解説記事2026年02月16日 ニュース特集 評価通達6項の適用をめぐる最近の裁決事例を読み解く(2026年2月16日号・№1111)
ニュース特集
株特外し、多額の借入金を原資とする不動産購入等で6項を適用
評価通達6項の適用をめぐる最近の裁決事例を読み解く
最高裁判決を受けて国税庁が評価通達6項に関する事務運営指針を令和4年7月に各国税局等に発遣したことにより、同項の適用件数は増加傾向にある。その件数は令和4事務年度では6件(不動産3件、非上場株式3件)、令和5事務年度では11件(不動産5件、非上場株式6件)に上っている。税務調査における指摘により修正申告に応じる納税者がいる一方で、評価通達6項が適用された課税処分を不服としてその取消しを求める審査請求や訴訟提起が複数発生しているなか、本特集では、審査請求に発展して国税不服審判所の裁決が下された最近の裁決事例を2つ紹介する。1つは非上場株式の評価に評価通達6項が適用されたもので、いわゆる「株特外し」が問題となったものである。そしてもう1つは、金融機関からの多額の借入金を原資とする不動産購入等に対して評価通達6項が適用されたものである。いずれの事案も金融機関担当者とのやり取りや書類(稟議書)などをもとに被相続人や相続人の相続税の負担軽減の意図などが認定されるなどしたうえで評価通達6項を適用した課税処分が適法と判断されている。
借入れを原資とした資産取得で株特外し実現後に、株式を孫に贈与
最初に紹介する裁決事例は、非上場株式の評価についていわゆる「株特外し」に対して評価通達6項(総則6項)が適用されたものである(事案の概要は図表1参照)。

本事例のように取引相場のない株式(非上場株式)を発行する評価会社が中会社に該当する場合には、評価通達179の(2)の定めによる類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式を適用することができる。
一方で、評価会社が「株式保有特定会社」(評価通達189の(2))に該当する場合には、原則として純資産価額方式(評価通達185)により評価されることになる(評価通達189−3)。なお、株式保有特定会社とは、評価会社の有する資産の通達評価額の合計額のうちに占める株式等の割合が50%以上である評価会社のことである(評価通達189の(2))。
本事例における評価会社であるA社は、平成23年6月における株式保有割合は95.2%であり、50%以上であることから株式保有特定会社に該当していた。なお、A社は株主が被相続人の親族のみで構成されている資産管理会社である。
ところが、平成24年12月から平成27年7月にかけて金融機関(銀行)からの借入れを原資として土地及び土地上の建物に係る信託受益権、航空機リース事業に係る任意組合に対する出資等(本件各資産)を取得したことにより、平成28年3月にはA社の株式保有割合は43.0%に低下した。本件各資産の取得後にいわゆる「株特外し」が実現したわけだ。
税務署は株特外しに評価通達6項を適用
被相続人とその孫である請求人孫は、A社の株式保有割合が43.0%となった平成28年3月に被相続人が所有するA社(発行済み株式総数は200株)の株式190株(本件贈与株式)を請求人孫に贈与(本件贈与)する旨の贈与契約を締結した。なお、贈与契約の締結などの手続きや後述する申告手続きおよび納税資金の準備などは被相続人の長男(請求人孫の父)である請求人長男が行っていた。
請求人孫は、A社は株式保有特定会社に該当せず中会社に該当するとして、純資産価額方式と類似業種比準方式の併用方式(評価通達179の(2))により評価して贈与税の期限内申告をした(相続時精算課税制度を選択)。そして被相続人の相続が開始した際に請求人孫は、相続税の課税価格を自身が遺言により取得(相続)した財産の価額及び相続時精算課税適用財産(本件贈与株式)の価額(贈与税申告の際と同額)であるとして相続税の期限内申告を行った。
これに対し税務署は、令和3年12月に開始した税務調査のなかで、本件贈与株式を評価通達の定めによって評価することが著しく不適当であるとして、本件贈与株式の価額を評価通達6項の定めにより国税庁長官の指示を受けて評価した。具体的に税務署は、X社作成の株式価値算定書(修正簿価純資産法で対象会社(A社)の株式価値を算定)に記載された評価額を採用して令和6年3月に相続税更正処分等を行った。
これを不服とした請求人長男及び請求人孫は、審査請求のなかで、A社による本件各資産の取得の意思決定に当たり被相続人及び請求人長男には租税負担の軽減の意図はなく、本件贈与株式の価額を評価通達の定めによって評価した価額を上回る価額とすることについて合理的な理由は存在せず、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するから本件における評価通達6項の適用は違法であるとして、相続税更正処分等の取消しを求めた。
「租税負担の軽減の程度」及び「軽減の意図」があったか否かを検討
審判所は、最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決における法令解釈(図表2参照)に沿った解釈を示したうえで、A社による本件各資産の取得により租税負担がどの程度軽減されるか及び本件各資産の取得の意思決定に当たり被相続人及び請求人らに租税負担の軽減の意図が存していたか否かについて検討する必要があるとした。
【図表2】最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決による法令解釈(一部抜粋)
| 相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。 |
まず租税負担の軽減の程度について審判所は、本件各資産の取得が行われなかった場合(株式保有特定会社に該当する場合)と本件各資産の取得により株式保有特定会社から外れた場合との租税負担を比較したうえで、A社が本件贈与前に多額の銀行借入れを原資に本件各資産を取得したことにより租税負担は著しく軽減されたといえるという判断を示した。
借入金稟議書には株特外しのためと記載
そして租税負担の軽減の意図が存していたか否かについて審判所は、本件各資産の取得前に銀行の行員から相続税の軽減に関する方策(不動産購入により資産構成を見直す方法や相続時精算課税制度を利用してA社株式を贈与する方法など・借入金の稟議書には相続税対策である株特外しのための物件購入である旨記載)の説明を受けるなどして、それらに概ね沿ったかたちで本件各資産の取得後に本件贈与の実行を決定した請求人長男は本件各資産の取得がいわゆる株特外しによる相続税の節税効果を意図したものであることを当然に認識していたと認められることなどからすると、請求人長男は租税負担の軽減の意図を有していたといえるという判断を示した。
続いて審判所は、被相続人は本件贈与の当事者であるうえ被相続人や請求人長男ら一族の意図に沿うように運営されていたA社の代表取締役であり、請求人長男及びA社の行為を容認していたと認められるから、被相続人についてもA社の本件各資産の取得に際して相続税の租税負担の軽減の意図を有していた蓋然性が高いといえるという判断を示した。
以上を踏まえ審判所は、A社株式の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があり、合理的な理由があると認められるから平等原則に違反するということはできないと判断したうえで、評価通達6項を適用した相続税更正処分等は適法であると結論付けている(高裁(諸)令6第13号・令和7年5月28日裁決)。
取得価額約20.7億円の不動産を通達評価額約7.9億円で相続税申告
次に紹介する裁決事例は、最高裁令和4年4月19日判決の事案と同様に、高齢である被相続人が生前に、金融機関からの多額の借入れを原資として不動産を購入(又は建築)するというものであった(事案の概要は図表3参照)。

事実関係を具体的にみると、高齢である被相続人は生前に、銀行及び信金から約21.9億円を借入れ、その借入れを原資として3年程度(平成25年1月から平成28年3月)の間に合計17件の本件各不動産(いずれも賃貸用物件)を総額約20.7億円で順次取得していた(以下「本件取得・借入れ」)。
なお、合計17件のうち5件は売買契約により取得したものであり、残りの12件は建物(貸家)の建築を目的とする工事請負契約による取得であった(図表4参照)。

そして被相続人の相続が開始した際に相続人である請求人長男らは、本件各不動産の価額を評価通達の定める評価方法により約7.9億円(通達評価額)と評価したうえで、銀行及び信金からの借入れに係る借入金の相続開始日における残額約18.9億円を債務の金額に計上するなどして相続税の期限内申告を行っていた。
なお、この当初申告における本件各不動産の取得価額と通達評価額とのかい離などは、裁決書によると次のとおりである。

税務調査の指摘を踏まえ一部修正申告も
請求人長男らに対する相続税の実地調査は令和3年9月に開始された。税務署の調査担当職員は令和5年6月、本件各不動産の評価額は評価通達6項の適用により国税庁長官の指示を受けて評価した不動産鑑定評価額(以下「鑑定評価額」)により評価すべきである旨を指摘した。
この指摘を踏まえ請求人長男らは、合計17件の本件各不動産のうち6件は鑑定評価額である約12.7億円(通達評価額は約6.3億円)で評価する一方で、残りの11件は通達評価額である約1.6億円(鑑定評価額は約4.1億円)のままとする修正申告書を提出した。これに対し税務署は、本件各不動産のうち残りの11件の評価額を鑑定評価額とする相続税更正処分等を行った。
請求人長男らは、修正申告において鑑定評価額により評価した6件についてやはり通達評価額により評価すべきであったとして更正の請求を行ったところ、税務署から更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた(本件各不動産の評価額の経緯は図表5参照)。

そこで請求人長男らは、税務署による処分の全部の取消しを求める審査請求をするに至った。審査請求のなかで請求人長男らは、本件取得・借入れはいずれも純粋に収益を得る目的で行ったのであり、相続税の負担軽減を期待してあえて行ったものではないことなどを指摘したうえで、評価通達の定める画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するという事情はなく、本件各不動産を鑑定評価額に基づき評価したことは平等原則に違反するから評価通達6項を適用した課税処分は違法である旨を主張した。
金融機関とのやり取りや書類等をもとに税負担軽減の意図を認める
審判所は、最初に紹介した事例と同様に、最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決における法令解釈(図表2参照)に沿った解釈を示したうえで、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるか否か(相続税の負担の軽減の程度及び負担を軽減する意図)について検討する必要があるとした。
まず租税負担の軽減の程度について審判所は、本件取得・借入れが行われたことにより相続税の総額は本件取得・借入れが行われなかった場合に比べて約80%も減少することなどから、請求人らの相続税の負担が著しく軽減されたと認められるという判断を示した。
借入金稟議書には相続対策の融資と記載
そして租税負担の軽減の意図が存していたか否か(相続税の負担を軽減する意図)について審判所は、①銀行の担当者とのやり取り(今後も相続税対策及び資産有効活用策としてアパートの建築を計画している旨)及び②信金からの借入れに関する書類の記載内容(稟議書には被相続人が相続対策を企図して融資を申し込んだ旨が記載)などを踏まえれば、被相続人は賃料収入を得る目的だけではなく相続税の負担を軽減する意図をもって本件取得・借入れを行ったと認められるとした。
続いて請求人長男について審判所は、①被相続人の資産活用に関与して自ら相続税対策について銀行の担当者と積極的に相談していること及び②請求人長男が共著である書籍のなかで相続対策の方法として記載されている手法(融資を受けて不動産を購入し、その不動産に係る路線価が実勢価格とかい離することを利用して相続税の圧縮を図る方法)が本件取得・借入れとして本件各不動産の一部で採用された方法と共通していることなどからすれば、請求人長男は相続税の負担を軽減することを積極的に意図していたと認められるとした。これらの事情により審判所は、被相続人及び請求人長男には相続税の負担を軽減する意図があったと認めるのが相当であると判断している。
以上を踏まえ審判所は、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があり、合理的な理由があると認められるから租税法上の一般原則としての平等原則に違反するということはできないと判断したうえで、評価通達6項を適用した相続税更正処分等はいずれも適法であると結論付けている(関裁(諸)令6第72号・令和7年6月18日裁決)。
貸付用不動産の評価方法の見直しは令和9年1月1日施行予定
貸付用不動産に関して令和8年度税制改正大綱では、評価方法の見直し(課税の適正化)が盛り込まれている。具体的には、被相続人・贈与者が相続開始・贈与前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、通常の取引価額に相当する金額(原則、取得価額を基に算定)によって評価することとされている。この改正は令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産の評価から適用されるが、通達の改正(公開)日までに被相続人等が同日の5年前から所有している土地の上に家屋を新築・建築中の場合には従前のとおりの評価とされている。今回の見直しの施行前である令和8年中は、貸付用不動産の評価に対して評価通達6項が適用されるリスクが残されていることに留意したい。
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