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解説記事2026年03月30日 SCOPE 相続開始時に修繕工事未着工も請負代金の債務控除を認める(2026年3月30日号・№1116)

福井地裁、債務が生じるに至った経緯等も考慮
相続開始時に修繕工事未着工も請負代金の債務控除を認める


 被相続人が生前に締結した賃貸倉庫の修繕工事をめぐり、相続開始時点で未着工であった修繕工事に係る請負代金債務が相続税の債務控除の対象になるか否かが争われた税務訴訟で福井地裁は令和7年11月5日、債務控除の対象となると判断して課税処分を取り消す判決を下した(確定済み)。相続開始時に修繕工事が未着工であることに着目して債務の存在や履行に確実性がないことから債務控除は認められない旨を主張した税務当局に対して福井地裁は、債務の形式のみならず、その債務が生じるに至った経緯等も考慮すべきと指摘。請負契約締結当時に被相続人は修繕義務を負っていたこと及び請負契約が注文者解除される事態が生じることは考えがたく修繕工事が履行されることは相続開始時点で確実であるといえることから、賃貸倉庫の修繕工事に係る請負代金約2,195万円は債務控除の対象になると判断した。

税務当局は相続開始時に未着工であることに着目して債務控除を否認

 本件で被相続人の死亡により相続が開始したのは令和元年8月である。この時点で被相続人が所有する本件建物(賃貸倉庫)の修繕工事は未着工で、工事が完了したのは相続開始後の令和元年10月下旬であった(修繕工事が完了するまでの主な経緯は参照)。

 被相続人が生前に請負人と締結した契約は請負契約であるところ、相続開始時点では工事が未完成であったから、同時点を基準とする限り請負人は原則として代金請求をすることはできないことになる。また、請負契約は工事が完成するまで注文者による解除が可能であるところ、相続開始時点で修繕工事は未着工であったことから、請負代金債務を形式的にみると、債務の存在及び履行について確実とはいえないようにもみえる。
 税務当局は、この相続開始時点で修繕工事が未着工であることに着目して、相続開始時点において債務の発生や存在及びその履行の確実性があるとは認められないとして請負代金は債務控除の対象にならないと判断していた。これに対し福井地裁は、債務の形式のみならず、債務が生じるに至った経緯等も考慮すべきとする注目すべき判断を示したうえで債務控除の対象と認める判決を下した。
 具体的にみると、福井地裁は、賃貸目的物である本件建物の修繕を目的とした請負契約について請負代金債務が確実と認められるものに該当するか否かを検討するに当たっては、債務自体の性質のみならず、その前提となる本件建物(土間床)の修繕義務の存否やその履行の確実性に係る事情についても考慮するべきであるという判断を示した。
 そして建物の修繕状況及び被相続人の修繕義務について福井地裁は、法人である賃借人が飲料等商品の配送センターとして使用するに当たり安全な使用収益に支障をきたす状態になっていたと認められることなどから、被相続人は請負契約締結当時、土間床に係る修繕義務を負っていたというべきであるとした。また、修繕工事の経緯を踏まえ福井地裁は、①賃借人による工事延期要望がなければ相続開始前(令和元年7月末)までに施工を終えていたと考えられること、②賃借人からの複数回の修繕要望を被相続人は履行してきていたこと、③被相続人は生前に相続人にも相談のうえ修繕工事の施工を決めていること、④現に相続後も変更後の工期で修繕工事が施工されていることを踏まえれば、相続開始時点において被相続人や相続人によって請負契約が注文者解除される事態が生じることは考えがたく、修繕工事が履行されることは確実であるといえるとした。以上を踏まえ福井地裁は、修繕工事が履行されることは相続開始時点で確実であったと認められ、これが具体化した請負代金債務もまたその履行が確実であったと認められると判断したうえで、債務の存在及びその履行がいずれも確実であると認められるから請負代金債務は債務控除の対象になると結論付けた。

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