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労働基準2022年06月22日 今だからこそ、駐在員の労務管理について考えるべき(2)
~駐在員の海外派遣を命じることはできるのか 執筆者:大川恒星

<初稿のおさらい>

■ 駐在員とは、これを定義した法令はないものの、「自身が所属する日本国内の企業から、海外の子会社や関連会社に、(在籍)出向又は転籍し(海外支店への配置転換の場合も)、現地で働く従業員」を指すのが一般的
■ 労災保険の特別加入制度における「海外派遣者」と「海外出張者」との区別が駐在員を定義する際に有用(駐在員≒海外派遣者)
 ◇「海外派遣者」=海外の事業場に所属して、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者
 ◇「海外出張者」=単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、日本国内の事業場に所属し、その指揮に従って勤務する労働者

 今回は、会社が一方的に駐在員の海外派遣を命じることはできるのかについて掘り下げます。海外駐在(海外派遣)にも、「(在籍)出向」、「転籍」、「海外支店への配置転換」といったいくつかのパターンがあり、これらのパターンごとに、また、海外駐在とは異なる「海外出張」と比較をして、分析します。

※1 出向元に在籍したまま、出向先にも所属することになります。
※2 ただし、出向労働者の利益に配慮して、出向先での賃金等の労働条件、出向期間、復帰の仕方等を整備した出向規程等が必要です。

1 出向の場合

  出向では、自身が所属する日本国内の企業に籍を残したまま、海外の子会社や関連会社に所属して、現地の使用者の指揮に従って勤務することになります。
  出向元に籍を残したままとはいえ、労務提供の相手方が出向先となり、ましてやそれが海外企業で、海外企業から指揮命令を受けて働くことになるわけですから、少なくとも、会社が一方的に出向を命じる場合には、明示的な根拠は必要です(つまり、労働契約に当然に内包されているとは言えません。)。一方で、実務上、出向に際して、労働者の個別的同意を得ておくことが紛争予防の観点から望ましいことは言うまでもありませんが、常に個別的同意が必要というわけではないと考えます(注1) 。すなわち、就業規則の根拠規定や採用時の同意書等の出向命令権の包括的規定や同意があれば、個別的同意までは不要です。もっとも、単に「海外出向を命じることができる」旨の就業規則の根拠規定等だけでは不十分です。これは、国内企業間での出向の場合でも同様に議論されていますが、ましてや海外への出向ですので、労務提供先の変更に伴い、賃金等の労働条件や生活等の面で大きな不利益が生じ得るため、出向労働者の利益に配慮して、出向先での賃金等の労働条件、出向期間、復帰の仕方等を整備した出向規程等が必要であると考えるべきです (注2)。
  ただし、出向命令権の存在が認められた場合にも、権利濫用法理に照らし、労働契約法第14条により、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効」となります。具体的には、出向命令の業務上の必要性と出向労働者に与える労働条件や生活等の不利益とが比較衡量されるわけです。あまりに長期間の出向や危険地域への出向の場合には、労働者に与える不利益がおのずと大きくなることから、それを肯定できるだけの「業務上の必要性」が会社側には求められます。


2 転籍の場合
  転籍では、自身が所属する日本国内の企業から籍を抜いたうえ、海外の子会社や関連会社に所属して、現地の使用者の指揮に従って勤務することになります。つまり、出向とは異なり、転籍元との労働契約関係は終了する一方で、新たに転籍先との労働契約関係が始まるわけです。このように使用者が変わってしまうほか、ましてや転籍先が海外企業となれば、労働者に与える影響は甚大ですから、転籍時に労働者の個別的同意が必要となります(注3) 。これは、国内の転籍でも基本的に同様です(ただし、国内の転籍では、転籍命令を有効とした日立精機事件〔千葉地判昭56・5・25労判372号49頁〕があります。もっとも、この事案は、採用時に転籍先への転籍があり得ることの説明がなされ、労働者が同意しており、また、転籍が社内配転と同様に実施され、長年異議なく運用されていたという特殊な事情がありました。)。


3 海外支店への配置転換の場合
  海外支店への配置転換では、自身が所属する日本国内の企業に籍を残したまま、別法人ではなく、同一法人内で海外の支店に所属して、現地で(いわば同一の)使用者の指揮に従って勤務することになります。
  出向や転籍とは異なり、新たな使用者は登場しません。ゆえに、個別的同意までは不要で、「海外支店への転勤を命じることができる」旨の就業規則の根拠規定や採用時の同意書等の配転命令権の包括的規定や同意で足ります(一方で、国内転勤とは全く性質が異なるものですので、労働契約に当然に内包されているとは言えず、少なくともこのような包括的規定や同意は必要であると考えるべきです。)。ただし、勤務地限定合意があった場合には、海外支店への配置転換は認められませんので、ご注意下さい。
  また、出向と同様、配転命令権の存在が認められた場合にも、権利濫用法理に照らし、一定の制約があります。


4 海外出張の場合
  国内出張の場合には、就業規則の根拠規定や採用時の同意書等がなかったとしても、労働契約で予定されたものとして、人事権の行使として国内出張を命じることができると考えられます。
  一方で、海外出張については、同じ出張とはいえ、異国に行くものですから、全く性質が異なります。グローバル企業であれば、入社時に海外出張も織り込み済みであり、就業規則の根拠規定等は不要であるとの議論はあり得ますが、そうでなければ、通常、海外出張が労働契約において予定されているとはいえないと考えます(例えば、入社以降に企業が海外進出を決めた場合を想像して下さい。)。すると、基本的には、「海外出張を命じることができる」旨の就業規則の根拠規定や採用時の同意書等が必要であると考えるべきです。
  また、出向や海外支店への配置転換と同様、海外出張命令にも、権利濫用法理に照らし、一定の制約があります。


5 まとめ
  今回は、会社が一方的に駐在員の海外派遣を命じることはできるのかについて掘り下げました。出向、海外支店への配置転換、海外出張のそれぞれにおいて、命令権の根拠の程度が異なるわけですが、いずれについても、紛争予防や労働者の予測可能性の確保の観点から、予めルールを明確にして規程類を整備しておくべきでしょう。
  次回は、海外駐在において、「日本の労働法令が適用されるのか」という準拠法の問題について取り上げたいと思います。


注1 ただし、個別的同意を必要とする学説上の見解があります。また、あまりに長期間の出向の場合には労働者の生活に与える影響が大きいことから、また、危険地域への出向の場合には労働者への生命・身体への危険を理由に、それぞれ個別的同意が必要であるとの議論はあり得ます。
注2 新日本製鐵〔日鐵運輸第2〕事件(最二小判平成15・4・18労判847号14頁)は、国内企業間での出向命令の有効性が問題となった事案であり、就業規則の出向規定のほか、社外勤務協定(労働協約)に、出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が整備されていることに言及したうえ、出向命令の有効性を肯定しています。
注3 法形式としては、転籍元との労働契約を合意解約して、新たに転籍先との労働契約を締結するほか、労働者の同意のもと、労働契約上の使用者の地位を移転することが考えられます。

(2022年6月執筆)

執筆者

大川 恒星おおかわ こうじ

弁護士・ニューヨーク州弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同)

略歴・経歴

大阪府出身
私立灘高校、京都大学法学部・法科大学院卒業

2014年12月   司法修習修了(第67期)、弁護士登録(大阪弁護士会)
2015年1月   弁護士法人淀屋橋・山上合同にて執務開始
2020年5月  UCLA School of Law LL.M.卒業
2020年11月~  AKHH法律事務所(ジャカルタ)にて研修(~同年7月)
2021年7月   ニューヨーク州弁護士登録
2022年4月   龍谷大学法学部 非常勤講師(裁判と人権)

<主な著作>
「Q&A 感染症リスクと企業労務対応」(共編著)ぎょうせい(2020年)
「インドネシア雇用創出オムニバス法の概要と日本企業への影響」旬刊経理情報(2021年4月)

<主な講演>
・2021年7月 在大阪インドネシア共和国総領事館主催・ジェトロ大阪本部共催 ウェビナー「インドネシアへの関西企業投資誘致フォーラム ―コロナ禍におけるインドネシアの現状と投資の可能性について」
・2019年2月 全国社会保険労務士会連合会近畿地域協議会・2018年度労務管理研修会「働き方改革関連法の実務的対応」

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