解説記事2026年01月19日 未公開判決事例紹介 株式買収計画の相談者に対する損害賠償請求事件(2026年1月19日号・№1107)
未公開判決事例紹介
株式買収計画の相談者に対する損害賠償請求事件
東京地裁、相手先に機密情報は伝えず請求棄却
本誌1100号40頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇企業買収に関するコンサルティング会社(被告)は、原告企業らからT社の株式買収計画に関する相談を受けたにもかかわらず、T社と買収防衛に関するコンサルタント業務を行ったことは顧客に対する善管注意義務違反などに該当するとして、16億7,500万円超の損害賠償等を求めた事件(令和5年(ワ)第25767号)。東京地方裁判所(西村康一郎裁判長)は令和7年7月18日、原告らの請求を棄却。裁判所は、被告会社の副社長が相手先企業に原告らの機密情報を伝えたとは考え難いとし、これを前提とする各注意義務の存在はいずれも認められないとの判断を示した。
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告C社に対し、5000万円及びこれに対する令和3年10月6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告F社に対し、16億2512万9876円及びこれに対する令和3年10月6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告らが、被告が原告らから株式会社T(以下「T社」という。)の株式買収計画に関する相談を受けて原告らの機密情報を取得した後、T社のために買収防衛に関するコンサルタント業務をしたことは、被告が原告らに対して負うべき、①T社のコンサルタント業務を行わない義務(以下「本件注意義務①」という。)、②原告らから開示を受けた情報等を他の目的に利用しない義務(以下「本件注意義務②」という。)及び③ ②の情報等を利用するなどして原告らの信用を毀損しない義務(以下「本件注意義務③」といい、本件注意義務①ないし本件注意義務③を「本件各注意義務」と総称する。)に違反する旨主張して、被告に対し、不法行為に基づき、原告C社につき5000万円(信用段損による無形損害)及び原告F社につき16億2512万9876円(T社に係る株式取得価額とその売却価額との差額)の損害賠償金並びにこれらに対する不法行為の日又はその後の日である令和3年10月6日から各支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び後掲各証拠〔証拠番号については、特に断りのない限り枝番を含む。〕等により容易に認められる事実。証拠等の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。)
(1)当事者及び関係者
ア 原告らは、いずれも、有価証券の保有及び運用等を目的とする株式会社である(甲1、2)。
なお、原告C社は、原告F社の株式を100%保有する完全親会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、投資家向け広報活動や株主に対する調査及び情報提供などの受託業務並びにコンサルティング業務等を目的とする株式会社であり、金融商品取引法(以下「金商法」という。)29条に基づく金融商品取引業の登録を受けている第一種金融商品取引業者である(甲3、乙1、2)。
ウ T社は、印刷機械の製造・販売等を目的とする株式会社である(甲4)。
(2)原告らによるT社株式の取得の経過
ア 原告らの代表取締役であるA(以下「A」という。)は、令和3年4月2日頃、被告の当時の代表取締役副社長であったK(以下「K」という。)と面談した(面談の具体的な内容については、当事者間に争いがある。)。その後、Kは、同月15日頃、Aに対し、概要、原告C社の出資を受けた複数のファンドを用いて、各ファンドにつき5%未満のT社株式を市場買付し、その後にTOB(公開買付)を実施すること(いわゆるウルフパック戦術)で、できるだけ早く安価にT社株式の過半数を取得して、T社の経営権を獲得することができるなどと記載された「ご提案」と題する資料(以下「本件提案書」という。)を示しながら、T社の買収戦略に関する提案をした。(甲8〔17、18、21頁〕、13、14、弁論の全趣旨)
イ 原告F社は、上記アの前後である同年4月2日、T社株式(3100株)を取得し、同年9月6日までに、39.16%のT社株式を保有するに至った(甲5〔6頁〕、8〔18、19頁〕、乙13〔4頁〕)。
ウ これに対し、T社は、同月7日、被告との間で、買収防衛に関するコンサルタント契約(以下「本件契約」という。)を締結し、株主提案や委任状争奪等における戦略立案及び実行等のプロキシーアドバイザリー業務(PA業務)を被告に委託した(なお、証拠上詳細は不明であるが、同契約については、その後同年11月11日と同年12月14日に追加契約が締結されている。甲8〔12、19頁〕、弁論の全趣旨)。
そしてT社は、同年10月6日、T社の株主に対し、新株予約権の無償割当を議案とする臨時株主総会の招集を通知するとともに、原告らが、T社の経営に真摯に向き合わず、その経営改革を妨害していることなどについて言及するのみならず、概要、①原告F社の完全親会社である原告C社には、継続企業の前提に重要な疑義が存在し、外部からの資金調達が困難であると推察されること、②原告C社の株主が新株予約権を行使することにより原告C社に資金を投じており、これらの資金がT社株式の急速な買集めの原資となっている可能性が推察されるところ、原告C社に対して新株予約権を行使している原告C社の株主の中に、その行使の直後からT社株式の買増しをも開始したと思われる者の存在が確認されており、資金の流れが極めて不透明であるため、T社の経営に及ぼす悪影響を懸念せざるを得ない状況であることなどを記載した上で、原告らによるT社株式の買い集めに対する対抗措置(原告ら以外のT社株主に対する新株予約権無償割当)発動に賛同する旨の委任状を返送することを求める内容の臨時株主総会の補足資料(以下「本件資料」という。)を送付した(甲5、乙4、15)。
エ 同月22日、T社の臨時株主総会が開催され、新株予約権の無償割当(以下「本件無償割当」という。)を承認する旨の決議がされた(弁論の全趣旨)。
オ 原告F社は、本件無償割当によりT社株式の保有比率が低下したことから、それ以上のT社株式の取得を断念し、令和4年3月31日までに、当時保有していた279万3254株のT社株式を1株800円でY新聞○○本社などに売却した。
その結果、原告C社は、令和3年4月1日から令和4年3月31日までを会計年度とする連結決算において、16億2512万9876円の株式売却損を計上した。
(甲6、弁論の全趣旨)
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)被告が原告らに対し本件各注意義務を負うか(争点1)。
(原告らの主張)
ア 被告は、第一種金融商品取引業者であるから、顧客に対する誠実義務(金商法36条1項〔ただし、令和5年法律第79号による改正前のもの。同項について以下同じ。〕)を負い、投資助言業務については、顧客に対する忠実義務と善管注意義務(同法41条)を負う。また、金融商品取引業者は、高度に専門性を有し、公平性が要求され、不適格者を排除するために登録制を採用しているといった点で弁護士と共通しており、金融商品取引業者に対する金商法による規制と弁護士に対する弁護士法による規制に類似性が認められるところ、被告は、顧客に対する助言指導を中心としたコンサルタント業務を行っており、かかる業務の前提として、見込顧客から、正式なコンサルタント契約を締結する前の相談段階において、機密情報の開示を受けることが多々あるのであるから、弁護士が信頼関係に基づき相手方の協議を受けた事件を受任することを禁止する弁護士法25条2号の法意に照らして、見込顧客から、その信頼に基づいて、一定の相談に乗った場合には、その者を相手方とするような業務を行うことは慎むべきであるし、相談の際に知り得た情報について、第三者に漏洩したり損害を与えかねない方向で利用することは許されないというべきである。
イ そして、原告らは、令和3年3月当時、T社を含めた10数社の企業の株式を投資目的で購入することを検討していたところ、Kは、同月下旬頃から同年4月下旬頃までにかけて、企業買収や買収防衛に関する相当な実績を有するコンサルタント会社である被告の代表取締役副社長兼COOとして、Aと複数回にわたり面談し、原告らの課題が資金調達にあるとの相談を受けたことを踏まえて、本件提案書を示しながらT社の買収戦略に関する提案をしていたのであるから、原告らと被告との間には、相応の信頼関係があったといえ、被告は、原告らに対し、本件各注意義務を負う。
(被告の主張)
ア 金商法41条1項は、投資助言業務における忠実義務を規定するが、投資助言業務とは、投資顧問契約を締結し、当該契約に基づき助言を行うこと(同法28条6項、同条3項1号、2条8項11号)であるから、何らの契約も締結されていない原告らと被告との間の関係について、金商法41条1項を適用したり、その趣旨が及ぶとする原告らの主張は失当である。
イ また、金商法と弁護士法は、目的も趣旨も全く異なる法律であるから、本件に弁護士法25条2号の趣旨が及ぶとする原告らの主張も失当である。
ウ さらに、AがKに原告らの機密情報を共有したという事実はないから、原告ら(A)と被告(K)との間に信頼関係が構築されていたとはいえず、このような点からも本件各注意義務の存在は否定されるべきである。
(2)被告が本件各注意義務に違反したか(争点2)。
(原告らの主張)
ア 被告は、原告らの同意なく無断で、本件契約を締結して、T社のためのコンサルタント業務を行い、本件注意義務①に違反した。
イ また、被告は、Aから、原告らの課題が資金調達にあることを伝えられていたところ、T社のコンサルタントとして、原告C社には継続企業の前提に重要な疑義が存在し、外部からの資金調達が困難であると推察されることや原告C社の新株予約権の行使により調達した資金をT社株式の急速な買集めの原資としており、そのような新株予約権を行使した者の中にT社株式の買増しを開始した同一と思われる株主が確認されているなど、資金の流れが不透明であることを記載した本件資料を作成し、これをT社の株主に広く頒布したのであるから、本件注意義務②及び同③に違反した。
(被告の主張)
ア 被告が本件契約を締結してT社のためのコンサルタント業務を行ったことは認めるが、上記(1)のとおり、そもそも、被告は、原告らに対し本件各注意義務を負っていないから、被告が本件注意義務①に違反したことは否認ないし争う。
イ また、被告は、上記(1)ウのとおり、公開情報に基づいて本件資料を作成したにすぎず、本件注意義務②及び同③にも違反していない。
(3)原告の損害の有無及びその額(争点3)
(原告らの主張)
ア 原告C社は、被告がT社の株主に本件資料を広く頒布したことで経済的信用を毀損されたのであり、その損害額は、5000万円を下らない。
イ 原告F社は、被告が原告らの機密情報を利用してT社のためのコンサルタント業務を行ったことによって、T社の買収に失敗し、保有していたT社株式につき、取得価額を大きく下回る価額で売却せざるを得なくなったのであり、16億2512万9876円の株式売却損が発生した。
(被告の主張)
いずれも否認ないし争う。
なお、原告F社は、投資会社として、自らの判断でT社株式を急速かつ大量に市場買付し、T社による買収防衛策が最高裁により是認されたことを受けて、自らの判断でT社の買収を断念し、保有していたT社株式を売却したのであるから、すべて原告F社の投資判断による自己責任であって、原告F社に発生した株式売却損と被告の行為は全く無関係である。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実及び後掲各証拠等によれば、以下の事実が認められる。
(1)T社株式の取得前の原告らの財務状況等
ア 原告C社は、第86期(平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度)の連結決算から、第100期(平成31年4月1日から令和2年3月31日までの事業年度)の連結決算まで、連続して経常損失及び当期純損失を計上しており、同期間に係る全ての有価証券報告書に、継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような状況が存在している旨の注記が記載されていた。第101期(令和2年4月1日から令和3年3月31日までの事業年度)の有価証券報告書においても、同様に継続企業の前提に関する注記が記載されていたほか、現金及び現金同等物の期末残高は4億7421万7000円、流動資産の合計は44億9809万1000円であり、株式や新株予約権による直接調達等の方法により運転資金を確保して財政状態の健全化を図る旨が記載されていた。実際、原告C社は、令和3年4月12日、同年2月24日から同年4月9日までの間に、「▲▲▲▲」と称する人物による2万3000個の新株予約権(1個当たり4500円であるため、総額1億0350万円となる。)の行使を含む合計34万2000個の新株予約権(総額15億3900万円)の行使を受けて資金調達をしていた。(乙8、14、原告ら代表者・25、26頁)
イ もっとも、原告C社は、同年6月30日、原告C社の子会社が蓄電池の売買取引に関し架空循環取引を行っていたことが判明したため、最大約68%の減少を伴う過年度の連結売上高の訂正をした。これを受けて、東京証券取引所は、同年8月7日、同取引所第二部に上場されていた原告C社の株式について、特設注意市場銘柄に指定した。(乙11)
(2)T社の臨時株主総会の開催に至るまでの経緯
ア 前提事実(2)イのとおり、原告F社は、令和3年4月2日にT社株式を取得して以降、T社株式の取得を急速に進めていたところ、T社は、同年8月6日、原告らによるT社株式の買集めを踏まえて、会社の支配に関する基本方針を策定し、当該方針に照らして不適切な者によるT社の財務及び事業の方針決定が支配されることを防止するための取組みとして、T社株式の大規模買付行為等への対応策、すなわち大規模買付者が従うべき手続(必要情報の提供など)を定めるとともに、大規模買付者がこれを遵守しない場合に差別的行使条件等が付された新株予約権の無償割当という対抗措置を発動することを決定した(乙3)。
イ 同月27日、T社の代表取締役社長が原告C社の本社でAと面談した。その際、Aは、原告F社によるT社株式の保有について、長期保有を前提として、株主の権利を適切に行使し、キャピタルゲインを得ることが目的であるなどと説明した。(弁論の全趣旨)
ウ T社は、同月30日、取締役会において、原告F社による大規模買付に対する買収防衛策として、新株予約権の無償割当(本件無償割当)を実施するための臨時株主総会を開催することを決議した。なお、原告らは、同年9月17日、上記取締役会決議に係る新株予約権の無償割当の差止めを求める仮処分を申し立てたが、東京地方裁判所は、同年10月29日、これを却下する旨の決定をし(同裁判所令和3年(ヨ)第20130号)、同却下決定に対する原告らの抗告に係る同年11月9日付け棄却決定(東京高等裁判所令和3年(ラ)第2391号)及び同棄却決定に対する原告らの特別抗告等に係る同月18日付け棄却決定(最高裁判所令和3年(ク)第1046号、同(許)第15号)を経て、原告らの上記申立ての却下が確定している。(乙5)
(3)被告に関する報道等
ア 令和4年11月10日、大手経済雑誌のオンライン記事として、Kが原告らに対して脱法的なT社の買収計画(前提事実(2)アのウルフパック戦術)を提案する一方、被告がT社の買収防衛アドバイザーに就任しており、被告とKの行動は、マッチポンプ(一般的な定義として、不当な利益を得る目的で、意図的に自分で問題を起こして自分でもみ消すこと又はそれを行う人を指す。)であると疑われる旨の報道がされた(甲7、弁論の全趣旨)。
イ これに対し、Aは、「A×××××××」と称するFacebookアカウント(以下「本件アカウント」という。)において、同月13日頃、上記アの報道記事を引用の上、概要、KからT社の買収に関する提案を受けたことは事実であるが、Kによる同提案の時点で、既に一定数のT社株式を保有しており、日々相場を観察しているため、KよりもAの方がT社株式の情報に精通しており、その提案に興味すら抱かず採用もしなかったこと、マッチポンプを恐れていたことから、大手企業を使わず、被告などの第三者による買収助言を受けてもいなかったこと、被告がT社の臨時株主総会に向けた委任状争奪戦(プロキシーファイト)に協力したことについて、利益相反(コンフリクト)などなく、原告らがT社株式の買収に失敗したことと被告は関係がないことなどを内容とする投稿(以下「本件投稿」という。)をした(乙7、30ないし34)。
なお、上記認定事実に対し、原告らは、Aが本件投稿をしたことを否認し、Aも、原告ら代表者尋問においてそれに沿う供述をする。しかしながら、本件アカウントが本名での利用が求められるFacebook(乙23)において、Aの名前と一部一致する「A×××××××」を称していること、乙7の画面上で本件投稿以外の見切れた部分に記載された職歴等や他の投稿がA自身のFacebookアカウントのものと完全に一致していること(乙17、24ないし27、原告ら代表者・13ないし17頁)などからすると、本件アカウントがAのものであることは否定する余地がない。そして、本件投稿の上記内容は、Aが、T社による買収防衛策の発動(前提事実(2)エ、認定事実(2)ウ)に関し、令和3年10月18日に配信され、自身のFacebook上で周知までしていたオンライン記事において被告に関し一切言及しておらず(乙37、38、40)、原告らによる新株予約権の無償割当の差止めを求める仮処分の申立てが却下されたこと(認定事実(2)ウ)に関しても、同月29日に自身のFacebook上において、「弱いから負けた」と投稿するのみで(乙28)、相変わらず被告に関し一切言及していないことと整合しているものであって、その他、乙7の体裁に不自然な点が特段見当たらないことも踏まえると、乙7の成立の真正を否定することはできず、本件投稿をしたのがAであると優に認めることができる。
ウ 一方、被告は、同年12月8日、上記アの報道記事に関する事実関係の解明等を目的として、被告及びその関係企業から独立した中立かつ公正な外部専門家のみで構成された第三者委員会を設置した(乙29)。
同第三者委員会は、令和5年3月7日、概要、①Kが原告らに対しT社の買収を提案したと認められ、②その提案が被告の代表取締役副社長の業務執行として行われた可能性が高いと認められるが、③Kを除く被告の経営陣が本件契約の締結に際して、Kにより上記①の提案がされていたことの認識を有していたとは認められないし、Kがマッチポンプの意思を有していたとも認められない、④ただし、上記①の提案により原告らのT社を買収する意思が惹起された可能性を完全に否定することはできず、一連の外形を見れば、マッチポンプを行っているかのような状況が生じていたことは否定できないなどと記載された調査報告書を公表した(甲8〔22ないし26頁〕)。
2 争点1(被告が原告らに対し本件各注意義務を負うか。)について
(1)原告らは、原告ら(A)と被告(K)との間に一定の信頼関係が構築されていたことを前提として、金商法36条1項及び41条並びに弁護士法25条2号を適用ないし参照して、被告が原告らに対し本件各注意義務を負うと主張するのに対し、被告は、かかる注意義務の存在をいずれも否認ないし争う。
(2)ア そこで検討するに、まず、T社と被告との間における本件契約の締結に先立ち、AとKが複数回の面談をしたことについては、回数及び時期を除いて当事者間に争いがないところ、原告らの主張においても、かかる面談は、3回実施されたにとどまるのであって、被告が、企業買収に関するコンサルティング業界において著名な企業であり、買収防衛策の策定等に関しても著名な存在であることからすると(甲7、原告ら代表者・3頁)、秘密保持契約を締結することもなく(弁論の全趣旨)、Aが、被告の代表取締役副社長兼COOであるKに対し、原告らの機密情報を伝えるとはにわかに考え難い(原告ら代表者・8、9頁参照)。実際、1回目の面談が終了した後に作成された本件提案書にも、原告らの具体的な資金調達の状況については一切言及した形跡はなく、その内容はウルフパック戦術という一般的な戦術論に終始しているのであって(甲8・17、18頁)、このことも、AがKに原告らの機密情報を伝えていないことを推認させる。そもそも、原告F社は、AとKが初めて面談をした時期と近接した同年4月2日にT社株式の取得を開始しているもので(前提事実(2)イ)、AとKが面談した時点において、もはや、原告らは、買収戦略といった根幹的な内容につきコンサルティングを受ける段階にはなかったというべきであり、このような状況下で、被告の代表取締役副社長兼COOであるKに原告らの機密情報を伝えたとはやはり考え難い。
そして、被告のマッチポンプ疑惑の報道(認定事実(3)ア)がされた後、Aが、上記報道の記事を引用の上、同(3)イのとおりの本件投稿を行っているもので、これは、AがKに原告らの機密情報を伝えていないことを端的に示す内容であるといえる。
以上のとおり、そもそも、Aが、Kに対し、原告らの機密情報を伝えたものとは認められないから、それを前提とする本件各注意義務の存在については、いずれも認められない。
イ また、前提事実(2)ウのとおり、T社が作成した本件資料には、原告C社について、継続企業の前提に重要な疑義が存在し、外部からの資金調達が困難であると推察されること(同①)や、原告C社に新株予約権を行使し、原告らによるT社株式の買集めの資金を提供したと推察される者と同一と思われる人物がその直後にT社株式の買増しを開始しており、資金の流れが極めて不透明であること(同②)が記載されているところ、上記①については、認定事実(1)ア、イの原告C社の有価証券報告書の記載と、東京証券取引所による原告C社株式の特設注意市場銘柄の指定などの公開情報から容易に推察できる内容といえる。また、上記②についても、原告C社が同年4月12日に開示した新株予約権の行使者中、2万3000個の新株予約権を行使して、1億0350万円の資金を提供した「▲▲▲▲」と称する人物(認定事実(1)ア)と同姓同名の人物が同年9月14日時点で、0.41%のT社株式を保有して、T社の大株主(上位20名)に数えられており(乙4〔10頁〕、15〔10頁〕)、公開情報である原告C社の新株予約権の行使者とT社の保有する株主情報を突合することで容易に推察することができる内容といえる。
そうすると、仮に、AとKとの面談において、被告が上記①及び②の情報を把握したとしても、上記のとおり、上記各情報は公開情報から容易に推察できる内容であることからすると、かかる情報を把握したことから、T社のコンサルタント業務を行わないという義務(本件注意義務①)、かかる情報を他の目的に利用してはならない義務(本件注意義務②)及び同情報を利用するなどして原告らの信用を毀損しない義務(本件注意義務③)が生じる余地はないというべきであって、このような観点からも、本件各注意義務の存在を認めることはできない。
(3)したがって、被告が原告らに対し本件各注意義務を負うということはできず、他に同義務の存在を認めるに足りる的確な証拠はない。
第4 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第4部
裁判長裁判官 西村康一郎
裁判官 大谷恵子
裁判官 篠原優斗
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