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解説記事2023年06月05日 特別解説 暗号資産(仮想通貨)に係る開示(2023年6月5日号・№981)

特別解説
暗号資産(仮想通貨)に係る開示

はじめに

 2022年11月に仮想通貨取引所であるFTX社が連邦破産法第11条の適用を申請した。巨額の損失に加えて、連邦政府による捜査の可能性などが取り沙汰される事態となっている。また、FTXの破綻は、より大きな仮想通貨(暗号資産)の崩壊が迫っているという恐怖を煽るものでもあり、対応を誤ればリーマン・ショックの再来になりかねないとも言われている。本稿では、暗号資産を保有する我が国の企業が、有価証券報告書においてどのような開示を行っているかを調査することとしたい。

今回の調査の対象とした企業

 今回の調査対象としたのは、日本企業が作成・提出した2021年9月期から2022年8月期までの有価証券報告書である。今回の調査では開示データベースを利用し、「有価証券報告書」の「連結財務諸表:注記」の領域で「仮想通貨」又は「暗号資産」のキーワードで検索して該当するものを抽出した。ヒットしたのが合計で38社、119件であった。

我が国の会計基準における暗号資産の取扱い

 暗号資産を取り扱った我が国の会計基準は、「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号 2018年3月14日)である。
 期末における暗号資産の評価に関する会計処理は次のとおりである。
 暗号資産交換業者及び暗号資産利用者は、保有する暗号資産(暗号資産交換業者が預託者から預かった暗号資産を除く。以下同じ。)について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該暗号資産の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する(第5項)。
 暗号資産交換業者及び暗号資産利用者は、保有する暗号資産について、活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする。期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理する(第6項)。
 前期以前において、前項に基づいて暗号資産の取得原価と処分見込価額との差額を損失として処理した場合、当該損失処理額について、当期に戻入れを行わない(第7項)。
 さらに、暗号資産取引の表示方法と要求される開示は次のとおりである。
 暗号資産交換業者又は暗号資産利用者が暗号資産の売却取引を行う場合、当該暗号資産の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示する(第16項)。
 暗号資産交換業者又は暗号資産利用者が期末日において保有する暗号資産、及び暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産について、次の事項を注記する。
(1)暗号資産交換業者又は暗号資産利用者が期末日において保有する暗号資産の貸借対照表価額の合計額
(2)暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産の貸借対照表価額の合計額
(3)暗号資産交換業者又は暗号資産利用者が期末日において保有する暗号資産について、活発な市場が存在する暗号資産と活発な市場が存在しない暗号資産の別に、暗号資産の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額。ただし、貸借対照表価額が僅少な暗号資産については、貸借対照表価額を集約して記載することができる。ただし、暗号資産交換業者は、暗号資産交換業者の期末日において保有する暗号資産の貸借対照表価額の合計額及び預託者から預かっている暗号資産の貸借対照表価額の合計額を合算した額が資産総額に比して重要でない場合、注記を省略することができる。また、暗号資産利用者は、暗号資産利用者の期末日において保有する暗号資産の貸借対照表価額の合計額が資産総額に比して重要でない場合、注記を省略することができる(第17項)。

国際財務報告基準(IFRS)における暗号資産の取扱い

 後述するマネックスグループの重要な会計方針に記載されているように、国際財務報告基準(IFRS)において、暗号資産の取引等に係る基準は存在しない。このため、IFRSを適用する企業は、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の要求事項に基づき、「財務報告に関する概念フレームワーク」及び類似の事項を扱う基準を参照し、保有する暗号資産に対する会計上の支配の有無を総合的に勘案して会計処理することになる。
 棚卸資産に分類される暗号資産の場合には、当初認識時点において取得原価で測定するとともに、当初認識後においては売却コスト控除後の公正価値で測定する。そして、無形資産に分類される暗号資産の場合には、当初認識時点において取得原価で測定するとともに、当初認識後においては取得原価から減損損失累計額を控除して測定する(原価モデル)か、毎四半期末時点で再評価する(再評価モデル)。また、無形資産に分類した暗号資産は、後述するマネックスグループ、ネクソンの両社ともに耐用年数が確定できない無形資産とみなし、償却を行っていなかった。

我が国の会計基準に準拠する企業が行った開示

 まず、我が国の会計基準に準拠して連結財務諸表や有価証券報告書を作成・提出する企業が行った暗号資産に関する開示を取り上げる。

追加情報における開示(暗号資産に関する注記)

リミックスポイント(日本基準) 2022年3月期

(資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱いの適用)
 「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号 2018年3月14日)に従った会計処理を行っております。仮想通貨に関する注記は以下のとおりであります。なお、「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により資金決済法が改正され、「仮想通貨」は「暗号資産」に呼称変更されており、以下の注記では「暗号資産」と記載しております。

 暗号資産の期末評価及び取引に係る損益について、リゾート&メディカル社とクシム社はそれぞれ次のように開示していた。

リゾート&メディカル(日本基準) 2022年3月期

暗号資産の期末評価
 決算日の市場価格等に基づく時価法を採用しております。
暗号資産の取引に係る損益
 暗号資産の取引に係る損益(評価損益を含む)は、連結損益計算書上、純額で売上高に表示しております。

クシム(日本基準) 2021年10月期

暗号資産
活発な市場が存在するもの
 決算期末日の市場価格等に基づく時価法(評価差額は当期の損益として処理し、売却原価は移動平均法により算定)
活発な市場が存在しないもの
 移動平均法による原価法(収益性の低下による簿価切下げの方法)

 なお、活発な市場の有無は、対象暗号資産が国内外の暗号資産交換所または販売所に複数上場し、時価が容易かつ継続的に測定できるものであることを基準とし、対象暗号資産の内容、性質、取引実態等を総合的に勘案し判定することとする。また、国内の暗号資産交換所または販売所とは、金融庁の暗号資産交換業者登録一覧に登録されている暗号資産交換業者の交換所または販売所を指す。

IFRSを適用する我が国の企業が行った開示

 次に、国際財務報告基準(IFRS)を任意に適用して連結財務諸表を作成・提出する企業が行った開示を紹介したい。

重要な会計方針(棚卸資産、それ以外)における注記

マネックスグループ(IFRS) 2022年3月期
 まず、棚卸資産に該当する暗号資産の会計方針を、マネックスグループは次のように開示していた(以後の開示で、下線は筆者が付したものである)。

18.棚卸資産
 国際会計基準(IFRS)において暗号資産の取引等に係る基準は存在しません。このため、当社グループは、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の要求事項に基づき、「財務報告に関する概念フレームワーク」及び類似の事項を扱う基準を参照し、保有する暗号資産に対する会計上の支配の有無を総合的に勘案し、会計処理しています。
 当社グループが保有する暗号資産のうち、会計上の支配があると判断した暗号資産については、連結財政状態計算書上資産として認識しています。一方で、当社グループが保有する暗号資産のうち、利用者から預託を受けた暗号資産で、下記の事項を総合的に勘案した結果会計上の支配がないと判断した暗号資産については、連結財政状態計算書上資産として認識しておらず、対応する負債についても認識していません。
 利用者から預託を受けた暗号資産は、主に自らの計算において保有する暗号資産と同様に当社グループが管理する電子ウォレットにおいて保管しており、暗号資産の処分に必要な秘密鍵を当社グループが保管していますが、利用者との契約により利用者の指示通りに売買又は送信することが定められており、利用者の許可のない当社グループによる使用は制限されています。また、利用者から預託を受けた暗号資産は、「資金決済に関する法律」及び「暗号資産交換業者に関する内閣府令」等に基づき、利用者から預託を受けた暗号資産と自らの計算において保有する暗号資産を分別し、利用者ごとの残高を管理しており、利用者から預託を受けた暗号資産と自らの計算において保有する暗号資産を保管するウォレットを明確に区分し管理しています。さらに、当該暗号資産に係る経済的便益は原則として利用者に帰属し、当社グループは当該暗号資産の公正価値の重要な変動リスクに晒されていません。一方でこれらの暗号資産は、コインチェック株式会社の清算時等において、自らの計算において保有する暗号資産と同様に扱われる可能性があります。また、暗号資産の法律上の権利については必ずしも明らかにされていません。
 なお、連結財政状態計算書に計上されていない利用者から預託を受けた暗号資産の前連結会計年度及び当連結会計年度末の残高はそれぞれ385,578百万円、425,126百万円であります。これらの金額は、主要な暗号資産取引所における各期末日時点の取引価格に基づいて算定しています。
 会計上の支配があると判断した暗号資産(利用者との消費貸借契約等に基づく暗号資産を含む)のうち、主に近い将来に販売し、価格の変動による利益又はブローカーとしてのマージンを稼得する目的で保有している暗号資産については、使用を指図する能力及び経済的便益が当社グループに帰属することから、IAS第2号「棚卸資産」に基づき連結財政状態計算書上棚卸資産として認識し、当初認識時点において取得原価で測定するとともに、当初認識後においては売却コスト控除後の公正価値で測定しています。棚卸資産として認識している暗号資産のうち、コインチェック株式会社が保有する暗号資産の前連結会計年度及び当連結会計年度末の残高はそれぞれ30,910百万円、37,501百万円であります。なお、棚卸資産として認識している利用者との消費貸借契約等に基づく暗号資産に対応する負債については、当社グループにおける前連結会計年度及び当連結会計年度末の残高はそれぞれ45,382百万円、56,611百万円であり、連結財政状態計算書の「その他の負債」に含まれています。

 さらに、棚卸資産に該当しない暗号資産及びトークン(無形資産)に関する会計方針は次のとおりであった。

棚卸資産に該当しない暗号資産及びトークン
 棚卸資産に該当しない暗号資産及びトークンは無形資産として認識し、当初認識時点において取得原価で測定するとともに、当初認識後においては取得原価から減損損失累計額を控除して測定しています。また、無形資産に分類した暗号資産は耐用年数が確定できない無形資産とみなし、償却を行っていません。

 さらにもう1社、IFRS任意適用日本企業であるネクソンの事例も取り上げたい。
 前述したマネックスグループは、無形資産として計上した暗号資産の事後的な会計処理を取得原価モデルによっていたが、ネクソンは、IFRSで代替的な方法として認められる再評価モデルを適用していた。

ネクソン(IFRS) 2021年12月期 無形資産注記

 当社グループは、2021年4月に暗号資産取引所(当社の兄弟会社であるBitstamp Ltd.)を通じてビットコイン(暗号資産)に対する投資を行いました。当該取引は関連当事者取引に該当します。当社グループは、当該暗号資産に対する投資を毎四半期末(期末日の23時59分[日本標準時間])時点で再評価しております。当社グループは、当該資産の公正価値ヒエラルキーをレベル2に区分し、主に取引先の暗号資産取引所における相場価格を用いて公正価値測定しております。なお、公正価値ヒエラルキーのレベル間の振替は、振替を生じさせた事象又は状況の変化が生じた日に認識します。再評価した無形資産の帳簿価額(取引コスト控除前の公正価値)は9,479百万円であり、当該無形資産を認識後に原価モデルで測定していたとした場合に認識されていたであろう帳簿価額(処分コスト控除後の公正価値)は9,461百万円であります。無形資産に係る再評価剰余金は当連結会計年度末において発生しておりません。

ネクソン 2021年12月期 重要な会計方針 のれん及び無形資産

(e)暗号資産に対する投資
 当社グループは、暗号資産に対する投資をIAS第38号「無形資産」(以下「IAS第38号」という。)に基づく無形資産として認識し、取得原価で当初測定しております。当社グループは、当該無形資産には使用期限がなく、交換手段として用いられる限り存続すると考えているため、耐用年数が確定できない無形資産と判定し、償却を行っておりません当初認識の後には、当社グループは、再評価モデルを用いて当該無形資産を測定することを選択しております。
 再評価モデルのもとでは、当社グループは当該無形資産を再評価額(再評価日の公正価値から再評価日以降の減損損失累計額を控除した額)で計上しております。IAS第38号での再評価の目的上、公正価値は活発な市場を参照して測定します。
 当社グループは、再評価の結果として無形資産の帳簿価額が増加する場合には、当該増加額をその他の包括利益に認識し、再評価剰余金としてその他の資本の構成要素に累積します。ただし、当該増加額は、過去に純損益に認識した同じ無形資産の再評価による減少額の戻入れとなる範囲内で、純損益に認識します。
 当社グループは、再評価の結果として無形資産の帳簿価額が減少する場合には、当該減少額を費用として認識します。ただし、当該減少額は、当該無形資産に係る再評価剰余金の貸方残高の範囲内で、その他の包括利益に認識します。その他の包括利益に認識する減少額は、再評価剰余金としてその他の資本の構成要素に累積されている金額の減額となります。
 当社グループは、当該無形資産の認識の中止により再評価剰余金を実現させる場合には、当該再評価剰余金を利益剰余金に直接振り替えます。

終わりに

 暗号資産やブロックチェーン、ビットコインといった技術は日進月歩であり、流れが極めて速い上に浮き沈みが激しい。そして、今回のFTX社の破綻に象徴されるように、暗号資産の円滑な取引や流通を支えるはずの暗号資産取引所やそれらを取り巻く法制度、会計・監査制度等も対応が後手に回り、急激な環境の変化に追いつくことができずに翻弄されているような状況であると思われる。
 全世界的に現金での決済額が大きく減少し、カードや電子決済が主流となりつつある現代において、暗号資産が「通貨」としての信頼を勝ちとることができるであろうか。また、現在の財務会計の仕組みも、無形資産に象徴されるように、投資家が求めるような企業の情報や価値が、財務諸表にほんの一部分しか反映されていないという批判が高まってきている。  
 暗号資産にせよ、財務会計の制度にせよ、現状の混乱から得た教訓から関係者が学び、将来の発展につなげられるかどうか正念場であろう。今後の動向に注目したい。

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