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解説記事2021年09月27日 SCOPE HOYA、会社分割の試験研究費の「移転分加算」巡り敗訴(2021年9月27日号・№899)

期限後の届出を可能とする経過措置の適用なし
HOYA、会社分割の試験研究費の「移転分加算」巡り敗訴


 光学機器大手のHOYA(株)の子会社が、HOYA(株)から吸収分割契約により行った事業の承継に際し行った試験研究費の特別控除の可否が争われていた事件で、東京地裁民事51部(清水知恵子裁判長)は令和3年9月9日、納税者敗訴の判決を下した。移転事業に係る部分のみの加算の特例を受けるための認定申請・届出が期限までに行われていなかったことにより分割法人の試験研究費等の「全額加算」の課税処分を受けた原告が、処分の取消しを求め訴訟を提起したが認められなかった。
 ただ、本件は対象ではないが、認定申請・届出を失念した法人が令和3年改正の経過措置によりあらためて提出が可能となる点、注目される。

東京地裁、特例適用には期限内の認定申請・届出が不可欠

 試験研究費の税額控除額を計算する場合、過去3年以内の事業年度において会社分割が行われているときは、分割法人の試験研究費の額を分割承継法人の試験研究費の額に加算すること(全額加算方式)が原則とされている(措令27条の4⑧)。この原則に対して、税務署長の認定を受けた合理的な方法により、試験研究費の額を移転事業に係るもの(移転試験研究費)とそれ以外の事業に係るものとに区分したときは、届出をした場合に限り、加算額を移転事業に係る部分のみに限る特例がある(移転分加算方式)(措令27条の4⑩)。また、調整対象年度の売上金額についても同様の原則・特例の規定がある(措令27条の4)。
 本件は、HOYA(株)の子会社(CANDEO社)が、HOYA(株)から吸収分割契約に基づき行った事業の承継に際し、試験研究費の特別控除額をHOYA(株)の売上金額及び試験研究費の額を加算せずに計算したため課税当局から更正処分等を受け、訴訟に発展した事案である。
 HOYA(株)は、平成20年にペンタックス(株)と合併し、3つの事業を承継したが、その1つであるレーザースキャンユニット関連事業を、従前から光学機器製品を取り扱ってきたCANDEO社に平成27年に吸収分割契約により分割した。分割前の本件移転事業の内容は、HOYA(株)がグループ会社であるPSHC社からレーザースキャニングユニット製品の販売営業業務及び技術開発業務の委託を受け、委託料の支払を受けるというものであった。委託料が支払われていたことから、その業務に係る費用は、試験研究費の額に該当せず、本件移転事業には移転試験研究費の額が存在しなかった。

 CANDEO社の事業規模は、親会社であるHOYA(株)に比べて小さかったが、売上金額に占める試験研究費の額の割合はHOYA(株)よりも高く、毎年高額の試験研究費を支出しているため、従前から試験研究費の特別控除の適用を受けてきた。したがって、全額加算方式よりも移転分加算方式による方が、増加型特別控除(平成29年改正により廃止)における税額控除限度額の計算の基礎となる増加試験研究費割合の計算において納税者有利になるが、HOYA(株)は移転分加算方式の適用を受けるのに必要な認定申請、HOYA(株)及びCANDEO社は届出を期限(分割の日から2月以内)までに行っておらず、認定申請が行われたのは平成30年6月11日であった。したがって、移転分加算方式による特例は認められず、原則である全額加算方式による更正処分等を受けることとなった。
 原告は、①本件分割のように移転試験研究費の額が存在しない場合は上記各項にいう「合併等」には当たらないから、全額加算方式を適用することはできない、②仮にそうでないとしても、法は、移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額を客観的に区分できる場合について移転分加算方式を適用することを原則としているものと解すべきであるから、これに反して全額加算方式を原則とし、移転試験研究費等に係る認定及び移転分加算の適用に係る届出を経なければ移転分加算方式の適用を受けられないとしている部分については、法の委任の範囲を逸脱し無効であるなどと主張した。
 これに対し東京地裁は、原告の①の主張は、「法令の明文にない要件を付加するもの」などとし、②の主張についても、「施行令27条の4が、移転分加算方式の適用を受けるために上記の認定及び届出を要するものとし、これらを欠く場合には全額加算方式が適用されることとしたことは、合理的なものであるというべきであって、かかる規定が法の趣旨に反するものでないことは明らかである」などとしてこれを斥けた。
令和3年改正の経過措置で新たに提出可能
 本事案は、特例適用要件、特に提出期限を徒過した場合に、後から取り返すことは容易ではないことを改めて示しているといえよう。
ただ、本事案は適用対象ではないが、令和3年改正で研究開発税制の対象となる試験研究費の範囲が変更されたことを受け、移転分加算方式の認定申請・届出について経過措置が設けられており、認定申請・届出を失念したために試験研究費の税額控除額が少なくなっている法人にとっては救済措置となる。具体的には、過去に認定申請・届出済みの法人は、改正に伴う試験研究費の変動があった場合には、比較試験研究費の額について改めて提出する必要があり、過去3年以内に会社分割があったものの未提出の法人は、試験研究費の変動の有無にかかわらず、比較試験研究費の額及び売上調整対象年度の売上金額について、新たに提出することが可能となっている。期限は令和3年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日から6月以内であり、一番早いパターン(4月事業年度開始法人)は令和3年9月30日が期限となる。

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