解説記事2022年08月01日 ニュース特集 上場会社における訴訟トラブル(2022年8月1日号・№941)
ニュース特集
独禁法違反で課徴金、取締役らに損害賠償責任
上場会社における訴訟トラブル
本特集では、上場会社において訴訟に至った事件を2件紹介する。1件目は公正取引委員会により課徴金納付命令を受けた上場会社の取締役らが株主代表訴訟を提起されたもの。東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は原告の投資ファンドの請求を認め、当時の取締役に対して課徴金相当額の損害賠償請求を認容している(令和4年3月28日、令和2年(ワ)第32120号)。2件目は、上場会社の完全子会社(被告)の代表取締役を務めた原告が正当な理由なく解任されたとして残任期中の報酬等を求めたもの。東京地裁(西山渉裁判官)は、被告の営業損益が悪化し、約1億3,956万円の営業損失を計上するに至ったことが認められるものの、原告の経営方針や経営能力に起因することを認めるに足りる証拠はないと判断し、原告の請求をすべて認めている(令和4年3月14日、令和2年(ワ)第11661号)。
公正取引委員会から課徴金納付命令、株主が取締役らに損害賠償請求
1件目に紹介する判決は、東証プライム市場に上場する世紀東急工業(以下「世紀東急」)が独占禁止法違反により公正取引委員会から課徴金納付命令を受けたことにより、当時の取締役等に対して株主から損害賠償請求を提起されたというものだ。
世紀東急は、建設事業及びアスファルト等の原材料から合材等の舗装資材を製造し販売する事業(合材事業)を主に営む株式会社である。公正取引委員会は令和元年7月30日、同社に対し、アスファルト合材の販売価格決定に係る独占禁止法違反行為に関し、28億9,781万円の課徴金納付命令を命じた。
その後、同社は、公正取引委員会を被告とし、課徴金納付命令のうち、18億3,417万円を超えて納付を命じた部分については課徴金算定の対象とはならない売上について算定されたものであると主張して当該部分の取消しを求める訴訟を提起した(1審・2審とも同社の請求は棄却。現在最高裁に上告中)。このため、原告である投資ファンドは、同社は独占禁止法に違反する行為をしたこと自体は自認しているため、課徴金のうち18億3,417万円について、当時の取締役ら4人に損害賠償請求を行った。
9社会は合材の販売価格決定の場と認識
原告は、世紀東急のほか同業8社からなる9社会は、9社の本社に所属する従業員が出席して、自社の社内出荷データに基づく正確な製造数量や販売価格等の資料を互いに提供し、全国的に合材の販売価格を引き上げることを協議・決定する場、すなわち合意を形成する場であったとし、本件違法行為は、世紀東急において役員を含め広く認識されており、取締役としての法令遵守義務違反になるなどと主張。代表取締役については、仮に合意を認識していなかったとしても内部統制システム構築義務があるとした。
コラム
公正取引委員会、アスファルト合材の製造販売業者に課徴金納付命令
公正取引委員会は令和元年7月30日、独占禁止法3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行っていたとして、アスファルト合材の製造販売業者に対する排除措置命令及び総額で398億9,804万円にのぼる課徴金納付命令を行った。
前田道路、大成ロテック、鹿島道路、大林道路、世紀東急工業、ガイアート、東亜道路工業の7社並びに日本道路及びNIPPOの2社は、以前から、9社会(9社の本店の主にアスファルト合材の製造販売を担当する部課長級の者による会合)を開催するなどして、アスファルト合材の原材料である石油アスファルトの価格動向、各社におけるアスファルト合材の販売価格の引上げ時期や引上げ幅等について情報交換を行っており、遅くとも平成23年3月頃以降、アスファルト合材の販売価格の引上げを共同して行っていく旨の合意などを行っていた。
9社会の方針に基づき販売価格の引上げ実施を判断
裁判所は、世紀東急を含む同業の9社の従業員は遅くとも平成20年5月から平成27年1月までの間、合材に関する会合(9社会)を開催していたが、9社会出席者は、世紀東急以外の会社との間で、合材の販売価格の引上げの進捗状況や石油アスファルトの価格動向を踏まえて、更なる合材の販売価格の引上げを行うか又は既に行っている引上げの取組みを継続するかの方針、また、更なる合材の販売価格の引上げを行う場合にはその引上げ時期や引上げ幅等についての方針(9社会方針)を確認し合い、世紀東急の製品事業部長に対し、その内容を報告していたと認められるとした。そして、世紀東急における合材の販売価格の引上げに関する決定は、製品事業部が9社会方針に沿って、世紀東急において合材の販売価格の引上げを行うか否かを決定したことが認められるとした。その上で裁判所は、各取締役に対し、法令遵守義務違反があるとの判断を示した(表1参照)。
【表1】各取締役に対する裁判所の判断
| 被 告 | 裁判所の判断 |
| 取締役A | 平成20年頃から世紀東急の製品事業部に在籍し、取締役就任前である平成22年4月から平成23年10月までの間、9社会に出席していたのであるから、平成24年6月28日の取締役就任時において、世紀東急を含む9社の間において行われた合意に基づき、世紀東急が合材の販売価格の引上げを行っていたことを認識していたと認めるのが相当である。その上で、取締役に就任してから平成27年1月27日に至るまで、製品事業本部長として、合意に従って、製品事業部方針を決定し、同方針に従って作成された社内通達の発出について事業推進本部長及び同副本部長の決済を経た上で、社内通達等を通じて指示していたことが認められる。 →取締役A・Dと連帯して、15億7,942万円及び遅延損害金 |
| 取締役B | 製品事業部以外の部長、執行役員及び取締役も合意の存在及び内容並びに製品事業部が合意に沿って製品事業部方針を決定していることを認識していたために、同方針について、合材事業における合材の販売価格に関する競争が存在することを前提とした具体的かつ実質的な検討を行う必要がないと判断していたものと推認することができる。以上によれば、違反行為の始期である平成23年3月以前から取締役であり、事業推進本部副本部長、事業推進部長及び営業部長を務めていたのであるから、少なくとも同月以降、合意の存在及び内容を認識していたものと認められる。 →取締役Dと18億3,417万円及び遅延損害金(取締役Dと17億3,227万円及び遅延損害金の限度で連帯) |
| 取締役C | 平成23年3月以前から工務部長を務めていたのであるから、少なくとも同月以降、合意の存在及び内容を認識していたものと認められる。 →取締役A・Dと連帯して、15億7,942万円及び遅延損害金 |
| 取締役D (代表取締役) |
平成23年3月以前に財務部長や執行役員を務めていたのであるから、少なくとも同月以降、合意の存在及び内容を認識していたものと認められる。 →取締役Bと17億3,227万円及び遅延損害金(取締役Bと連帯) |
また、裁判所は、世紀東急は遅くとも平成23年3月から平成27年1月27日までの間、9社の合意に基づき合材の販売価格の引上げをしていたことが不当な取引制限(独禁法2条6項)に該当し、独禁法3条に違反するなどして、排除措置命令及び課徴金納付命令を受け、課徴金納付命令に係る課徴金全額を納付したものであると指摘。被告らは、合意の存在及び内容を認識しながら、違反行為に直接関与し又はこれを黙認したものであるから、少なくとも被告らの法令遵守義務違反と世紀東急による自認課徴金額の納付との間に相当因果関係があることは明らかであると裁判所は判断し、原告の請求を認容した。
取締役を解任も、元取締役の損害賠償請求を認容
次に紹介する判決は、正当な理由なく取締役を解任されたとして被告の取締役兼代表取締役だった原告が損害賠償請求を行った事件だ。東京地裁は令和4年3月14日、原告の請求を認め、被告に約1,712万円を支払うよう命じている。裁判所は、被告の営業損益が悪化し、約1億3,956万円の営業損失を計上するに至ったことが認められるものの、原告の経営方針や経営能力に起因することを認めるに足りる証拠はないと判断した。
美術品の取引相場の急落等で営業成績が悪化
本件は、東証スタンダード市場に上場するShinwa Wise Holdings(SWH社)の子会社(被告)の取締役兼代表取締役であった原告が、正当な理由なく取締役を解任されたとして、被告に対し、会社法339条2項に基づく損害賠償請求として在任期間中の報酬相当額など、約1,712万円の支払いを求めたもの。SWH社は、美術品類等を対象としたオークションの企画・開催・運営等の事業を営む会社等の事業活動を支配又は管理することを目的とする株式会社であり、被告は、美術品の公開オークションを主たる事業とする株式会社であり、SWH社の完全子会社である。
原告は、被告の設立時からの取締役兼及び代表取締役であり、SWH社の取締役も兼務していたが、SWH社の元代表取締役が招集した令和2年3月26日開催の臨時株主総会で取締役を解任され、その後、令和2年4月1日に被告の取締役を解任された(表2参照)。
【表2】取締役解任に至るまでの経緯
| ・平成30年6月28日当時、SWH社及び子会社Aの取締役兼代表取締役を兼任していたXは、SWH社の監査役及び原告を含むSWH社の構造改革諮問委員会による意見書を受け、代表取締役を辞任(代表権のない取締役会長に就任)。 ・SWHグループにおいては、SWH社の役員がSWHグループに属する子会社等の役員を兼任しており、原告もSWH社の取締役のほか、被告の取締役兼代表取締役などを兼任していたが、SWH社の構造改革諮問委員会による意見書を受け、これまで3社から受領していた役員報酬を被告のみから受領することになった。 ・X(SWH社の元代表取締役)は、令和元年8月29日に子会社Aの代表取締役に復帰する一方、Y社の買収を計画。しかし、Xを除くSWH社の取締役の全員(原告含む)が反対したため、買収を断念した。 ・Xは、令和元年12月12日、SWH社の少数株主として、原告を含む取締役らの解任を目的として臨時株主総会を招集。原告は、臨時株主総会でSWH社の取締役を解任された。その一方で、XはSWH社の代表取締役に復帰した。 ・原告は、令和2年4月1日に被告の取締役を解任。解任時において、取締役としての残任期は16か月と30日であり、原告の取締役報酬額は月額107万2,500円だった。 |
原告は、①SWH社と被告は別の会社であるから、SWH社の取締役として不適格であるとしても、直ちに被告の取締役として不適格であることにはならない、②取締役在任中に被告の営業成績が悪化したのは、美術品の取引相場の急落及び市場全体の流通量の減少に起因する取扱高の大幅な下落が原因であり、令和元年5月期から令和2年5月期においてはコロナ禍によるオークションの延期も原因として加わったものであるから、この間における業績や原告の対応は解任の正当な理由とはならないなどと主張した。
営業損益が悪化も取締役解任の正当な理由とはいえず
裁判所は、原告が取締役兼代表取締役の地位にあった各期において、被告の営業損益が悪化し、令和2年5月期には約1億3,956万円の営業損失を計上するに至ったことが認められるものの、このような状況が原告の経営方針や経営能力に起因することを認めるに足りる証拠はないから、被告の業績に関する事情をもって解任に正当な理由があるということはできないとの判断を示した。
完全子会社でも取締役の職務内容に差異あり
また、被告は、原告はSWH社の取締役として不適格であるから被告の取締役としても不適格であると主張したが、裁判所は、同一グループに属する親会社とその完全子会社という関係にあるとはいえ、両社は別の会社であり、持株会社であるSWH社とオークション事業を行う被告とでは取締役としての職務内容等に差異があるというべきであるとし、このような差異を捨象してSWH社の取締役として不適格であるから直ちに被告の取締役として不適格であるということはできないとし、原告の請求をすべて認容した。
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