解説記事2024年10月14日 SCOPE マンション管理組合に支払った修繕積立基金は経費に算入不可(2024年10月14日号・№1047)
審判所、質疑応答事例の取扱いと前提が異なる
マンション管理組合に支払った修繕積立基金は経費に算入不可
不動産貸付業を営む請求人がマンションの管理規約に基づき支払った修繕積立基金を必要経費に算入することができるかが争われた裁決で、国税不服審判所は、修繕積立基金が繰り入れられた修繕積立金を取り崩して修繕工事等が行われたことは認められず、所得税基本通達37−2《必要経費に算入すべき費用の債務確定の判定》の(2)に定める「債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」の要件を満たさないことから、本件修繕積立基金について、必要経費に算入すべき金額はないとの判断を示した(東裁(所)令5第36号)。請求人は、マンション取得時に支払った修繕積立基金は国税庁の質疑応答事例「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」に定められた要件を満たすと主張したが、質疑応答事例は将来予想される修繕工事に関する費用を長期間にわたり計画的に積み立てていくための支出であることを前提とするものであるとし、請求人の主張を斥けた。
請求人、支払った修繕積立基金は国税庁の質疑応答事例の要件を満たす
本件は、不動産貸付業を営む請求人がマンションの管理規約(表1参照)に基づき支払った修繕積立基金を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、修繕積立基金は実際に修繕等の費用の額に充てられておらず、具合的な給付をすべき原因となる事実は発生していないことから、必要経費に算入されないとして所得税等の更正処分等をしたもの。これに対し、請求人は、修繕積立基金はマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約にしたがい、一定の事実関係の下で支払われていることから、全額が必要経費に算入されるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
【表1】本件マンションにおける管理規約(要旨)
・区分所有者は、マンションの敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、修繕積立金及び修繕積立基金を管理組合に納入しなければならない。 ・修繕積立金及び修繕積立基金の額は、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出する。 ・管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金及び専有部分の最初の区分所有者が一括して納入する修繕積立金を積み立て、修繕積立基金は修繕積立金に充当する。 ・積み立てた修繕積立金は、一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕、不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕、その他の特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。 ・管理組合の会計年度は、毎年6月1日から翌年5月31日までとする。 |
請求人は、請求人が貸付けの用に供するために取得した新築マンションについてその取得時に一括で支払った修繕積立基金は、国税庁が公表している質疑応答事例「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」(表2参照)に定められた要件を満たしており、その支払時にその全額を必要経費に算入すべきと主張。また、予備的に、修繕積立基金の金額はマンションの修繕積立金の約6年分に相当する金額であることから、直近6年分の前払と捉え、経過した月数分を必要経費に算入すべきと主張した。
【表2】質疑応答事例「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」(要旨)
修繕積立金は、原則として、実際に修繕等が行われ、その費用の額に充てられた部分の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費となるが、その支払が、マンション標準管理規約(国土交通省が作成し公表しているもの)に沿った適正な管理規約に従っているほか、①区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること、②管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと、③修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと、④修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること、以上の事実関係の下で行われている場合には、その支払期日の属する年分の必要経費に算入して差し支えない。 |
将来の修繕工事費用を長期間にわたり計画的に積み立てるための支出が前提
審判所は、所得税法37条1項は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額として、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用と規定し、所得税基本通達37−2は、債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実の発生等を債務確定の要件として定めており、この定め及び質疑応答事例における取扱いは相当であると認められるとした。
しかし、審判所は、質疑応答事例において、一定の事実関係の下で行われる「修繕積立金」の支払をその支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えないとされているのは、あくまでも「将来予想される修繕工事に関する費用を長期間にわたり計画的に積み立てていくための支出」であることを前提とするものであって、さらにその支出を一括して支払う(前払する)修繕積立基金のような支出までも同様の取扱いをすべきことを定めたものと解されないと指摘。よって、修繕積立基金について必要経費に算入すべき金額があるか否かについては、所得税基本通達37−2の定めにより判断することになるとした。
修繕積立金を取り崩した修繕工事はなし
本件における修繕積立基金は修繕積立金に充当されており、令和元年中において本件マンションの修繕積立金は取り崩されておらず、令和元年中に修繕積立金を取り崩して行われるべき修繕工事等があったとは認められないことから、審判所は、同通達の(2)に定める「債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」の要件を満たさないから、本件修繕積立基金について、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額はないとの判断を示し、請求人の請求を棄却した。
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