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解説記事2021年09月06日 SCOPE 金融所得課税の一体化の狙いは有価証券市場デリバティブ(2021年9月6日号・№896)

時価評価課税の適用で租税回避を防止
金融所得課税の一体化の狙いは有価証券市場デリバティブ


 各省庁等の令和4年度税制改正要望が出揃ったが、金融庁の税制改正要望で注目されるのは「金融所得課税の一体化」だ。損益通算の範囲をデリバティブ取引及び預貯金等に拡大するよう求めるものだが、まずは有価証券市場デリバティブをターゲットとして損益通算の対象に加えるよう求めている。一方、租税回避防止策として有価証券市場デリバティブ取引に限って時価評価課税を一律に導入する。そのほか金融庁では、昨年に引き続き上場株式等の相続税に係る見直しや、NISA口座及び特定口座の利便性向上に向けた見直しを求めている。

納税者の選択ではなく一律に時価評価課税

 金融商品間の損益通算については、2016年1月より上場株式等に加え、特定公社債などにまで拡大されているが、デリバティブ取引及び預貯金等は損益通算が認められていない。金融庁では従来から金融所得課税の一体化を税制改正要望として挙げており、令和3年度与党税制改正大綱においては、「デリバティブを含む金融所得課税の更なる一体化については、総合取引所における個人投資家の取引状況等も踏まえつつ、投資家が多様な金融商品に投資しやすい環境を整備する観点から、時価評価課税の有効性や課題を始めとして多様なスキームによる意図的な租税回避行為を防止するための実効性ある具体的方策を含め、関係者の理解を得つつ、早期に検討する。」旨が明記されていた。
 これを踏まえ金融庁では、「金融所得課税の一体化に関する研究会」を設置。同研究会での議論をまとめた論点整理を7月7日に公表し、今回の令和4年度税制改正要望に大きく反映している。
 今回の税制改正要望も損益通算の範囲をデリバティブ取引及び預貯金等にまで拡大することを挙げているが、デリバティブ取引のうち、まずは「有価証券市場デリバティブ」をターゲットとしているのがポイントだ。現在、個人投資家において株式取引が広範に行われており、このヘッジ手段として有効なデリバティブ取引については、政策目的に照らし優先度が高く、市場デリバティブ取引については、取引所での市場流動性を通じた価格・取引の透明性等が担保されていることから、金融機関や税務当局の実務において問題が発生する可能性が低いというのがその理由だ。
 一方で有価証券市場デリバティブを損益通算の対象範囲に追加した場合に懸念されるのは租税回避行為だ。例えば、ストラドル取引と呼ばれる租税回避行為は、デリバティブ取引の「売り」と「買い」を両建てで取引し、株式譲渡益が多額に発生した年の年末に両建てのうち損失があった方だけを売却することで実現損を発生させ、株式譲渡益と通算することで課税の繰り延べを行うというものである。このため、有価証券市場デリバティブ取引に対しては、時価評価課税を一律に適用することで租税回避行為を防止するとしている(参照)。検討段階では、デリバティブ取引の時価評価を事前に届け出た者のみ損益通算を認める案もあったようだが、納税者側に選択の余地を与えることになり、租税回避防止策としては好ましくないということで一律に時価課税を適用するスキームにしている。

 なお、損益通算を行う場合には、利便性向上の観点から特定口座の活用を想定しているが、確定申告によることも可能としている。
上場株式の相続税評価の見直しを要望するも
 今年も金融庁は上場株式等の相続税評価方法等に係る見直しを要望している。現行、相続財産となった上場株式等については、相続時の時価と、相続時以前3か月間の各月における終値平均額のうち、最も低い価額で評価されることになるが、上場株式等は相続時から納付期限までの10か月間の価格変動リスクが大きいため、相続後の株価の下落に備えて売却するといったケースが見受けられると指摘。国民の資産選択に歪みを与えているとしているが、具体的な評価方法の見直しは提案されておらず、実現までの道のりは遠いようだ。また、上場株式等による物納については、不動産等と同じく第1順位とされているが、「延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること」といった要件が付されているため、上場株式等の物納は一部の利用に限られているとし、要件の緩和を求めている。
特定口座の上場株式等は信託可能か明確化へ
 そのほか、NISA口座の開設申込者が他の金融機関でNISA口座を開設しているか不明であると申し出た場合には、金融機関でNISA口座の有無を即時に確認できないため、税務署での審査完了(1〜2週間程度)を待って取引開始となっている。このため、NISA口座の開設者が自分の口座の有無をマイナンバーカードにより即時に確認できる仕組みを構築すべきとしている。また、現在、認知症等の発症に備え、事前に特定口座を開設するとともに、金融機関と信託契約を締結することで顧客の資産管理を行うサービスが検討されているようだが、特定口座で管理されている上場株式等については、金融機関に信託できるか否か税法上明確ではないため、金融機関に信託できる旨を明確化すべきとした。

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