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解説記事2024年06月17日 巻頭特集 過大役員給与に関する裁判例の通時的分析(2024年6月17日号・№1031) ~裁判所の判断における新たな傾向を探る~

巻頭特集
対談
~裁判所の判断における新たな傾向を探る~
過大役員給与に関する裁判例の通時的分析
 北海道大学大学院法学研究科教授 元国税審判官 佐藤修二
 弁護士法人北浜法律事務所 弁護士・税理士 元国税審判官 安田雄飛


 役員給与の過大判定を巡っては、同業類似法人の抽出基準の合理性、適正報酬額の判断基準、功績倍率といった論点で多くの税務紛争が発生してきた。最近も、自社の事業は工場を持たないファブレス事業に該当すると主張する納税者側に対し、裁判所が旧来の「卸売業」に該当すると認定した上で役員給与の過大判定を行った京醍醐味噌事件が、税務の専門家・実務家の間で大きな話題を呼んだところだ。こうした中、裁判所は従前の役員報酬に関する裁判例の流れから脱却しようとしていると指摘する専門家も出てきている。
 そこで本特集では、ともに国税審判官として税務紛争に携わってきた北海道大学大学院法学研究科の佐藤修二教授と弁護士法人北浜法律事務所の安田雄飛弁護士・税理士に、過大役員給与に関する裁判例について、佐藤教授をリード役に対談していただいた。
 本対談では、退職給与と役員報酬の双方が争われ、退職給与について更正処分の一部が取り消されるという画期的な判断が下された残波事件、代表取締役に対する役員報酬が過大かどうかの判断にあたり、会社への「多大な貢献」の態様や程度について具体的な認定が行われ、同業類似法人の最高額が採用されたマレーシア在住役員給与事件など、適正報酬額や功績倍率が争われた20を超える過去の裁判例を通時的に分析することで、最近の裁判例における新しい傾向や、逆に以前と大きな変化が見られない部分などを探っていただいた。その上で、多額の役員報酬や退職給与を支給する場合や会社への特別な功績を主張する場合に、納税者側に求められる準備等についても語っていただくなど、役員給与実務に資する有意義な対談となった。

Ⅰ はじめに

佐藤:今回は、本誌で消費税の争訟事案(脚注1)についてお伺いした安田雄飛先生に、役員報酬や退職給与が過大であるとして否認された争訟事案についてお聞きしたいと思います。
 最近、「京醍醐味噌事件」が、税務関係者の間で話題になっているようです。この事件について、私がたまたま拝読した渡辺充教授の評釈では、いわゆる「残波事件」を出発点に、近年のいくつかの裁判例につき、功績倍率に関する「1.5倍事件」、「マレーシア在住役員給与事件」といった分かりやすい命名をし、それらを通時的に見る視点が示唆されており、興味深く思いました(脚注2)。そこで、これらの事件を中心に、この問題に関する裁判例の流れを歴史的に分析すると何が見えてくるか、安田先生に伺ってみようというのが今回のテーマです。渡辺教授は、裁判所としても、従前の役員報酬に関する裁判例の流れを脱却しようとしていると見ていらっしゃるようです。このあたりについて、安田先生の感触はいかがでしょうか。
安田:まず、裁判例における主な論点を整理すると、(i)通常の役員報酬について過大かどうか、すなわち「不相当に高額な部分の金額」(法人税法34条2項)があるかどうかは、同業類似法人の役員報酬の平均額又は最高額を適正報酬額とし、それを超える部分が「不相当に高額な部分の金額」に当たるという枠組みで判断されることが多く、(a)同業類似法人の支給事例の抽出の合理性等と、(b)その平均額又は最高額のいずれを適正報酬額として採用すべきかが中心的な争いとなってきました。(ii)退職給与について「不相当に高額な部分の金額」があるかどうかについては、「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」という算式(いわゆる功績倍率法)により判断される場合が多い(脚注3)ところ、その判断に当たって、最終月額報酬について上記(a)(b)と同様の点が争われ、また、(c)功績倍率について平均又は最高のいずれを採用すべきかが争われることが多いといえます。
 裁判所は、これらのうち、同業類似法人の支給事例の抽出(上記(a))については、課税庁に対して厳格な合理性等を要求せず、これを争う納税者に対して厳しい判断をする傾向にあり、この傾向は最近の裁判例においても特に変化はないと捉えています。他方、適正報酬額(上記(b))や功績倍率(上記(c))については、それぞれ平均によるべきとの国の主張に対して疑問を呈する裁判例が以前から存在していました。最近の裁判例においては、それらの疑問についてより明確な形で議論がなされており、しかも結論としても更正処分が一部取り消されたものが出ているという点が注目すべき新しい流れだと思います。

Ⅱ 過去の裁判例の流れと残波事件判決の意義−−適正報酬額について

佐藤:それでは、個々の事例について伺ってまいりたいと思います。まず、「残波事件」(図表1⑧)です。この事件は、私も解説を書いたことがありますが(脚注4)、退職給与と役員報酬の双方が争われ、退職給与については、画期的な判断が示されました。この事件の退職給与、役員報酬の双方について、安田先生の感想をお聞きできればと思います。

安田:残波事件では、役員報酬と退職給与の算定に用いる適正報酬額について、裁判所が、同業類似法人の役員報酬の最高額を採用すべきとし、その結果、退職給与について更正処分の一部を取り消した点が特に注目を集めました。
 適正報酬額に関しては、過去の裁判例にも、平均額の採用を否定したものや、さらに最高額を採用すべきとしたものがありましたが、結論としては更正処分を適法と判断することが多く、国と裁判所の立場の違いは必ずしも明確ではありませんでした。その点、残波事件では、裁判所が、平均額によるべきとの国の主張を明確に排斥した上で最高額を採用し、かつ、結論としても更正処分の一部を取り消した点に意義があると思います。
佐藤:適正報酬額の判断基準について、過去の裁判例の流れをもう少し詳しくご説明いただけますか。
安田:適正報酬額に関する主な裁判例は図表1のとおりです。訴訟では、国は同業類似法人の平均額を適正報酬額として主張することがしばしばありますが、裁判所は、平均額を直ちに適正報酬額とすることには否定的な傾向にあるといえます。例えば、比較的早い時期の裁判例で、一般論として、「役員報酬は各法人においてその具体的事情に応じ個別的に定めているものであり、類似法人として業種等の条件がほぼ同一の法人を抽出することができた場合であっても、法人間で報酬額に多少の差異があるのが通常である。その場合に原則としてその平均額が相当な報酬額であり、特殊な事情がなければ、平均値を超える額は常に不相当に高額な部分となるとすることができないことは、明らかである」と述べた名古屋高判H7・3・30(図表1②)があります(脚注5)。この件では、裁判所は、前期の報酬額に売上等の増加率を乗じた金額を適正報酬額として採用しました。同様の基準を採用したものとして名古屋地判H8・3・27(図表1③)があります。しかし、この方法は、前期の報酬額が適正であることの担保がない点で問題があり、その後の裁判例では見られなくなりました。
 他方、平均額を超える額を直ちに過大と評価することの問題点は課税庁も意識してきたものと思われます。例えば、課税庁が、平均額と比較して「極端に高額と認められる」額のみを過大として更正処分を行った事例(図表1①)があるほか、平均額に下記のような算式による修正を加えた額を適正報酬額とする方法(加重平均法)も昔からあったようです(脚注6)。

 裁判例にも、国がこのような加重平均法を主張し、裁判所がこれを認めた事例として名古屋地判H11・5・17(脚注7)(図表1④)もあります。
 もっとも、加重平均法については、そこで用いられる修正項目が法令の規定(現在の法人税法施行令70条1号)の挙げる考慮要素を踏まえたものとはなっているものの、これらの項目と役員の報酬額とがどのように関連するのかは必ずしも明らかでないという問題があります。裁判例にも、このような問題を指摘して、加重平均法による額を超えれば「常に」過大になると「断定」することはできないとした上、当該事案の役員報酬額については最高額を超える部分のみが過大になるとした東京高判H21・11・26(図表1⑥)があります。また、加重平均法による額を「わずかでも」超えれば「直ちに」不相当というべきではないとした上で、当該事案で国が加重平均法により算出した報酬額(約136万)を1割程度超える報酬額(150万円)を過大とはいえないとして更正処分を取り消した大分地判H21・2・26(図表1⑤)もあります。
 とはいえ、前者の事案では、もともと最高額で更正処分がなされていたことから、その取消しには至らず、後者の事案で更正処分が取り消されたのも、文字どおり差額が「わずか」であったからだとみることができます。むしろ、これらの裁判例は、一般論のレベルでは、適正報酬額の算出方法又は判断要素として加重平均法自体には合理性があると述べています(脚注8)ので、基本的には加重平均法を尊重する姿勢であるとみることもできます。
 他方、それより後の時期の裁判例にも、平均額を採用したものがあります。東京高判H23・2・24(図表1⑦)は、課税庁が、非常勤役員の役員報酬について、同業類似法人における非常勤役員に対する役員報酬の平均額が適正報酬額であるとして更正処分をした事案で、国の主張どおり平均額を超える部分が過大であると判断しました。もっとも、その理由について、裁判所は、当該事案の非常勤役員の職務内容が非常勤の役員として一般的に想定される範囲を超えるものとは認められないなどと述べるにとどまり、条件が同じでも法人間で報酬額に多少の差異があるのが通常である中でなぜ同業類似法人の平均額を超える部分を直ちに過大だといえるのか、という疑問が解消されたとはいえない状況でした。
 以上のとおり、過去の裁判例においては、事案ごとに、平均額のほか、加重平均法による額、最高額など、異なる基準が採用されてきたわけですが、それはそもそも課税庁や国が事案ごとに異なる基準を採用・主張してきたことによる部分が大きく、裁判所はほとんどの事例で結論としては国側が採用・主張した額を適正報酬額として認めてきたといえます。このような傾向については、国側が、平均額の弱点を踏まえつつ事案に応じて訴訟に耐え得る基準を選んできたという見方もできると思います。
佐藤:そのような裁判例の流れを踏まえて、残波事件において裁判所が最高額を採用して更正処分を一部取り消した理由はどこにあると思いますか。
安田:まず、残波事件では課税庁も更正処分の段階では最高額を採用していたという事情があったことが大きいと思います。すなわち、課税庁は、更正処分の段階では、役員報酬と退職給与のいずれについても同業類似法人の最高額が適正報酬額であることを前提としており、退職給与については、これに勤続年数15年、功績倍率3.0を乗じた金額を超える部分を過大と評価していました。ところが、納税者が訴訟前の審査請求の段階から正しい勤続年数は24年であると主張していたことを受けて、国は、訴訟段階で、この納税者の主張を争わない方針に変えたようです。その結果、最終月額報酬について最高額を採用したままだと、勤続年数が伸びた分だけ相当額が増え、過大として課税できる額が減ってしまうので、国としては、訴訟段階で、役員報酬と退職給与の最終月額報酬について、同業類似法人の平均額が相当であると主張するに至ったものと思われます。本件では、裁判所は、最高額を採用する理由について、まず、「処分行政庁は……各類似法人の代表取締役及び取締役の役員報酬ないし役員給与のうち最高額のものを超える部分が不相当に高額であるとして本件各更正処分等をしていることを考慮し、……上記最高額を超える部分が不相当に高額な部分の金額であるか否かとの観点から、本件各更正処分等の適法性について検討する」と述べているので、課税庁自身が更正処分で最高額を採用していたことを重視していると思います。
 また、裁判所は、同業類似法人4法人のうち上位の報酬額と下位の報酬額との間、各法人の報酬額と平均額との間にそれぞれ「大きな乖離」があることなどからすると「平均額については、比較法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され、平準化された数値であると評価することは困難であるといわざるを得ない」とも述べています。同業類似法人の報酬額にバラつきがあったことから平均額を採用することが難しいと判断されたということも、最高額が採用された結論に影響していると思います。
佐藤:私もそれらの点はいずれも裁判所の判断に影響したのではないかと思います。ほかに、私としては、裁判所が、問題となった元代表取締役が会社の成長や経営に相応の貢献をしたものと評価することができると述べている点も重要な意味があると考えているのですが、この点はどう思いますか。
安田:本判決の判示を踏まえても、常に最高額によることができるということにはならないですし、後に触れるマレーシア在住役員給与事件判決(図表1⑨)も踏まえると、私も、残波事件において最高額を採用するという結論の妥当性を支える具体的事情が存在したことは非常に重要だと思います。
 ただ、残波事件では、裁判所は、特に先ほどの同業類似法人の報酬額のバラつきとの関係で、元代表取締役の役員の職務の内容等が「原告の経営や成長等に対する相応の貢献があったものとはいえない程度のものであるなど、代表取締役として相応のものであるとはいえない特段の事情がない限り」平均額を超える部分をもって過大とすることはできないと述べていますので、貢献の程度はそれほど重視していないようにも読めます。
 納税者にとっては、そのような特段の事情がないことを当該事案の個別具体的な事情に即して丁寧に主張する必要はありますが、平均額か最高額かという文脈では、残波事件の裁判所の判断枠組みによる限り、最高額が認められるハードルはそれほど高くないと考えられます。

Ⅲ 1.5倍事件−−功績倍率について

佐藤:次に、「1.5倍事件」(図表2⑬)です。退職給与の適正額の算出に用いる功績倍率について地裁が踏み込んだ判断を示したものの、高裁では覆されました。安田先生からコメントをいただきたいと思います。

安田:まず、問題の背景からお話しすると、退職給与については、通常の役員報酬よりも更に個別性が強い上、同業類似法人も退職給与の支給事例の中から抽出することになるのでサンプル数も限られてしまうという事情があります。その中で、功績倍率について同業類似法人の平均値を採用することは、ある意味、適正報酬額について平均額を採用するよりもさらに悩ましい問題があるといえるかもしれません。裁判例の中にも、最高功績倍率を採用した事例もかなり前からあったところです(図表2②③及び⑦控訴審)。
 もっとも、退職給与については各法人の個別性がより反映されやすく、サンプル数も限られるということは、最高功績倍率の弱点にもなり得ます。納税者からみても、サンプルの数が少ない中で、偶々高い功績倍率の同業類似法人が抽出されることもあり得る一方、偶々功績倍率が低い法人しか抽出されない場合もあり、最高値を採用すると偶然に左右されてしまう面があることは否定できません。この点、1.5倍事件では、第一審判決が、最高功績倍率の問題点について、「功績倍率の最高値は最高値に係る法人の特殊性等に影響されるものであって、指標としての客観性が劣るといわざるを得ない」と指摘しています。
 他方で、この第一審判決は、平均功績倍率もそのまま採用できないとしている点が興味深いところです。その理由について、第一審判決は、平均値を少しでも超える功績倍率によると過大になると解することは「あまりにも硬直的な考え方」であるなどと述べるとともに、そのように解すると、平均功績倍率の算出に用いられた平均功績倍率を超える支給事例はいずれも過大であったということになりかねず、それらの事例が同業類似法人の支給事例として適格であるという平均功績倍率の算出の前提と矛盾することになるという問題を指摘しています(脚注9)。その上で、第一審判決は、「納税者側の一般的な認識可能性の程度にも十分に配慮」して「事後的な課税庁の調査による平均功績倍率を適用した金額からの相当程度のかい離を許容」すべきとし、「少なくとも課税庁側の平均功績倍率の数にその半数を加えた数を超えない数の功績倍率により算定された役員退職給与の額は、当該法人における当該役員の具体的な功績等に照らしその額が明らかに過大であると解すべき特段の事情のある場合でない限り」過大とはいえないとしました。
 これに対し、控訴審判決は、「平均功績倍率法は、同業類似法人における功績倍率の平均値を算定することにより、同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性を捨象して平準化された数値を出すことに意義があるのであるから、類似法人の中に算出された平均値より不相当に高い功績倍率を用いた法人があったとしても、平均値を算定することの合理性は失われない」として第一審の判決を取り消し、また従来の多数である平均功績倍率に戻ってしまいました。
 控訴審判決の言うことも分からなくはないのですが、もともと同業類似法人の退職給与の支給事例の数が少ない点で平均値自体の根拠が弱い面がある中、平均値を超えるものが平均値の算定基礎に含まれていることをどう説明するのか、という第一審判決が示した疑問も完全には解消されていないように思います。この第一審判決については、平均の1.5倍という数値には理論的な根拠はないという批判があり、それはそのとおりかもしれませんが、平均か最高か、という従来の議論に対して本件の第一審が改めて問題提起をしたことは評価できると思っています(脚注10)。
佐藤:従来は裁判所や課税庁が最高功績倍率を採用した事例もあったとのことでしたが、本件で最高功績倍率が採用されなかった理由については何かお考えはありますか。
安田:最高功績倍率を採用した過去の裁判例の事案では、いずれも同業類似法人の功績倍率にそれなりに大きな幅があった(図表2②③⑦)のに対し、本件の第一審判決は、本件の同業類似法人の功績倍率について、「極端なばらつきがなく、その偏差も平均功績倍率の30%程度の範囲内に収まっているのであって、本件において役員退職給与の相当額を算定するための指標として平均功績倍率を採用することが相当でないとか、最高功績倍率法がより適切であるとみるべき事情は見当たらない」と指摘しています。もともとが平均値も最高値もどちらも弱点がある中で当該事案においていずれがより問題が少ないか、という議論であるところ、同業類似法人の功績倍率の幅が大きい事案では、平均値の問題がより強調される結果、最高値が採用されやすいということはできると思います。反対に、本件では、平均値のばらつきが小さかったため、最高値よりは平均値のほうが適切だと判断されたのだと思います(脚注11)。
 また、平均功績倍率を採用した本件の控訴審判決も、「同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があると認められる場合」には、平均功績倍率により算出された額を上回る額が相当と認められる余地を残しており(脚注12)、本件の退職役員に特別な貢献・功績があれば平均功績倍率を超える数値が採用された余地はあると考えられます。この点、控訴審判決は、本件の退職役員の功績について、「経理及び労務管理を担当して約8億円の債務完済に何らかの貢献をしたことが認められるが、これに関する……具体的貢献の態様及び程度は必ずしも明らかではなく、……きわめて特殊な事情があったとまでは認められない」としています。納税者にとっては、もともとハードルが高いことを要求されているとは思いますが、貢献の態様・程度について具体的な主張立証ができなかったということも結論に影響しているといえます。

Ⅳ マレーシア在住役員給与事件−−適正報酬額について

佐藤:「マレーシア在住役員給与事件」(図表1⑨)についてはいかがでしょうか。事件そのものは納税者敗訴となっていますが、何か、新しい観点は見いだせるでしょうか。
安田:本件では、マレーシアに居住する代表取締役に対する役員報酬が過大かどうかが問題となりましたが、裁判所の判断内容を見ると、代表取締役の会社への「多大な貢献」の態様や程度について具体的な認定がされており、その結果、同業類似法人の最高額が採用されている点が注目されます。たしかに結論は納税者敗訴ではあるものの、本件ではもともと更正処分段階で最高額が採用され、しかも、一部の年度については訴訟前の審査請求段階で最高額を上回る価額が適正報酬額であると認められて更正処分が一部取り消されています。訴訟ではそれを上回る結論は得られなかったものの、判決内容や訴訟前の経緯も含め全体としてみると、納税者の主張が比較的認められた事例であると言ってよいと思います。
佐藤:審判所段階で課税処分が取り消されると、当局側はこれを訴訟で争うことはできませんので、早期解決という意味でも画期的なことですね。第一審判決の訴訟代理人欄を見ますと、本件は、鳥飼総合法律事務所の瀧谷耕二先生が担当されたようです。瀧谷先生は、安田先生や私と同様、任期付の国税審判官を経験されており、そのご経験が活きたのだろうと思います。そうして審判所で処分が一部取り消された後に訴訟となったということですが、まず、裁判所が代表者の貢献の態様や程度についてどのような認定をしたのか、ご説明いただけますか。
安田:残波事件(図表1⑧)でも、最高額を採用するに当たって、元代表取締役の会社の成長・経営への貢献も考慮してはいますが、必ずしも重視しているわけではないというのは先ほどお話ししたとおりです(前記)。残波事件判決は、元代表取締役の職務の内容等が長年「泡盛の開発を続け、それに成功する」などして長年代表取締役を務め続けたというものであったことに加え、その間、会社が「売上高や経常利益を大きく伸ばすなどの成長をした」という結果を考慮して「相応の貢献をした」としたもので、貢献の態様・程度について具体的に認定しているわけではありません。
 これに対し、マレーシア在住役員給与事件では、代表者が、会社の商品である中古自動車の輸出先国であるマレーシアに居住してクライアントに対する受注獲得に関する業務を行い、会社の受注の8~9割の受注を獲得していること、その受注獲得は、代表者がクライアントのプロモーションイベントの企画を発案するなどして販売促進に協力したことにより可能となったものであり、役員報酬が支給された年度において会社が多額の売上げを得ることができた大きな要因となったものといえること、中古自動車のオークションでの落札業務について従業員に必要な指示を行っていたこと、落札した中古自動車を販売するほか、販売後のクレーム対応、代金の支払督促などを行い、これによりクライアントの信頼がより一層強固となり、貸倒れ等を防ぐことができたことなどに関する事実をかなり詳細に認定し、代表者が会社の収益に「多大な貢献をした」との判断につなげています。問題となった期間における代表者の職務内容や、業績を認定することはそれほど難しくないと思いますが、代表者のどの職務がどのように会社の業績に貢献したのかを具体的に認定することは容易でないと考えられ、裁判所がこのような認定をすることができたのは、おそらく納税者側でこの点について丁寧な主張立証を行ったのだと思います。
佐藤:その代表者の貢献の態様や程度に関する認定が、最高額の採用にどのようにつながったのでしょうか。
安田:本判決は、代表者が多大な貢献をしたことを認めながらも、その職務の内容は、「一般的に想定される職務の範囲内にある」としており、また、代表者が受注の大半を自ら獲得していた点についても、「原告のような小規模の同族会社においては、必ずしも珍しいことではない」としました。このような指摘は、従前の裁判例においても、同業類似法人の最高額を上回る額を適正報酬額とすべきとする納税者の主張を排斥する場面で同様になされてきたところです。
 しかし、本判決は、さらに、「原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績は、中古自動車販売業を目的とする法人において一般的に想定される職務の範囲内でも、相当高い水準にあった」と評価しており、この評価が最高額の採用につながっています。本判決を踏まえると、同業類似法人の報酬額のレンジを上回る額を適正報酬額と主張することは容易でない一方、そのレンジの範囲で最高額の採用を得るためには、当該役員の会社への貢献の態様や程度を具体的に主張立証することが重要であるといえます。
佐藤:訴訟前の審査請求でも更正処分が一部取り消されていたとのことでしたが、どのような点が取り消されたのでしょうか。
安田:本件では、5年分までの役員報酬が過大であるとして否認されたのですが、前の3年分で採用された同業類似法人の最高額よりも、後ろの2年分で採用された同業類似法人の最高額が大幅に低くなっていたようです。ところが、この間、当該役員の職務内容には特に変化はなく、会社の業績も概ね一定であったことから、審判所は、後ろの2年分についても、これらの年の同業類似法人の最高額ではなく、前の3年分の同業類似法人の最高額を超える部分のみが過大となるとして、その差額分を取り消しました。先ほど、前期の報酬額との比較で適正報酬額を判断する方法は最近の裁判例では取られていないとお話ししました(前記)が、その問題は前期の報酬額自体が適正かどうか分からないという点にありました。この点、本件のように複数の年度について適正報酬額が判断される場合は、前後の年度についても適正報酬額が判断されるわけですので、その適正とされる前後の年度の報酬額との比較でより高い適正報酬額を主張していく余地があると思います。
佐藤:お話を伺うと、本件ではたしかに納税者の主張もそれなりに認められているようですが、それでも結論としては納税者敗訴となったことについて、何かコメントはありますか。
安田:本件の代表者への役員報酬が過大であると判断した理由として、裁判所は、「原告の収益が、本件各事業年度を通じて減少傾向にあり、使用人に対する給与の支給額も横ばいないし緩やかな減少傾向にある中で、本件役員給与は、これに逆行する形で急増し、原告の改定営業利益の大部分を占め、原告の営業利益を大きく圧迫するに至っており、その額の高さ及び増加率は著しく不自然である」ということを指摘しています(原告の収益状況について図表3参照)(脚注13)。この点に関しては、通常は代表者に対して過大な役員給与を支給すると最高55%という累進所得税率が課されるところ、本件では、代表者がマレーシアに居住しており、非居住者であれば我が国の所得税負担は源泉所得税20%で済む(マレーシアでは国外源泉所得扱いとなることが想定される。)ため、代表者の業務の多寡等に関係なくその利益のほとんどを役員給与として支給するほうが得策という事情が背景にあったのかもしれません(脚注14)。いずれにせよ、原告の収益状況からして、代表者に対する役員報酬額の急激な増額の合理性や妥当性を説明することが難しかったのだと思われ、この点が納税者の敗因となったものと思われます。

Ⅴ 京醍醐味噌事件

1 適正報酬額について
佐藤:以上を踏まえた上で「京醍醐味噌事件」(図表1⑩)についても伺いたいと思います。この事件では、同業類似法人の抽出と適正報酬額が問題となりましたが、まずは、先ほどの流れで適正報酬額についてお話しいただけますか。
安田:本件において、原告にはきょうだいである役員A、B、Cがいたところ、更正処分段階では、平成25年9月期から平成28年9月期までの期間(本件各対象事業年度)における各役員への報酬額が過大かどうかが問題となりました。課税庁は、役員3名に対する適正報酬額を加重平均法により算出した上、適正報酬額と実際の支給額との差額が大きかったAの各年度における報酬額とBの平成28年9月期における報酬額のみが過大であるとして更正処分を行いました(図表4「更正処分」欄)。しかし、国は、訴訟では、3名についていずれも平均額を主張したところ、裁判所は、AやCが果たした職責や達成した業績に鑑みると、課税庁がAとCについて加重平均法を用いて適正報酬額を算出したのは合理的であるとして、両名については加重平均法により算出した額を超える金額のみが過大となるとしました。他方で、Bについては、役員報酬を支給された期間(H28/9期のうちH27/12~H28/3の4か月間)に果たした職務の内容等に鑑みても、同業類似法人の平均額に一定の加重を行う理由はないとして、平均額を採用しました。先ほど、残波事件では、裁判所が、課税庁が最高額を採用していたことを重視し、さらに役員の会社への貢献も考慮して最高額を採用したとお話ししました(前記)が、本件の裁判所は、課税庁が加重平均法を採用していたことを踏まえ、役員の会社への貢献も考慮して課税庁の採用額を認めたものといえます。

佐藤:本件で課税庁が加重平均法を採用したのはなぜでしょうか。
安田:本件では、同業類似法人中の平均額が900万円前後、最高額も一番多い年で14,700,000円といずれも低い金額にとどまっていた(図表4「国主張」欄の括弧内)ため、さすがに課税庁としても平均額や最高額を適正報酬額として採用しにくかったのだと思われます。結果として、課税庁が加重平均法により算出した適正報酬額は、平均額との比較で4倍前後(H25/7期~H27/9期)又は18.81倍(H28/9期)、最高額との比較で約3倍前後(H25/7期~H27/9期)又は16.97倍(H28/9期)となっており、同業類似法人の報酬額をかなり大幅に上回っています。これをみると、やはり、個々の事案の実情に応じて判断基準を変えているのは、裁判所というよりも、むしろ課税庁自身であるというのが実態に合っていると思います。
 なお、加重平均法では、修正項目として売上金額、売上総利益額、個人換算所得金額、使用人最高給与額が用いられることが多いですが、本件では、原告には役員のみで従業員がいなかったことなどから、課税庁は、売上金額、改定営業利益額、個人換算所得金額の3項目を用いて加重を行っています。これに対し、原告は、改定営業利益ではなく改定経常利益の数値を用いるべきであり、また、原告には従業員がいないことを考慮して同業類似法人における従業員給与分を加算すべきであると主張しました。しかし、裁判所は、改定経常利益は営業外の利益を含むものであるから調整要素として適さず、また、従業員がいないことを加算の要素とする必要はないとして、いずれの主張も排斥しています。

2 同業類似法人の抽出について
佐藤:次に、同業類似法人の抽出については、いかがでしょうか。本件では、国が原告の事業を「卸売業」に分類して同業類似法人を抽出したところ、原告側が、原告の事業はファブレスであり、「卸売業」ではないと主張した点も注目を集めました。裁判所はこの原告の主張を認めなかったわけですが、この点に関するご意見もお願いします。
安田:同業類似法人の抽出基準の合理性や抽出された法人が対象法人と類似しているといえるかどうかが争われることが多いのですが、裁判例においては、同業類似法人の役員に対する給与の支給状況が、法令の規定(法人税法施行令70条1号イ)の「当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額」を判断するための一材料にすぎないことや、この規定で「同種」の事業、事業規模が「類似」という文言が用いられていることなどから、抽出過程の客観性が担保されている限り、同業類似法人の抽出に当たって厳格な同一性までは要求されておらず、その結果として抽出基準の合理性等を争う納税者の主張は認められない傾向にあります(脚注15)。
 本件の抽出基準の合理性について、原告は、課税庁が日本標準産業分類の卸売業を基準に抽出した点を主に問題としました。具体的には、原告は、(i)ファブレスメーカーについては、企画・設計を主にしているものは「学術研究、専門・技術サービス業」に、卸売を主にしているものは「卸売業」に分類すべきと主張し、(ii)本件の原告の事業は、ファブレス事業であり、卸売業の各機能を有していないから、「学術研究、専門・技術サービス業」に分類すべきであると主張しています。
 このうち、ファブレスメーカーの事業分類に関する一般論(上記(i))は、日本銀行調査統計局の分類に依拠したものであり、本判決も一般論としてこのような分類自体の合理性は否定していません(脚注16)。
 もっとも、日本銀行調査統計局の分類上は、「ファブレスメーカー(製品の企画や設計のみを自社で行い、生産は外部に委託しているメーカー)については、企画・設計を主にしているものは「学術研究、専門・技術サービス業」に、卸売を主にしているものは「卸売業」に分類します」とされている(脚注17)ところ、ここでは、いずれが主であるかを判定する前提として、ファブレスメーカーが卸売業の要素をも有することが想定されているように読めます。したがって、この分類によっても、原告の事業が卸売業に当たるかどうか(上記(ii))の判断に当たって、ファブレス事業であれば卸売業の要素がない、ということにはならず、企画・設計と卸売のいずれが主であるかを検討することになるというのが本判決の理解だと思います(脚注18)。
佐藤:その点について、本件の裁判所はどのように判断したのでしょうか。
安田:本判決は、原告の売上総利益の大部分が卸売により生じていること、原告と取引先との間で具体的な企画開発の内容・報酬に係る合意をしたとは認められないことからすると、原告の主たる事業は「卸売業」であるとしています。この判断は、原告の売上げ、すなわち、原告が関連会社を介して取引先から受領していた対価が、あくまで飲食料品の販売(卸売)の対価であって、企画・設計の対価ではないという契約関係の認定がベースになっていると思われます。このような裁判所の認定判断に対しては、実質的にみれば商品の販売代金に企画・設計の対価が含まれているという反論もあり得たかもしれません(脚注19)。もっとも、そのような主張が認められるためには、例えば、物的・人的設備の状況等に照らして原告が行っていた主たる業務が企画・設計であって、卸売りではないということをより具体的に主張立証したり、あるいは、販売代金の算定根拠に関して、卸売りの利益に企画開発料をどのように上乗せして販売代金を算定したのかを具体的に主張立証したりする必要があると思われます(脚注20)。原告がこの点について何らかの主張立証を行ったのかは判決文からは明らかでないのですが、裁判所は、「本件全証拠によっても、原告と取引先との間で具体的な企画開発料等を合意等したわけではない」と述べていますので、原告の収益が企画開発の対価であることについて主張立証がないと判断したのだと思います。
佐藤:ありがとうございます。本件について、総括的なコメントをお願いできますでしょうか。
安田:本件で課税庁が抽出した同業類似法人の支給事例については、平均額は非常に低い金額にとどまっていたため、課税庁でさえ平均額に非常に大きな加重を行ったことは先ほどお話ししたとおりであり(前記1)、もともと同業類似法人の抽出に何らかの問題がなかったのか、たしかに疑問も残るところです。
 もっとも、仮に同業類似法人の抽出に問題があるとしても、課税庁が大きな加重を行っている結果、更正処分の前提となった適正報酬額はそれなりに高い金額になっている(A、Cについては約3,000万円~約1億6,000万円)ため、更正処分が取り消されるためには、これより更に高い水準が適正だと認められる必要があります。
 この点、本判決は、原告の役員報酬が過大であるとの判断に当たって、同業類似法人との比較のほか、原告の収益の状況も重視しており、売上高・売上総利益が大幅に減少傾向にある中で、役員給与の額が4年間で約19~20倍に増加し、原告の改定営業利益の大部分を占めて営業利益を大きく圧迫するに至っていることから、役員給与の額の高さ及び増加率が著しく不自然だと指摘しています(原告の収益状況について図表5参照)。また、判決によればAとBは香港在住ですので、多額の役員報酬が支給された背景には、マレーシア在住役員給与事件と同様、非居住者であるため所得税負担が源泉所得税20%で済むという事情があったのかもしれません(脚注21)。さらに本件では、申告所得金額が零又は多額の欠損金となっていたという特殊事情もあります(脚注22)。このような原告の収益状況等を踏まえて、なお適正報酬額が更正処分における加重平均法による算出額よりも高いと認められるには、そのような金額の妥当性を支えるだけの特殊事情が具体的に認定される必要があったように思われます。

Ⅵ まとめ

佐藤:最後に、裁判例の流れを踏まえて、今後の裁判例の展開についての展望や、納税者としての対応の仕方などについてお考えをお聞きしたいと思います。
安田:同業類似法人の抽出については、最近の裁判例でも、課税庁に対して厳格な合理性等を要求せず、納税者に厳しい判断となる傾向に特に変化は見られず、今後もこの傾向は基本的に続くと思われます。もっとも、従来の裁判例を前提としても、抽出のプロセスの客観性を問題とし、あるいは、京醍醐味噌事件についてお話ししたように、抽出の前提とされた事実の認定を問題とするという争い方は考えられるところです。
 他方、適正報酬額については、国が主張することが多い平均額基準に問題があることは裁判例においても度々指摘されてきました。最近の裁判例に、平均額ではなく最高額や加重平均法による額を採用するケースが少なくないのも、平均額に対する裁判所の疑問の表れであるといえます。もっとも、事案によっては最高額や加重平均法を採用するほうが問題が大きい場合もあり得ます。そのため、納税者としては、同業類似法人の報酬額の分布や、会社の収益の状況、当該役員の職務内容、功績の程度などを踏まえて、当該事案においていずれの方法によることがより問題が小さく、より適切であるかを検証することが重要と考えます。特に京醍醐味噌事件のように、そもそも同業類似法人の報酬額のレンジが低い場合には、加重平均法によることで、同業類似法人との差異も、売上等の修正項目の枠内である程度反映され、救済される余地があるといえます。
 退職給与の算出に用いられる功績倍率についても、平均値の問題が指摘されている点は同様ですが、こちらについては、サンプルの数が少ないことからその抽出結果が偶然に左右されやすく、また、各法人の個別性も強いため、むしろ最高値を採用することの問題のほうがより目立ってしまい、そのため平均値が採用されやすい傾向にあるのではないかと思います。もっとも、平均値についてもやはり大きな問題があるので、1.5倍事件での問題提起も踏まえて今後より一層の議論がなされることで、平均値や最高値以外の数値を模索する方向性も含め、裁判例の傾向が変わっていく可能性もあると思います。
 いずれの論点との関係でも、納税者としては、多額の役員報酬や退職給与を支給する場合には、その額や増加率の妥当性について、予め合理的な説明を用意しておくとともに、役員の会社への特別な功績を主張する場合には、役員の職務内容が会社の業績にどのように貢献したのかをできる限り具体的に主張立証していくことが非常に重要と考えます。
佐藤:今回の企画では、安田先生に、裁判例を幅広くかつ詳細に振り返っていただきました。その結果、課税庁も裁判所も個々の事案に即した解決を模索しているということで、企業やそのアドバイザーである専門家にとっても、好ましい傾向が読み取れたような気がします。ありがとうございました。


脚注
1 佐藤修二=安田雄飛「対談 消費税争訟事案の現状と展望」本誌1010号4頁。
2 渡辺充「判批」月刊税理2023年10月号213頁。ほかに、京醍醐味噌事件の評釈として、西本靖宏「判批」ジュリスト1596号10頁、中村繁隆「判批」Westlaw Japan文献番号2023WLJCC026、品川芳宣「判批」本誌1011号20頁等。
3 功績倍率法のほか、最終月額報酬額が退職役員の在職期間中の功績の程度を反映しているとはいえないなどの事情がある場合に1年当たり平均額法(同業類似法人の退職役員の勤続年数1年当たりの平均退職給与の額に当該役員の勤続年数を乗じて算出する方法)を採用した裁判例もある(札幌地判昭和58年5月27日行集34巻5号930頁、東京地判令和2年3月24日税資270号順号13403等)が、紙幅の関係上、本対談では触れていない。
4 佐藤修二「退職金額の適正性をめぐる納税者勝訴事例」NBL1081号89頁。
5 ただし、同判決は、原告の収益の状況等、同業類似法人の役員報酬額の平均値以外の要素も考慮して判断したものの、結論としては国が主張する平均額を採用し、更正処分を取り消すには至らなかった。
6 1982年4月26日の日本経済新聞朝刊22頁「過大な役員報酬は賞与扱い−国税庁、2,000万円超せば課税、法人税逃れ許さず。」との記事には、国税庁が、本文記載の4項目を適正報酬を算定するための基準として新たに採用した旨の記載がある。
7 ただし、この事例では、課税庁が加重平均法による額を算出しつつ、バッファをみてこれを上回る額で更正処分を行っていたことから、裁判所も、加重平均法による額に加えて「原告特有の事情もあり得ることも考慮」しても更正処分は適法であるとした。
8 大分地判H21・2・26は、加重平均法について「合理性を有する算出方法といえる」とし、課税庁が加重平均法により算出した額についても「合理性は認められ」、「適正役員報酬月額を判断するに当たって重要な資料になるものというべきである」と述べている。また、東京高判H21・11・26は、控訴審で、「控訴人は、被控訴人が適正報酬額の計算方法〔注:加重平均法〕を批判するが、類似法人との比較検討に当たり、控訴人と類似法人との売上高、売上総利益額、個人換算所得、使用人給与額等の差異を捨象するべく比例計算を行うのは合理的であるものと考えられ、不適切ということはできない」という部分を付加している。
9 同判決は、「平均功績倍率を少しでも超える功績倍率により算定された役員退職給与の額が直ちに不相当に高額な金額になるとすると、例えば本件においても、別表2の順号1及び5の支給事例〔注:当該事案の平均功績倍率の算出に用いられた同業類似法人の支給事例のうち、平均値を超える功績倍率による支給事例〕は不相当に高額な金額の退職給与の支給をしていたということになりかねず、当該支給事例が、役員退職給与の損金算入額が争いなく確定し、支給事例としての一定の適格性が担保されている同業類似法人である……という本件平均功績倍率の算出の前提と矛盾することになるから、この点でも不合理というべきである」とした。
10 第一審判決について、平均の1.5倍による理論的根拠がないことを指摘しつつ、平均功績倍率を機械的に適用しなかった点を評価するものとして、品川芳宣「判批」TKC税研情報27巻2号35頁、長島弘「判批」月刊税務事例50巻3号35頁等。
11 なお、本件では、第一審が採用した平均値の1.5倍(4.89)という功績倍率は、結果として最高功績倍率(4.31)よりも高くなっている。
12 平均功績倍率によることを原則としつつ、例外を認めるものとして、「特段の事情(平均功績倍率法による役員退職給与額の算出過程では十分に考慮されないが、同額に相当の影響を及ぼし得る事情)がある場合には、平均功績倍率法による金額を超えて相当と認めるべき部分が存在するというべきである」とした福岡高判H25・6・18(図表2⑨)などがある。
13 本判決は、この点に関し、より具体的には、本件各事業年度(H23/7~H27/7)を通じて、売上金額、売上総利益が、直前期(H22/7)との比較で約2~3割減と減少傾向にあり、営業利益に代表者への役員給与を加算した改定営業利益もわずかに減少傾向となっていた一方で、代表者に対する役員給与は、直前期(H22/7)と比べて約2~4倍、金額にして約4億円増加したことから、改定営業利益に占める代表者に対する役員給与の割合が、直前期(H22/7)は17.8%であったのに対し、本件各事業年度では73.7%~98.6%に急伸し、その結果、原告の営業利益は大きく圧迫され、直前期(H22/7)が約5億5,000万円であったのに対し、本件各事業年度では約730万円~約1億6,700万円となっているということを指摘している。
14 品川芳宣「判批」税研JTRI36巻3号101頁。
15 名古屋高判H7・3・30(図表1②)、マレーシア在住役員給与事件判決(同⑨)のほか、同判決に関する判タ1499号177頁の匿名解説参照。
16 本判決は、「原告の事業は、日本銀行調査統計局の分類上も「卸売業」に該当すると認めるのが相当である」とする。
17 2021年3月日本銀行調査統計局「金融統計調査表の記入要領」Ⅲ-3「(4)業種分類」の「(ロ)主要業種に関する留意事項」の「γ.「製造業」とまぎらわしい業種」。
18 本判決は、「原告の事業内容、販売経路等からすると、製造業のファブレス事業に該当するとはいえない」としており、(卸売業の)ファブレス事業に該当する余地までは否定していない。
19 判決文によれば、本件では、原告代表者が「企画開発料を卸売りの利益に上乗せしていることもあった」と証言している。
21 前掲注2品川26頁参照。
22 前掲注2品川28頁。

佐藤修二 (さとう しゅうじ)
1997年 東京大学法学部卒業、2000年 弁護士登録。2005年 ハーバード・ロースクール卒業(LL.M.,Tax Concentration)。2011年~14年 東京国税不服審判所(国税審判官)。2019年~22年 東京大学法科大学院客員教授。2022年~現在 北海道大学大学院法学研究科教授。
著書に、『租税と法の接点』(大蔵財務協会、2020)、『対話でわかる国際租税判例』(共著、中央経済社、2022)、『事例解説 租税弁護士が教える事業承継の法務と税務』(監修、日本加除出版、2020)、『夏休みの自由研究のテーマにしたい「税」の話』(共著、中央経済社、2020)、『対話でわかる租税「法律家」入門』(編著、中央経済社、2024)など。

安田雄飛 (やすだ ゆうと)
2008年 京都大学法学部卒業、2010年 京都大学法科大学院修了、2011年 弁護士登録。2012年~16年 三宅坂総合法律事務所、2016年~19年 東京国税不服審判所(国税審判官)を経て、2019年 北浜法律事務所に入所し、現在、同事務所パートナー弁護士。
著作に、「デット・エクイティ・スワップにおける債権の「時価」」(月刊税理62巻15号149頁)、「ヤフー事件最高裁判決後初の法人税法132条の2に関する判断事例 “TPR事件判決”の問題点」(税務通信3584号18頁)、「転売目的でなされた居住用賃貸建物取得の仕入税額控除を巡って」(税経通信78巻7号83頁)、「対談 消費税争訟事案の現状と展望」(週刊T&Amaster No.1010)、『対話でわかる租税「法律家」入門』(共著、中央経済社、2024)、「M&A準備中の非上場株式の相続税評価(東京地判令和6・1・18)」(NBL1267号35頁)など。

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