解説記事2024年06月10日 SCOPE 地裁、相続税の負担割合と遺産分割割合との相違やむなし(2024年6月10日号・№1030)

代償財産の価額は相続時の時価に修正
地裁、相続税の負担割合と遺産分割割合との相違やむなし


 相続税の計算において、代償分割が行われた場合の課税価格が争われた事案で、東京地裁民事2部(品田幸男裁判長)は令和6年5月23日、相続税の負担割合は、相続人間の合意による遺産分割の割合とすべきとの原告の主張を斥けた。
 東京地裁は、代償財産の価額の相続開始時の時価への修正、及びその計算について定めた相続税法基本通達の各規定には合理性があり、相続税法の規定に従って算出した相続税の課税価格の割合と、相続人間の合意による遺産分割の割合が異なることは、遺産分割制度と相続税制に係る法の規定が相違することから当然に予定された帰結であるとの考えを示した。

代償財産の価額の計算方法を定めた相続税法基本通達は合理的

 原告の亡祖父の相続について、原告の母とその兄弟らは遺産の一部が未分割の状態で相続税の申告をしたが、その後、遺産分割調停が成立した(ただし、原告の母はその間に死亡したため、原告らが権利義務を承継した)(参照)。これにより、原告の亡母の兄弟らは更正の請求を行ったため減額更正が、原告に対しては増額の更正が行われた。原告は、当該増額の更正処分の取消しを求めて訴訟を提起した。

 本件遺産分割調停によれば、代償分割により、亡母の兄弟らから、原告ら(亡母の相続人)に対し、代償財産の交付が行われることとなった。相続税法22条の規定によれば、代償財産の価額は相続開始時の時価に修正する必要があり、相続税算出の仕組みからすると、この修正により相続税の総額及び相続税の割合が変動することとなる。
 原告は、相続人間の合意による遺産分割の割合がある場合には同割合をもって相続税の負担割合とするべきであるから、代償財産の価額の計算方法について定めた、相続税法基本通達11の2−10(2)(参照)を適用するのは相当ではないなどと主張。

【表】相続税法基本通達

11の2−9(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)
 代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。
(1)代償財産の交付を受けた者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額
(2)代償財産の交付をした者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額

11の2−10(代償財産の価額)
 11の2−9の(1)及び(2)の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする。
 ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする。
(1)共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合 当該申告があった金額
(2)(1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき 次の算式により計算した金額
 A×(C÷B)
(注)Aは、代償債務の額
 Bは、代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額
 Cは、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(評価基本通達の定めにより評価した価額をいう。)

 しかし東京地裁は、各通達の計算方法には相応の合理性があるとし、本件通達11の2−10(2)の適用は適法と判断した。
 そして、相続時の時価を前提とすると、亡母の課税価格が本件相続税の課税価格に占める割合は30%となり、遺産分割協議において亡母が取得した相続財産が遺産全体に占める割合(25%)を超えることとなるが、これは、遺産分割制度と相続税制に係る法の規定が相違することから当然に予定された帰結であるとした。したがって、相続税法の規定に従って算出した相続税の課税価格の割合と、相続人間の合意による遺産分割の割合が異なることをもって、本件更正処分の違法性を根拠付ける事情に該当するとはいえないとして、原告の主張を斥けている。

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