解説記事2022年08月08日 税制改正解説 令和4年度における租税条約の改正について(日本・スイス租税条約の一部改正)(2022年8月8日号・№942)
税制改正解説
令和4年度における租税条約の改正について(日本・スイス租税条約の一部改正)
藤原章子
はじめに
我が国とスイス連邦(以下「スイス」という。)との間では、これまで昭和46年(1971年)に締結(平成23年(2011年)に一部改正)された所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約(以下「条約」という。)の下で二重課税の回避及び脱税の防止が図られてきたが、緊密化する両国の経済関係等を踏まえ、両国政府は、令和2年(2020年)12月に条約を改正するための交渉を開始した。その結果、令和3年(2021年)7月16日に「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書」(以下、この議定書を「改正議定書」といい、改正議定書による改正前の条約を「現行条約」、改正後の条約を「改正後の条約」という。)についてベルンにおいて署名が行われた。
改正議定書は、両国で生ずる二重課税を除去するため、事業利得に関する新たな規定の導入、配当及び利子に対する源泉地国免税の範囲の拡大等を規定している。また、両国の税務当局間の相互協議手続における仲裁制度等を新たに導入している。
これらにより、二重課税を除去し、脱税・租税回避行為を防止しつつ、両国間の投資・経済交流を一層促進することが期待される。
改正議定書は、両国それぞれの国内手続(我が国においては、国会の承認を得ることが必要であり、改正議定書は第208回国会で承認された。)を経た後、外交上の経路を通じて、その国内手続の完了を確認する通告を相互に行い、遅い方の通告が受領された日の後30日目の日に効力を生ずることとなる。
以下では、改正議定書の主な内容について、解説する。
一 改正議定書第1条(条約前文関連)
条約の前文が、OECDモデル租税条約の改訂を踏まえて改正された。
二 改正議定書第2条(条約第2条(対象となる租税)関連)
条約が適用される租税を規定する条約第2条に関し、条約の対象となる我が国の租税に復興特別所得税及び地方法人税が追加された。
なお、復興特別所得税及び地方法人税は、現行条約の下でも条約の対象となっているが、改正により条文上明記されることになる。
三 改正議定書第3条(条約第3条(一般的定義)関連)
条約において使用される用語の定義等を規定する条約第3条に関し、「国際運輸」(条約第3条1(h))及びスイスの「権限のある当局」(条約第3条1(j)(ii))の定義が改正された。
四 改正議定書第4条(条約第5条(恒久的施設)関連)
現行条約第5条2(g)は、「恒久的施設」の例示の一つとして、「建築工事現場又は建設若しくは組立ての工事で、12か月をこえる期間存続するもの」を規定しているが、これを削除し、新たに条約第5条3を設け、「建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事については、これらの工事現場又は工事が12か月を超える期間存続する場合に限り、恒久的施設を構成するものとする」ことが規定された。
五 改正議定書第5条(条約第7条(事業利得)関連)
1 「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び「帰属主義」の原則(条約第7条1)
改正後の条約第7条1は、現行条約第7条1と同様に、企業が事業活動によって取得する利得に対する課税に関して、いわゆる「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び「帰属主義」の原則を規定している。
2 恒久的施設に帰せられる利得の計算(条約第7条2)
改正後の条約第7条2は、条約第7条及び第23条(二重課税の除去)の規定の適用上、各締約国において恒久的施設に帰せられる利得は、企業がその恒久的施設及びその企業の他の構成部分を通じて果たす機能、使用する資産及び引き受ける危険を考慮した上で、その恒久的施設が同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、独立した企業であるとしたならば、特にその企業の他の構成部分との取引においても、その恒久的施設が取得したとみられる利得とすることを規定している。
これにより、改正後の条約第7条2の下では、①恒久的施設の果たす機能及び事実関係に基づいて、取引、資産、リスク及び資本を恒久的施設に帰属させるとともに、②恒久的施設とその企業の他の構成部分との取引(以下「内部取引」という。)を認識し、その内部取引が独立した企業間で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」という。)で行われたものとして、恒久的施設に帰せられる利得を算定することとなる。したがって、現行条約の下では認識されなかった恒久的施設とその企業の他の構成部分との間の無形資産の貸借による使用料や金銭の貸借による利子等は、改正後の条約の下では損益として認識されることとなる。
なお、内部取引の認識は、あくまでも恒久的施設に帰せられる利得の算定のために認識されるものであって、条約の他の条に及ぶものではない。
3 恒久的施設に帰せられる利得の対応的調整(条約第7条3)
一方の締約国が、いずれかの締約国の企業の恒久的施設に帰せられる利得を条約第7条2の規定によって調整し、それに伴い、他方の締約国において課税されたその企業の利得に課税する場合には、双方の締約国が同一の利得について課税するという二重課税の状態が生ずることになる。改正後の条約第7条3は、当該他方の締約国が、その利得に対する二重課税を除去するために必要な範囲に限り、その利得に対して当該他方の締約国において課された租税の額について適当な調整(対応的調整)を行うことを規定している。また、この調整に当たり、両締約国の権限のある当局は、必要があるときは、相互に協議することとされている。
(注)改正議定書第18条によって新たに追加された条約議定書3(対応的調整義務の内容の確認)は、改正後の条約第7条3の規定に関し、一方の締約国は、他方の締約国によって行われた調整が独立企業原則に照らして正当なものであり、かつ、その原則に基づいて算定された額に関して正当なものであることについて同意する場合に限り、対応的調整を行う義務を負うことを確認している。
4 条約第7条と他の条との関係(条約第7条4)
改正後の条約第7条4は、他の条で別個に取り扱われている所得が企業の利得に含まれる場合には、他の条の規定が優先的に適用されることを規定している。もっとも、改正後の条約第10条6(配当)、第11条4(利子)、第12条3(使用料)及び第22条2(その他の所得)は、これらの所得の支払の基因となった資産が、これらの所得が生ずる締約国内に存在する恒久的施設と実質的な関連を有する場合には、条約第7条が適用されることを規定している。
なお、この規定は、現行条約第7条7と同じ内容であり、改正の前後で実質的な変更はない。
六 改正議定書第6条(条約第9条(関連企業)関連)
関連企業間の取引価格を独立企業間価格に引き直して企業の利得を計算するという独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転価格税制)に関するルールを定める条約第9条に関し、一方の締約国によって独立企業原則に基づく課税が行われた際の他方の締約国による対応的調整に関する規定が改正された。
七 改正議定書第7条(条約第10条(配当)関連)
改正後の条約第10条2では、配当に対して、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)において課税することができることとするとともに、配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を配当の額の10%とすることが規定された。
また、その例外として、改正後の条約第10条3では、次の①又は②に該当する場合については、配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことが規定された。
① 配当の受益者が、配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)を含む365日の期間を通じ、配当を支払う法人の持分(日本法人が支払う場合には議決権、スイス法人が支払う場合には発行済株式又は議決権)の10%以上を直接又は間接に所有する法人である場合(改正後の条約第10条3(a))。なお、365日の期間の計算に当たり、配当の受益者である法人又は配当を支払う合併若しくは分割又は法的な形態の変更の直接の結果として行われる所有の変更は、考慮しないこととされている。
② 配当の受益者が年金基金又は年金計画である場合(改正後の条約第10条3(b))。ただし、その配当が、条約3条1(k)(ii)(「年金基金又は年金計画」の定義)に規定する年金に係る活動によって取得される場合に限る。
八 改正議定書第8条(条約第11条(利子)関連)
1 利子に対する源泉地国免税(条約第11条1)
改正後の条約第11条1では、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である利子に対しては、利子の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことが規定された。
2 利子に対する源泉地国免税の例外(条約第11条2)
改正後の条約第11条2では、利子の源泉地国免税を利用した租税回避行為を防止する観点から、いわゆる利益連動型の利子については、条約第11条1に規定する源泉地国免税を適用せず、利子の額の10%を限度として源泉地国において課税することができることが規定された。
九 改正議定書第9条(条約第15条(給与所得)関連)
1 短期滞在者免税(条約第15条2)
改正後の条約第15条2(a)では、いわゆる短期滞在者免税の要件について、年をまたいで滞在期間を調整することによる租税回避に対処する観点から、報酬の受領者が他方の締約国内において滞在する期間が、その年において開始し、又は終了するいずれの12か月の期間においても、合計183日を超えないこととされた。
2 国際運輸に運用される船舶内又は航空機内の勤務に係る報酬(条約第15条3)
改正後の条約第15条3では、条約第15条1及び2の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者が、船舶又は航空機の通常の乗組員の一員として、国際運輸に運用される船舶内又は航空機内において行う勤務について取得する報酬に対しては、乗組員の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができることとするとともに、その船舶又は航空機が他方の締約国の企業によって運用される場合には、企業の居住地国である当該他方の締約国においても課税することができることが規定された。
十 改正議定書第10条(条約第16条(役員報酬)関連)
改正後の条約第16条では、条約第16条の対象となる者が「役員」から「取締役会又はこれに類する機関の構成員」に、対象となる所得が「報酬」から「役員報酬その他これに類する支払金」に変更された。
十一 改正議定書第11条(条約第21条(学生)関連)
改正後の条約第21条第一文では、文言の相違はなく、現行条約第21条の内容と基本的に同じである。
ただし、新たに追加された改正後の条約第21条第二文では、事業修習者に対する免税について、滞在地国内において最初に訓練を開始した日から4年を超えない期間についてのみ適用することとされた。
十二 改正議定書第12条(条約第21条のA(匿名組合)関連)
改正後の条約第21条のAでは、条約の他の規定にかかわらず、匿名組合契約その他これに類する契約に関連して一方の締約国の居住者である匿名組合員が取得する所得に対しては、その所得が他方の締約国内において生じ、かつ、当該他方の締約国におけるその支払者の課税所得の計算上控除される場合には、所得の源泉地国である当該他方の締約国において、当該他方の締約国の法令に従って課税することができることが規定された。
十三 改正議定書第14条(条約第23条(二重課税の除去)関連)
各締約国が自国の居住者に対して二重課税を除去するための措置を採らなければならないことを規定する条約第23条に関し、スイスにおける二重課税除去の方法に関する規定が改正された。
十四 改正議定書第16条(条約第25条(相互協議手続)関連)
1 納税者の申立て(条約第25条1)
改正後の条約第25条1では、条約に適合しない課税を受けた納税者は、いずれの締約国の権限のある当局に対しても、申立てをすることができることとされた。
2 仲裁(条約第25条5)
新たに追加された条約第25条5では、条約の規定に適合しない課税を受けたとして申し立てられた事案を、両締約国の権限のある当局が一定の期間内に解決することができない場合における第三者による仲裁について、以下のとおり規定された。
① 条約第25条1(納税者の申立て)に従って申立てが行われた事案に対処するために両締約国の権限のある当局が要請した全ての情報が両締約国の権限のある当局に提供された日から3年以内に、両締約国の権限のある当局が事案を解決するための合意に達することができない場合において、申立てを行った者が書面により仲裁を要請するときは、その事案の未解決の事項は、仲裁に付託される。ただし、未解決の事項についていずれかの締約国の裁判所又は行政審判所が既に決定を行った場合には、その未解決の事項は、仲裁に付託されない。
② 仲裁決定は、事案によって直接に影響を受ける者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限のある当局の合意を受け入れない場合を除き、両締約国を拘束し、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、実施されなければならない。
③ 両締約国の権限のある当局は、仲裁手続の実施方法を合意によって定めなければならない。
3 仲裁手続の細目(条約第25条6から12まで)
条約第25条6から12までは、条約第25条5に規定する仲裁手続の細目について、以下のとおり規定している。
① 仲裁付託期間の特例(条約第25条6)
イ 1又は2以上の同一の事項に関する事案について裁判所又は行政審判所において手続が係属中であることを理由として、相互協議手続を停止した場合には、上記(2)①の3年の期間(以下「仲裁付託期間」という。)は、その事案に係る裁判所若しくは行政審判所の手続が停止され、又はその事案に係る訴訟若しくは審査請求が取り下げられるまで、進行を停止する(条約第25条6(a))。
ロ 事案の申立てをした者及び一方の締約国の権限のある当局が、相互協議手続を停止することについて合意した場合には、仲裁付託期間は、その停止が解除されるまで、進行を停止する(条約第25条6(b))。
ハ 事案によって直接に影響を受ける者が仲裁付託期間中にいずれかの締約国の権限のある当局によって要請された追加の重要な情報を適時に提供しなかったことについて両締約国の権限のある当局が合意する場合には、仲裁付託期間は、要請された情報の提出の期限とされた日に開始し情報が提供された日に終了する期間と等しい期間延長する(条約第25条6(c))。
② 仲裁人の任命(条約第25条7)
イ 仲裁人の任命については、次の規則を適用する(条約第25条7(a))。
(イ)仲裁のための委員会は、国際租税に関する事項について専門知識又は経験を有する3人の個人である仲裁人によって構成される。
(ロ)各締約国の権限のある当局は、1人の仲裁人を任命し、任命された2人の仲裁人は、仲裁のための委員会の長となる第三の仲裁人を任命しなければならない。仲裁のための委員会の長は、いずれの締約国の国民又は居住者でもあってはならない。
(ハ)仲裁人は、それぞれ、任命を受諾する時において、両締約国の権限のある当局、税務当局及び財務省並びに事案によって直接に影響を受ける全ての者及びその顧問に対して公平でなければならず、かつ、これらの者から独立していなければならない。加えて、仲裁手続を通じて、その公平性及び独立性を維持しなければならず、また、仲裁手続の後の妥当な期間において、仲裁手続に関して仲裁人が公平であり、かつ、独立しているという外観を損なうおそれのある行為を行ってはならない。
ロ 両締約国の権限のある当局は、仲裁人及びその職員が、仲裁手続の実施に先立って、条約第25条のA2(交換された情報の取扱い)及び両締約国の関係法令に規定する秘密及び不開示に関する義務に従って仲裁手続に関する情報を取り扱うことについて書面によって合意することを確保しなければならない(条約第25条7(b))。
ハ 条約第25条及び第25条のA(情報の交換)の規定並びに情報の交換、秘密及び行政支援に関する両締約国の法令の適用上、仲裁人及びその職員(仲裁人1人について3人までに限る。)並びに仲裁人の候補者は、情報(候補者については、候補者が仲裁人の要件を満たすことができることを確認するために必要な範囲に限る。)の開示を受けることができる者又は当局とみなし、また、仲裁のための委員会又は仲裁人の候補者が受領する情報及び両締約国の権限のある当局が仲裁のための委員会から受領する情報は、条約第25条のA1(権限のある当局間の情報交換)の規定に基づいて交換された情報とみなす(条約第25条7(c))。
③ 仲裁決定の性質(条約第25条8)
イ 仲裁決定は、最終的なものとする(条約第25条8(a))。
ロ 仲裁決定は、いずれかの締約国の裁判所による最終的な決定によって仲裁決定が無効とされる場合には、両締約国を拘束しない(条約第25条8(b))。この場合には、条約第25条5に規定する仲裁の要請は、行われなかったものとし、仲裁手続(条約第25条7(b)及び(c)(仲裁人の任命)並びに11(費用分担)の規定に係るものを除く。)は、行われなかったものとする。また、この場合には、両締約国の権限のある当局が新たな仲裁の要請は認められないことについて合意する場合を除き、新たな仲裁の要請を行うことができる。
ハ 仲裁決定は、先例としての価値を有しない(条約第25条8(c))。
④ 納税者による受入れ(条約第25条9)
イ 事案によって直接に影響を受ける者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限のある当局の合意を受け入れない場合には、その事案について、両締約国の権限のある当局による更なる検討は、行われない(条約第25条9(a))。
ロ 事案によって直接に影響を受けるいずれかの者が、その事案に係る仲裁決定を実施する両締約国の権限のある当局の合意についての通知がその者に送付された日の後60日以内に、裁判所若しくは行政審判所に対し合意において解決された全ての事項に関する訴訟若しくは審査請求を取り下げない場合又は合意と整合的な方法によって係属中の訴訟手続若しくは行政手続を終了させない場合には、その合意は、受け入れられなかったものとする(条約第25条9(b))。
⑤ 仲裁手続の終了事由(条約第25条10)
条約第25条の規定の適用上、仲裁の要請が行われてから仲裁のための委員会がその決定を両締約国の権限のある当局に送付するまでの間に、次のイからハまでのいずれかに該当する場合には仲裁手続は終了し、次のイ又はロの規定に該当する場合には相互協議手続も終了する。
イ 両締約国の権限のある当局が、条約第25条2(相互協議)の規定に従いその事案を解決するための合意に達する場合(条約第25条10(a))
ロ 事案の申立てをした者が、仲裁の要請又は相互協議手続の申立てを撤回する場合(条約第25条10(b))
ハ 事案の未解決の事項についていずれかの締約国の裁判所又は行政審判所が決定を行う場合(条約第25条10(c))
⑥ 費用分担(条約第25条11)
各締約国の権限のある当局は、自らの費用及び自らが任命する仲裁人の費用を負担しなければならない。両締約国の権限のある当局が別段の合意をする場合を除き、仲裁のための委員会の長の費用その他仲裁手続の実施に関する費用は、両締約国の権限のある当局が均等に負担しなければならない。
⑦ 仲裁の対象とならない事案(条約第25条12)
条約第25条5から11までに規定する仲裁手続は、次の事案については、適用されない。
イ 条約第4条3(双方居住者の振分けルール)の規定に該当する事案(条約第25条12(a))
ロ 評価することが困難な無形資産に関する条約第9条1(独立企業間価格に基づく課税のルール)に規定する状況における利得の更正に関する事案(条約第25条12(b))。ただし、その更正が、更正をする締約国の法令の期間制限に関する規定及び条約第9条3(利得の調整ができる期間の制限)の規定の下において更正をすることができる課税年度に関してなされるものであって、これらの規定の下において更正をすることができない他の課税年度に行われた評価することが困難な無形資産に係る取引に関するものである場合に限る。
(注)改正議定書の署名時に両締約国の政府間で交換された交換公文2は、「評価することが困難な無形資産に関する条約第9条1に規定する状況における利得の更正」とは、2017年7月付けの多国籍企業及び税務行政のためのOECD移転価格ガイドライン第6章D4(評価することが困難な無形資産)(改正を含む。)に従ってなされる更正をいうことを確認している。
十五 改正議定書第17条(条約第25条のA(情報の交換)関連)
1 交換された情報の取扱い(条約第25条のA2)
改正後の条約第25条のA2第一文から第三文まででは、文言の相違はあるが、現行条約第25条のA2第一文から第三文までの内容と基本的に同じである。
新たに追加された改正後の条約第25条のA2第四文では、一方の締約国が受領した情報の取扱いに関する例外として、両締約国の法令に基づいて租税に関する目的以外の他の目的のために使用することができる場合において、その情報を提供した他方の締約国の権限のある当局がそのような使用を許可するときは、受領した情報を他の目的のために使用することができることが規定された。
2 情報提供拒否の制限(条約第25条のA5)
条約第25条のA5は、各締約国は、提供を要請された情報が、銀行その他の金融機関、名義人、代理人若しくは受託者が有する情報又はある者の所有に関する情報であることのみを理由として、その情報の相手国への提供を拒否することはできないことを規定している。
この規定に関し、現行条約第25条のA5第二文は、これらの情報を入手するため、各締約国の税務当局は、条約第25条のA3(情報提供義務の制限)の規定又は国内法令の規定にかかわらず、情報を開示させる権限を有する旨を規定しているが、改正により削除された。本規定の削除は、現在の両締約国の国内法令に照らして不要であることを踏まえたものであり、両締約国の税務当局がかかる権限を有しないことを意味するものではない。
十六 改正議定書第18条(条約議定書関連)
1 条約濫用防止規定(条約議定書1)
改正後の条約議定書1では、OECDモデル租税条約の改訂を踏まえ、いわゆる主要目的テスト規定(PPT:Principal Purpose Test)に改められた。具体的には、条約のいかなる規定にもかかわらず、全ての関連する事実及び状況を考慮して、条約に基づく特典を受けることがその特典を直接又は間接に得ることとなる仕組み又は取引の主たる目的の一つであったと判断することが妥当である場合には、その所得については、その特典は、与えられないこととされた。ただし、そのような場合においてもその特典を与えることが条約の関連する規定の目的に適合することが立証されるときを除く。
2 対応的調整義務の内容の確認(条約第7条3及び第9条2関連)(条約議定書3)
条約議定書2の次に3を追加し、条約第7条3(恒久的施設に帰せられる利得の対応的調整)及び第9条2(対応的調整)の規定に関し、対応的調整義務の内容について確認している。
十七 改正議定書第19条(改正議定書の効力発生)
1 改正議定書の効力発生(改正議定書第19条1)
改正議定書第19条1は、各締約国が、相手国に対し、外交上の経路を通じて、書面により、改正議定書の効力発生のために必要とされる国内手続(注)が完了したことを確認する通告を行うものとし、改正議定書は、遅い方の通告が受領された日の後30日目の日に効力を生ずることを規定している。
(注)我が国においては国会の承認が必要なところ、第208回国会で承認された。
2 改正議定書の適用開始(改正議定書第19条2)
改正議定書第19条2は、改正議定書は、次のものについて適用されることを規定している。
① 我が国においては、
イ 課税年度に基づいて課される租税に関しては、改正議定書が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
ロ 課税年度に基づかないで課される租税に関しては、改正議定書が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
② スイスにおいては、
イ 源泉徴収される租税に関しては、改正議定書が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に支払われ、又は貸記される額
ロ その他の租税に関しては、改正議定書が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度
3 改正後の条約第25条1(納税者の申立て)の適用開始(改正議定書第19条3)
改正議定書第19条3は、上記2の例外として、改正議定書第16条1による改正後の条約第25条1(納税者の申立て)は、その対象となる租税が課される日又はその租税に係る課税年度にかかわらず、改正議定書の効力発生の日から適用されることを規定している。
4 改正後の条約第25条5から12まで(仲裁制度)の適用開始(改正議定書第19条4)
改正議定書第19条4は、上記2の例外として、改正議定書第16条2による改正後の条約第25条5から12まで(仲裁制度)は、改正議定書の効力発生の日から次のものについて適用されることを規定している。
① 改正議定書が効力を生ずる日において両締約国の権限のある当局による検討が行われている事案。ただし、その事案の未解決の事項は、改正議定書が効力を生ずる日の後3年を経過するまでは、仲裁に付託されない。
② 改正議定書が効力を生ずる日の後に両締約国の権限のある当局による検討が行われる事案
5 改正議定書の効力の存続期間(改正議定書第19条5)
改正議定書第19条5は、改正議定書は、条約が有効である限り効力を有することを規定している。
十八 新交換公文
改正議定書の署名に当たり、以下の内容に関し、両締約国の政府間で公文(以下「新交換公文」という。)が交換された。
① 新交換公文1は、条約第11条(利子)の改正に伴い、平成22年(2010年)5月21日付けの交換公文2(中央銀行による間接融資に係る利子の取扱いの確認)の規定は適用されなくなることを規定している。
② 新交換公文2は、条約第25条12(b)(仲裁の対象とならない事案)の規定に関し、「評価することが困難な無形資産に関する条約第9条1に規定する状況における利得の更正」の意義について確認している。
新交換公文は、改正議定書の効力発生の時に効力を生ずるものとされている。
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