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解説記事2021年04月12日 ニュース特集 「炭素税」導入の行方(2021年4月12日号・№878)

ニュース特集
経産省はカーボンニュートラル実現に向け研究会を設置
「炭素税」導入の行方


 2050年までに「カーボンニュートラル」を実現することが菅政権の目玉政策の一つとなっているが、こうした中、我が国でも「炭素税」の導入が検討される可能性が出て来た。経済産業省は今年2月17日、「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」を立ち上げ、カーボンプライシングを含む政策課題について議論を開始、これまで既に3回の会合を重ねている。
 これに対し企業の間では、日本には既に様々なエネルギー関係の税目が存在していることや、事実上の炭素税と言える石油石炭税の上乗せ分(地球温暖化対策税)の税収や使途が公表されておらず「不透明」であることから、炭素税を直ちに強化(地球温暖化対策税の引上げ、あるいは新税の導入)することには異論を唱える声が強い。また、炭素税を強化すれば、炭素排出を減らすための技術開発の原資を奪うことになりかねないとの指摘もある。
 今のところ税制当局側に特段の動きは見られないことから、直ちに政府税調等での議論に発展するとは考えにくく、令和4年度税制改正で法制化が実現する可能性は現時点では高くないのではないかと予想する向きも多い。ただ、現状、令和4年度改正で論点となりそうな法人関係の改正項目は、令和2年度税制改正で導入されたオープンイノベーション促進税制や5G投資促進税制の期限切れなど小粒なものが多いこともあり、令和4年度税制改正の目玉措置として炭素税が政治的に注目されるという展開も否定はできないだけに、企業側からは警戒の声が上がっている。
 本特集では、「炭素税」導入議論の論点を整理した上で、その行方を占ってみたい。

現状では“小粒”な改正項目が並ぶ令和4年度税制改正の目玉になる可能性

 菅総理が2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言して以来、カーボンプライシング(炭素排出に価格をつけ、排出者の行動を変容させる政策手法)を巡る議論が加速している。

<令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説(抜粋)>

三 グリーン社会の実現
 菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。
 我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
中略
長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。

 経済産業省が昨年末に策定し成長戦略会議に提出した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、カーボンプライシングについて「既存制度の強化や対象の拡充、更には新たな制度を含め、躊躇なく取り組む」と明記。これを受けて経済産業省は今年2月17日、「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」を立ち上げ、カーボンプライシングを含む政策課題について議論を開始している。同研究会はこれまで既に3回の会合を重ねており、これまでの会合では、文字通り「カーボンプライシング」が主なテーマとなっているが、今後、「炭素税」が検討の俎上に載る可能性は高いだろう。
 今のところ税制当局側に特段の動きは見られないことから、直ちに政府税調等での議論に発展するとは考えにくく、令和4年度税制改正で法制化が実現する可能性は現時点では高くないのではないかと予想する向きも多い。ただ、令和4年度税制改正で論点となりそうな法人関係の改正項目が今のところ小粒なものばかりである点は気になるところだ。令和2年度税制改正で導入したオープンイノベーション促進税制や5G投資促進税制、個別業界の租税特別措置が期限切れを迎えるほか、交際費課税の特例も一部議論になることが予想されるが、いずれもインパクトは大きくない。そこで、カーボンニュートラル実現を掲げる政権の目玉政策となり得る炭素税が注目され、令和4年度税制改正大綱のとりまとめに向け、年末にかけて政治的に議論が盛り上がるという展開も否定はできないだけに、企業側からは警戒の声が上がっている。

地球温暖化対策税は我が国における事実上の「炭素税」

 もっとも、我が国において「炭素税」は必ずしも全く新しい概念ではない。
 まず、既に我が国には様々なエネルギー関係の税目が存在している。原油・ガス・石炭の輸入・採取段階では石油石炭税が課税され、製品段階ではガソリンには揮発油税(地方揮発油税含む)、LPガスには石油ガス税、軽油には軽油引取税、ジェット燃料には航空機燃料税が課税されている。このほか、発電が行われた場合には電源開発促進税が課税される。これらのエネルギー関係諸税の税収を合計すれば、毎年4兆円以上にのぼる。
 また、石油石炭税の税収には、地球温暖化対策のための課税(以下、「地球温暖化対策税」という)の上乗せ分が含まれている。この地球温暖化対策税が、日本における現在唯一の(事実上の)炭素税とされる。というのも、他のエネルギー諸税(石油石炭税の本体部分を含む)はエネルギーの「消費量」に対する課税であるのに対し、地球温暖化対策税は「排出される炭素」に比例して課税する仕組みとなっているからだ。具体的には、化石燃料ごとのCO2排出原単位を用いて、それぞれの税負担がCO2排出量1トン当たり289円に等しくなるように、単位量(キロリットル又はトン)当たりの税率が設定されている(図表1参照)。制度創設時の見積もりによると、平年度の地球温暖化対策税の税収は約2,623億円となっている。

 地球温暖化対策税のような類型は、国際的には「明示的炭素税(explicit carbon tax)」に分類される。OECDのデータ(“Taxing Energy Use 2019-Using Taxes for Climate Change”)によれば、確かにこの部分だけを取り出せば、日本は諸外国に比べ「税率が低い」ということになる(図表2参照)。

地球温暖化対策税の税収実績は未公表

 とはいえ、直ちに炭素税を強化(地球温暖化対策税の税率の引き上げ、あるいは新税の導入)をすべきかというと、企業側には異論を唱える声が強い。
 まず、増税によって炭素排出を減らすための技術開発の原資が奪われるという問題があるため、他の政策手法を検討すべきという意見がある。また、そもそも論として、現行の地球温暖化対策税は税収実績が公表されていないということが、企業側の不信感を生んでいる。実は、上述した「2,623億円」という税収はあくまで“見積り”に過ぎない。経済産業省の「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」の第一回会合に提出された資料には「石油石炭税(地球温暖化対策税を含む)約7,010億円」との表記があるが、石油石炭税の税収全体のうちいくらが地球温暖化対策税なのかが書かれていない理由もここにある(図表3参照)。

 また、地球温暖化対策税の使途は、省エネ対策、再生可能エネルギーの普及、化石燃料のクリーン化・効率化等とされているが、石油石炭税の税収全体がいったん一般会計に計上された上で、必要額がエネルギー対策特別会計に繰り入れられ、その一部がこれら事業に充当されるため、実際には地球温暖化対策税の使途が具体的に明らかになっているわけではない。企業からすれば、「地球温暖化対策税の透明化なくして議論はできない」というところだろう。
 もっとも、気候変動問題が深刻化し、投資家の関心も高まる中、反対一辺倒で議論にすら応じないという姿勢はもはや通用しなくなっており、そのような対応によって「気候変動対策に消極的な企業」とのレッテルを貼られれば、企業のレピュテーションも大きく棄損される。個別企業としても、また経済界全体としても、難しい立ち位置に立たされていると言えよう。
 また、一口にカーボンプライシングといっても「税」だけではなく排出量取引や賦課金などがあり、さらには、EUや米国で議論されている国境調整措置(排出量の多い国からの輸入について、国境において関税を賦課する等)の論点もある。上述のとおり税制当局側から今のところ特段動きが見られない理由として、これらの議論の進展をうかがっているということも考えられる。
 とはいえ、税収の増加につながる炭素税の導入に税制当局が反対する積極的な理由は見当たらない。税制当局の今後の動きによっては、炭素税が一気に令和4年度税制改正の目玉として浮上する可能性も否定はできないだろう。

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