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解説記事2019年11月25日 第2特集 書面による議決権行使の有効性を巡る注目の高裁判決(2019年11月25日号・№812)

第2特集
代理人出席の場合の議決権行使は?
書面による議決権行使の有効性を巡る注目の高裁判決


 書面による議決権行使を行った株主の代理人が株主総会に出席したが、株主総会で修正動議が行われた際に投票しなかった場合、事前に行使した会社提案に賛成する議決権の有効性はどうなるのか。司法関係者注目の判決が10月17日に東京高裁で下された。東京高裁第7民事部の足立哲裁判長は「棄権」とみなすと判断した東京地裁の判断を覆し、議決行使書と異なる内容で議決権を行使する意思を有していないことは明らかであると指摘。会社提案に賛成し、修正動議に反対として取扱うとの判断を示した。本裁判は1部上場会社の株主総会決議を巡り争われたもの。創業家である元会長が昨年の株主総会に提出された修正動議について、取締役の地位や修正動議の決議が存在しないことを確認するために訴訟が提起されたものである。

東京地裁ではどちらの決議も過半数を満たさず

 今回の事件は東証1部上場のアドバネクスの平成30年6月の株主総会がその舞台となった。同株主総会では、会社提案の取締役7名のうち4名(創業家出身の当時の会長を含む)を代え、新たに3名の社外取締役を選任する旨のX(A株式会社等の代表取締役でありアドバネクスの取引先を会員とする持株会の理事長)による修正動議が行われた。結果、修正動議が可決され、4名の取締役らは解任、新たに3名の社外取締役が選任された。
 このため、創業家である元会長らは4名がいずれも会社の取締役の地位にあること及び修正動議が可決した旨の決議が存在しないことを確認するため訴訟を提起した。
 第1審の東京地裁の判決(平成31年3月8日)では、Xの修正動議で可決された3人の社外取締役は過半数に満たなかったとする一方、元会長ら4人の取締役についても過半数に達しなかったとの判断が示された。
持株会は修正動議に「反対」が相当
 3人の社外取締役の選任が取り消されたのは、修正動議に賛成した持株会の議決権行使が無効と判断されたためだ。当事者の主張は表1の通りである。

【表1】Xによる修正動議に賛成する旨の持株会の議決権行使は無効か

原告(元取締役ら)の主張 被告(会社)の主張
 Xが本件総会に出席して行った本件修正動議に賛成する旨の本件持株会の議決権行使は無効であり、インターネットによる議決権行使を有効と取り扱うべきである。本件持株会において、会員は自己の持分相当の株式の議決権行使につき本件持株会に対し指示を与えることで議決権行使が可能とされており、本件総会に当たって、本件持株会事務局が本件会社提案に賛成しない特別の指示を与える場合には通知するよう通知したところ、本件会社提案に反対する特別の指示はなく、会員が本件会社提案に賛成する意思であったといえる。  本件持株会の議決権行使については、Xが本件総会に出席して行った議決権行使を有効と取り扱うべきである。本件持株会の代表者であるXは本件総会に出席した以上、本件総会当日の議決権行使を有効として集計する必要がある。また、法人等の代表者による議決権行使が当該法人の意思を正しく反映しているかどうかは当該法人等の内部の問題である。インターネットによる議決権行使は株主総会当日の議決権行使により撤回可能なものであるから、事前の議決権行使において本件会社提案に賛成していたからといって、その後の代表者による本件修正動議に賛成する投票が代表権の濫用には当たらない。

 東京地裁民事第8部の諸井明仁裁判官は、修正動議は持株会の通知により会員の意思確認がされたものではないから、法人の代表者等が修正動議について議決権を行使する際、原案に関する特別の指示があれば、そこから合理的に導き出せる内容により議決権行使をする権限が与えられていると解するのが相当であるとした。本件については、会社提案により7名の取締役の選任に賛成した上、修正動議による3名の取締役を選任すると10名となり、取締役は8名以下とされている定款に反する議案となる。これを踏まえると、特別の指示から合理的に導き出せる内容は、修正動議に反対すると解するのが相当であるなどとした。
機関投資家の議決権は「棄権」と判断
 一方、元会長ら4人の取締役の再任が否決されたのは、事前に議決権行使を行った機関投資家(M銀行、N生命)の議決権が「棄権」として取り扱われたことによるものだ。当事者の主張は表2の通りである。

【表2】M銀行及びN生命の議決権行使は、会社提案に賛成したものといえるか

原告(元取締役ら)の主張 被告(会社)の主張
 M銀行の担当者は、本件総会において、傍聴に来ているだけであり、事前に提出している本件会社提案に賛成ということがすべてである旨本件総会の事務局に申し出て、本件総会の事務局担当者の指示に従い、投票用紙に何も記載せずに提出した。必ずしも物理的に退席せずとも、その旨の意思が確認されている限り、欠席として扱うべきであり、役員については、決議に参加しないことを前提に議決権行使書が有効とすることが行われており、株主総会に臨席した時点で議決権行使書が効力を失うとする取扱いは実務上行われていない。以上からすると、本件会社提案及び本件修正動議について欠席として扱い、議決権行使書に従って、会社提案に賛成、修正動議に反対として取り扱うべきである。
 N生命においても、総会の事務局担当者において事前に提出された議決権行使書のとおりとの意向が確認されており、議決権行使書に従って、会社提案に賛成、修正動議に反対として取り扱うべきである。
 M銀行の担当者が傍聴に来ているだけである旨発言したことは認め、その余は否認する。M銀行の担当者は、発言票を受け取って本件総会に入場し、他の議案については議決権を行使しており、本件総会の事務局担当者から提出を促したものの、投票用紙を提出しなかった。議長が投票により採決すると決めた場合には、投票によって意思を表明しない者の議決権をその者の内心を推測して取り扱うことは許されず、投票用紙を提出しない以上、棄権として扱うのが相当である。
 N生命の議決権行使についても、投票用紙を提出していない以上、棄権として扱うのが相当である。

 東京地裁は、書面による議決権行使制度は、株主自身が株主総会に出席することなく議決権を行使できるための便宜を会社が図る制度であると指摘。M銀行及びN生命の各担当者が、本件総会に職務代行者として出席した以上、その時点で事前の書面による議決権行使は撒回されたものと解するのが相当であるとした。
 本件では、会社提案及び修正動議に対する投票に際し、N生命の担当者は投票せず、M銀行の担当者は白紙の投票用紙を交付したに過ぎないのであるから、M銀行及びN生命の議決権については、棄権として扱うのが相当であるとの判断を示していた。

東京高裁、事前の議決権行使によるのが相当

 10月17日に判決のあった東京高裁では、結果的には元取締役ら(第1審原告)の訴えがすべて却下又は棄却されることになった。
 東京高裁は、M銀行の担当者は総会会場に入場したが、同銀行から議決権行使の権限を授与されておらず、本件会社提案及び本件修正動議についての投票の際、会社(第1審被告)に対してその旨を説明しており、会社も同銀行が議決権行使書と異なる内容で議決権を行使する意思を有していないことは明らかであったと指摘。このような状況においては、書面による議決権行使の制度の趣旨に鑑み、会社において確認している株主の意思に従って議決権の行使を認めるべきであるから、投票による本件会社提案及び本件修正動議について欠席として扱い、事前に送付されていた議決権行使書に示されたM銀行の意思に従って本件会社提案に賛成、修正動議に反対として扱うのが相当との判断を示した。
議決権行使の権限は授与されておらず
 会社(第1審被告)は、株主総会に傍聴者の入場を認めておらず、M銀行の職務代行者が本件総会に出席したのであるから、書面による議決権行使は撤回されたものとして扱われるべきであると主張するが、担当者は議決権の行使について何らの権限を授与されておらず、傍聴者として本件総会会場に入場したのであり、職務代行者として入場したとは認められないと指摘。担当者が総会会場に入場したことや投票前に議場を退場しなかったことをもって、事前の書面による議決権の行使が撤回されたと認めることはできないとした。
 したがって、M銀行の議決権の行使については、議決権行使書のとおり、会社提案に賛成、修正動議に反対として扱われるべきであるとすると、N生命の議決権の行使をどのように扱うか検討するまでもなく、第1審原告らに対する賛成票は過半数に達するとした。
今年の総会ですでに取締役任期が満了
 しかし、第1審原告らの取締役として選任する決議が成立したものの、令和元年6月25日に開催された株主総会が終結されたことにより、第1審原告らの取締役任期は満了したものと判断されている。
 また、3人の社外取締役は令和元年5月8日に辞任しており、株主総会決議が存在しないことの確認を求める訴え及び同決議の取消しを求める訴えについては、いずれも訴えの利益がないため、不適法との判断を示した。
 東京高裁の判決では実質的に第1審原告の主張を認めたが、結果的には全面的に敗訴する形になった。第1審原告は上告しており、最終結論は最高裁の判断を仰ぐことになる。

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