解説記事2019年12月02日 SCOPE 無予告調査に反発した代償、38億円に(2019年12月2日号・№813)
最高裁判決と基本的な事実関係は共通
無予告調査に反発した代償、38億円に
東京地裁民事51部(清水千恵子裁判長)は11月21日、納税者(法人)が総額38億円余の消費税等の課税処分の取消請求を求めていた事案について、原告の請求を棄却した。
本件は、事前通知を欠いた税務調査及びその根拠の開示を求めたことに対する税務職員対応に反発した納税者が、帳簿等を提示しなかったことで、消費税の仕入税額控除(全額)否認の更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分を受けたもの。
最終的に約38億円という多額の課税処分となったこともあり、原告は、納税者が敗訴した類似事案の最高裁判決(最高裁平成13年(行ヒ)第116号同16年12月16日第一小法廷判決、最高裁平成16年(行ヒ)第37号同16年12月20日第二小法廷判決)と本件は異なると主張したが、東京地裁は、「各最高裁判決と事実関係の詳細は異なるとしても、合理的理由なく帳簿等の提示を拒み続けたという点では基本的な事実関係を共通にするものといえる。」と判示し、原告の請求を斥けた。
「帳簿等の不提示」最高裁判例の射程が争点に
本件は、原告が、平成26年2月4日以降に本件調査において、消費税法30条7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿等を提示しなかったことにより、同項にいう「帳簿等を保存しない場合」に当たることを理由に、処分行政庁から、平成27年6月8日付けで、当該課税期間に係る仕入税額控除は認められないとして、消費税等に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため、これらの処分の取消しを求めた事案である。
課税処分の概要は次頁表のとおり、追徴税額(更正による納付税額・過少申告加算税額)は3期分で38億円余に達している。

帳簿等の不提示により仕入税額控除(全額)の否認を受けた上記類似事案の最高裁判決では、「事業者が、消費税法30条7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、これらを税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように所定の期間及び場所において態勢を整えて保存していなかった場合は、同項にいう『事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合』に当たる。」と判示していた。
無予告調査⇒帳簿等の不提示⇒仕入税額控除否認⇒総額38億円余の課税処分
本件において原告は、上記最高裁判所事案とは異なる事実関係を主張した。具体的には、①本件調査担当者は、仕入税額控除の否認の仕組みを教示すべき実務慣行等に反し、当該仕組みを説明しなかった。②本件調査担当者は、具体的な時期を示した上で帳簿等の提示を催告し、また、最終的に約38億円という多額の課税処分を受けるという不利益を受けてもなお提示しないかという最終的な選択を示しての催告をしなかったから、憲法31条が定める適正手続きの保障に反する。③真に帳簿等の提示を求める意図であったとはいえないものであって、通則法74条の2第1項を質問検査権行使の為ではなく、多額の課税の目的のために用いたものであって、同項の趣旨に反するものである。④原告が帳簿等を提示しなかったと認めることは時期尚早である。⑤(着手時の)平成26年2月4日の調査につき通則法74条の10の事前通知を要しない場合に該当するとした根拠について回答するよう求めていたにもかかわらず、東京国税局や本件調査担当者はこれを一切無視していたから、原告には調査に応じ難いとする理由があった。――などと主張した。
しかしながら、判決では、事実関係について、「本件調査担当者による長期間にわたる帳簿等の提示の求めに対し、原告において、これに応じ難いとする合理的理由はなかったにもかかわらず、帳簿等の提示を拒み続けたものと認めるほかない。」などと原告の主張を一蹴、最高裁判決を引用し、原告の請求を斥けた。
原告からすれば、無予告調査から始まった調査拒否(帳簿等の不提示)が38億円余の高額な代償を払うことにつながった。最高裁判決からも「帳簿等の不提示」の代償の大きさはわかっていたことでもあるが、実務家は改めて肝に銘じ、調査に臨む必要があろう。
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