解説記事2024年04月15日 SCOPE 東芝の株主代表訴訟、株式併合により原告適格を喪失(2024年4月15日号・№1023)
東京高裁、株主らの訴えを却下
東芝の株主代表訴訟、株式併合により原告適格を喪失
東京高等裁判所(中村也寸志裁判長)は令和6年3月6日、東芝の不正会計問題で株主が元取締役らに対して提起した株主代表訴訟について、訴えを却下する判決を下した。東芝については、令和5年11月22日開催の臨時総会において、普通株式9,300万株を1株に併合する株式併合が行われたため、株主らは原告適格を喪失したと判断した。原審の東京地方裁判所の判決では、元取締役5名に対し、違法な会計処理があったとしておよそ3億円の損害賠償責任を認めていたが、今回の却下により最終的な判断までには至らずに終了することになった。
東京地裁、不正な会計処理により元取締役らに約3億円の損害賠償命令
東芝の不正会計問題による株主代表訴訟が株主の原告適格喪失により幕を閉じた。今回の事件は東芝が行った会計処理に関し、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に違反する違法なものであるとの主張を前提として、取締役らに対する善管注意義務違反等があったかどうかが問われた株主代表訴訟である。
原審の東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は令和5年3月28日、米国の地下鉄等のインフラ案件では米国会計基準が適用され、損失の発生見込みが明らかになり次第、見込まれる損失金額を認識し、引当金を計上しなければならなかったと指摘。違法な会計処理を認識し又は認識し得た場合には、権限を行使して会計処理を中止又は是正させる義務を負っていたというべきであるとし、元取締役5人に対し、およそ3億円の損害賠償責任を認めた。
株式併合により株式は1株に満たない端数に
両者ともに判決を不服として東京高裁に控訴したが、その後、東芝は、株式非公開化を前提とした日本産業パートナーズ(JIP)が設立した特定目的会社による株式公開買付け(TOB)が実施され、令和5年11月22日の臨時株主総会により、普通株式9,300万株を1株に併合する株式併合を承認。同年12月20日には上場廃止となっていた。
今回、東京高裁は株式併合の効力が令和5年12月22日に発生したことにより、株主の株式はいずれも1株に満たない端数になったことが認められ、原告適格を喪失したとして株主らの訴えが却下されることになった。
6か月前から株式保有が必要、例外は株式交換等
株主代表訴訟制度については、公開会社においては6か月前から引き続き株式を有する株主が会社に対して取締役の責任を追及する訴えの提起を請求することができ、会社がその請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは、株主は会社のための訴えを提起することができるとされている(会社法847条)。取締役だけでなく、執行役や監査役、会計監査人等も株主代表訴訟の対象となる。
このように会社法上、株主代表訴訟を提起するには株主であることが必要となっており、株主でなくなった場合には、原告適格を喪失することになっている。
ただし、例外的に①株主が株式交換又は株式移転により完全親会社の株式を取得したとき(図1参照)、②株主が合併により消滅する会社となる合併により、合併により設立する株式会社又は合併後存続する株式会社若しくはその完全親会社の株式を取得したときについては、訴訟の係属中に株主でなくなった場合であっても、訴訟を追行することができるとされている(会社法851条)。

親会社株主が子会社の取締役等の責任を追及する多重代表訴訟制度
原告適格という観点からは、会社法上、多重代表訴訟制度が措置されている。同制度は、親会社の株主がその子会社の取締役等の責任を追及する訴えを提起することができるというもの。平成27年5月1日施行の改正会社法により、企業集団における親会社株主の保護の観点から創設された。
ただし、企業側の濫訴になるのではないかといった懸念から、同制度の対象範囲は限定されるものとなっている。具体的には、株式会社の最終完全親会社の総株主の議決権の1%以上の議決権又は発行済株式の1%以上の株式を有する株主(最終完全親会社が公開会社である場合は6か月前から引き続き1%以上の株式を有していること)は、株式会社に対し、取締役等の責任を追及する訴えの提起を請求することができることとされている。少数株主となったことで、機関投資家などの一部の株主に限定される。また、対象となる子会社も最終完全親会社が有する子会社株式の帳簿価額が最終完全親会社の総資産額の5分の1を超える場合とされている。基本的には、金融機関などの持株会社などが想定されている。
なお、多重代表訴訟制度は大企業に限ったものではなく、前述の要件を満たせば、中小企業についても対象となる。

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