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解説記事2024年11月18日 ニュース特集 非営業貸金に係る利息における所基通36−8(7)ただし書の適用可否(2024年11月18日号・№1051)

ニュース特集
ポイントは納税者による恣意性の排除
非営業貸金に係る利息における所基通36−8(7)ただし書の適用可否


 非営業貸金の利息に所得税基本通達36−8(事業所得の総収入金額の収入すべき時期)(7)のただし書が適用されるか否かが争われた裁決で、国税不服審判所は、非営業貸金に係る利息は継続的な記帳要件を満たしていても、本件通達のただし書が適用されることによって、納税者による恣意性を排除できないような場合には、適用することはできないとの判断を示した。本件では、利払日等の条件変更が恣意的に繰り返されるなど、貸金業者が行う第三者との取引において一般に想定されない取引が行われており、本件通達のただし書の適用を認めた場合、結果として、利息収入の計上時期を恣意的に操作することを許容することになるとして、請求人の請求を棄却している(大裁(所)令5第4号)。
 本件通達のただし書は、本来は貸金業者である納税者の記帳等の便宜を図るために認められた措置だが、非営業貸金の利息にも適用できるか否かが争われることがある。これまでの裁判や裁決では、記帳をしなかったことによりただし書の適用が認められていなかったが、本件では、納税者の恣意性を排除できるか否かの観点から判断が行われている点で注目される。

自身や親族が主宰する宗教法人に対する貸付金の利息収入の時期は?

 今回紹介する裁決事例は、利息収入の収入すべき時期に関し、所得税基本通達36−8(事業所得の総収入金額の収入すべき時期)(7)(以下、「本件通達」)のただし書の適用の可否が争点となったものである。
 本件通達では、事業所得である金銭の貸付けによる利息でその年に対応するものに係る収入金額の収入すべき時期については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)によるものとしているが、ただし書により、利息を天引きして貸し付けたものに係る利息以外の利息について、その者が継続して、その貸付けに係る契約の内容に応じ、所得税基本通達36−5の(1)に掲げる日により収入金額に計上している場合には、その掲げる日によるものとする旨を定めている(表1参照)。

 本件は、請求人が、自身や親族が主宰する宗教法人等に対する貸付金に係る利息収入について、原処分庁が、請求人は契約に定められている支払日ではなく、実際の支払時に利息収入を計上しているから、利息収入のうちその年に対応する部分の額を収入すべき時期は、その年の末日となるとして、更正処分等を行ったものである。
 これに対して請求人は、本件通達のただし書は非営業貸金にも適用され、かつ、本件通達のただし書の要件を満たしているとして、利息収入の収入すべき時期は各貸付金に係る各契約により定められた支払日であるなどと主張(表2参照)。原処分の全部の取消しを求めている。

【表2】当事者の主な主張

原処分庁 請求人
 本件通達のただし書は、利息に係る所得が雑所得となる非営業貸金には適用されず、仮に適用されるとしても、請求人は、本件通達ただし書の要件を満たしておらず、適用されない。したがって、本件通達の本文に従い、本件利息収入の収入すべき時期は、その年中の期間に対応する部分の利息については、その年の末日である。
・本件通達は、貸付金の利息に係る収入計上時期について、その年に対応するものはその年の末日に計上することを原則としつつ、例外として、本件通達のただし書は、継続的な収入計上による信用性を担保として、契約等の支払日によることを認めている。この点、請求人は、本件通達のただし書の適用が認められると主張するが、同ただし書は、不特定多数の貸付先を有する金銭貸付業の特有の事情を考慮したものであるから、雑所得に該当する非営業貸金の利息に係る収入計上時期は、本件通達に準ずるとしても、本件通達のただし書についてまで準じる趣旨ではない。このことは浦和地方裁判所昭和51年6月18日判決(表3参照)においても明らかにされているものである。
・平成26年9月1日裁決(表4参照)は、本件通達のただし書の適用に際し、その所得の内容によって判断が異なるか否かは示していないことから、この裁決の存在をもって、同ただし書が非営業貸金にも適用されると判断することはできない。

 本件通達のただし書は、非営業貸金にも適用され、請求人は、同ただし書の要件を満たしている。したがって、本件利息収入の収入すべき時期は、本件各貸付金に係る各契約により定められた支払日である。
・原処分庁は、各貸付金のような非営業貸金は、利払日等の条件をいかようにも決定することが可能であるなどとして、本件通達のただし書は雑所得の利息収入には適用されないと主張する。しかし、そのような取扱いが明文化された事実はなく、原処分庁独自の解釈にすぎない。非営業貸金について、原処分庁の主張するように、恣意的に課税を繰り延べるような行為が生じる可能性があるとしても、所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認等)をはじめとする規定によって、その行為自体を否定することは可能である上、会社法その他の法律により、法人の恣意的な運営に対しては制約があることも加味すれば、非営業貸金に係る利息であることを理由として、本件通達のただし書の適用がないと断じることは妥当性を欠く。
・平成26年9月1日裁決(表4参照)においても、非営業貸金に係る利息収入に対する本件通達のただし書の適用について、経理処理を理由に退けており、非営業貸金に係る利息であることを理由として同ただし書の適用を否定するものとはなっていない。

継続的な記帳要件を満たしても納税者の恣意性があれば適用できず

 審判所は、貸付金利息については元本使用の対価であって、元本が返還されるまで日々発生するものであるから、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定すると解するのが相当であり、その収入金額の収入すべき時期は、所基通36−8(7)の本文の定めによるのが原則であるとした。一方で、本件通達のただし書において、収入金額の収入すべき時期についての例外的な取扱いが定められているが、この例外が設けられた理由は、一般に貸金業者の場合にあっては、貸付口数が極めて多いこと、利息収入の記帳については、業者により独自の方法が採用されていることなどから、年末の決算において、原則どおり期間に対応して収入金額を計上することとした場合、ほとんどすべての貸付金について、利息収入の記帳とは別に、期間に対応する収入すべき未収利息の計算を行わなければならなくなり、極めて煩雑であるため、貸金業者である納税者の記帳等の便宜を図るべく、簡素化の見地等から例外を認めたものであるとの見解を示した。加えて、例外的な取扱いを認める場合には、所得税法36条1項の規定の趣旨(表5参照)である納税者による恣意性の排除という要請から、その適用要件として継続的な記帳を求めているとしている。

 したがって、審判所は、本件通達の趣旨に鑑みると、非営業貸金に係る利息については、継続的な記帳の要件が満たされている場合であっても、本件通達のただし書が適用されることによって、納税者による恣意性の排除という所得税法36条1項の規定の趣旨が没却されるような場合には、これを適用することはできないとした。

契約内容を変更できる特殊な関係あり

 その上で本件について審判所は、請求人と各貸付先との関係や、各貸付金に係る契約内容の変遷等を踏まえると、各貸付金は、利害関係の対立する第三者に対する貸付金と異なり、請求人と各貸付先との間には、請求人の意向や各貸付先における財務状況等の事情により、容易に契約内容の変更を成し得る特殊な関係が存在すると指摘している。
 実際に、利払日等の条件変更が恣意的に繰り返され、かつ、請求人が長期間にわたって利息収入を得られない条件とされているなど、貸金業者が行う第三者との取引では一般に想定されない取引が行われており、このような事情が認められる各貸付金に係る利息収入について、形式的に継続的な記帳の要件が充足されていることのみをもって本件通達のただし書の適用を認めた場合には、結果として、利息収入の計上時期を恣意的に操作することを許容することになり、納税者の恣意を排して課税の公平を期するという所得税法36条1項の規定の趣旨を没却する結果になるとした。
 したがって、審判所は、本件利息収入について本件通達のただし書を適用することはできず、本件通達の本文により、その年中の期間に対応する部分の利息は、その年の末日に収入を計上するべきであるとの判断を示し、請求人の請求を棄却した。
非営業貸金を理由にただし書適用を否定せず
 請求人は、本件利息収入は本件通達のただし書の適用要件を満たしていることから、各貸付金に係る契約書等に定められた支払日に利息収入を計上することが認められるべきと主張したが、審判所は、本件通達のただし書の適用については、利息収入に関して、形式的に継続的な記帳がされていることのみをもってその可否が判断されるべきではなく、所得税法36条1項の規定の趣旨を踏まえて、貸主と借主との関係や、各貸付金に係る契約条件の変更状況等を総合的に勘案の上、判断されるべきものであるから、現に記帳がされていたからといって、直ちに本件通達のただし書が適用されることになるわけではないとした。
 また、請求人は、非営業貸金に係る利息であることを理由として本件通達のただし書の適用がないと断じることは妥当性に欠くと主張したが、審判所は、各貸付金が非営業貸金であることのみをもって本件通達のただし書を否定しているわけではないとし、請求人の主張は前提を欠くものであるとした。

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