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解説記事2019年12月16日 SCOPE 税理士法人を退職する社労士との移行料支払合意は有効(2019年12月16日号・№815)

控訴審では移行料合意の事実認定を再検証
税理士法人を退職する社労士との移行料支払合意は有効


 東京地裁民事49部(早山眞一郎裁判官)は令和元年8月13日、税理士法人がその税理士法人を退職した従業員(社会保険労務士)に対し、退職の際に合意されたとする移行料(退職するにあたり、原告の顧客を被告の顧客として移行する対価)の支払いを求めた事案について、口頭合意の存在を認定した上で、「原告(税理士法人)と顧問契約を結んでいる顧客との契約関係を原告の元従業員に移行させるいわゆる暖簾分けにおいて、対価の支払い合意をすることが直ちに税理士法人の目的から逸脱するともいえない。」などと判示し、退職した社会保険労務士への移行料の支払請求を容認する判決を言い渡した。
 一審で敗訴した被告は、原審の口頭合意の認定が「事実誤認」であると主張して、東京高裁に控訴した。東京高裁は、口頭弁論を終結させ、和解勧告を行っている。

退職社労士「税理士法人の社会保険労務契約は無効」と主張

 税理士事務所では、退職した従業員との間で、顧問契約の引継ぎがトラブルになることが多い。顧客を持って出ようとする退職従業員は、「契約は顧問先企業が決めるもの」と主張するであろうし、税理士事務所では、「営業権の不当な侵害」と反論する。原告(税理士法人)は、在籍一定年数以上の功績ある従業員が退職する際、独立を支援する目的で、従業員の知人である顧客については顧客の契約移行を認める方針を掲げていた。ただし、対価として、顧客1件につき1年分の年間報酬相当額の支払を条件としていた。原告はワンストップサービスを志向し、社会保険労務業務を行っていたが本件はこの社会保険労務契約の移行が問題となった事案である。
 被告(退職した社会保険労務士)は、①民法34条違反(「税理士法人が社会保険労務士の固有業務を行うことができないことは法令上明らかであり、付随業務として行うことができる範囲も限定されている。そのため、原告が顧客との間で社会保険労務全般に関する契約を締結した場合、この契約は無効となるし、無効な契約を第三者に移転する契約も無効となる。加えて、原告が移転を主張する契約自体が原告と顧客との契約ではない。本件支払合意が行為の外形上客観的に見て、税理士法人である原告の目的遂行に必要であると判断することは不可能である。」)、②民法90条違反(「本件支払合意を有効とすることは、税理士法が、税理士業務を組織的に行うことを目的とした税理士が共同して設立した法人に法人格を認める一方、社会保険労務士法が、社会保険労務士でない者による社会保険労務を禁止している趣旨を没却させるから、公の秩序に反することは明らかである。」)と主張した。

東京地裁、「労務管理顧問契約も税理士法人が当事者」と判断

 これに対し東京地裁は、「原告代表者と被告との間で、被告が原告を退職するにあたり、原告と顧問契約を締結している本件各移行会社との契約関係を被告に移行させる対価として、2社が原告に支払っている報酬の1年分相当額を支払う旨の口頭合意がされたと認めることができる。」と事実認定した上で、移行料支払の合意の有効性について以下のとおり判示し、原告の請求(移行料の支払)を概ね認容している。
 ①(民法34条違反について)「税理士法人が税務会計業務と密接に関連する、あるいは付随的といえる社会保険労務業務を行うことはその目的から逸脱すると認めることはできない。また、原告と顧問契約を結んでいる顧客との契約関係を原告の元従業員に移行させるいわゆる暖簾分けにおいて、対価の支払い合意をすることが直ちに税理士法人の目的から逸脱するともいえない。被告は、本件各移行会社の労務管理契約の相手方は元々原告ではなかったとの主張をしているようであるが、証拠及び弁論の全趣旨からすれば、労務管理顧問契約を含めて本件各移行会社との契約は、原告との間で一体のものとして締結され、その報酬額等の決定も原告の裁量、計算によりされていたものと認めることができ、契約の当事者は原告であったというべきである。」
 ②(民法90条違反について)「被告主張の事情をもってして、本件支払合意が公序良俗に反するとまでいうことはできず、他にこれを無効とすべき事情はない。」

「口頭合意の事実認定」を事実誤認として控訴

 一審で敗訴した社会保険労務士は、「一審で口頭合意がされたとする認定が『事実誤認』である。」「事実関係は暖簾分けではない。」などと主張して、東京高裁に控訴した。
 控訴人は、本件は、本件支払合意が成立しない状況で裁判に発展したものと主張したが、控訴審は結審し、和解勧告が行われている。控訴人が支払合意は未成立であると主張することで、改めて移行料の支払金額・支払時期を定めることも解決策としては可能になる。
 和解勧告への税理士法人側の対応が注目されるところだ。

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