鎌野真敬裁判長)は8月27日、相続財産の一部の土地及び建物の価額につき評価通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められるとして、評価通達によらない評価方法での評価を行った更正処分等の取消しが求められた事案について、原告(納税者)の請求を棄却する(更正処分等を容認する)判決を言い渡した。

納税者(通達評価額)と国(鑑定評価額)の違いはほぼ4倍に

 本件では、相続財産中の東京都杉並区所在の甲物件と神奈川県川崎市所在の乙物件の評価が争点となった。原告は、甲乙ともに財産評価基本通達の定める評価方法(路線価評価等)により評価して相続税の申告を行った。課税庁は、評価通達6項を適用し、他の合理的な評価方法として、鑑定評価額により評価し、更正処分等を行った。原告が主張する評価額と被告(国)が主張する評価額ではほぼ4倍の乖離が生じていた(表1参照)。

 事案の経緯の概略は次のとおりである。被相続人は下記甲乙物件の取得当時は90歳程度の高齢で、事業承継や相続税が心配である旨を金融機関に相談していた。被相続人は平成21年1月、甲物件を総額837,000,000円で取得し、その3/4程度は金融機関から借り受けた。平成21年12月、乙物件を総額550,000,000円で取得し、その多く(79%程度)は、金融機関及び妻子から借り受けた。平成24年6月に被相続人は94歳で死亡した。被相続人の相続税申告では、借入を伴う甲乙物件の取得により、小規模宅地等特例適用後の甲乙物件の課税価格と本件借入金債務総額との差額659,439,359円が他の積極財産から控除され、原告らは相続税の負担を免れるものとなっていた。なお、原告の一人は、平成25年3月に、乙物件を総額515,000,000円で譲渡した。

通達評価の形式的な平等は実質的に不公平

 本件で主要な争点となった相続開始時の各不動産の時価(評価通達の定める評価方法によらない評価が許されるための特別の事情の内容及びその有無)については、表2のとおり主張され、東京地裁は、本件各不動産の相続税法上の時価は鑑定評価額であると結論付けた。より具体的に言えば、本件の経緯・事実関係(一連の行為)(相続開始間際での不動産の取得とそのための借入)が「特別の事情」と認められたものと整理できよう。

【表2】主要な争点に関する当事者の主張と判示

被告(国)の主張 原告(納税者)の主張 東京地裁の判示
特別の事情について  本件通達評価額と本件各不動産の時価との間には著しい乖離があり、本件各不動産の評価につき「特別の事情」が認められる  課税庁の都合により通達による評価を否定する要件である「特別の事情」の該当性判断に、納税者の相続税軽減目的を加えることは制度趣旨を没却したもので到底受け入れられない。  本件各通達評価額が本件相続開始時における本件各不動産の客観的な交換価値を示していること(評価通達の定める評価方法が合理性を有すること)については、相応の疑義がある。
一連の行為の意義  本件各不動産に係る本件被相続人及び原告ら等による一連の行為からしても、本件各不動産の評価につき「特別の事情」があると認められる  納税者の節税や租税回避の意図を「特別の事情」の判断要素に取り込むことは財産評価における課税庁の裁量の余地を大幅に認めることになり、租税法律主義に反する。  経緯等からは、本件被相続人及び原告らは、本件各不動産の購入及び本件各借入れを被相続人及び自社の事業承継の過程の一つと位置付けつつも、それらが近い将来発生することが予想される本件被相続人の相続において原告らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、それを期待して、あえてそれらを企画して実行したと認められ、これを覆すに足りる証拠は見当たらない。
結  論  以上にみた事実関係の下では、本件相続における本件各不動産については、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くと、本件各不動産の購入及び本件各借入に相当する行為を行わなかった他の納税者との間で、かえって相続負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価することが許されるというべきである。そして、本件全証拠によっても本件各鑑定評価の適正さに疑いを挟む点が特段見当たらないことに照らせば、本件各不動産の相続税法22条に規定する時価は、本件各鑑定評価額であると認められる。

 また、「評価通達への信頼が裏切られ、信頼保護法理に反する。」との原告の主張に対して「本件の事実関係の下では、(中略)本件各不動産について評価通達の定める評価方法による評価額で課税を受けることに対する原告らの信頼は、保護に値するものとは認められない。」と判示するなど、通達評価額との乖離に乗じた節税策に、司法の厳しい対応を示すものとなった。

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