解説記事2025年11月24日 SCOPE 株式買収計画の相談者に損害賠償請求も棄却(2025年11月24日号・№1100)
東京地裁、相手先に機密情報を伝えたと認めず
株式買収計画の相談者に損害賠償請求も棄却
アイ・アールジャパン(被告)は、アジア開発キャピタル(原告)らから東京機械製作所の株式買収計画に関する相談を受けたにもかかわらず、東京機械製作所と買収防衛に関するコンサルタント業務を行ったことは顧客に対する善管注意義務違反などに該当するとして、16億7,500万円超の損害賠償等を求めた事件で、東京地方裁判所(西村康一郎裁判長)は令和7年7月18日、原告らの請求を棄却した(令和5年(ワ)第25767号)。裁判所は、被告会社の副社長が相手先企業に原告らの機密情報を伝えたとは考え難いとし、これを前提とする各注意義務の存在はいずれも認められないとの判断を示した。
株式買収計画の相談者が相手先企業の買収防衛コンサルに就任
本件は、被告であるアイ・アールジャパン(以下、IR社)が原告のアジア開発キャピタル(以下、アジア開発社)らから東京機械製作所の株式買収計画に関する相談を受けてアジア開発社の機密情報を取得した後、東京機械製作所のために買収防衛に関するコンサルタント業務をしたことは、①東京機械製作所のコンサルタント業務を行わない義務、②原告らから開示を受けた情報等を他の目的に利用しない義務、③②の情報等を利用するなどして原告らの信用を毀損しない義務に違反するとし、不法行為に基づき16億7,500万円超の損害賠償等を求めた事件である。
原告らは、被告は第一種金融商品取引業者であるから、投資助言義務については顧客に対する忠実義務と善管注意義務(金商法41条)を負うとし、原告らは東京機械製作所を含めた10数社の企業の株式を投資目的で購入することを検討していたところ、被告の当時の副社長であったK氏は、原告代表取締役であるA氏と複数回にわたり面談し、原告らの課題が資金調達にあるとの相談を受けたことを踏まえて、提案書を示しながら東京機械製作所の買収戦略に関する提案をしていたのであるから、原告らと被告との間には相応の信頼関係があったといえ、被告は、原告らに対し各注意義務を負うと主張した。
なお、原告のアジア開発社の東京機械製作所株式取得の経緯は表のとおりである。
【表】アジア開発キャピタル(原告)らによる東京機械製作所株式取得の経緯
| 令和3年4月2日頃 | アジア開発社(原告)の代表取締役であるA氏は、IR社(被告)の当時の代表取締役副社長であったK氏と面談。 |
| 同年4月15日頃 | K氏は原告代表者のA氏に対し、原告のアジア開発社の出資を受けた複数のファンドを用いて、各ファンドにつき5%未満の東京機械製作所株式を市場買付し、その後TOBを実施すること(いわゆるウルフパック戦術)で、できるだけ早く安価に東京機械製作所株式の過半数を取得して、同社の経営権を獲得することができるなどと記載された「ご提案」と題する資料(本件提案書)を示しながら、東京機械製作所の買収戦略に関する提案をした。 |
| 同年9月6日 | 原告のファンド会社は、令和3年4月2日から9月6日までの間に、39.16%の東京機械製作所株式を取得。 |
| 同年9月7日 | 東京機械製作所は、IR社(被告)との間で、買収防衛に関するコンサルタント契約を締結し、株主提案や委任状争奪等における戦略立案及び実行等のプロキシーアドバイザリー業務を被告に委託。 |
| 同年10月6日 | 東京機械製作所は、株主に対し、新株予約権の無償割当を議案とする臨時株主総会の招集を通知するとともに、①アジア開発社について、継続企業の前提に重要な疑義が存在、②アジア開発社の株主の中に新株予約権の行使の直後から東京機械製作所株式の買増しを開始した者の存在が確認され、資金の流れが不透明である旨を記載した補足資料を送付。 |
| 同年10月22日 | 東京機械製作所の株主総会が開催され、新株予約権の無償割当を承認する旨が決議。その後、原告のファンド会社は、無償割当により東京機械製作所株式の保有比率が低下したため、令和4年3月31日までに売却。 |
資金調達の情報を言及した形跡なし
裁判所は、被告のIR社が企業買収に関するコンサルティング業界において著名な企業であり、買収防衛策の策定等に関しても著名な存在であることからすると、秘密保持契約を締結することもなく、原告代表取締役のA氏がIR社(被告)の副社長K氏に対し、原告らの機密情報を伝えるとはにわかに考え難いと指摘。実際、1回目の面談が終了した後に作成された提案書にも、原告らの具体的な資金調達の情報については一切言及した形跡はなく、その内容はウルフパック戦術という一般的な戦術論に終始しているのであって、このことも原告A氏がK氏に原告らの機密情報を伝えていないことを推認させるとした。
加えて、原告のファンド会社は、原告A氏とK氏が初めて面談をした時期と近接した令和3年4月2日に東京機械製作所株式の取得を開始しており、面談時点で、原告らは買収戦略といった根幹的な内容のコンサルティングを受ける段階にはなかったというべきであり、このような状況下で、被告会社の副社長K氏に原告らの機密情報を伝えたとは考え難いとした。したがって、機密情報を伝えたことを前提とする各注意義務の存在はいずれも認められないとし、原告らの請求を棄却した。
作成資料は公開情報から推察可能
なお、東京機械製作所が作成した資料には、①原告のアジア開発社について、継続企業の前提に重要な疑義が生じ、外部からの資金調達が困難であることが推察されることや、②アジア開発社に新株予約権を行使し、原告らによる東京機械製作所株式の買い集めの資金を提供したと推察される者と同一と思われる人物がその直後に同社株式の買い増しを開始しており、資金の流れが不透明であることが記載されている。
この点について裁判所は、①に関しては、アジア開発社の有価証券報告書の記載と、東京証券取引所によるアジア開発社株式の特設注意市場銘柄の指定などの公開情報から容易に推察できる内容であり、②に関しても公開情報であるアジア開発社の新株予約権の行使者と東京機械製作所の保有する株主情報を突合することで容易に推察できる内容であると指摘。このような観点からも各注意義務の存在を認めることができないとした。
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