解説記事2026年04月06日 第2特集 株式の無償交付制度等を見直す「会社法制の見直しに関する中間試案」(2026年4月6日号・№1117)
第2特集
法制審、令和8年度中に要綱を決定へ
株式の無償交付制度等を見直す「会社法制の見直しに関する中間試案」
法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会(部会長:神作裕之学習院大学法学部教授)は3月18日、「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」を取りまとめた。株式関係では、株式の無償交付制度の対象に上場会社の使用人やその子会社の使用人等を追加する。また、株式交付制度では、子会社株式の追加範囲の拡大を行う。そのほか、バーチャルオンリー株主総会の創設や株主提案権の議決権数の要件を見直す。法務省では、中間試案に対する意見募集を行い、令和8年度中にも会社法制の見直しに関する要綱を決定する方針だ。本特集では、中間試案の概要をお伝えする。
株式の無償交付制度、子会社の使用人等も対象へ
まず、株式関係では、株式の無償交付制度の見直しが挙げられる。令和元年の会社法の改正により、上場会社の取締役又は執行役を対象として、株式の無償交付ができることとなった。しかし、昨今では、国内外の優秀な人材を確保する観点などから従業員及び子会社の取締役等に対しても株式を付与する動きが広がっている。このため、中間試案では、株式の無償交付の範囲を拡大する旨が提案されている。具体的には、上場会社の使用人又は上場会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役若しくは使用人(以下「使用人等」)を対象とする方向だ。
現行制度では、使用人等は株式の無償交付の対象外であるため、実務上は金銭債権を使用人等に付与した上で、使用人等に募集株式を割り当て、引受人となった使用人等に金銭債権を現物出資財産として給付させることにより、株式の発行又は自己株式の処分をするという取扱いがなされている。改正が実現すれば、このような事務負担が生じないことになり、企業にとっては朗報といえよう。
株主総会決議の有無が論点
ただし、大きな論点となっているのは、株主総会決議の有無だ。中間試案では、株主総会決議を要件とせずに取締役会の決議のみで使用人等に対する株式の無償交付を可能にすることとした上で、有利発行規制に服するものとするA案と、株主総会決議により使用人等に対する株式の無償交付を可能にすることとした上で、有利発行規制に服しないものとするB案の両論併記となっている。
部会では、A案を支持する意見として、実務上、機動的に株式の無償交付をすることが可能になるのが望ましいといったものや、使用人等に対する株式の無償交付は使用人等の処遇という経営判断の問題であり、取締役会が判断するべきものであるといったものがあった。一方、B案については、株主総会決議を要件としても、具体的な決議の方法を工夫することにより機動的な対応をすることができるとの意見や、株式の無償交付は株主が直接コストを負担するものであるため、株主の承認を得ることを要件にするのが素直であるといった意見が寄せられている。
株式交付制度、子会社株式の追加取得範囲を拡大
株式交付制度については、現行、国内の株式会社の議決権の過半数を取得する場合に限られており、これ以外に子会社化する場合のほか、外国会社や持分会社を子会社にする場合は対象外となっている。このため、中間試案では、子会社株式を追加取得する場合の対象を拡大することが提案されている。
具体的には、子会社株式を追加取得する場合を一般的に株式交付の対象とするA案と、①株式交付計画において当該株式交付の効力発生日の後に株式交付子会社の株式を追加取得する旨を定めた場合における当該追加取得する場合、又は②子会社株式を所定の割合(総株主の議決権の3分の2、10分の9又は全部とすることを想定)まで追加取得する場合のいずれか又は双方を株式交付の対象とするB案の両論併記となっている。部会では、A案を支持する理由としては、何が組織再編行為に当たるのかは立法政策の問題ともいえ、組織再編行為に関する規制で保護することができない利益がないのであれば、子会社の株式を追加取得する場合を株式交付の対象とすることを認めない理由はないなどの意見があった。一方、B案を支持する理由としては、一定の条件が満たされた場合に組織再編行為となり、その場合には他の取引行為とは異なる規律を適用するのであるから、組織再編行為としての実質がない単なる株式の追加取得を組織再編行為と評価するのは難しいなどとして、一定の要件を付すべきであるなどの意見があった。
また、持分会社や外国会社を子会社とする場合についても株式交付制度の対象にする方向だ。
反対株主買取請求権の見直しは行わず
そのほか、株式交付親会社における債権者保護手続は廃止する。債権者保護手続は、1か月程度の期間が必要となる手続であり、株式交付制度を利用する際の障害とされていただけに大きなメリットがありそうだ。
一方で、株式交付親会社の反対株主の株式買取請求権の撤廃や、簡易株式交付の要件を「株式交付子会社の株式及び新株予約権等の譲渡人に対して交付する株式交付親会社の株式の数に一株当たり純資産額を乗じて得た額」の株式交付親会社の純資産額に対する割合が5分の1を超えない場合とする見直しは、中間試案では実施しない方向となっている。
ただし、反対株主の株式買取請求権については、M&Aを阻害する要因となっていることから、少なくとも上場会社においては、撤廃する方向で検討すべきとの強い意見もある。
株主総会の特別決議により現物出資の際の検査役の調査を不要に
現物出資(金銭以外の財産の出資)制度に関しては、原則として、募集事項の決定の後遅滞なく、現物出資財産の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならないとされている。このような検査役の調査については、スタートアップに対する知的財産権等の現物出資の支障になっているとの指摘がある。このため、株主総会の特別決議により現物出資財産の価額を定めた場合には、検査役の調査を不要とする提案がされている。ただし、この場合には、取締役は株主総会において、現物出資財産の評価の方法、評価額その他の現物出資財産について定められた価額が相当である理由が求められる。
また、現物出資者の不足額填補責任も見直す。不足額填補責任は募集事項の決定時に現物出資財産が適正に評価された場合であっても、募集株式の引受人が株主となった時までに現物出資財産が値下がりしたときは、不足額填補責任が発生し得るため、このことが実務上のリスクとなっているからだ。このため、中間試案では、現物出資財産の価額が著しく不足する場合において、取締役と通じて募集株式を引き受けたときに限り、責任を負うとする案などが示されている。
定款の定めによりバーチャルオンリー株主総会が可能
株主総会関係では、すでにお伝えしているとおり、バーチャルオンリー株主総会については、株主総会の場所を定めないことができる旨について定款で定めることを実施要件とした上で、産業競争力強化法で必須とされている経済産業大臣及び法務大臣の確認を経ることなく開催できるようにする(本誌1115号17頁参照)。
バーチャルオンリー株主総会開催に際しては、通信障害対策措置などを講じた場合には株主総会の決議の取り消しの訴えの特則となるセーフハーバールールを設けるほか、株式会社に対しては、バーチャルオンリー株主総会の議事における通信記録等の保存を義務付ける。
また、バーチャルオンリー社債権者集会も株主総会との相違点を考慮しつつ、バーチャルオンリー株主総会と基本的に同様の規律を設ける方向となっている。実施要件としては、原則として募集事項に定めがなくとも社債権者集会の場所を定めないことができるものとし、募集事項に「場所を定めないことはできない」旨の定めがある場合にはバーチャルオンリー社債権者集会を実施できないものとすることを想定している。
株主への通知義務違反には議決権停止
実質株主確認制度も創設される(本誌1114号12頁参照)。具体的には、①上場会社から名義株主である仲介機関(金融機関等)に対して情報の提供を請求できることとした上で、仲介機関の背後に更に仲介機関がある場合には、最終の仲介機関に至るまで当該請求を順次転送しつつ、これらの各仲介機関が、自身が保有する情報、具体的には、仲介機関に対して議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者(指図権者)の氏名又は名称、住所、株式数等を上場会社に対して提供することにより、実質株主(指図権者)を確認する制度とする。加えて、支配に関する重要な情報の把握及び開示という制度の趣旨に基づき、②金融商品取引法に基づく大量保有報告制度における報告義務の範囲と基本的に同一の範囲において株主側から株式会社に対する通知を義務付け、違反者を議決権制限の対象とする制度も創設する。
事前の議決権行使で株主総会決議を可能にする案も
上場会社では、事前の書面又は電磁的方法による議決権行使によって決議の成否が決していることがほとんどであることを踏まえ、中間試案では、株主総会の決議の合理化を図ることとしている。
中間試案では、株式会社が株主総会を招集する場合には「会社法298条1項3号又は4号に掲げる事項を定めた場合において、株主総会の目的である事項に係る議案について、事前の議決権の行使により、当該議案について議決権を行使することができる全ての株主が出席した場合における株主総会の決議の要件を満たしたときは、事前の議決権の行使の期限を経過した時に当該議案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす旨を定めることができる」旨を定款で定めることができるとするA案と、事前の議決権の行使の期限までに、事前の議決権の行使により、当該議案について議決権を行使することができる全ての株主が出席した場合における株主総会の決議の要件を満たした場合には、株主総会の議事によって株主総会の決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときに該当したことは株主総会の決議取消事由とならない旨の規律を設けるとするB案との両論併記となっている。
なお、両案のいずれも、株主総会の開催自体は必要であることを前提としており、開催を不要としているわけではない点に留意したい。
株主提案権の議決権数の要件見直しで濫用を抑制
株主提案権の議決権数の要件(現行300個以上の議決権)も見直される方向だ。株式数が多い株式会社や投資単位が小さい株式会社においては、保有比率がごくわずかの株主にも株主提案権が認められることになり、株主提案権が濫用される懸念があると指摘されているからだ。
具体的には、議決権数の要件に関し、議決権数の要件を廃止するというA案と、「300個」という議決権数の要件を、一定の個数(具体的な個数は、近年の投資単位の引下げの状況を踏まえて「500個」、今後の投資単位の引下げ等も考慮して「1,000個」や「1,500個」とする考え方がある)まで引き上げるB案のいずれかによる案が示されている。
A案を支持する意見としては、一律に300個の議決権を要件とするのは不合理であることや、制度が創設された昭和56年当時と比べて株主提案権を会社と株主の間のコミュニケーションの手段と捉えることには無理があることなどが挙げられている。一方、B案を支持する意見としては、議決権数の要件を廃止する場合には、制度趣旨を大きく変えてしまうといったことや、議決権保有比率1%未満の株主による提案が約6割を占めるとされているところ、議決権数の要件を廃止する場合には、この約6割を占める株主提案が認められないこととなり、株主の権利行使の機会に大きな影響を及ぼすことになるといったものがある。
指名委員会の権限、「見直しは行わず」との両論併記
企業統治の在り方等に関しては、指名委員会等設置会社制度の見直しが挙げられる。現行制度では、取締役の選任及び解任に関する議案の内容についての指名委員会の決定の内容を取締役会決議で変更できないため、中間試案では、取締役会全体で取締役の過半数が社外取締役である場合には、指名委員会の決定を変更することができる旨が提案されている。ただし、ニーズがどの程度あるのか不明であり、立法事実があるかの検証を行う必要があるなどの意見も踏まえ、規律を見直さないとする案の両論併記となっている。報酬委員会の権限についても、指名委員会と同様に両論併記とされている。
監査委員の選定予定者を記載
監査委員会の権限については、指名委員会等設置会社の取締役のうち、執行役を兼ねている取締役及び業務執行取締役は、監査委員会の議事録の閲覧又は謄写をすることができないこととする。加えて、株主総会の決議によって取締役を選任するに際して、指名委員会、監査委員会及び報酬委員会の委員に選定されることが予定されている取締役については、その旨を株主総会参考書類に記載しなければならず、かつ、選定予定の取締役が予定された委員に選定されなかった場合などは、その旨及びその理由を事業報告に記載することとしている。
部会では、監査委員会は取締役会の内部機関であり、監査委員の選定及び解職を行うのは株主総会ではなく取締役会であるとして反対する意見があったものの、各委員会の委員の選定予定者を株主総会参考書類に記載することで、各委員会の委員が不当な人事上の不利益を受けることを防止する効果が一定以上期待できるとしている。
なお、日本取締役協会の調査では、上場会社96社(令和7年8月1日現在)が指名委員会等設置会社に移行しているとされる。
業務執行取締役等も責任限定契約の対象に
また、責任限定契約制度については、その対象に業務執行取締役等である取締役及び執行役を追加することが提案されているが、株式会社との間で利益が相反する状況にあるときに行われた行為に基づく責任(会社法423条1項)は、責任限定契約による責任の限定の対象外としている。なお、株主代表訴訟制度の提訴要件の見直しについては、今回の見直しでは行わないこととしている。
事業報告等は不要に
そのほか、有価証券報告書の株主総会前開示が求められている中、対応策の一環として事業報告等と有価証券報告書の開示の合理化が盛り込まれている。具体的には、上場会社が電子提供措置開始日(株主総会の日の3週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日)までに事業報告等の開示事項のすべてを記載した有価証券報告書を提出した場合には事業報告等の作成を要しないこととし、有価証券報告書について金融商品取引法に基づく監査をした場合には、会社法に基づく監査を不要としている。
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