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解説記事2022年11月14日 未公開判決事例紹介 税理士の所属税理士法人の不法行為を認めず(2022年11月14日号・№954)

未公開判決事例紹介
税理士の所属税理士法人の不法行為を認めず
契約内容等から税理士法人との業務関連性なし

 本誌949号11頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

○脱税を助長したなどとする税理士が所属する税理士法人(被告)に対して、税務に関する業務委託契約をしていた法人(原告)が不法行為等に基づく損害賠償を請求した事件。東京地方裁判所(菊地拓也裁判官)は令和4年3月8日、原告代表者が指摘する税理士の行為は業務と関連性はなく、被告が税理士に対して処分しなかったことが原告代表者に対する不法行為にはならないと判断し、原告の請求を棄却した(令和2年(ワ)第23382号)。

主  文

1 原告らの本訴請求をいずれも棄却する。
2 原告法人は、被告に対し、14万3407円及びうち14万2560円に対する令和元年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、本訴について生じた部分は原告らの負担とし、反訴について生じた部分は原告法人の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
1 本訴

(1)被告は、原告法人に対し、23万4550円及びこれに対する令和2年9月30日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
(2)被告は、原告Aに対し、120万円及びこれに対する令和2年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
 主文2項と同旨

第2 事案の概要
1
 本訴は、①税理士法人である被告に対して税務に関する業務を委託していた原告法人が、被告に所属する税理士であったB(以下「B」という。)が原告法人の代表取締役である原告Aに対して脱税を助長するような発言をするなど、忠実義務等に違反する行為を行い、被告はBを監督する義務に違反した旨主張し、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、原告法人が新たな税理士に依頼する際に支出した交通費2350円及び被告に支払済みの報酬相当額23万2200円(合計23万4550円)並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である令和2年9月30日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②原告Aが、Bの上記行為について個人としても精神的苦痛を被ったとして、債務不履行又は不法行為若しくは使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料120万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年9月30日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
  反訴は、被告が、原告法人に対し、税務に関する業務を履行したことにより発生した報酬請求権に基づき、未払の業務委託報酬14万2560円及びその一部について発生した確定遅延損害金847円(合計14万3407円)並びに上記のうち元金14万2560円に対する支払期限の翌日である令和元年6月1日から支払済みまで商事法定利率(平成29年法律第45号による改正前の商法514条に基づく利率)年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)原告法人は各種コンサルティング業務等を目的とする株式会社であり、原告Aはその代表取締役である。
  被告は他人の求めに応じて租税に関し税務代理・税務書類の作成及び税務相談に関する事務を行うこと等を目的とする税理士法人であり、Bは被告に所属する税理士である。
(2)原告Aは、自身が企画した交流会で知り合ったBに対して会社の設立に関する相談等を行っていたところ(甲27)、平成30年3月26日、原告法人を設立した。そして、原告法人と被告は、同年4月1日、以下の内容で原告法人が被告に対して税務顧問業務及び決算申告業務を委託する旨の業務委託契約を締結した(甲1、以下「本件業務委託契約」という。)。
ア 報酬額及び支払方法
(ア)税務顧問業務 報酬額は月額1万2000円とし、当月分の報酬を当月28日に被告が指定する口座への口座振替の方法により支払う。
(イ)決算申告業務 報酬額は別途見積りによって決定することとし、毎月末を締め日として翌月28日に被告が指定する口座への口座振替の方法により支払う。
イ 有効期限
  平成30年4月1日から1年間とするが、原告法人又は被告のいずれかから解除の申し出がない限り自動継続し、その場合の有効期限は1年間とする。
(3)ア 被告は、平成30年4月から同年12月までの間、原告法人の税務顧問業務を行った(弁論の全趣旨)。また、被告は、平成30年分の原告法人の決算申告を行い、平成31年4月30日、同決算申告業務に係る報酬の額を12万9600円と見積もった上、令和元年5月31日を支払期限として、その支払を原告法人に求めた(乙4、11)。以上により、被告は、原告法人に対し、平成30年4月分から同年12月分までの税務顧問業務に係る報酬請求権及び平成30年分の決算申告業務に係る報酬請求権を取得した。
   原告法人は、被告に対し、上記の報酬のうち少なくとも平成30年5月分から同年12月分までの税務顧問業務に係る報酬10万3680円を支払った(これに対し、後記3(4)のとおり、同年4月分の税務顧問業務に係る報酬1万2960円及び平成30年分の決算申告業務に係る報酬12万9600円の支払の有無については、当事者間に争いがある。)。
 イ また、被告は、平成31年3月、平成30年分の原告A個人の確定申告業務を行い(乙13)、原告法人は、被告に対し、同業務に係る報酬12万8520円を支払った。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)被告の原告法人に対する債務不履行の有無及び不法行為の有無(本訴関係)
(原告法人の主張)

 被告に所属する税理士であるBは、被告の依頼者である原告法人に対し、忠実義務を負っているほか、業務の遂行にあたって原告法人又はその代表者である原告Aが理由なく精神的苦痛を受けることがないように配慮すべき義務を負っており、また、被告は、Bが上記各義務に違反しないように監督すべき義務を負っていた。しかし、Bは、以下のアないしエのとおり、忠実義務に違反する行為及び原告Aが理由なく精神的苦痛を受けることがないように配慮すべき義務に違反する行為を行ったのであるから、被告は、監督義務に違反していないことを立証しない限り、原告法人に対して債務不履行責任を負う。また、下記ウに関しては、仮にBによる義務違反行為時に原告法人と被告の間の契約関係が終了していたために被告が債務不履行責任を負わないとしても、被告は不法行為責任を負う。
ア 脱税を助長するような発言
 原告Aが平成30年1月5日にBに対して原告法人の設立に関する税務業務等の相談をした際、原告Aが「父親から生前贈与と思われる金銭を一回に月数十万単位で複数回受け取った。」と話し、税務申告が必要かどうかを尋ねたところ、Bは、「口座に入れなければ大丈夫。」と回答した。
 しかし、上記の件については本来税務申告をする必要があったものであり、Bは申告すべき生前贈与があるのであれば原告Aに対してその旨助言すべきであったにもかかわらず、むしろ上記のとおり脱税を助長するような発言をした。
 Bの上記行為は忠実義務に違反するものである。
 なお、Bの上記行為は原告法人設立前の行為であるが、当時から原告Aは原告法人の設立に関して被告に税務相談を行っていたものであり、被告は業務としてこれに対応していたのであるから、原告法人と被告との間では法人設立に関する契約が成立していたのであり、被告はBの上記行為に関して原告法人に対する債務不履行責任を負う。
イ 脱税を指南するような発言
 平成29年10月3日ないし6日頃、原告AがBに対し「実際は雇用していない人物を従業員として雇用したことにして、給料分としてその人物の口座に入金し、そのお金を戻させる、ということをしている人がいるが、これは脱税ではないのか。」と相談した際、Bは、「よくあることだし、自分のクライアントもやっている。税務署が来てもいくらでも言い訳できる。」という発言をした。
 しかし、Bの上記行為は脱税相談等の禁止を定める税理士法36条に違反するものであり、原告Aはこれによって不信感を覚えたのであって、これは原告Aに対して理由なく精神的苦痛を受けることがないように配慮すべき義務に違反するものである。
 なお、Bの上記行為は原告法人設立前の行為であるが、上記アと同様、原告法人と被告との間では法人設立に関する契約が成立していたのであり、被告はBの上記行為に関して原告法人に対する債務不履行責任を負う。
ウ 法令違反行為への勧誘
 Bは、平成31年1月26日、原告Aに対し、「パーティーで知り合った女社長がパパ活仲介をやっている。誰か紹介したらお金がもらえるが、周りにパパが欲しい女性や、女性を買いたい男性はいないか。紹介料は払う。」、「パパ欲しかったら言って。」などと述べて、いわゆるパパ活のあっせんを行った。
 Bの上記行為は、原告Aに対して法令違反行為の勧誘をするものであり、忠実義務に反し、又は、原告Aに対して理由なく精神的苦痛を受けることがないように配慮すべき義務に違反するものである。
 なお、Bの上記行為は被告との本件業務委託契約解約後の行為であるが、原告法人はその後も被告に決算申告業務を委託していることや、顧問契約に付随する義務は顧問契約終了後も継続することから、被告は原告法人に対して債務不履行責任を負う。
 また、仮にBの上記行為時点で本件業務委託契約が解約されていたために被告が債務不履行責任を負わないとしても、被告は原告法人に対してBの上記行為について不法行為責任を負う。
エ 秘密を守る義務の違反
 Bは、原告Aに対し、被告の別の依頼者について「あそこの会社は本業で儲けているのではなく、MLMで儲けている。」などと話した。なお、「MLM」とはマルチ商法の意味である。
 Bの上記行為は、税理士の秘密を守る義務に違反するものであり、原告Aはこれによって不信感を覚えたのであって、これは原告Aに対して理由なく精神的苦痛を受けることがないよう配慮すべき義務に違反するものである。
オ なお、原告法人は、上記アないしエのBの行為について、令和元年6月13日、被告の苦情相談窓口に相談した。しかし、その後、被告は、Bの行為について何ら調査することなく、弁護士を通じて一方的に本件業務委託契約の解除を行った。
  被告の上記行為は監督義務及び忠実義務に違反するものであり、原告法人に対する債務不履行を構成する。
(被告の主張)
ア 脱税を助長するような発言について
 Bが原告Aの生前贈与に関する相談に対して「口座に入れなければ大丈夫。」と回答したことは否認する。むしろ、原告法人が提出する原告Aが作成したとされるメモ(甲2)には、「生前贈与の可能性有」と記載されており、Bは贈与税の申告をすべきであることを前提に回答している。
 また、そもそも、原告法人が問題にするBの行為は、原告法人が設立される前の行為であり、原告法人に対する債務不履行にはなり得ない。
イ 脱税を指南するような発言について
 Bが原告Aに対して不正に税金の賦課徴収を免れるなどについて指示をしたり相談に乗ったりしたことは否認する。
 また、そもそも、原告法人が問題にするBの行為は、原告法人が設立される前の行為であり、原告法人に対する債務不履行にはなり得ない。
ウ 法令違反行為への勧誘について
 Bが原告Aに対していわゆるパパ活のあっせんをしたことは否認する。
 また、そもそも、原告法人が問題にするBとのやり取りは、原告AとBとの個人的なやり取りであり、被告とは何ら関係がない。
 さらに、原告法人は、平成30年12月末をもって被告との本件業務委託契約を解約した旨主張しているのであり、そうであれば原告法人が問題にするBの行為は被告との本件業務委託契約が終了した後の行為であって、原告法人に対する債務不履行にはなり得ない。
エ 秘密を守る義務の違反について
 Bが原告Aに対して被告の別の依頼者について「あそこの会社は本業で儲けているのではなく、MLMで儲けている。」などと話したことは否認する。
 また、仮にBが他の依頼者について守秘義務に反するような行為を行っていたとしても、原告法人に対する債務不履行にはなり得ない。
オ 被告がBの行為について何ら調査しなかったことなどが被告の監督義務及び忠実義務に違反する旨の主張は争う。
(2)被告の原告Aに対する債務不履行の有無、不法行為の有無及び被告の使用者責任の有無(本訴関係)
(原告Aの主張)

 原告Aは上記(1)の生前贈与の件のように被告に対して個人の税務相談も行っていたのであり、また、平成30年分について個人事業主としての確定申告も被告に委託していたのであるから、原告Aと被告との間には業務委託契約が成立していたのであり、被告は原告A個人に対しても上記(1)のBの行為に関して債務不履行責任を負う。
 また、Bによる上記(1)の行為は原告Aに対する不法行為を構成するところ、被告はそのことを原告Aから聞いて知っていたにもかかわらず漫然と放置したのであるから、かかる被告の行為は不法行為を構成する。
 さらに、被告は、Bを事業の執行のために使用するものであるから、民法715条の使用者責任も負う。
(被告の主張)
 被告は原告Aから個人事業主としての確定申告の委託を受けたことはあるが、個人の日常的な税務相談を業務として受けたことはないから、原告Aが指摘するBの行為について被告が原告Aに対し債務不履行責任を負うことはない。
 また、Bが原告Aに対して加害行為を行った事実はなく、被告がそれを漫然と放置した事実もないから、被告が原告Aに対し不法行為責任を負うことはない。
 さらに、Bの行為が被告の業務遂行に基づく行為であるともいえないから、被告が原告Aに対し使用者責任を負うこともない。
(3)原告法人及び原告Aの損害額(本訴関係)
(原告らの主張)

ア 原告法人の損害
 原告法人は、披告の債務不履行によって本件業務委託契約を解除され、新たな税理士に委任しなければならない状況になり、新たな税理士事務所が決まるまでに税理士事務所に行った際の交通費として合計2350円を支出した。これは被告の債務不履行によって生じた損害である。
 また、原告法人は被告に対し合計23万2200円の報酬を支払ったものの、被告は債務を十分に履行したとはいえず、上記の支払済みの報酬も被告の債務不履行によって生じた損害である。
イ 原告Aの損害
 原告Aが上記(2)のB又は被告の不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は120万円を下らない。
(被告の主張)
 争う。
(4)原告法人による被告への報酬支払の有無(反訴関係)
(原告法人の主張)

 原告法人は、平成30年4月分の税務顧問業務に係る報酬1万2960円及び平成30年分の決算申告業務に係る報酬12万9600円についても、Bに手渡しで交付する方法によって被告に支払済みである。
(被告の主張)
 被告は上記報酬については原告法人から受け取っていない。
 被告においては、現金の手渡しによる依頼者からの報酬の受領は一切行っていない。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実、証拠(甲27(ただし、以下の認定に反する部分は除く。)のほか、後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告Aは、平成29年7月頃、自身が企画した交流会でBと知り合い、それ以降、Bに対し、会社の設立の相談等を行うようになった。
(2)原告Aは、同年10月3日、Bに対し、「脱税している人、発見しちゃいました!」、「医者が、自分の娘を事務員として雇っていることにして、娘の口座に給料振りこんでいた!でも、その娘は事務員としての業務は一昨(ママ)してない!給料は、娘の口座から医者のもとへ!これ脱税ですよね!」などというメッセージをラインで送信した。これに対し、Bは、同月6日、「お子さんを従業員に迎え入れて、実体の無い給与を払うケースって実はよくあるのですよね」、「私のクライアントでもありますし、給与額が少なければ、税務調査入っても結構言い訳できちゃうんですよねー笑」などと返信した。(甲3)
(3)原告Aは、平成30年1月5日頃、被告事務所を訪れ、Bに対し、法人の設立に関する税務業務等の相談をした。その際、原告Aは、Bに対し、父親から生前贈与と思われる金銭を受け取った旨を話し、税務申告が必要かどうかを尋ねたことがあった。(甲2)
(4)原告Aは、平成30年3月26日、原告法人を設立し、原告法人と被告は、同年4月1日、前提事実(2)のとおりの内容で、本件業務委託契約を締結した。
(5)原告AとBは、平成30年4月中旬頃、男女として交際を開始し、Bが原告Aの実家を訪れたり、二人でホテルの同室に宿泊したりすることがあった(甲17、18乙8の4、弁論の全趣旨)。
(6)ア 被告は、平成30年4月から同年12月までの間、原告法人の税務顧問業務を行った。
   原告法人は、被告に対し、上記の報酬のうち平成30年5月分から同年12月分までの税務顧問業務に係る報酬10万3680円を、口座振替の方法により支払った(甲12)。
   もっとも、原告法人は、同年12月末をもって、本件業務委託契約のうち税務顧問業務を委託している部分を解約した(甲14ないし16、弁論の全趣旨)。
 イ 被告は、平成31年3月、平成30年分の原告A個人の確定申告業務を行い、平成31年3月15日、同確定申告業務に係る報酬の額を12万8520円と見積もった上、同年4月30日を支払期限として、その支払を原告Aに求めた(乙2)。
   原告法人は、被告に対し、上記業務に係る報酬12万8520円を、口座振替の方法により支払った(甲12)。
 ウ 被告は、平成31年4月、平成30年分の原告法人の決算申告を行い(乙11)、平成31年4月30日、同決算申告業務に係る報酬の額を12万9600円と見積もった上、同年5月31日を支払期限として、その支払を原告法人に求めた。
(7)原告Aは、平成31年3月23日、Bに対し、「パパ活仲介頼んできたりとか、エロい格好してこなかったら顧問料上げるとか、そういうことも言わないでほしい。」などというメッセージをラインで送信し、Bは、同日、「分かった。以後そのようなことは無いようにします。」と返信した(甲4)。
(8)被告は、令和元年6月20日、原告法人に対し、本件業務委託契約を解除する旨などが記載された通知書を送付し、これは、同月22日、原告法人に到達した(甲5、乙6の1・2)。
(9)原告Aは、令和2年1月頃、Bに対し、Bが既婚者であるにもかかわらずそのことを秘して自身と交際していたとして、貞操権侵害の不法行為に基づく損害賠償として146万7525円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起した(乙8の1・2、弁論の全趣旨)。
2 被告の原告法人に対する債務不履行の有無及び不法行為の有無について
(1)脱税を助長するような発言について

 原告法人は、原告Aが平成30年1月5日に原告法人の設立に関する税務業務等の相談をした際に、「父親から生前贈与と思われる金銭を一回に月数十万単位で複数回受け取った。」と話し、税務申告が必要かどうかを尋ねたところ、「口座に入れなければ大丈夫。」と回答したBの行為は、忠実義務に違反する旨主張し、原告Aがこれに沿う陳述をする(甲27)。
 しかし、Bが原告法人の主張するような回答を行ったことを裏付ける的確な証拠はなく、かえって、原告Aが相談時に作成したとされるメモ(甲2)には「お父さんからもらったお金=手渡しならOK」との記載の直後に、「生前贈与の可能性有」との記載があることからすれば、Bが原告法人の主張するような回答を行ったとは容易には認められない。
 また、上記の点を措くとしても、原告AによるBへの相談は本件業務委託契約の締結前になされたものであった上、相談の内容が原告A個人が受けた生前贈与に関するものであったことからすれば、原告が主張するBの行為が原告法人に対する債務不履行を構成するものとはおよそいえないというべきである。
 したがって、原告法人の上記主張は採用できない。
(2)脱税を指南するような発言について
 原告法人は、原告Aが「実際は雇用していない人物を従業員として雇用したことにして、給料分としてその人物の口座に入金し、そのお金を戻させる、ということをしている人がいるが、これは脱税ではないのか。」と相談した際、「よくあることだし、自分のクライアントもやっている。税務署が来てもいくらでも言い訳できる。」という発言をしたBの行為は、原告Aに対して理由なく精神的苦痛を受けることがないように配慮すべき義務に違反する旨主張する。
 確かに、上記1(2)のとおり、Bが原告Aに対して「お子さんを従業員に迎え入れて、実体の無い給与を払うケースって実はよくあるんですよね」、「私のクライアントでもありますし、給与額が少なければ、税務調査入っても結構言い訳できちゃうんですよねー笑」などというメッセージを送信した事実が認められるが、それは原告Aの「脱税してる人、発見しちゃいました!」「医者が、自分の娘を事務員として雇っていることにして、娘の口座に給料振りこんでた!でも、その娘は事務員としての業務は一昨(ママ)してない!給料は、娘の口座から医者のもとへ!これ脱税ですよね!」などというメッセージに返信する形でなされたものであることからすれば、上記のBのメッセージの送信が原告Aに対して脱税を指南する趣旨でなされたものであったとは直ちには認められない。
 また、上記の点を措くとしても、原告AとBとの上記やり取りは本件業務委託契約の締結前になされたものであった上、その内容からして原告AとBの私的なやり取りとしてなされたものであったというべきであり、上記のやり取りにおけるBの行為が原告法人に対する債務不履行を構成するものとはおよそいえないというべきである。
 したがって、原告法人の上記主張は採用できない。
(3)法令違反行為への勧誘について
 原告法人は、平成31年1月26日に原告Aに対して「パーティーで知り合った女社長がパパ活仲介をやっている。誰か紹介したらお金がもらえるが、周りにパパが欲しい女性や、女性を買いたい男性はいないか。紹介料は払う。」、「パパ欲しかったら言って。」などと述べて、いわゆるパパ活のあっせんを行ったBの行為は、原告Aに対して法令違反行為の勧誘をするものであり、忠実義務に反し、又は、原告Aに対して理由なく精神的苦痛を受けることがないように配慮すべき義務に違反する旨主張する。
確かに上記1(7)の原告AとBとのラインでのやり取りの内容からすれば、Bが原告Aに対して「パパ活」と呼ばれる行為の仲介を依頼したことがあったものと認められる。
 しかし、「パパ活」と呼ばれる行為の具体的な内容は上記ラインのやり取りによっても必ずしも明らかではなく、Bが法令に違反する行為のあっせんを依頼していたものか否かは必ずしも明らかではない。
 また、上記の点を措くとしても、上記の原告AとBとのやり取りは、そのやり取りの内容や、当時原告AとBが男女として交際していたことなどにも照らすと、原告AとBの私的なやり取りとしてなされたものであったというべきであり、上記のやり取りにおけるBの行為が原告法人に対する債務不履行を構成するとか、被告による原告法人に対する不法行為を構成するとはおよそいえないというべきである。
 したがって、原告法人の上記主張は採用できない。
(4)秘密を守る義務の違反について
 原告法人は、原告Aに対し、被告の別の依頼者について「あそこの会社は本業で儲けているのではなく、MLMで儲けている。」などと話したBの行為は、税理士の秘密を守る義務に違反するものであり、原告Aに対して理由なく精神的苦痛を受けることがないよう配慮すべき義務に違反する旨主張し、原告Aがこれに沿う陳述をする(甲27)。
 しかし、Bが原告法人の主張するような話をしたことを裏付ける客観的な証拠はない。
 また、上記の点を措くとしても、その行為の内容等に照らし、Bの上記行為が原告法人に対する債務不履行を構成するものとはいえない。
 したがって、原告法人の上記主張は採用できない(なお、Bの上記行為について仮に被告の債務不履行を構成すると認めたとしても、それによって原告法人に何らかの損害が生じたものとは認められず、いずれにせよ、原告別法人の請求には理由がない。)。
(5)以上のとおり、原告法人が指摘するBの行為はいずれも被告による原告法人に対する債務不履行や不法行為を構成するものとは認められず、また、他に被告の原告法人に対する債務不履行責任ないし不法行為責任を基礎付けるべき事情も認められない。
  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告法人の被告に対する請求には理由がない。
3 被告の原告Aに対する債務不履行の有無、不法行為の有無及び被告の使用者責任の有無について
(1)原告Aは、生前贈与の件のように被告に対して個人の税務相談も行っていたのであり、また、平成30年分について個人事業主としての確定申告も被告に委託していたのであるから、原告Aと被告との間には業務委託契約が成立していたのであり、被告は原告A個人に対しても上記2(1)ないし(4)で指摘したBの行為に関して債務不履行責任を負う旨主張する。
  しかし、証拠上認められる原告Aと被告との間の契約関係としては平成30年分の原告Aの確定申告業務の委託に関する契約が存在するのみであり(乙2、13)、原告Aが指摘するBの行為は、仮にそのような行為の存在が認められたとしても、その内容や行為がなされた時期等に照らし、いずれも上記確定申告業務とは無関係になされたものといわざるを得ず、それらの行為が被告による原告Aに対する債務不履行を構成するものとは到底いえない。
  したがって、原告Aの上記主張は採用できない。
(2)また、原告Aは、上記2(1)ないし(4)で指摘したBによる行為は原告Aに対する不法行為を構成するところ、被告はそのことを原告Aから聞いて知っていたにもかかわらず漫然と放置したのであって、かかる被告の行為は原告Aに対する不法行為を構成する、また、被告は、Bを事業の執行のために使用するものであるから、民法715条の使用者責任も負う旨主張する。
  しかし、上記2(1)ないし(4)で述べた点に照らせば、原告Aが指摘するBの行為は、仮にその存在が認められたとしても、いずれも、被告の業務との関連性は認め難い、あるいは関連性が非常に薄いものといわざるを得ず、被告において原告Aから苦情を受けた後にBに対する処分等の措置を取らなかったことが原告Aに対する不法行為を構成するとはいえない。
  また、使用者責任についても、上記2で述べたところに照らせば、原告が主張するBの行為はそもそも認められないか、仮に認められるとしても被告の事業の執行についてなされたものとはいえないものであり、被告が同Bの行為について使用者責任を負うとはいえない。
(3)以上のとおり、原告Aが指摘するBの行為はいずれも被告による原告Aに対する債務不履行や不法行為を構成するものとは認められず、また、他に被告の原告Aに対する債務不履行責任ないし不法行為責任を基礎付けるべき事情も認められない。
  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告Aの被告に対する請求には理由がない。
4 原告法人による被告への報酬の支払の有無について
(1)原告法人は、平成30年4月分の税務顧問業務に係る報酬1万2960円及び平成30年分の決算申告業務に係る報酬12万9600円について、Bに手渡しで交付する方法によって被告に支払済みである旨主張し、原告Aがこれに沿う陳述をする(甲27)。
  しかし、原告法人が上記の報酬についてBに手渡しで交付したことを裏付ける客観的な証拠はなく、かえって、本件業務委託契約においては被告に対する報酬は口座振替の方法により支払うこととされ、原告法人も平成30年5月分から同年12月分までの税務顧問業務に係る報酬及び原告Aの確定申告業務に係る報酬は口座振替の方法によって支払っていることにも照らすと、上記の報酬のみ手渡しで支払ったというのは不自然であり、かかる事実を容易に認めることはできない。
  したがって、原告法人の上記主張は採用できない。
(2)そして、前提事実(3)のとおり、被告は原告法人に対して平成30年4月分の税務顧問業務に係る報酬請求権及び平成30年分の決算申告業務に係る報酬請求権を取得しており、前提事実(2)及び(3)によれば、その支払期限は前者の報酬につき平成30年4月28日であり、後者の報酬につき令和元年5月31日であると認められるから、これらの業務委託報酬14万2560円及び前者の報酬について令和元年5月31日までに発生した確定遅延損害金847円(合計14万3407円)並びに上記のうち元金14万2560円に対する支払期限の翌日である令和元年6月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める被告の反訴請求には理由がある。

第4 結論
 以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、被告の反訴請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第6部
裁判官 菊地拓也

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