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解説記事2026年02月09日 巻頭特集 貸付用不動産の評価方法の見直し(2026年2月9日号・№1110) ~見直しのポイントと適用対象等の具体像に迫る~

巻頭特集
貸付用不動産の評価方法の見直し
~見直しのポイントと適用対象等の具体像に迫る~
 税理士・埼玉学園大学大学院客員教授 香取 稔

Ⅰ はじめに

 令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正の大綱(以下「大綱」という。)では、貸付用不動産の評価方法の見直し(以下「本件見直し」という。)が行われることが明らかにされた。
 本件見直しは、一見すると降って湧いたような話と思われる方もいるかもしれない。しかしながら、総則6項の適否に関する最高裁令和4年4月19日判決(以下「令和4年最判」という。)後、相続税の節税メリットを謳った不動産小口化商品に関する日本経済新聞の記事(令和4年8月29日朝刊)の中で、取材を受けた課税庁幹部は、「興味深く注視している」と問題意識を示していた。そして、東京高裁令和6年8月28日判決が、取引相場のない株式の通達評価額(評価通達に定める方法により評価した価額をいう。以下同じ。)と時価との間に大きな乖離があったものの租税負担の軽減行為が認められなかった事案について総則6項の適用を否定したことなどから、課税庁は不動産小口化商品を利用した節税事例を集積し、それ以外の貸付用不動産を含めて本件見直しに至ったものと思料する。  
 本稿では、現時点において明らかになっている情報等を基に本件見直しの背景、内容及び影響を確認した上で、本件見直しと類似の制度である旧措置法69条の4《相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算特例》を参考にするなどして、その適用対象等の具体像に迫る。

Ⅱ 本件見直しの背景

1 相続税法における時価の考え方
 相続税法では、地上権等の特定の財産は個別に評価方法が規定されているが(相法23~26)、それ以外の財産の価額は「時価」により評価することのみを規定し(相法22)、その評価方法は、相続税又は贈与税(以下「相続税等」という。)の課税目的を踏まえた上での法の解釈・運用に委ねられている。
 しかしながら、それでは課税実務が回らないことから、課税庁は、課税の公平を確保する観点などから評価通達において個々の財産の評価方法を定めている。 
 なお、相続税法22条に規定する「時価」とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいい(令和4年最判)、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解されている(東京高裁平成27年12月17日判決、金子宏『租税法(24版)』・734頁・(株)弘文堂)。 
 
2 通達評価額と時価との間の大きな乖離を利用した相続税の節税策への対応
(1)評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》

 相続税実務においては、評価通達に定める評価方法を逆手にとって、相続財産に占めるウェートの高い不動産や取引相場のない株式などを用いた節税策が行われており、こうした節税策に対し課税庁は、その財産を通達評価額によるのではなく、評価通達6(以下「総則6項」という。)を適用したところで相続財産を時価評価し、課税処分を行ってきた(図表1参照)。

(2)令和4年最判のポイント
 令和4年最判は、貸付用不動産の価額を通達評価額で申告した事案(図表2参照)について、総則6項を適用し鑑定評価額で評価したところで行われた課税処分の適否に関し、概ね次のとおり判示している。

ア 評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ通達評価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。
 ・ 相続財産の価額を通達評価額によること又はその例外(総則6項の適用)が認められることの根拠を法の執行段階における平等(取扱)原則に求めた。
  なお、平等原則とは、憲法14条「すべての国民は法の下に平等」に由来する租税法上の一般原則である。金子宏先生は、平等原則は法の執行段階においても妥当し、一例として、「特定の土地についてのみ近隣の同一条件の土地に比して高く評価することは、たとえ評価額が時価の範囲内であるとしても平等取扱原則に反して違法である」旨述べている
(前掲金子・96頁、739頁)。
イ 相続財産の価額を通達評価額によると実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、当該財産の価額を通達評価額を上回る価額によっても(総則6項を適用しても)平等原則に違反しないが、当該財産の通達評価額と時価との間に大きな乖離があることをもって当該事情があるということはできない
 ・ 相続財産の価額を通達評価額によると実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、総則6項を適用しても平等原則に反しないが、相続財産の通達評価額と時価との間に大きな乖離があることだけでは、当該事情があるとはいえないから、総則6項の適用は違法となる。
ウ 本件においては、①被相続人等による一定の行為の結果、相続財産の価額を通達評価額によると客観的に租税負担が著しく軽減されていること及び②その一定の行為が租税負担の軽減をも意図して行われていることから、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情に当たり、平等原則の例外(総則6項の適用)が認められる合理的な理由がある。
 ・ 被相続人らによる一定の租税負担の軽減行為が行われている場合には、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たる(総則6項の適用が是認される。)。
   ただし、令和4年最判は、租税負担の軽減行為が認められた事案についての事例判決であるから、租税負担の軽減行為が認められなければ「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たらないとまで判示したわけではないことに留意が必要である。

(3)実質的な租税負担の公平に反するというべき事情
 令和4年最判の最高裁判所調査官(以下「令和4年最判調査官」という。)は、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」について次のように述べている。
ア 相続財産の通達評価額と時価との間に大きな乖離があることをもって当該事情があるとはいえない点(2)イの下線部分参照)に関して、「客観的な交換価値としての時価は一義的なものではなく、その評価方法も複数あり得るところ、評価方法が異なれば、それぞれの方法が合理的であっても評価額に違いが生ずるのは当然であり、同様な乖離は類似の不動産にも広く存在し得る。実質的な租税負担の公平という観点からは、これを相続する潜在的な他の納税者と同じく通達評価額によったとしても租税負担の均衡が害されることはなく、むしろ、当該納税者についてのみ通達評価額を上回る価額によることは不合理というべきである。このような乖離は、本来、評価通達の見直し等によって解消されるべきもの」であり、「この考え方によれば、実勢価格等が通達評価額の何倍であるといった主張立証には意味がない(主張自体失当である)ことになる。」(山本拓「法曹時報75巻12号」189頁、199頁(一社)法曹界)
 ・ 潜在的な他の納税者が相続する財産にも広く存在し得る事情、具体例を挙げれば、一般にタワマンの通達評価額と時価との間に大きな乖離が生じているが、それだけでは実質的な租税負担の公平に反するというべき事情に当たらないと、その問題は、評価通達の改正で対応するよう示唆している。
イ また、租税負担の軽減の意図が要求されている点(2)ウの下線部分参照)について、「このような意図すら有していない納税者が、たまたま生じた租税負担の軽減の結果、当該財産の価額を通達評価額を上回る価額によるものとされることを予測するのは困難といえるのであり、上記意図は、納税者の予測可能性を確保する観点から要求されているものと解される。」(前掲山本190頁)。
 ・ この結果、例えば、相続開始後に相続財産を納税、遺産分割その他の理由により売却することは、そのこと自体稀有な事情ではないし、その売却により通達評価額を上回る価額で現金化することができたとしても、その財産の価額を通達評価額によることが他の納税者との間の租税負担の均衡を害することになる事情に当たらないこととなる。

3 不動産を用いた相続税の節税策と評価通達の定め
(1)総則6項の適用による対応の限界

 課税庁では、不動産の通達評価額と時価との間の大きな乖離を利用した相続税の節税策に対しては、あらたにマンション通達の制定や総則6項を適用して是正を図ってきたところである。
 しかしながら、総則6項を適用するためには相当程度のコストを要することから、結果的に氷山の一角しか是正できず、個別対応の限界が露呈していた。加えて、裁判において総則6項の適用が是認されたのは、いずれも租税負担の軽減の意図が認められたものであるから、例えば、相続開始又は贈与の直前に被相続人又は贈与者(以下「被相続人等」という。)が借り入れをすることなく手持ちの現預金を元手にタワマンや不動産小口化商品を取得していたとしても(図表3参照)、その意図の認定が壁となって総則6項の適用自体を躊躇せざるを得ない状況に陥っていた。

(2)現行の貸付用不動産の評価方法の矛盾
ア 現行の評価通達では、貸付用不動産の評価方法を次のとおり定めている。
 ① 家屋  
   課税時期において貸家の用に供されている家屋の価額は、次の算式により計算した価額により評価する(評基通93)。
   貸家の価額=家屋の固定資産税評価額(A)− A × 借家権割合30% × 
 ② 宅地
   課税時期において貸家の敷地のように供されている宅地(貸家建付地)の価額は、次の算式により計算した価額により評価する(評基通26)。
   貸家建付地の価額=自用地としての価額(B)− B × 借地権割合 × 借家権割合30% ×
イ 上記アのような評価方法を採用している結果、共同住宅のような収益物件の価値は、賃料収入に基づく収益還元利回りによって形成され、常に満室で高収入が得られる物件ほど資産価値は高くなるという取引の実態があるにもかかわらず、評価通達では、空室が少ないほど(賃貸割合が高いほど)低く、空室が多いほど(賃貸割合が低いほど)高く評価されることになっていた(図表4参照)。

 また、固定資産税における家屋の評価は、再建築費から経過年数、破損状況、需給事情の変化等に応じた減価額を控除して算出した価額を基として評価する方法(原価法)が採られており、収益性が加味されていない。したがって、家屋の固定資産税評価額は、家屋の所在場所が異なっても、構造及び築年数等が同一の家屋は同一の評価額が付されるため、上記ア①のAの価額には、家屋の所在場所が反映されていなかった。

Ⅲ 本件見直しのポイント等

1 大綱の記述(大綱52頁から抜粋)

(4)相続税等の財産評価の適正化
  相続税法の時価主義の下、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、その取引実態等を考慮し、次の見直しを行う。
① 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。
(注)上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができることとする。
② 不動産特定共同事業契約又は信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産については、その取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。
 (注)上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、出資者などの求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格・買取価格等、事業者等が把握している適正な売買実例価額又は定期報告書等に記載された不動産の価格等を参酌して求めた金額によって評価することができることとする。ただし、これらに該当するものがないと認められる場合には、上記①に準じて評価(取得時期や評価の安全性を考慮)する。
(注)上記の改正は、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用する。ただし、上記①の改正については、当該改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る。)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含む。)には適用しない。

2 本件見直しのポイント
(1)貸付用不動産

 被相続人等が課税時期(相続開始又は贈与)前5年以内に有償により取得又は新築(以下「取得等」という。)した一定の貸付用不動産(次の(2)の不動産小口化商品を除く。)については、「通常の取引価額に相当する金額」によって評価する。
 なお、上記の評価に際しては、次の点に留意する必要がある。
① 一定の貸付用不動産には、マンション通達の対象となるものを含む。
② 通常の取引価額に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得した貸付用不動産の取得価額等を基に、建物は課税時期までの間の減価償却(定額法)などによる減価を考慮し、土地は課税時期までの間の地価変動などを考慮し、それぞれ計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができる。
  これを算式で示すと概ね次のとおりである。
 ア 建物の通常の取引価額に相当する金額=(取得価額等−償却費相当額等)×80%
 イ 土地の通常の取引価額に相当する金額=取得価額等×地価変動率等×80%
③ 本件見直しを受けて発遣する評価通達で定める日(以下「本件基準日」という。)までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る。)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含む。)は、評価通達(評基通93)の定めにより評価することができる(この措置を以下「本件経過措置」という。)。
(2)不動産小口化商品
 貸付用不動産のうち不動産小口化商品(匿名組合型のものを除く。以下同じ。)は、その取得時期にかかわらず、「通常の取引価額に相当する金額」によって評価する。
 この通常の取引価額に相当する金額とは、課税上の弊害がない限り、次の①から③に掲げる価格等(以下「本件各価格等」という。)を参酌して算定することができる。
① 出資者等の求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格・買取価額等
② 事業者等が把握している適正な売買実例価額
③ 定期報告書等に記載された不動産の価格
 ただし、上記①から③に該当するものがないと認められる場合には、上記(1)に準じて評価(取得時期や評価の安全性を考慮)する。具体的には、被相続人等が課税時期前5年以内に取得したものは課税上弊害がない限り、取得価額を基に地価変動などを考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額、5年より前に取得したものは従来通り路線価等を基にした評価額が通常の取引価額に相当する金額となる。
 なお、本件改正の対象とならない匿名組合型のものは、課税時期においてその匿名組合契約が終了したものとした場合に出資者である匿名組合員が分配を受けることができる清算金の額に相当する金額により評価(純資産価額方式に準じて評価)する。
(3)適用時期
 原則として令和9年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与(以下「相続等」という。)により取得する財産の評価に適用される。

Ⅳ 本件見直し後のシミュレーション

 本件見直しによって相続税等の課税価格に算入される貸付用不動産の価額がどの程度の影響を受けるか、事例に基づいてシミュレーションを行った結果は次のとおりである。
 なお、小規模宅地等の特例を加味したところで算定しているが、大綱では、同特例の改正に触れた箇所は見当たらず、また、本件見直しは、貸付用不動産の評価方法の見直しであって、課税価格の計算特例を定めたものでもない。したがって、本件見直しの対象となる貸付用不動産については、原則としてその貸付事業が開始されてから3年後に相続が開始していた場合には、その他所定の要件を満たす限り小規模宅地等の特例の適用が認められると解される。

Ⅴ 適用対象等の具体像に迫る

 本件見直しは、原則として令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産の評価に適用されるから、それまでに対策を講じる余地がある。しかしなから、本件見直しの具体像は、パブリック・コメントが実施されないと明らかにならないので、対策を立てようがないともいえるが、それを待っていて手遅れになる事態などは避けたいところである。
 そこで、本件見直しに伴う対策に資するために、既に廃止されているが本件見直しと類似の制度である旧措置法69条の4を参考とするなどし、以下質疑形式でその適用対象等の具体像に迫る。
※ 旧措置法69条の4の概要
 旧措置法69条の4は、「税制改革についての中間答申」(昭和63年4月)において、「不動産の実勢価額と相続税評価額とに開きがあることに着目して、借入金により不動産取得を行うという形での相続税の税負担回避行為が横行していると指摘されている。こうした状況にかんがみ、(中略)、負担の公平を確保する観点から、こうした税負担回避行為に対する歯止め措置を講ずるこそが必要であると考える。」旨の答申を受けて、昭和63年法律第109号により制定されたものである。
 その制度の概要は、個人が相続若しくは遺贈により取得した財産又は個人が贈与により取得した財産で相続税法19条の規定の適用を受けるもののうちに、当該相続又は同条の相続の相続開始前3年以内にこれらの相続又は遺贈に係る被相続人が取得等をした土地建物等がある場合には、当該個人が取得等をした当該土地建物等については、同法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額又は同法19条の規定により当該相続税の課税価格に加算される贈与により取得した財産の価額は、同法22条の規定にかかわらず、当該土地建物等に係る取得価額で評価するものである。
 しかしながら、旧措置法69条の4は、その後、相続開始前に土地等を取得して相続税の負担軽減を図ろうとする行為が見受けられなくなったことから、平成8年度の税制改正により廃止されている。

1 貸付用不動産の取得の日
[売買契約日or引渡日]

Q1 本件見直しの対象となる貸付用不動産(不動産小口化商品を除く。以下同じ。)は、被相続人等が課税時期前5年以内に取得等したものに限られるが、その取得等の日とは、譲渡所得の取扱いにならい次の区分に従ってその売買等の契約の効力発生日と解してもよいか。 
 ① 売買により取得した場合 売買契約締結日
 ② 請負契約により家屋を新築した場合 請負契約締結日
A 本件見直し後は、相続税等の課税財産である貸付用不動産の取得等の日の判定が重要となる。
  ところで、譲渡所得の課税上、他から取得した資産の取得の日は、引渡しがあった日とされているが、資産の取得に関する契約の効力発生の日による申告があったときは、これを認める取扱いが行われている(所基通33−9(1)、36−12)。
  しかしながら、本件見直しの対象となる貸付用不動産とは、相続税等の課税財産であることからすると、被相続人等がその引渡しを受けて確定的に貸付用不動産の所有権を取得等しているものであって、その引渡前は貸付用不動産ではなく引渡請求権である。 
  したがって、その取得の日とは、貸付用不動産の引渡しを受けた日ではないか(旧措通69の4−3)。

2 本件基準日において建築中の家屋
[建築中の家屋とは]

Q2 本件経過措置により本件基準日において被相続人等が所有している土地(同日の5年前から所有しているものに限る。)の上に建築中の家屋については、その家屋が完成した後、相続等が生じた場合、現行の評価通達の定めにより評価できるが、同日において「建築中」とは、建築請負契約を締結しているだけでは足りず、実際に建築工事に着工しているものをいうのか。
A 建築中の家屋とは、一般に建物の建築に着工したものをいうから、本件基準日において既に建築工事に着工しているものが本件経過措置の適用対象となるのではないか。   
  なお、本件経過措置は納税者の予測可能性に配意したものと解されるが、工事請負契約では、民法上特約がない限りその着工前であれば注文者が当該契約を解除しても請負人は注文者に対して報酬請求権を有しないと解されていることから(民法634)、単に工事請負契約を締結していたにすぎないものを排除したとしても予測可能性の問題は生じない。

3 適用対象不動産
[一定の貸付用不動産とは]

Q3 本件見直しの対象なる「一定の貸付用不動産」には、課税時期前5年以内に取得した土地を他人に駐車場敷地又は太陽光パネルの敷地として使用する目的で貸付けていたようなものも含まれるか。
A 大綱では、本件見直しの対象なる「一定の貸付用不動産」の意義が明らかにされていないので確かな回答はできない。
  しかしながら、本件見直しは、現行の貸家及び貸家建付地の評価方法自体(自用の価額から借家権及びその借家権に基づく敷地利用権(以下「借家権等」という。)に相当する金額を減額評価すること)に問題があることを受けて行われるものである。
  そうすると、「一定の貸付用不動産」とは、借家権等が生ずる可能性があるもの(共同住宅など)に限られ、その可能性がない駐車場敷地又は太陽光パネルの敷地として使用する目的で貸付けている土地は含まれないのではないか。
[未賃貸・空室の場合]
Q4 課税時期において貸付用不動産を取得等した後、まだ賃貸が開始されていなかったもの、あるいは長期間空室であったものについても本件見直しが適用されるか。
A 本件見直しが現行の貸付用不動産の評価方法(評基通26、93)を踏襲しているのであれば、課税時期において貸付の用に供されているものに限られる。
  しかしながら、本件見直しの目的は、賃貸割合にかかわらず貸付用不動産の評価の適正化を図るものである(図表4の線グラフをみると「市場価格」の線と「通達評価額」の線のそれぞれはじまり部分の貸付用不動産の価額(賃貸の割合が零(すべて自用)の価額)の乖離が最小であることから、その価額水準が本件見直しのベースとなるのではないか)。

  したがって、課税時期において賃貸されていなくても貸付目的で取得等したものは、本件見直しの対象となるのではないか。
[賃貸併用住宅]
Q5 賃貸併用住宅についても本件見直しの対象となるか。
A 賃貸部分に限り本件見直しの対象となるのではないか。この場合、賃貸部分と居住部分の区分は、家屋の床面積等により合理的に按分するのではないか。
[増築]
Q6 課税時期より5年前から所有していた共同住宅について課税時期前5年以内に増築をしていた場合も本件見直しの対象となるか。
A 増築は、既存の建物に新たな部分を付加し、床面積を増加せしめることであり、当該増加部分についてみれば、新築と同様であるから、増築部分については本件見直しの対象となるのではないか(旧措通69の4−4)。
[リフォーム工事]
Q7 Q6の共同住宅について課税時期前5年以内にリフォーム工事を実施していた場合も本件見直しの対象となるか。
A 本件見直しは、被相続人等が課税時期前5年以内に取得等した貸付用不動産を適用対象とするものであるから、その5年より前から所有していた共同住宅についてその5年以内に改良又は改造を行ったとしてもその対象外となるのではないか(旧措通69の4−5)。
[第一次被相続人の購入物件を第二次被相続人が相続により取得していた場合]
Q8 父と母が相次いで亡くなった。父は亡くなる直前に売買により貸付用不動産を取得しており、その貸付用不動産は母が相続したが、この度、母が亡くなった。
  その貸付用不動産は、母が亡くなる5年以内に亡父が売買により取得したものだか、母は相続により取得していることから本件見直しの対象外か。
A 本件見直しの趣旨は、被相続人等が課税時期前5年以内に有償で取得等をした貸付用不動産の評価の適正化を図るものであるから、直接の取得原因が相続であっても、亡父(第一次被相続人)が亡母(第二次被相続人)の相続開始前5年以内に売買により貸付用不動産を取得していれば、その対象に含まれるのではないか。
[収用代替資産]
Q9 旧措置法69条の4では、被相続人が収用等の補償金によって取得した代替資産などを適用対象外としていたから、収用等の代替資産などは本件見直しの対象外か。
A 本件見直しが仮に法律改正によって行われるのであれば政策的配慮から収用等の代替資産を除くことも可能だろうが、評価通達の改正により行われるので、対象外とすることは難しい(理屈が通らない)のではないか。
[同族会社が課税時期前3年以内に取得した土地建物等との関係]
Q10 評価会社の株式の価額を純資産価額方式(評基通185)で評価する場合において、評価会社が課税時期において所有する貸付用不動産や不動産小口化商品(以下「貸付用不動産等」という。)も本件見直しの対象となるか。
A 評価会社の課税時期における各資産は、原則として評価通達の定めにより評価されるが、例外的に課税時期前3年以内に取得等した土地建物等は通常の取引価額(評価の安全性は考慮できない。)により評価される。
  したがって、純資産価額方式の改正がない限り、評価会社が課税時期前3年以内に取得等した貸付用不動産等は通常の取引価額(評価の安全性は考慮できない。)により評価し、3年より前に取得等をしたものは本件見直し後の定めにより評価するのではないか。

4 取得価額等
[仲介手数料]

Q11 貸付用不動産の取得価額には、売買代金のほか仲介手数料の額も含まれるか。
A 本件見直しは貸付用の土地建物等そのものを通常の取引価額に相当する金額により評価するものだから、仲介手数料の額は含まれないのではないか(旧措通69の4−12)。
[土地建物の取得価額の区分]
Q12 貸付用の土地建物を一括取得したが、それぞれの譲渡代金が売買契約書に明示されていなかった場合、その取得価額はどのように按分すればよいか。
A 土地と建物の価額が売買契約において区分されており、かつ、その区分された価額がその取得時の価額としておおむね適正であればその価額により、区分されていない場合又は区分されていても適正であると認められない場合には、その取得時の通常の取引価額などの比により按分するのが合理的ではないか(旧措通69の4−17)。
[古家付き土地を取得した場合]
Q13 古家付きの土地を売買により取得し、その古家を取り壊し、新たに共同住宅を建てたが、その古家の取得価額は土地の取得価額に含めるのか。
A 古家を取り壊して土地を利用する目的で取得している場合には、買主が売主に対して古家を取り壊した上で土地の引き渡しを求めれば、土地の売買価額はその取壊費用を含んだ金額となるから、その古家の取得価額は、土地の取得価額に含めなければならないのではないか(旧措通69の4−15)。

5 通常の取引価額
[課税上の弊害がある場合]

Q14 貸付用不動産の価額は、通常の取引価額に相当する金額により評価されるが、「課税上の弊害がない限り」、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することが認められている(この評価方法を以下「取得価額等を基にした評価」という。)。
  課税上の弊害によって取得価額等を基にした評価ができない貸付用不動産とは、具体的にどのようなものか。
A 取得価額等を基にした評価は、その算式に照らせば、貸付用不動産を通常の取引価額によって取得等していることが前提条件であると解される。したがって、貸付用不動産の取得価額等が通常の取引価額を下回っていたもの(例えば、競売物件)は、取得価額等を基にした評価ができないのではないか。
  また、取得価額等を基にした評価額が、明らかに通常の取引価額を下回っているもの(例えば、京町家のように既に償却期間を徒過した物件を取得し、いわゆる簡便法により耐用年数を算定し減価償却をした結果、その評価額が固定資産税評価額を下回るもの)も同様ではないか。   
[事業者等が買取価格等を示さない場合]
Q15 不動産小口化商品の事業者等が出資者等に対して「出資者などの求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格・買取価格等……売買実例価額又は定期報告書等に記載された不動産の価格等」(これらの価格等を以下「本件各価格等」という。)を明らかにしなかった場合には、取得価額等を基にした評価ができ、課税時期より5年前に取得したものは従来通り路線価等を基にした評価ができるか。
A そもそも事業者等が販売済みの不動産小口化商品の通常の取引価額を把握していないこと自体、投資家保護等の観点から想定できない。
  また、現行の評価通達においても評価会社が課税時期前3年以内に取得等した土地建物等は通常の取引価額により評価することとされており(評基通185)、不動産小口化商品もその対象となっていることからすると、課税庁は、納税者が不動産小口化商品の通常の取引価額を把握できない事態を想定していないと考えられる。
  加えて、不動産小口化商品の価額は本件各価格等を「参酌」して評価することができるとされているわけだから、本件各価格等は通常の取引価額に相当する金額を単に例示したもの(限定列挙したものではない)であるとみるべきである。
  そうすると、事業者等が出資者等に対し本件各価格等を明らかにしなかったからといって、取得価額等を基にした評価又は路線価等を基にした評価が認められないと解される。したがって、不動産小口化商品の価額について取得価額等を基にした評価などができるケースは、極めて限定的に解するのが相当ではなかろうか。
[新築物件を取得した後に貸し付けた場合]
Q16 貸付用の新築物件を取得等した後、貸し付けた場合において、その通常の取引価額に相当する金額を取得価額等を基にした評価によって算定するときには、その取得価額等から借家権等に相当する金額を減額評価することが認められるか。
A 本件見直しの目的は、賃貸割合にかかわらず貸付用不動産の評価の適正化を図るものであるから、その取得価額等から借家権等の減額評価をすることはできないのではないか(Q4参照)。
[地価変動率の算定方法]
Q17 土地の取得時から課税時期までの間に地価変動があった場合には、それを考慮できるが、簡便的に路線価を基にその地価変動率を算定して差し支えないか。
A 路線価を基に地価変動率を算定することは一応の合理性を認めることができるが、例えば、地価が高い地域や高騰している地域に所在する土地については、路線価が公示価格の80%程度で評定され、また、端数調整がされたものであるから、路線価を基にその地価変動率を算定するのは相当ではない。
  したがって、評価対象地の存する地域と状況が類似する地域の公示地の価額等を基に地価変動率を算定すべきではないか。

6 その他
[年末までの駆け込み贈与]

Q18 令和8年末までに不動産小口化商品を駆け込み贈与した場合には、従来通り路線価等を基にした評価額で贈与税の申告をして差し支えないか。
A 贈与者が不動産小口化商品を取得した後、直ちに贈与し、受贈者がそれを換価しているような場合には、金員を一時的に商品に変えて贈与したと認定されるおそれがあり、総則6項が適用されるリスクがあるのではないか(東京地裁平成4年3月11日判決)。
[匿名組合型の不動産小口化商品]
Q19 本件見直しの対象から匿名組合型の不動産小口化商品が除外されているから、任意組合型等に比し評価上有利となるか。
A 匿名組合型の不動産小口化商品の価額は、課税時期においてその匿名組合契約が終了したものとした場合に、匿名組合員が分配を受けることができる清算金の額に相当する金額により評価され、その清算金の額を算出するに当たっては、純資産価額方式を準用して評価される(法人税等相当額を控除不可)。
  そして、純資産価額方式で評価会社の株式等を評価する場合にも本件見直しが適用されるから、匿名組合型が任意組合型等と比べて評価上有利となることはないのではないか(Q10参照)。
[鑑定評価額に基づく申告]
Q20 貸付用不動産等の価額を取得価額等を基にした評価によらず不動産鑑定評価に基づき評価して申告をした場合、仮に、その鑑定評価が不動産鑑定評価基準に準拠した方法により行われており、それにより算出された価額(以下「本件鑑定評価額」という。)が客観的交換価値として評価し得るものであれば、当該価額は認容されるか。
A 不動産鑑定士が不動産鑑定評価に基づき算定する「正常価格」とは、客観的な交換価値をいうが(東京地裁令和元年8月27日判決)、これは評価的概念であり、その鑑定評価は、一義的に算出され得るものではなく、性質上、その鑑定評価には一定の幅があると解されている(最高裁平成25年7月12日判決須藤裁判官補足意見)。
  そして、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的交換価値としての時価を上回らない限り、相続税法22条に違反するものではないと解されている(令和4年最判)。
  したがって、本件鑑定評価額による申告を認めてもらうには、本件鑑定評価額の正当性のみならず取得価額等を基にした評価により算定した金額が相続税法22条の時価を上回っていることを立証しておく必要があると考える。

香取 稔 (かとり みのる)
国税庁資産課税課において相続税の審理(通達の制定等)に従事した後、東京地方裁判所行政部調査官、東京国税局課税第一部資産評価官、同資料調査第2課長、高松国税不服審判所長を経て、現在、税理士・埼玉学園大学院客員教授(経営学研究科)。
(主な著作)
・「令和5年改訂版 相続税重要項目詳解」 大蔵財務協会 2023年
・「新判 事例で学ぶ土地・株式等の財産評価」 清文社 2023年
・「マンション節税と相続税のシミュレーション」(共著) ぎょうせい 2023年

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