カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2023年06月05日 ニュース特集 Q&Aで読むリース会計基準案のポイント(2023年6月5日号・№981)

ニュース特集
リースの対象が拡大するケースも
Q&Aで読むリース会計基準案のポイント


 企業会計基準委員会(ASBJ)は5月2日、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等を公表した(8月4日まで意見募集)。現行のリース会計基準等とは大きく異なり、公開草案では、借手のリースの費用配分の方法について、IFRS第16号「リース」と同様、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかに関係なく、すべてのリースについて資産及び負債を計上することとしている。また、リースの識別の定めが導入されることにより、これまでリースではなかったものがリースと判断される可能性もある。加えて、連結財務諸表だけでなく、個別財務諸表にも適用されることになっているため、中小企業も含め多くの企業に影響を与える可能性がある。本特集では、公表されたリース会計基準等の公開草案のポイントについてQ&A形式で解説することとする。

オフバランス継続の場合は財務報告の信頼性にリスク
Q
 リース会計基準が改正されることになった経緯は。
A

 IASB(国際会計基準審議会)は、2016年1月にIFRS第16号「リース」を公表(2019年1月から適用)。また、FASB(米国財務会計基準審議会)は2016年2月に会計基準更新書「リース」(Topic842)を公表(2018年12月15日から適用)しており、これらの会計基準は、借手の会計処理について、費用の計上パターンが異なるものの、すべてのリース取引を原則としてオンバランスする点では同様となっており、日本基準と大きく異なっている。このため、①現行の日本の会計基準において、重要なオペレーティング・リースについて賃貸借処理に準じた会計処理を継続することは、重要な負債がオフバランスになっているとの指摘を国際的に受ける可能性があり、日本の資本市場及び企業の財務報告に対する信頼性に関するリスクが大きい、②国際的な会計基準と整合性を図ることは、財務諸表間の比較可能性につながる、③格付機関などの財務諸表利用者の資産及び負債の計上に関するニーズがあることなどの理由から、日本においてもリース会計基準を見直すことになったものである。
 今回の見直しにより、借手の貸借対照表上では、資産及び負債が増加することになる。また、借手の損益計算書上では、営業利益に影響が生じる可能性がある。

IFRS第16号「リース」との整合性を図る
Q
 リース会計基準案において、IFRS第16号「リース」の単一の会計処理モデルが採用された理由は何か。
A

 IFRS第16号では、借手のリースについて、すべてのリースを金融の提供として捉えて、使用権資産に係る減価償却資産及びリース負債に係る金利費用をそれぞれ認識する単一の会計処理モデルが採用されている。一方、米国会計基準では、従来と同じくファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、ファイナンス・リースについては減価償却費及び金利費用を別個に認識し、オペレーティング・リースは通常均等な単一のリース費用を認識する会計処理モデル(2区分モデル)が採用されている。
 企業会計基準委員会の議論では、オペレーティング・リースの経済的な実態との整合性や適用上のコストの観点からは両者のいずれが適しているかについての優劣はつけられないとしつつも、財務諸表利用者のニーズの観点からは損益計算書の調整が不要となる点や、リース負債を現在価値で測定することと整合的に損益計算書で金利費用が認識される点で、IFRS第16号の単一モデルの方が財務諸表利用者のニーズに適しているとなったようだ。ただ、IFRS第16号のすべての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れることにより、簡素で利便性が高く、かつ、IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成している企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても基本的に修正が不要となる会計基準となっている。

連単分離とする事情は存在せず
Q
 連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理を同一にした理由は何か。
A

 企業会計基準委員会では、原則として、連結財務諸表と個別財務諸表の両方について同様の会計基準を適用することとしているが、個別財務諸表にも改正リース会計基準を適用することになった場合には、税務上の取扱いや自己資本比率規制などの関連諸法規等に大きな影響を及ぼすことになるため、関連諸法規等に関する影響について分析を行っている。
 例えば、法人税等に関しては、会計処理と税務処理が一致する方が財務諸表作成者のコストは低くなるものの、税務処理は会計処理とは別に定められるものであり、会計基準を開発する上で税務処理が変更されることを条件にすることは難しいとしている。また、改正リース会計基準により、オペレーティング・リースについても資産及び負債が計上されることで一定のコストが発生することになるが、現行のリース会計基準等における少額リース及び短期リースの資産及び負債計上の免除規定を措置するなど、実務への一定程度の配慮を行っていることなどから、同委員会では、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理は同一であるべきとする基本的な考え方を覆す事情は存在しないと判断したものとなっている。

借手の維持管理費用相当額の取扱いは引き継がず
Q
 借手の維持管理費用相当額の取扱いはなぜ見直されるのか。
A

 リースの識別では、借手は契約における対価の金額について、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分するにあたって、それぞれの部分の独立価格の比率に基づいて配分することとし、借手は契約における対価の中に、借手に財又はサービスを移転しない活動及びコストについて借手が支払う金額が含まれる場合、当該金額を契約における対価の一部としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分するとされている。
 現行基準では、借手が負担するリース料の中に含まれる固定資産税、保険料等の諸費用といった維持管理費用相当額は原則としてリース料総額から控除することとされているが、改正リース会計基準案では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分がなくなったため、現行基準の定めは引き継がず、IFRS第16号と同様の定めとなっている。一方、貸手に関しては、借手の処理に加え、リースの区分が残されているため、現行基準を踏襲した方法との選択適用が認められている。

リース期間、借手と貸手で取扱いが異なる
Q
 リース期間の取扱いの変更点は?
A

 借手のリース期間については、IFRS第16号と同様、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、①借手が行使することが合理的で確実であるリースの延長オプションの対象期間及び②借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定することとされている。「合理的に確実」であるかについては、判断にばらつきが生じる懸念があることから、「延長又は解約オプションの対象期間に係る契約条件」「大幅な賃借設備の改良の有無」「リース契約に関連して生じるコスト」など、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮することになる。
 一方、貸手のリース期間については現行基準からの変更はない。貸手は、借手による延長又は解約オプションの行使可能性が合理的に確実かどうかを評価することが難しいとの理由によるものだ。結果として、IFRS第16号とは異なる取扱いとなっている。

短期・少額リースに簡便的な取扱い
Q
 現行基準と同様、短期リースや少額リースについて、簡便的な取扱いは認められるか。
A

 借手の会計処理については、借手は、使用権資産について、リース開始日に算定されたリース負債の計上額にリース開始日までに支払った借手のリース料及び付随費用を加算して算定し、リース負債の計上額を算定するにあたっては、原則として、借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除する方法により算定することとされている。また、使用権資産の計上額については、IFRS第16号と整合的に、借手のリース料の現在価値を基礎として使用権資産の計上額を算定することとされている。
 ただし、短期リース及び少額リースについては、現行基準と同様の簡便的な取扱いを認めている。短期リースとは、リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内のリースのこと。また、少額リースは、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリースのこと。現行基準と同様の定めに加え、IFRS第16号では、原資産の価値が新品時におよそ5千米ドル以下のリースについて簡便的な取扱いが認められていることから、こちらの取扱いも選択適用できる。

旧借地権等の権利金は償却しないことも可
Q
 旧借地権については、これまで償却をしていないが、今後はどのような取扱いとなるのか。
A

 借地権の設定に係る権利金は、土地を使用する権利に対する支払である点で毎月支払われる賃料と相違はなく、権利金と賃料は一体で使用権資産の取得原価を構成するものと考えられることから、借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得原価に含めリース期間にわたり償却するとしている。ただし、旧借地権又は普通借地権の設定に係る権利金は、定期借地権と異なり、当該権利金の授受が減価しない土地の一部取得に準ずるものとの見解もあるとのこれまでの実務慣行を踏まえ、①改正前のリース会計基準において旧借地権及び普通借地権の設定に係る権利金等を償却していなかった場合、改正リース会計基準の適用初年度の期首に存在する権利金等及び改正後に新たに計上される普通借地権の設定に係る権利金等の双方、又は②改正リース会計基準の適用初年度の期首に旧借地権及び普通借地権の設定に係る権利金等が計上されていない場合、改正リース会計基準の適用後に新たに計上される普通借地権の設定に係る権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことができる。

再リースの取扱いは現行基準と同様
Q
 現行の取扱いでは、再リースは発生時に費用処理できるとされているが、改正リース会計基準案での取扱いに変更はあるか。
A

 現行のリース適用指針では、再リース期間をリース資産の耐用年数に含めない場合の再リース料は、原則として発生時の費用として処理するとされている。一方、IFRS第16号「リース」では、当初の契約条件の一部であった延長オプションの行使についてはリース負債の事後測定として取扱い、当初の契約条件の一部でない場合はリースの条件変更として取り扱うこととされており、どちらの場合もリース負債を再測定し、使用権資産を修正することになる。
 現行のリース適用指針における借手の再リースに係る会計処理は、IFRS第16号にはない取扱いであるが、再リースは日本固有の商慣行であり、この取扱いが実務で浸透し、特に問題がないとされていることから、現行のリース適用指針を適用している企業においては、同取扱いを継続して認めることにより、追加的な負担を減らすことができるため、再リースを当初のリースとは別のリースとして会計処理することができるとされている。

セール・アンド・リースバック取引は米国基準を採用
Q
 セール・アンド・リースバック取引については、米国会計基準の取扱いを採用しているが、どのような理由によるものか。
A

 セール・アンド・リースバック取引の売手である借手の会計処理については、IFRS第16号では、買手である貸手に移転された権利に係る利得又は損失の金額のみを認識する一方、米国会計基準のTopic842では売却損益の全額を認識しており、大きく異なっている。改正リース会計基準案については、基本的な方針としてIFRS第16号の単一モデルを基礎としているものの、セール・アンド・リースバック取引の売手である借手の会計処理に関しては、唯一米国会計基準のTopic842と同様の会計処理を採用している。理由としては、収益認識会計基準等の考え方との整合性を考慮したことなどによるものだ。
 セール・アンド・リースバック取引については、「売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(リースバック)する取引」と定義し、①資産の譲渡が収益認識会計基準等により売却に該当しないと判断される場合、又は②リースバックにより、売手である借手が、資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合のいずれかに該当する場合には全体を金融取引として会計処理することとしている。
 一方、セール・アンド・リースバック取引について、売手である借手による資産の譲渡が収益認識会計基準等により、一時点で損益を認識する売却に該当すると判断される場合、売手である借手は、資産の譲渡について収益認識会計基準等の他の会計基準等にしたがい、当該損益を認識し、リースバックについて改正リース会計基準案にしたがい借手の会計処理を行うことになる。

貸手は基本的に現行基準を踏襲
Q
 貸手の会計処理についても改正されるのか。
A

 貸手の会計処理に関しては、国際的な会計基準においても抜本的な改正は行われていないため、収益認識会計基準との整合性を図ることや、リースの定義及びリースの識別以外は現行の取扱いが踏襲されている。

フリーレント期間終了の不動産に一定の経過措置
Q
 フリーレントの取扱いはどうなるか。
A

 現行基準では、貸手のオペレーティング・リースの会計処理については通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことのみが定められていたが、改正リース会計基準案では、貸手のオペレーティング・リースによる貸手のリース料については、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することが定められている。
 現行の実務においては、フリーレント(契約開始当初数か月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)の会計処理は必ずしも明らかではなく、統一されていない。例えば、賃料が無償のフリーレント期間については、①リース料を計上しないパターンと、②リース料の総額について、フリーレント期間を含めた賃貸期間で分割して計上するパターンの2つの会計処理が考えられるが、改正リース会計基準の適用後は②の会計処理に統一されることになる。ただ、多くの企業が採用している①のフリーレント期間にリース料を計上していないケースは、システム改修など、多大な移行へのコストが生じることになる。このため、「適用初年度の期首に締結された新たなリースとして、改正リース会計基準等を適用して会計処理することができる」との経過措置を設け、フリーレントについては会計処理の修正を求めないこととしている。

転リース取引は現行基準を踏襲
Q
 サブリース取引はIFRS第16号に基本的に合わせるとのことだが、転リースの取扱いに変更はあるのか。
A

 サブリース取引は、「原資産が借手から第三者にさらにリース(サブリース)され、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引」と定義し、当初の貸手と借手の間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」と定義した上で、サブリース取引について、IFRS第16号と同様にヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行うこととされている。
 ただし、転リース取引に関しては、主に機器などのリースについて仲介の役割を果たす中間的な貸手の会計処理として実務に浸透しているため、現行基準を踏襲している。

少額リースの費用開示は求めず
Q
 注記についてIFRS第16号と異なる点はあるのか。
A

 借手の注記については、財務諸表利用者の利便性を考慮し、①会計方針の注記、②リース特有の取引に関する情報、③当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報、また、貸手の注記では、①リース特有の取引に関する情報、②当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報が挙げられている。
 このうち、リース特有の取引に関する情報では、損益計算書に関する情報として「短期リースに係る費用の発生額」の注記が求められているが、IFRS第16号と異なり、少額リースに係る費用や、短期リースのポートフォリオに関しては求められていない。

早ければ2026年4月1日から適用も
Q
 適用時期について、なぜ明記されていないのか。
A

 適用時期は、会計基準公表から2年程度経過した「20XX年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から適用する」との考え方を示すことにとどまっている(早期適用は会計基準公表後の連結会計年度等の期首から可)。公開草案で適用時期を明記しないのは、公開草案へのコメントが多数寄せられた場合、どの程度審議する時間を要するのかわからないからだ。審議が長引けば強制適用時期も遅れ、逆に2024年3月までにリース会計基準が公表されることになれば、2026年4月1日以後開始する連結会計年度等から適用の可能性もある。

現行基準を適用しているリース取引はリースの識別は不要に
Q
 現行のリース会計基準を適用しているリース取引についても、改正後はリースの識別が必要になるのか。
A

 改正リース会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになるが、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができることとされている。この場合、リースの識別に関しては、リースかどうかの判断を行う実務上の負担を考慮し、現行のリース会計基準を適用しているリース取引については、リースの識別を行わないことができるとの経過措置が設けられている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索