解説記事2024年07月15日 SCOPE ウルフパックに課徴金勧告、潜脱的な大量保有に積極的対応(2024年7月15日号・№1035)
大量保有報告書等関係で2件目の課徴金勧告
ウルフパックに課徴金勧告、潜脱的な大量保有に積極的対応
大量保有報告制度違反の件数に比べて摘発事例が少ないとの批判も多い中、証券取引等監視委員会は6月28日、三ッ星(東証スタンダード市場)株式に係る大量保有報告書等の不提出及び変更報告書の虚偽記載を行ったとして、3者に対し課徴金を課すよう内閣総理大臣及び金融庁長官に勧告した。以前、ウルフパック戦術として問題となった案件だ。証券取引等監視委員会が大量保有報告書等の不提出等で課徴金勧告をしたのは今回で2件目。同委員会では、令和5年1月27日に公表した中期活動方針に沿った対応であるとしている。
証券取引等監視委、中期活動方針に沿った対応
大量保有報告書等は、提出事由が生じた日から5日以内に提出する義務があるが、提出遅延も多いことから、2008年の金融商品取引法の改正により、大量保有報告書等の不提出及び不実記載が課徴金制度の対象となった。ただ、その後も大量保有報告書等の提出遅延は後を絶たず、現在も年間平均で約1,500件が提出遅延となっている。一方、課徴金納付命令の発出件数は課徴金制度導入以来、わずか8件(表参照)にすぎない。この点、金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」の議論では、違反の件数に比べて課徴金納付命令の発出件数が少なすぎるとの意見を踏まえ、報告書には、「まずは大量保有報告制度違反に対する当局の対応を強化していくことが重要である」と明記されることになった。

このような状況の中、証券取引等監視委員会は三ッ星株式に係る大量保有報告書等の不提出及び変更報告書の虚偽記載を行ったとして、株式会社シンシア工務店(非上場)、大量保有者A、株式会社和円商事(非上場)の3者に対し課徴金を課すよう金融庁長官等に勧告した。以前、ウルフパック戦術が問題となった案件だ。証券取引等監視委員会による大量保有報告書等の関係での課徴金勧告は、三栄建築設計株式に係る変更報告書の虚偽記載に続き2件目となる。証券取引等監視委員会が令和5年1月27日に公表した中期活動方針では、「市場の公正性を脅かしかねない非定型・新類型の事案等(例えば、潜脱的な大量保有・買付け、新たな類型の偽計等)についても、積極的に対応します」としており、今回の課徴金勧告はこの中期活動方針に沿った対応であると明らかにしており、今後は課徴金勧告が増える可能性もありそうだ。
保有目的の変更が理由の1つに
本件では、和円商事と同社の代表取締役を務める大量保有者Aが共同保有に該当すると認定されている。株券等保有割合の計算に当たっては、保有者の保有株券等の数に「共同保有者」の保有株券等の数を加えて計算しなければならないとされており、株券等保有割合が5%を超えれば大量保有報告書、1%以上増減した場合には変更報告書の提出が求められる(図参照)。また、シンシア工務店(当時の三ッ星経営陣と経営支配で争ったアダージキャピタル有限責任事業組合の代表者組合員)については、保有目的が「経営参画、長期保有」であったにもかかわらず、「純投資」としており、この点が変更報告書の不提出の理由として挙げられており、注目される。

課徴金勧告のみでどこまで対応可能か
市場関係者の間では、ウルフパック戦術への対処を求める声も強い。ウルフパック戦術とは、複数の投資家が、短期間に株式を大量に買い受け、対象会社の経営陣を配下に収めたりすること。その際、大量保有報告書等を提出しなかったり、共同保有者の株券等を合算しなかったりすることが問題とされる。前述の公開買付WGでは、諸外国で導入されている議決権停止制度を創設すべきとの意見もあったが、対応強化による改善状況も踏まえつつ、必要に応じて引き続き検討することにとどまっている。ただし、今回の課徴金勧告はシンシア工務店が32万円、大量保有者Aが40万円、和円商事は26万円とその金額はわずかだ(大量保有報告書等の不提出の場合の課徴金額は株券等の発行者の時価総額の10万分の1の額となる)。今後、大量保有報告の実効性がどこまで確保できるのか注目される。
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