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相続・遺言2024年05月13日 中国に銀行預金を残して死亡した場合の解約手続について 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:夏目武志

中国に駐在している、あるいは、駐在していた経験のある日本人が死亡した場合に、遺産として、中国国内の銀行に預金が残っていることがある。そのような場合に、日本国内の相続人がどのようにすれば良いか分からず、相談や依頼を受けることがしばしばある。
日本国内の銀行預金であれば相続手続は極めて簡単であるが、これが中国の銀行預金となると全く事情が異なり、かなり面倒な手続が必要になることが少なくない。
そこで、私の業務経験も踏まえて、相続財産である中国の銀行預金の解約手続を代理人に依頼して行う場合の要点や注意事項などを概括的に説明する。
1 銀行に個別の確認が必要
まず、預金口座のある中国国内の銀行の当該支店に対し、個別に問合せを行い、いかなる書類を提出し、どのような手続を取る必要があるか、個別に確認をする必要がある。近時、中国国内の中国人が相続で中国の銀行の解約手続を行うことも以前に比べて面倒な手続を求められるようになってきているが、中国の銀行にとっても、外国にいる外国人相続人からの解約手続は不慣れであり、銀行や担当者によって対応が区々となることが多い。
なおかつ、中国の場合、電話での問い合わせでは十分な回答をもらうことができず、現地の窓口まで出向かなければならないことがある。また、銀行内部での検討を経て回答をもらうまでに比較的長時間を要するケースがある。
2 必要書類
上述のとおり、銀行ごとに要求は異なるが、委任状などのほか、求められることが多いのは以下のようなものである。日本で発行される書類については、それぞれ公証、アポスティーユの手続を要求される。
(1) 口座名義人の死亡証明書
原本の提出を求められることが多い。中国で死亡した場合には中国の関連部門が発行した死亡証明書を提出することになる。
(2) 相続関係を証明する書類
一般には戸籍謄本と法務局発行にかかる法定相続情報を提出する。中国の場合、親族関係を証明する書類として、公証処が発行する専用の証明書があるため、日本の公証人役場に同様の証明書を発行してもらうように求められることがあるが、日本の公証人役場ではそのような証明書を発行してもらうことはできないため、中国の銀行に日本で揃えることのできる書類について理解してもらう必要がある。
(3) 相続人の身分証明書
パスポートの写しを提出するのがベストである。
(4) 遺産分割協議書等
相続人が一人である場合には、同相続人が唯一の相続人であることの証明書を公証人役場に発行してもらうよう求められることがあるが、そのような証明書を発行してもらうことはできない。そのため、それに代えて弁護士の法律意見書(相続の準拠法が日本法になること、日本法によれば当該相続人が唯一の相続人となること等を記載)を提出することがあり、それで了解してもらえるよう銀行と折衝する必要がある。
(5) 被相続人のパスポート
口座開設時から死亡時までの全てのパスポートの提出を求められることがある。その場合、提出したパスポートにかかる人物が同一人物であることを証明する書類を求められる場合もある。紛失または廃棄した古いパスポートがある場合などは厄介である。筆者の経験では、外務省(領事局旅券課長)に弁護士会照会を行い、資料として戸籍を提出しつつ、旅券番号について回答してもらい、それを援用しながら弁護士名義の法律意見書を作成・提出し、銀行の了解を得たことがある。
(6) 口座資金源泉証明書(例えば給料証明など)
これはマネロン(中国では洗钱という)対策として要求されることがあるものと思われる。たとえば、給料証明には、本人の名前、給料明細、銀行口座情報、会社情報、雇用状況等を明記しなければならないほか、税務局または会社の税務システムを通して、本人の納税情報を取得して、給料証明と一緒に提出しなければならないなど、なかなか細かいことを要求されることがある。給料明細や銀行残高状況等を踏まえ、口座資金の源泉に合理性があるか、審査がなされるようである。
3 まとめ
中国と日本では相続法の内容が異なり、戸籍や公証人役場の制度も異なっている。
中国の銀行から、中国の制度を前提として、日本側で準備することが不可能な書類の提出を要求されてしまうこともあるため、銀行担当者に両国制度の違いを理解してもらうことや、要請の趣旨を満たす、日本側から提出可能な他の代替手段について了解を得るための折衝が必要になることがある。
さらに、解約を行った後には、中国から日本への海外送金を行わなければならず、その点についてもさらに銀行とのやりとりが必要になる。
以上、中国に銀行預金を残して死亡した場合の解約、相続手続について概括的に述べてきたが、筆者の経験では、中国現地の中国律師と共同で対応して、かなりの長期間を要してようやく解約ができたというケースが多く、少なくとも簡単に処理できるものではないと認識しておく必要があると思われる。

(2024年4月執筆)

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執筆者

夏目 武志なつめ たけし

弁護士

略歴・経歴

1999年03月 中央大学卒業
2000年11月 司法試験合格
2002年09月 司法研修所(岐阜地方裁判所配属)修了
2002年10月 弁護士登録 名古屋第一法律事務所入所
2014年04月 日本法圓坂律師事務所大連代表処第4代首席代表に就任

 日本国内の業務では、多くの中小企業の顧問として、中小企業が日常的に抱える各種問題に対し、いつでも気軽に相談できる身近な存在として、迅速できめ細かい対応を心掛けています。2004年に愛知中小企業家同友会に入会し、2012年には名古屋第一青年同友会会長を務めました。
 中国関連の業務では、2014年に日本法圓坂律師事務所大連代表処第4代首席代表に就任し、在瀋陽日本国総領事館在大連領事事務所や大連日本商工会、中国に進出している日系企業の顧問を務めるほか、日本企業に対する中国法全般のサービスを提供しています。また、最近は中国の企業や個人からの依頼も増えてきて、日本法に関する各種情報のご提供や日本での訴訟代理など様々な業務を行っています。
 愛知県弁護士会では国際委員会に所属しています。

セミナー・講演
2013年11月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その1」
       -新外国人出入国管理条例、商標法改正をふまえて-
2014年6月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その2」
       -①契約等日常的なリスク対応と②撤退等非常時を想定したリスク対応-
2015年8月(大連) コンシェルジュ20周年記念セミナー
   テーマ「新しい時代を切り拓くための法律講座」
       -中国・大連と共に成長・発展することを目指して-
2015年9月(大阪) 広東広信君達法律事務所との共催セミナー
   テーマ「中国事業にかかわる問題点とその解決策」
       -日本人弁護士の視点で語る中国での清算、撤退に関する近時の動向-
2016年2月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その3」
       -①新環境保護法 ②撤退・労務紛争に関する近時の状況-
2017年4月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -①外商投資を巡る新たな動き、②撤退に関する新たな動向・企業
        破産法を巡る最新の実務、③日系企業の役に立つ最近の実例紹介-
2018年3月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -環境に関する法律問題と近時の実務動向-
2018年5月(上海) 上海大成律師事務所日本業務部主催 中国ビジネス法務サロン
   テーマ「環境法特別講義」

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