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解説記事2024年02月19日 巻頭特集 鼎談 令和6年度・企業税制改正の背景と今後の行方(2024年2月19日号・№1015)

巻頭特集
鼎談
令和6年度・企業税制改正の背景と今後の行方
 自由民主党 税制調査会会長 宮沢洋一
 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑良晴
 公認会計士・税理士 緑川正博


 令和6年度税制改正を企業の視点から見ると、戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制などこれまでにない画期的な税制が導入される一方、研究開発税制の縮減、特定税額控除規定の不適用措置の強化が図られるなど、評価が難しいとの声も聞かれるところだ。
 こうした中、本誌では昨年に引き続き、企業税制に詳しい公認会計士・税理士の緑川正博先生をモデレーターとして、宮沢洋一税調会長、経団連の小畑良晴経済基盤本部長に、平成6年度税制改正を中心に語っていただいた。
 本鼎談では、「中堅企業」という新たな企業のカテゴリーを創設した趣旨・背景、賃上げ税制改正のプロセス、外形標準課税の中小企業への適用拡大の行方、日本企業で自社株買いが進む中、米国で導入された自社株買いに対する課税への関心、商取引の把握を可能とするインボイスの制度と金融取引・金融資産の把握を可能にするマイナンバー制度が揃う中での税の執行体制のあり方など、話題は多岐に及んだ。  ※本文中、敬称略

雑損控除等を前年所得に適用できるよう申告前に税制改正

緑川:令和6年は最大震度7の揺れと津波を伴う能登半島地震で幕を開けました。宮沢会長は、平成29年度税制改正で災害特例の常設化を実現し、今回の能登半島地震では、これが大きな効果を発揮していると理解しています。今後、災害特例をさらにアップデートするとうかがっています。
宮沢:そうですね。これまで大きな震災が起こる度に様々な措置を講じてきましたが、税理士会からかなり強い要望があったことも踏まえて、熊本地震の後、激甚災害法(激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律)をはじめ、災害関連のほとんどの減免措置等は、災害が起これば自動的に使えるようにしましたが、今回もう一つ措置を追加します。これは阪神大震災、東日本大震災の際にも実施したのですが、今回の能登半島地震は元旦というまさに新年に入ってすぐの災害ということで、雑損控除などを令和6年の所得ではなく、令和5年の所得に適用できる制度を現在作っているところです。早急に税制改正を行い、今年の確定申告に間に合わせたいと考えています。

研究開発税制縮減の影響回避には研究開発費の増加が必須に

緑川:まさに被災された方が求めている制度だと思います。
 では、ここから令和6年度税制改正の内容に話を移していきたいと思います。まず、令和6年度税制改正大綱に盛り込まれた戦略分野国内生産促進税制の創設や賃上げ促進税制の見直しなど企業関連税制の改正について、要望側である経団連の小畑さんから経済界の評価をお聞きしたいと思います。
小畑:令和6年度税制改正では本当に色々な措置を講じていただき、誠にありがとうございます。その中でも法人関係では、賃上げ税制の強化、戦略分野国内生産促進税制及びイノベーションボックスの創設、さらにはスタートアップ関係税制の見直しと、重要な改正をいくつも盛り込んでいただいており、それらによる減税規模も非常に大きいと評価しています。
 大企業向けの賃上げ税制につきましては、5%や7%といった高い賃上げ率をカバーするようなところまで拡充していただいておりますし、戦略分野国内生産促進税制は5つの分野にターゲットを絞って、しかも生産高に応じて税額控除するという新しい発想で作っていただきました。
 ただ、今回の税制は認定から10年という長期間の措置ではありますが、国内生産を立ち上げた後は、コストに見合う価格付け、コスト削減によって経済合理性のある生産にいかに早く持っていけるかということが企業にとっての課題であり、そこは企業努力が必要になると考えています。
 イノベーションボックス税制は、企業の所得の中から特許等に由来する所得を分離して優遇するというこれまでにない制度であり、しかも令和7年から7年間という非常に長いスパンの措置となっています。一方で、研究開発税制の方は令和8年、11年、13年とだんだん縮小していくものと理解していますが、前年よりも研究開発費が増えていれば、特に今回の縮減の影響は受けませんので、企業としてはしっかり研究開発投資をやっていきたいと考えているところです。

大企業よりも“緩い基準”で「中堅企業の」賃上げ等を支援

緑川:大企業以外の企業税制についてはどのように評価されていますか。
小畑:まず、大法人の中から従業員2,000人以下の企業を抜き出して「中堅企業」という新たなカテゴリーを作っていただいたことに注目しています。地方にある大き目の企業にもしっかり目配りをいただいていると感じております。
 中小企業については、賃上げ税制で、最大5年間という非常に長い期間、控除しきれなかった金額を繰り越せる措置が設けられたという点は画期的だと思います。経団連は先日、春の労使交渉に向けたスタンスを公表したところですが、去年の月例賃金の引上げは大手企業で3.99%と4%にわずかに届かなかったので、今年はそれを超える熱量でしっかり賃上げしましょうということを申し上げております。一方で、中小企業の賃上げ率は、約3%ですので、これをもっと引き上げるべく、経団連としても中小企業との取引価格の適正化を図り、中小企業における賃上げに反映されるようにしていこうという申し合わせをしたところです。大企業、中小企業ともに、今回の税制改正をしっかり活かせるように頑張ってまいりたいと思っております。
緑川:宮沢先生、小畑さんのお話しにもあったように、今回賃上げ税制などにおいて「中堅企業」という新たな法人のカテゴリーを作った趣旨をご説明いただければと思います。
宮沢:税法上、資本金が1億円以下かどうかで中小企業と大企業が分かれているわけですが、資本金が1億円以下でも中小と言えない企業がある一方で、資本金1億を超えていても大企業と言ってよいのかなという企業もあります。この点を踏まえると、資本金だけで全て大企業とするのはどうなのかという議論の中で出てきたのが「中堅企業」です。従業員が2,000人以下と言っても、雇用をかなり生み出していますし、また、付加価値としてもかなり大きなウェイトを占めています。そこで、誰の目から見ても典型的な大企業と言えるところと同じ税制を適用するのではなく、特にこの賃上げ税制においては、いわゆる上場企業等の大企業よりも少し緩い基準で賃上げを応援していく必要があるだろうということが、中堅企業という新しいカテゴリーを作った理由です。

標準報酬月額を上げることで、年金を月額40~50万に

緑川:賃上げ税制について私が感じているのは、表面の給与よりも「手取り」をいかに増やしていくかということにも目を向けるべきだということです。つまり、税負担だけでなく、社会保険料の負担についても考えるべきだと思うんです。人手不足の中では企業は基本的に賃上げせざるを得ないので、税制に先行して自主的に賃上げをしており、さらにこの流れを賃上げ税制が後押しするのは良いと思うのですが、社会保険料負担が重く、手取り額が物価上昇についていけていないという一つの要因となっています。
宮沢:社会保険料と税を合わせて議論するというのは、最近でこそあまりされていませんが、私が若い頃からずっとテーマになってきました。特に経団連は社会保険料に対する意識が高いかと思います。
 ただ、あれだけ子供が増えてきているフランスの社会保険料プラス税の負担は、我が国の比ではないほど高いですし、欧州諸国と比較すると決して高くはないというのが日本の現状です。社会保険料について言えば、私は年金所得を抑えすぎていると思っています。例えば、大手の企業で部長を務めた人の年金が月額22~23万にとどまるというのは違和感があります。なぜそうなっているかと言うと、標準報酬月額の上限を抑えすぎているからです。おそらく経団連は、あえて会社負担を抑えているのだと思いますが。
小畑:その点は頭に入れておきます(笑)。2023年度の保険料の対GDP比は既に政府が2018年に公表した2040年度の推計値(13.4%)を超過し13.6%まで上昇しております。国民負担率(47.9%)の約4割が税以外の社会保障負担(19.8%)です。確かにフランスの国民負担率は約70%と非常に高いですが、社会保障負担は24.9%で、それほどでもありません。

宮沢:標準報酬月額をもう少し上げて、それなりに大きな企業で部長をやったような人の年金が月額40万、50万ぐらいにするのが普通なんじゃないですかね。
緑川:おっしゃる通りだと思います。基本的に社会保険料は、個人の負担金は年金に行きますが、会社が負担した社会保険料は年金に行かないので、会社負担を増やせば増やすほど、年金財政には良い影響がありますね。
宮沢:そうですね。あと、皆さん所得の少ない人の社会保険料には注目するのですが、高い人の社会保険料についてはほとんど政治側の議論がないまま決まっているんですよ。

3%の賃上げは「標準以下」

緑川:是非、税と社会保障の一体改革を進めていただくよう、期待しております。
 賃上げ税制に話を戻したいと思います。今回の賃上げ税制の改正はどういうプロセスで行われたのでしょうか。
宮沢:これは大企業の場合ですけれども、3%の賃上げでは標準以下ではないか、インセンティブとして機能するためにはもう少し賃上げ率を上げていかなければいけないのではないかという議論が最初にありました。
 一方で、標準に届いていない企業もたくさんありますので、適用要件は少し厳しくするけれども、入口の3%は維持せざるを得ないということになりました。ただし、これまでのように3%、4%と刻むのではなくて、もっとインセンティブになるものを作ろうということで、5%、7%という高い賃上げの要件を設け、税額控除率を大きくしました。
 そもそも日本全体の給与水準が他の先進諸国に比べて低くなってきていますので、毎年の賃上げということよりも、ある意味では異次元の給与体系みたいなものが本当は必要になっています。昨年の秋、日本の著名な酒造メーカーのオーナーとお話をする機会がありまして、私がそこで申し上げたのは、従業員の給与を倍にしても利益が出る値段でお酒を売ってください、ということです。付加価値が高い商品やサービスを販売し、価格を上げてもなんとか戦っていける企業をどれだけ増やしていけるかが、現在の日本には必要なのではないでしょうか。
小畑:今回の税制改正大綱では、「安い日本」というキーワードが非常に印象的だったのですが、そこをなんとかしなければならないという問題意識は我々も持っています。その1つが30年間据え置かれた賃金ですが、一方で、物価も30年間ずっと据え置かれてきました。この30年間世の中が何も変わっていない、そこを打破しなければいけないというご意見には非常に共感するところです。

自社株買いを行った企業への課税に強い関心

緑川:賃上げに関連したところで、近年、株価連動型のインセンティブ報酬を導入する日本企業が増えていますが、超大手企業は別にして、現場の従業員の給料は上げず、設備投資すると減価償却が増えるのでなるべく設備投資もせず、PL上の利益を確保して株価を維持すると様々なインセンティブ報酬が上がるという仕組みには私は賛同できません。経営者が株価ばかり見てしまいますので。キャッシュ・フローにも注目すべきではありませんか。この点、経団連としてはいかがでしょうか。
小畑:株価連動報酬については、投資家サイドからの強い要請もあり、金融庁と東証の「コーポレートガバナンス・コード」では、企業の中長期的な成長を促進する観点から、経営陣に対して、現金報酬と自社株によるインセンティブ報酬を適切に組み合わせた役員報酬制度を整備することが求められております。基本的にはバランスの問題なのかと思います。
 一方で、東証はPBR1倍割れを非常に問題視しているのはご存知の通りです。PBR1倍を達成するために、自社株買いをする企業が相次いでいます。そんなことをしても全く成長には結びつかないわけで、むしろ成長に向かう投資をしっかりやってPBRを上げていかなければならないと思っているところです。
宮沢:私は米国で2022年に成立したIRA(インフレーション抑制法=the Inflation Reduction Act of 2022)に大変興味を持っています。これは、上場企業に自社株買いよりも、人的資本投資や研究開発投資などを行うよう促すため、自社株買いを行った場合、買い付け金額に対し課税するものであり、先日、事務方にもIRAについてよく調べるよう依頼したところです。

中小企業事業再編投資損失準備金は“弱者連合”を作るための制度か

緑川:企業は長期的な成長を実現するために資金を投じるべきということには私も大賛成です。いわゆるムチ税制(研究開発等の特定税額控除規定不適用措置)の強化はそのような考え方が反映された改正項目だと思いますが、国内投資等に限定しているという点はどうなんでしょうか。国内の雇用を増やす、賃金を増やすということももちろん大事かもしれませんが、少子高齢化が進む中で日本企業は海外に出るしかないのに、国内に投資してどうなるのか、疑問があります。
宮沢:国内の生産性をどれだけ高めていくかが一番大事だということがあって、国内投資に限定しているわけですけれども、緑川先生がおっしゃるように、国内に投資してくださいと企業に勧めるのであれば、日本市場が将来大きくなる可能性が大きいと企業側に判断してもらわないといけない。ただ国内に投資しろと言ってるだけでは始まらないわけで、そこはやはり政治の役割というものが非常に大きいと思います。国内市場が、これまでの30年と違ってこれから大きくなっていくような政策を打ち、企業に信用してもらう必要があります。
緑川:期待したいと思います。
 続いて、「中堅企業」を適用対象に追加した上で適用期限が延長された中小企業事業再編投資損失準備金についてうかがいたいと思います。中堅企業を含め、国内の弱い企業同士がグループ化したとしても生産性は向上せず、共倒れになるだけなのではないかと危惧しています。むしろ生産性の低い中小企業は淘汰され結果的に効率化されるか、あるいは、効率化・高付加価値化を図り海外市場を目指すべきだと思います。税制においてもそのような中小企業を支援してはいかがでしょうか。

宮沢:我々は「中小企業政策」と一口に言ってしまうのですが、中小企業に関する問題は非常に多岐にわたっているため、一つの方法に沿って政策を並べていけば全部が良くなるということは恐らくないのではないかと思います。元々日本は欧米に比べて、ベンチャー、すなわち新しく生まれてくる企業が少ない一方で、廃業する企業も非常に少ないんですよ。私が経産大臣をやっていた約10年前のデータで、欧米では新しく事業を始める人と廃業する人の割合がともに10%位でしたが、日本ではいずれも5%位で、恐らく今もそんなに変わっていないはずです。したがって、今後のことを考えると、中小企業が今の事業をやめるとか新しいことをやるとか、前向きに変わっていっていただくための政策というのがどうしても必要なんだろうと思います。

スタートアップ税制拡充が格差拡大につながらないよう強く意識

緑川:中小企業関連の政策では、令和5年度、6年度と連続で、ストックオプション税制などスタートアップを支援する税制が拡充されました。スタートアップ税制については、私は結構異論がありまして、機関投資家がこぞってスタートアップに投資するのですが、機関投資家としてはできるだけ早くIPOさせたいので、十分に育っていないうちにグロース市場に上がってしまうんです。ですから、グロース市場上場企業で、海外市場に出て十分な利益を獲得しているところは、私の知る限り一つもありません。どこも国内市場をメインターゲットにした企業ばかりです。基礎研究などにじっくり取り組み、海外でも戦えるような企業に育て上げてからIPOすれば良いのにと常々感じています。IPOありきではなく、スタートアップを育成するような税制は考えられないのでしょうか。

宮沢:そのような話は投資家から聞いています。また、スタートアップの起業家達も早く現金化することを目指すのでどの企業も小粒だという意見も一部にはあります。確かに、もう少ししっかり育ってからIPOするべきという考えにも一理あるのだろうと思いますが、スタートアップが日本の成長力の源泉であることは確かなので、今回はこれを応援する税制改正は相当やらせていただきました。
 ただ、同時に我々が意識しなければならないのは、今回の改正が格差の拡大につながっては絶対いけないということです。米国が典型ですが、欧州の一部の国でも格差が拡大して社会に大きな亀裂を生じ、政治的にも極めて不安定になっています。同じようなことが日本で起こってはいけません。スタートアップの成長促進と格差拡大の防止の両方の視点から“良い塩梅”を模索していかなければならないと私は考えています。
緑川:大綱にも高額所得者に対する課税のあり方ということが書かれていましたけれど、私が知る限り、スタートアップの創業者というのはIPOした後も意外とずっと株を持ち続けているんですよ。自分が作った会社ですから。逆に、創業者以外のストックオプションを付与された人がIPOしてすぐ権利行使して株を売っていますね。そこで、IPO後も株を売らない創業者等と、IPOがある程度見えてから入社してストックオプションを付与され、IPO後にすぐ権利行使して株を売ってしまうような人の税務上の取扱いを別にするべきだと思います。
 もう一つ理解できないのは、社外高度人材に付与するストックオプションを税制適格にする制度です。社外高度人材が優秀な人だとすれば、経済的な余裕があるはずですよね。なぜそのような人達に対し、何のリスクもない税制適格ストックオプションを付与しなければならないのでしょうか。スタートアップである以上、株式の評価額は低いわけですから、金銭出資するべきだと思います。一緒にスタートアップ事業をやるのであれば、多少の金銭リスクは負うべきではないでしょうか。このような人たちが高額所得者の一団を形成していると思いますので、先ほど宮沢先生が指摘された格差問題にもつながりかねません。是非、彼らの税務上の取扱いは区別して欲しいと思いますね。
宮沢:分かりました。検討してみます。
緑川:小畑さん、IPOが小粒化していることについてはどのようにお考えでしょうか。
小畑:IPOがゴールになっているというのは非常によろしくないですね。IPOした途端にそこで成長が止まってしまえば、日本経済にとっても大きな損失になります。そうならないようにするためには、もっと長期的に経営に関われるような仕組みを考えなければいけないですね。IPOしてすぐにお金が入ってきて、それでサヨナラというのは本当に困ったことだと思っています。
宮沢: IPOした経営者が株式を全部譲渡した上で、当面は経営者として残るケースもあると聞いたことがありますが、実際のところどうなんでしょうか。
緑川:そういうケースも多少はあるかも知れませんが、私の知ってる限りではほとんどの経営者は株を持ち続けていますね。やはり株を早期に現金化した人達については、高額所得者として別途税制対応するべきではないでしょうか。リスクを取りながら経営に携わる人のことを考えた税制にして欲しいなと思います。

今後、中小企業に外形標準課税の適用を広げることはせず

緑川:目先を変えまして、次は外形標準課税を取り上げたいと思います。今回の改正は、制度の間隙を突くような行為を戒めるもので、適用対象の拡大を図るものではないと理解しています。ご存知の通り、シャウプ勧告による付加税の廃止が平成15年度税制改正において外形標準課税として実現したと理解しています。そこには、自治労雇用促進税制かとの思いもありましたが、現行税制は、変えて欲しくないのですが、今回の改正について宮沢先生はどのような整理をしているのでしょうか。
宮沢:地方の法人関係税制の税収というのは、法人の所得の状況によって激しく上下します。一方で、中央政府(国)と違って地方政府は、教育や福祉など、経済状況とは関係なく常に一定額の支出を伴う政策が主ですので、地方公共団体の財政状況というのを安定させなければいけないというのは元々大きな流れとしてありました。こうした中で地方法人税については、かなりの部分を国税化して一度国に持ってきた上でそれを分配するという制度にしました。それから、事業税については外形標準化を進め、経済の状況ではなくて、外形的な要素のウェイトを上げることによって、財政的に安定を図りました。特に平成27年度、28年度改正で法人実効税率が30%切るという時に、外形標準課税は所得に対する課税ではないため実効税率を下げるということで、法人事業税の所得割の税率を引き下げるとともに、外形標準課税が拡大されました。
 法人税率は国際競争力を維持するために下げてきましたので、中小企業は国際競争力と関係するところは小さいということで、大企業だけでいいのではないかという意見もありましたし、中小企業団体が外形標準課税の導入に反対していました。理屈の上では、外形標準は別段「増税」ではなく、税収ニュートラルですから、利益が多くて人件費が少ない企業は恐らく外形標準課税を選択するでしょうし、逆に、利益が少ない赤字法人で人件費が多い企業は、外形標準課税を回避したいのではないかと思います。全体では税収ニュートラルなので、中小企業であっても今後伸びていくような企業は外形標準課税の方が実は税金が減るはずなんですけれども、そこまで中小企業団体が反対するのなら、税収が増えるわけでもないですし、地方の税収の中でのウェイトもそう大きくないので、中小企業には外形標準課税を適用しないということでやってきました。今回は、まさに抜け道を探す大企業が出てきたことで、これを防ぐというのが改正の趣旨であり、中小企業に外形標準課税の適用を広げるという意図は一切なく、今後もそのつもりはありません。

インボイス、マイナンバーで税の執行体制に変化も

緑川:最後にインボイス制度とマイナンバー制度に伴う税制のあり方について伺いたいと思います。インボイス制度が導入されたことによる一番大きな影響は、実は消費税の問題ではなくて、売上除外ができなくなることなのではないかと考えています。インボイス制度の導入によって売上除外ができなくなり、さらにマイナンバー制度によって保有資産の透明性が高まるということを踏まえ、将来の税制についてどのような展望を持っていらっしゃるのかお伺いできますでしょうか。
宮沢:頭の中で考えていることを全部話さないといけないような質問ですね(笑)。
 おっしゃるように、インボイスの制度の導入により、基本的に商取引が把握できるようになります。また、銀行や証券の口座、さらには法人の口座にマイナンバーをきっちりふれば、金融取引が把握できるようになります。商取引を把握するのがインボイス制度であり、金融取引を把握するのがマイナンバー制度であるということは確かであろうと思います。ただし、我が国は法定主義ですから、法律上、この情報はこういう目的にしか使えないということは全て法律にきっちり書いてありますので、今のところインボイス制度を消費税以外の目的で使うことはできないことになっています。また、銀行口座や証券口座等についても、マイナンバーを付番するということはマストにはなっていません。将来的なことを申し上げれば、仮にインボイス制度が消費税以外の税法上の資料として使えるようになれば、おそらく国内で行われている商取引の大半が把握できるようになるでしょう。また、マイナンバーが全ての銀行口座や証券口座に付番されるようになれば、概ね全ての人の金融取引や金融資産といったものが把握できるようになり、極めて公平な税の執行体制が整ってくることになるだろうと思います。しかし、そうなることに反対されている方も恐らく少なからずいらっしゃる中で、今後、どのように議論が進んでいくのか次第ということではないでしょうか。
緑川:インボイス導入により、軽減税率の適用がより円滑になりましたので、従前に議論した(本誌787号参照)、診療報酬に係る消費税の問題もようやく「税は税で」という俎上に乗るのではないかと期待しています。
 宮沢先生、小畑さん、本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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