解説記事2022年08月22日 SCOPE 主たる事業は株式保有業、東京高裁も事業基準の判断示す(2022年8月22日号・№943)

CFC税制、適用除外記載書面の添付無し事案
主たる事業は株式保有業、東京高裁も事業基準の判断示す


 香港法人の株式を保有する個人(控訴人)に対するタックス・ヘイブン対策税制(CFC税制)の適用の是非が争われていた事案の控訴審で、東京高裁(小出邦夫裁判長)は令和4年7月27日、一審同様、納税者敗訴の判決を下した。
 本件の一審では、適用除外記載書面の不添付を理由に納税者が敗訴したものの、事業基準の適否についても東京地裁が判断を示した点が注目されたが、東京高裁は、控訴人が株式を保有する香港法人の主たる事業が、株式保有業か管理サービス業かという点について、さらに踏み込んだ判断を加えた。本稿では、東京高裁が一審判決に追加した部分についてお伝えする。

特定外国子会社該当性判断、課税上の衡平に反する例外的な個別事情なし

 控訴人T氏が株式を保有する香港法人T社は、T氏ら一族(以下「T一族」)が経営するケーブル等の製造販売等を行う内国法人K社及び香港等に所在するその子会社等から構成されるTグループが、香港での株式上場のため、T社を最終親会社とする組織再編を行うことにより設立された法人である。
 控訴人T氏はまず、香港法人T社が特定外国子会社等に該当するか否かについて、一審とほぼ同様に、「T社については、T一族が過半数の株式を保有しておらず、その他の株主との間に協調関係もないこと、また、意図的な分散保有が行われたものでもないことを考慮すれば、50%超の株式保有要件が捕捉しようとしていた外国法人には当たらないのであって、このような場合にまで、法令の字句どおりに居住者等の株式の持分を機械的・形式的に合算して措置法40条の4を適用することは、租税回避の否認規定が租税回避ではない場面にまで適用されるという過剰包摂(オーバー・インクルージョン)の問題を生じさせるから、最高裁平成26年判決と同様に、目的論的な限定解釈をすべき」と主張した。
 これに対し東京高裁は、「措置法40条の4第2項の規定する『外国関係会社』の意味内容が上記立法趣旨を踏まえて客観的かつ明確に定まり、文理から明らかであるにもかかわらず、さらに趣旨目的を考慮し、居住者等から海外法人に対する配当等の分配を行わせるだけの実質的支配があり、これにより租税回避の主観的意図を推認し得るものに限定するような解釈を行うことは、規定の文理によって『外国関係会社』の外延を明確に定めた立法趣旨に反する上、課税対象を不明確にし、納税者間の衡平を害するおそれもあり、相当ではない。」と、一審同様の判断を下したものの、「ただし、個別事案において、措置法40条の4の趣旨目的に照らし、同条2項の定める『外国関係会社』に当たり、同条1項を適用することが明らかに課税上の衡平に反するような場合には例外的に『外国関係会社』に当たらないものとみる余地も考えられる(最高裁平成26年判決は、相続税の延滞税に関し、個別事情を考慮し、明らかに衡平に反する場合に延滞税を課さない解釈を採ったものと考えられる。)」として、個別事情の有無を検討した。
 その結果、「T一族はT社の株式の過半数までは保有していなかったこと、租税回避のために意図的にT社の株式が分散保有されたものではないことは認められる。」としながらも、「他方で、T一族は、Tグループの創業者一族であって、T社の約41.15%と相応の割合の株式を保有していたこと、T社の完全子会社新K社の社員持株会がT社の株式の約19.44%を保有していたことも認められ、同社員持株会がT一族と緊張関係にあったことをうかがわせる事情は見当たらないことを考慮すれば、T一族は外国法人であるT社に対して配当等を行わせるだけの実質的な支配をしていたと推認される。」と認定、「T社等について、措置法40条の4第 1項を適用すべきとすることが明らかに課税上の衡平に反するような例外的な事情は認められない。」として、T氏の主張を斥けた。
主たる事業、用いられた人的・物的資源も考慮
 続いて、事業基準を満たすか否かについては、一審判決に以下の判断基準を追加した。

 T社が実際に子会社3社に対して本件各管理契約に基づく管理業務を行なっているか否か、行っている場合には、その業務が客観的にみて約定の管理料との対価性を有するものといえるか否か(当該業務により得られる管理料には実質的に利益配当と同視できる部分が含まれていないか否か)を考慮し、このように実態を踏まえた管理サービス業と株式保有業について、それぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判断するのが相当である(平成29年最高裁判決参照)。ただし、(中略)T社における株式保有業と管理サービス業とのそれらを単純に比較するのは相当ではなく、管理サービス業に相応の規模の(株式保有業よりも有意に多くの)人的・物的資源が用いられているかといった観点から検討するのが相当である。

 一審の東京地裁は、T氏が主張するT社の管理サービス業について「T社は、2012事業年度において、少なくとも、与信等管理業務、被災処理業務、技術開発業務を本件管理契約に基づく業務として行っていたことが認められるが、T社に管理料収入をもたらす客観的に対価性のある業務は香港子会社に関する与信等管理務のみであったといわざるを得ない」としていたところ、東京高裁は、「香港子会社に対する与信等管理業務の他には本件各管理契約に基づく管理サービスを提供したとは認められない。」と、一審よりも厳しい判断を下した。
 そして、株式保有業と管理サービス業のいずれが主たる事業といえるかについて、上記の判断基準に従って検討した結果、T社の2012事業年度における主たる事業は、管理サービス業であったと認めることはできず、株式保有業であったとし、T社は事業基準を満たしていなかったと結論づけた。

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