解説記事2024年05月27日 SCOPE リース会計基準改正に伴い結合分離適用指針を見直しへ(2024年5月27日号・№1028)

使用権資産等の測定で簡便的な取扱い
リース会計基準改正に伴い結合分離適用指針を見直しへ


 企業会計基準委員会(ASBJ)は、リース会計基準等の改正に伴い企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下「結合分離適用指針」という)を見直す方針だ。企業結合時においては、使用権資産及びリース負債についても時価評価が必要になるが、実務上、時価評価することは困難であるとされていることから簡便的な取扱いを設ける。具体的には、使用権資産及びリース負債については、時価を基礎として取得原価の配分額を算定することを求めずにIFRS第3号「企業結合」と同様の取扱いを個別の取扱いとして定め、さらに簡便的な取扱いとして被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定することも認める方向となっている。

IFRS第3号「企業結合」の取扱い等を踏まえた会計処理

 企業会計基準委員会は、現在、リース会計基準案等に対して寄せられたコメントについて検討しているが、「企業結合時における使用権資産及びリース負債の認識、測定に関する簡便的な取扱いについて検討すべきである」とのコメントを踏まえ、結合分離適用指針を改正する方針だ。
 企業結合時においては、取得原価は企業結合日時点の時価を基礎として識別可能資産及び負債に配分することになるため、使用権資産及びリース負債についても時価評価が必要になるが、実務上は、特に使用権資産を時価評価することは困難であるとされている。この点、IFRS第3号では、短期リース及び少額リースについては使用権資産及びリース負債を計上することを求めないこととしているほか、取得企業は、リース負債を、取得したリースが取得日現在で新規のリースであったかのようにして、残りのリース料の現在価値で測定し、使用権資産をリース負債(市場の条件と比較した場合のリースの有利又は不利な条件について調整後)と同額で測定しなければならないとしている。
 企業会計基準委員会では、IFRS第3号の取扱いを踏まえるとともに、現行の結合分離適用指針第54項と同様、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定できるようにするとしている。
市場条件と違う場合は使用権資産の額を調整
 具体的には、取得企業は、被取得企業がリースの借手である場合には、リース会計基準に従って被取得企業で識別されたリースに係る使用権資産及びリース負債を識別可能資産及び負債として取得原価の配分額を算定することとしている。その際は、結合分離適用指針第53項にかかわらず、リース負債については、リースが企業結合日現在で新規のリースであったかのように残りの借手のリース料の現在価値を基礎として取得原価の配分額を算定。また、使用権資産については、リース負債と同額を基礎として取得原価の配分額を算定する。なお、リースの条件が市場の条件と比較して有利又は不利になる場合には、市場と異なる条件の影響を調整した価額を基礎として使用権資産の取得原価の配分額を算定する。
 加えて、取得企業が企業結合日の前日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って使用権資産及びリース負債の適正な帳簿価額を算定しており、当該適正な帳簿価額と前記で算定された価額との差異が重要でないと見込まれる場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として使用権資産及びリース負債の取得原価の配分額を算定することができるとしている。
短期リースは企業結合日から12か月以内
 そのほか、短期リース及び少額リースについても使用権資産及びリース負債を計上することを求めない。短期リースについては、リース期間が12か月以内のものを対象としているが、企業結合に関しては企業結合日の状況に基づいて会計処理を行うことが多いことから、借手のリース期間が企業結合日から12か月以内のものを対象として、使用権資産及びリース負債を計上せず費用処理することができるように取扱いを定める。また、費用処理を行った短期リースは損益計算書において区分表示していない場合に注記が求められていることから(リース適用指針案第96項(1))、借手のリース期間が企業結合日から12か月以内のものについて費用処理を行った場合にも同様の注記を求めるとしている。

遡及適用に伴う実務上の負担を考慮し経過措置

 リース会計基準案の適用の際、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第6項(1)に定める原則的な取扱いとして企業結合取引を過去のすべての期間に遡及適用する場合には、実務上、大きな負担が発生する可能性があるため、一定の経過措置を設ける方向だ。
 遡及適用にあたっては、企業結合日に被取得企業の個々の契約にリースが含まれるか判断することになり、企業結合日において識別されたリースは、リース負債を被取得企業から取得したリースが企業結合日現在で新規のリースであったかのように残存リース料の現在価値で算定し、市場の条件と異なる場合の調整を除いて使用権資産はリース負債と同額で算定することになる。この場合、従前の会計処理と差が生じ、企業結合日におけるのれんの計上額に影響を与える可能性がある。
 リース適用指針案においては、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」を適用していたリースについて適用初年度の前期末の適正な帳簿価額で会計処理することを認める取扱い等が定められている(リース適用指針案第109項~第113項)ことを踏まえ、企業結合に関しても、企業結合日に従前の会計基準に従って算定したリース資産及びリース債務の金額と同額で会計処理する経過措置を設けることとしている。
 また、リースが市場の条件と異なる場合には、使用権資産の額を調整することとしているが、この場合、使用権資産及びリース負債の計上額が異なり、企業結合日におけるのれんの計上額に影響を与えるため、調整を免除する追加的な経過措置も設けるとしている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索