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解説記事2023年07月17日 ニュース特集 四半期開示&重要な契約を巡る改正のポイントと行方(2023年7月17日号・№987)

ニュース特集
経理や開示部門の事務負担に大きな影響
四半期開示&重要な契約を巡る改正のポイントと行方


 金融商品取引法周辺で、経理部門や開示部門にとって重要性の高い改正が進んでいる。一つが四半期開示であり、もう一つが重要な契約の開示だ。
 四半期報告書の廃止を盛り込んだ金商法改正法案は先の通常国会で成立に至らず、秋の臨時国会で継続審議されることとなったが、本誌取材によると、金融庁は施行日を変更せず、関連する内閣府令、監査基準等も施行日に間に合わせたい考え。また、東証は、四半期報告書が当初予定通り廃止され、第1・第3四半期が四半期決算短信に一本化されることを念頭に「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置、取引所規則の改正について検討を進めている。同検討会では、新たな四半期決算短信にどこまで新たな開示内容が追加されるのかが焦点の一つになる。新たな四半期決算短信へのレビューは「任意」とされているものの、レビューの有無を開示しなければならないため、企業側からは「事実上、開示内容が追加された四半期決算短信についてレビューを受けざるを得ないのではないか」との懸念の声が上がっている。
 さらに、金融庁は6月30日、有価証券報告書等に記載する「重要な契約」に係る改正開示府令案のパブコメを開始した。「重要な契約」のうち企業の関心が高いのが「企業・株主間のガバナンスに関する合意」だが、例えば改正開示府令案が開示を求めている「株主の事前の承諾を要する旨の合意」に営業秘密である親子間を含むグループ内の「決済基準」が含まれるかどうかなど不明点も多い。今回の改正では、機密情報に該当する場合は開示を免除する等の規定はなく、また、施行日前の契約は除く等の経過措置も設けられていない。企業によっては、施行日までの間に、株主との間で契約の再交渉をすることも検討しなければならないだろう。
 本特集では、経理や開示部門の事務負担に大きな影響を与えかねない四半期開示及び重要な契約を巡る改正のポイントと行方をレポートする。

四半期開示

四半期報告書廃止、通常国会で法案不成立も「令和6年4月1日」実施

 四半期報告書の廃止などが盛り込まれた金融商品取引法改正法案は、去る通常国会で衆院は通過したものの、防衛財源確保法の審議が長引いた影響を受け、参院の財政金融委員会での審議には至らず、秋の臨時国会で継続審議されることとなった。
 同改正法案では、四半期報告書の廃止の施行日は「令和6年4月1日」とされている(改正法附則1三)。施行日前に開始した四半期に係る四半期報告書の提出については、なお従前の例によるとされていることから(改正法附則2①)、これらの規定を合わせて読むと、「令和6年4月以降に開始した四半期に係る四半期報告書」から廃止ということになる。例えば3月決算企業については、令和6年度第1四半期(4月~6月)に係る四半期報告書から廃止される。

内閣府令、監査基準等も同日施行へ、リスクは“解散”のみ

 しかし、改正金商法が通常国会で成立に至らなかったため、企業からは、仮に改正金商法案が秋の臨時国会で成立した場合、現行規定の通り、令和6年度第1四半期から四半期報告書が廃止されるとの理解でよいのか、あるいは、法案修正によって施行日が後ろ倒しになるのかとの疑問の声が聞かれる。
 この点、本誌の取材により、発行体有利の改正であることも踏まえ、現状、金融庁としては施行日を変更しない方向であることが確認された。関連する内閣府令、監査基準等も施行日に間に合わせたい考え。現行規定が予定する通りの施行に向け考えられるリスクは、法案の成立前に岸田総理が臨時国会を解散することだが、そうなった場合にはもはやどうにもならないだろう。

B/SやP/Lの注記等、定性的な経営成績等の分析など追加も

 周知の通り、四半期報告書が廃止された暁には、第1・第3四半期開示は東証の四半期決算短信へと一本化される。そこで東証は、「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置し、数回、会合を開く。金商法改正法案の成立を待ってから検討を開始したのでは令和6年4月1日の施行に間に合わないため、成立を見込んで議論を始め、既に6月29日には第1回会合が開催された。秋の取りまとめを目指しており、これを踏まえ、関連する取引所規則の改正が行われることになる。
 検討会の議論で焦点の一つとなるのが、新たな四半期決算短信の内容だ。2022年12月に公表された金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ報告書(以下、報告書)では、「今回の見直しが情報開示の後退と受け取られないようにする観点からは、原則として速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報“等”)について、四半期決算短信の開示内容を追加する方向で、取引所において具体的に検討を進める」とされている。セグメント情報、キャッシュ・フローの情報については開示することで決着済みだが、問題は「等」としてさらなる追加開示項目があるかどうかだ。企業サイドとしては簡素化の観点から「等」は一切不要との立場だが、投資家サイドは「貸借対照表や損益計算書の注記等、財務諸表の理解において重要なものや、定性的な経営成績等の分析について追加する必要がある」(報告書)との考えを示している。どのように議論が収束するか、現段階では方向性が見えていない状況にある。

「レビューの有無」の開示義務化が企業へのプレッシャーに

 また、報告書では、一本化後の新たな四半期決算短信については、速報性の観点等から監査人によるレビューを一律には義務付けない(任意)としつつ、投資家への情報提供の観点からレビューの有無を四半期決算短信において開示するとの方向性が示された。
 これに対し企業側からは、「レビューの有無を開示するとなると、レビュー無しの場合、投資家から何故かと詰め寄られ、事実上、レビューを受けざるを得ないのではないか。レビューは義務付けないとした報告書の趣旨が損なわれるのではないか」との懸念の声も聞かれるが、東証は報告書の整理に従い、検討会において、決算短信のサマリー情報においてレビューの有無の記載を義務付ける案を提示している。
 ASBJ(企業会計基準委員会)でも対応が進んでいる。5月29日に開催された委員会会合では、四半期開示の決算短信への一本化に伴い、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」の改正又は修正が必要との方針が打ち出されており、今後も金融庁・東証と足並みを揃えて検討を進める。
 このほか、実務面の対応として、四半期決算短信の印刷会社も、来年第1四半期からの施行に間に合うよう、サービス提供の準備を進めている。上述した臨時国会の解散等が起こらない限り、四半期決算短信への一本化に向けた動きが着々と進むだろう。

重要な契約(企業・株主間のガバナンスに関する合意)

合意があったとしても契約がなければ開示対象外

 今回のパブコメは、金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ報告(2022年6月)において、個別分野における「重要な契約」について開示すべき契約の類型や求められる開示内容を具体的に明らかにするとされたことを踏まえたもの。大きく分けて、(1)企業・株主間のガバナンスに関する合意、(2)企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意、(3)ローン契約と社債に付される財務上の特約、から構成される。
 このうち企業の関心が高い「(1)企業・株主間のガバナンスに関する合意」は、同報告で「企業と株主間のガバナンスに関する合意は、一般に、当該企業のガバナンスや支配権への影響が大きく、投資判断に重要な影響を及ぼすことが見込まれ、適切な開示が求められる」とされたことを受けたもの。要するに、有価証券報告書等の提出会社(提出会社が持株会社の場合には、その子会社(重要性の乏しいものを除く)を含む)が、提出会社の株主との間で、以下のガバナンスに影響を及ぼし得る「合意を含む契約」を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的及びガバナンスへの影響等の開示が必要となる。合意を含む「契約」を締結している場合が対象となるため、合意があったとしても法的拘束力ある契約がなければ開示の対象とならない。単なる口約束は射程外ということになる。

<ガバナンスに影響を及ぼし得る合意>

(a)役員候補者指名権の合意
(b)議決権行使内容を拘束する合意
(c)事前承諾事項等に関する合意

 開示府令案の具体的な条文は下記の通り。

f 提出会社の株主(当該提出会社の完全親会社(会社法第847条の2第1項に規定する完全親会社をいう。)を除く。gにおいて同じ。)と当該提出会社(当該提出会社が子会社の経営管理を行う業務を主たる業務とする会社である場合にあっては、当該提出会社又はその連結子会社(重要性の乏しいものを除く。)。以下fにおいて同じ。)との間で次に掲げる合意を含む契約を締結している場合には、当該契約の概要(当該契約を締結した年月日、当該契約の相手方の氏名又は名称及び住所並びに当該合意の内容を含む。)、当該合意の目的、取締役会における検討状況その他の当該提出会社における当該合意に係る意思決定に至る過程及び当該合意が当該提出会社の企業統治に及ぼす影響(影響を及ぼさないと考える場合には、その理由)を具体的に記載すること。なお、当該契約の相手方が個人である場合における住所の記載に当たっては、市町村までを記載しても差し支えない。
(a)当該提出会社の役員について候補者を指名する権利を当該株主が有する旨の合意
(b)当該株主による議決権の行使に制限を定める旨の合意
(c)当該提出会社の株主総会又は取締役会において決議すべき事項について当該株主の事前の承諾を要する旨の合意

重要性基準の詳細は条文上は不明

 株主から完全親会社を除くとされているのは、同報告で「グループ内企業間の契約のうち、完全親子会社間の契約については、少数株主保護に配慮する必要がないため、当該契約にガバナンスに関する合意を含む場合でも開示を求める意義は乏しいと考えられる」とされているからだ。
 また、株主と提出会社の契約だけではなく、株主と提出会社が持株会社(子会社の経営管理を行う業務を主たる業務とする会社)である場合のその子会社の契約を規律の対象に含めることとしたのは、持株会社傘下で実際にビジネスを行っている事業会社も今回の改正の射程に入れるため。同報告には特段そのような方向性を示す記述はなかったが、投資家サイドとしては歓迎すべき内容であろう。
 一方、子会社からは「重要性の乏しいもの」が除かれているが、これは過剰な開示を回避するためと考えられる。例えば持株会社である提出会社Aと別の会社Bが合弁契約により合弁会社Cを設立し、CがAの子会社になったとする(下図参照)。また、BはたまたまAの株式をごく少数保有しており、合弁契約においてCの株主総会等決議事項についてBの事前承諾を要する旨の合意があったとする。

 このようなケースでは、条文上「重要性の乏しいものは除く」との文言がないと、【B】と【A又はC】との間で、【A又はC】の株主総会等決議事項についてBの事前承諾を要する旨の合意がある、ということになり、当該合弁契約が開示の射程になってしまう。これはさすがに上記の「持株会社傘下で実際にビジネスを行っている事業会社も今回の改正の射程に入れる」という目的を超えており、過剰開示となってしまうため、重要性基準でフィルタリングすることとしたのだろう。
 ただし、重要性基準の詳細は条文上明らかでないため、パブコメに対する金融庁の回答等での明確化が期待されるところだ。

法令上観念しにくい役員の「推薦権」は条文に盛り込まれず

 「指名する権利」とある部分は、同報告で「株主が会社の役員の一定数について、候補者を指名又は推薦する権利を有する旨の合意(役員候補者指名権等の合意)」とあった部分を若干修正したもの。株主が指名した役員は提出会社において選ばれるという意味での「指名権」は観念できるものの、「推薦権」は法令上、観念しにくい。
 「推薦する権利は有するが、選ばれるかどうかは分からない」という株主と提出会社の契約が、果たしてガバナンスに関する合意と言えるのかとの疑義も生じるところであり、改正開示府令案では落とされたことが本誌の取材により判明している。なお、「役員」には執行役員は含まれないと解される。

「事前の承諾」にグループ内の決済基準が含まれるか等グレーな部分も

 「事前の承諾」については、親子間を含むグループ内の「決済基準」(金額的に○○の重要性がある場合には子会社が親会社の事前承諾を得なければいけない等の決まり)が含まれるかどうかが論点となり得る。
 親子間で「契約」を結んでいなければ開示の対象外となろうが、若干グレーな部分が残る。企業サイドとすれば、決済基準は営業秘密であり、安易に開示するわけにはいかないため、この点もパブコメに対する金融庁の回答等での明確化が期待される。

施行日前の契約も対象、株主と契約の再交渉も要検討

 今回の改正により開示するのはあくまでも契約の「概要」等であるが、どの程度開示すれば足りるのかという“相場観”は明らかでない。今後、金融庁によるパブコメへの回答や解説を待つしかない。
 今回の改正では、機密情報に該当する場合は開示を免除する等の規定はなく、また、施行日(令和7(2025)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用)前の契約は除く等の経過措置も設けられていない。企業によっては、施行日までの間に、株主との間で契約の再交渉をすることも検討しなければならないだろう。

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