解説記事2026年05月18日 未公開裁決事例紹介 修正純資産と類似業種の併用を認めなかった裁決(2026年5月18日号・№1122)
未公開裁決事例紹介
修正純資産と類似業種の併用を認めなかった裁決
時価純資産法を単独で採用したことは相当
○評価通達6項の適用により評価会社保有の貸付用不動産を鑑定評価額とした上で修正簿価純資産法により非上場株式を評価した原処分庁評価額は時価を上回るものではないと判断した裁決(令和7年4月9日・東裁(諸)令6第170号)。審判所は、不動産鑑定評価額を用いて計算した修正簿価純資産価額と類似業種比準価額の併用方式による請求人主張の評価額は認められないと判断した(本誌1115号14頁参照)。
主 文
審査請求をいずれも棄却する。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、贈与により取得した取引相場のない株式について、贈与税の申告をしたところ、原処分庁が、当該株式の価額を財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められることを前提に、別途実施した株式価値算定による評価額に基づいて更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該評価額は相続税法第22条《評価の原則》に規定する時価を上回る違法があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実
イ 請求人について
(イ)請求人は、×××(以下「本件贈与者」という。)の二男であり、×××(以下「本件会社」という。)の代表取締役である。
(ロ)請求人は、平成30年3月12日、原処分庁に対し、相続税法(平成31年法律第6号による改正前のもの)第21条の9《相続時精算課税の選択》第1項の規定の適用を受けるため、本件贈与者を同条第5項に規定する特定贈与者として、同条第2項に規定する届出書を提出した。
(ハ)請求人は、令和2年5月25日(以下「本件贈与日」という。)、本件贈与者から本件会社の発行済株式19,998株(以下「本件株式」という。)のうち9,999株(以下「本件贈与株式」という。)の贈与を受けた。
ロ 本件会社等について
(イ)本件会社は、×××、本件贈与者が発起人となり設立された不動産の所有、管理、賃貸等を目的とする法人であり、本件贈与者は、出資金999,900,000円を払い込み、本件会社の設立時発行株式(19,998株)の全てを取得した。
請求人は、本件会社の設立時からその代表取締役であり、本件会社の役員は全て請求人や本件贈与者の親族である。
(ロ)本件贈与者は、平成28年7月28日、×××に所在する土地及び当該土地上の鉄筋コンクリート造地上15階建の共同住宅(以下「本件建物」といい、当該土地と併せて「本件不動産」という。)を×××から代金1,850,000,000円で購入する旨の売買契約を締結した。本件会社は、その設立日である×××、臨時株主総会において、本件不動産の買主を本件贈与者から本件会社に変更することを承認し、同月16日、本件贈与者、本件会社及び×××の合意により、本件不動産の買主が本件会社に変更された。本件会社は、平成28年8月24日、本件不動産を取得した。
(ハ)本件会社は、平成28年8月24日、×××から本件不動産の購入資金として、880,000,000円を借り入れた。この借入れに係る弁済方法は期限一括弁済であり、最終弁済期限は令和3年8月24日である。
(ニ)本件会社は、平成28年9月5日、×××及び×××との間で、×××が第三者に転貸することを目的として本件建物を同社に賃貸し、×××がその賃貸管理を行う旨の建物賃貸借契約を締結した。本件会社から×××への賃貸借契約期間は平成28年9月5日から令和3年9月4日までの5年間であり、賃料は月額5,423,580円である。
(4)審査請求に至る経緯等
イ 本件贈与株式の価額を評価通達の定めにより評価すると、本件会社の資産としては本件不動産の価額等及び負債としては上記(3)のロの(ハ)の銀行からの借入金の金額等が考慮される結果、本件贈与株式の価額は、零円となる(以下、評価通達の定めにより評価した本件贈与株式の価額を「本件通達評価額」という。)。
ロ 請求人は、本件贈与株式の贈与に係る令和2年分の贈与税(以下「本件贈与税」という。)について、その法定申告期限までに申告書を提出しなかった。
ハ 原処分に係る調査担当職員は、令和4年11月14日以降、請求人の本件贈与税の調査を実施した。
上記調査の期間中、×××(以下「本件評価機関」という。)は、×××から依頼を受け、本件株式の価値算定を実施し、令和5年7月27日付で、要旨、別紙のとおりの本件株式に係る株式価値算定書(以下「本件株式価値算定書」という。)を作成した。本件評価機関は、本件株式の価値算定に当たり、別紙の2の(2)のハのとおり、修正簿価純資産法を採用した上、本件不動産の価額については、×××が収益還元法により正常価格として算定した本件贈与日における鑑定評価額1,400,000,000円(以下「本件不動産鑑定評価額」という。)を使用して、別表1のとおり、本件株式の価値を×××(以下「本件株式価値算定額」という。)と算定した。
×××は、令和5年11月28日、国税庁長官に対し、本件株式価値算定額が評価通達の定める評価方法以外の合理的な評価方法であり、本件株式価値算定額と本件通達評価額との間に著しいかい離があり、本件贈与株式の価額につき、評価通達の定めによる価額と異なる価額とすることについて合理的な理由があるとして、評価通達6を適用し、本件株式価値算定額に、本件株式に占める本件贈与株式の割合を乗じた金額をもって本件贈与株式の価額とすべき旨上申した。国税庁長官は、令和5年12月8日、×××に対し、上記上申のとおり取り扱うことを指示した。
原処分庁は、国税庁長官による上記指示後の令和5年12月15日、請求人の税務代理人に対し、本件贈与株式の価額は、×××(本件株式価値算定額に本件株式に占める本件贈与株式の割合を乗じた金額)となる旨などの調査結果を説明した。
ニ 請求人は、令和5年12月21日、別表2の「期限後申告」欄のとおり記載した期限後申告書を原処分庁へ提出し、本件贈与税の期限後申告をした。請求人は、上記期限後申告において、本件会社を評価通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》に定める小会社に区分し、1株当たりの価額の計算上、本件不動産の相続税評価額として本件不動産鑑定評価額(1,400,000,000円)を用いるなどして計算した純資産価額(1株当たり×××)と評価通達180《類似業種比準価額》の定めにより計算した類似業種比準価額(1株当たり×××)にそれぞれ0.5の割合を乗じた額を合計して1株当たり×××と算出し、これに本件贈与株式数を乗じて、本件贈与株式の価額を×××(以下「請求人評価額」という。)と評価した。
ホ 原処分庁は、上記ニの期限後申告に基づき、令和6年1月31日付で、請求人に対し、別表2の「賦課決定」欄のとおり、無申告加算税の賦課決定処分をした。
ヘ 原処分庁は、令和6年2月9日付で、評価通達6の定めにより、国税庁長官の指示に基づき、本件株式価値算定額を根拠として本件贈与株式の価額が×××(以下「原処分庁評価額」という。)であるとして、請求人に対し、別表2の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ト 請求人は、令和6年5月7日、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として審査請求をした。なお、審査請求において、本件贈与日における本件不動産の相続税法第22条に規定する時価は本件不動産鑑定評価額(1,400,000,000円)であること及び本件贈与株式の価額につき評価通達によらない方法により評価することについては、原処分庁と請求人との間に争いはない。
争点および主張
原処分庁評価額は相続税法第22条に規定する時価を上回るか否か。当事者の主張は、表のとおり。
【表】争点についての主張
| 原処分庁 | 請求人 |
| 次のとおり、原処分庁評価額は、本件贈与株式の相続税法第22条に規定する時価を上回るものではない。 (1)本件評価機関は、①本件会社が本件不動産1棟のみを有する資産管理会社であり、②売上高の全てが本件不動産から生じる収入であることから、本件株式の評価アプローチとしてネットアセット・アプローチを採用した上、本件会社の有する資産・負債のうち簿価と時価で多額のかい離が生じると想定されるものは本件不動産以外にないことから、同アプローチのうち、本件不動産を本件不動産鑑定評価額により時価評価した上で本件会社の純資産価額を算出し、これをもって本件会社の株式価値とする修正簿価純資産法を用いている。 (2)本件評価機関は、本件株式の評価アプローチの選定に当たり、①インカム・アプローチについては、上記(1)の①及び②の理由などから、事業そのものが将来生み出す価値を基礎とする同アプローチは適切な方法とはいえないとして、採用せず、また、②マーケット・アプローチについては、上記(1)の①から、事業そのものの類似性を基礎とする同アプローチは適切な方法とはいえないことに加え、そもそも特定の個人(一族)の財産の所有・管理を目的とした資産管理会社は上場しておらず、同アプローチの適用上必要な比較対象となる類似の上場会社が存在しないとして、採用しなかった。 (3)以上の本件評価機関が用いた評価方法や評価アプローチの選定過程及び選定結果は、本件会社の保有資産の状況、事業の特性、収益の構造などを踏まえた客観的かつ論理的なものであり、日本公認会計士協会が作成した「企業価値評価ガイドライン(経営研究調査会研究報告第32号。平成19年5月16日公表、平成25年7月3日改正。)」(以下「本件ガイドライン」という。)に準拠したものといえ、合理的である。 |
次のとおり、請求人評価額が本件贈与株式の相続税法第22条に規定する時価であり、これを超える原処分庁評価額は、同条に規定する時価を上回る。 (1)請求人評価額は、本件会社が継続企業を前提とした営利企業であることを踏まえ、ネットアセット・アプローチ(修正簿価純資産法)とマーケット・アプローチ(類似業種比準方式)の折衷法に基づき、市場動向の反映、将来価値も含めた継続価値や客観性等を考慮し、多角的に評価した合理的なものであるから、相続税法第22条に規定する時価といえる。 なお、折衷割合は、実務上一般的な割合である0.5を採用しており、当該割合を相当でないとする特別な事情もない。 (2)本件の評価の対象は、不動産を所有している法人に係る取引相場のない株式であり、個人が所有する不動産を売却する場合と異なり、法人が不動産を売却する際のコストの高さ等に照らすと、法人が所有する不動産の流動性は低く、本件会社も、本件不動産を売却することなく、継続的に賃貸することで収益を得ている営利企業であり、将来的にも継続するものといえる。 このような本件会社の事業状況からすれば、本件会社の利益等の収益要素を踏まえて本件株式の価額を算定するマーケット・アプローチ(類似業種比準方式)も採用すべきである。 したがって、原処分庁のネットアセット・アプローチのみによる評価は、本件会社の評価に適合していない。 (3)以上のとおり、請求人評価額は合理的であり、原処分庁評価額には合理性がない。 |
審判所の判断
(1)法令解釈
相続税法第22条は、同法第3章において特別の定めがあるものを除くほか、贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を定めているところ、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解され、贈与税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではないと解するのが相当である。
(2)認定事実
イ 本件ガイドラインにおける企業価値評価の手法について
(イ)本件ガイドラインは、公認会計士に対して法的拘束力を持つものではないものの、日本公認会計士協会が我が国における取引相場のない株式の評価実務における参考となり得るものとして、株式の価値を評価する場合の実施及び報告について取りまとめて作成したものであり、M&Aや事業再編成等の取引や会社法に基づき裁判所が株式価格を決定する際等に、広く用いられている。
(ロ)本件ガイドラインは、企業価値を評価する手法を、①インカム・アプローチ、②マーケット・アプローチ及び③ネットアセット・アプローチの三つに大別し、各手法を次のAないしCのとおり評価している。
A インカム・アプローチ
インカム・アプローチとは、評価対象会社から期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて企業価値を評価する方法であり、将来の収益獲得能力や固有の性質を評価結果に反映させる点で優れている。一方、事業計画等の将来情報に対する恣意性の排除が難しいとの指摘もあり、客観性が問題となるケースもある。
B マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチとは、評価対象会社と類似する会社、事業ないし取引事例と比較することによって相対的に企業価値を評価する方法であり、市場での取引環境の反映や一定の客観性に優れているが、そもそも類似する上場会社がないケースでは評価が困難である。
マーケット・アプローチに属する評価法は、市場株価法(証券取引所や店頭登録市場に上場している会社の市場株価を基準に評価する方法)、類似上場会社法(上場会社の市場株価と比較して非上場会社の株式を評価する方法)、類似取引法(類似のM&A取引の売買価格と評価対象会社の財務数値に関する情報に基づいて計算する方法)及び取引事例法(評価対象会社の株式について過去に売買がある場合に、その取引価額を基に株式の評価をする方法)の4種類がある。
C ネットアセット・アプローチ
ネットアセット・アプローチとは、主として評価対象会社の貸借対照表上の純資産に注目したアプローチであり、帳簿上の純資産を基礎として、一定の時価評価等に基づく修正を行う評価方法である。帳簿作成が適正で時価等の情報が取りやすい状況であれば、客観性に優れていることが期待される一方、のれん等が適正に計上されていない場合には、将来の収益獲得能力の反映や、市場での取引環境の反映は難しいといえる。また、ネットアセット・アプローチによる株式評価では、成長中の会社については、将来の収益獲得能力を適正に評価できず、株式評価が過小評価になる場合がある一方、衰退基調にある収益性の低い会社については、株式評価が過大評価になる場合がある。さらに、貸借対照表に計上されていない無形資産等が価値の源泉の大半である会社については、ネットアセット・アプローチによる株式評価では、このような価値が評価されない可能性がある。ネットアセット・アプローチに属する時価純資産法(修正簿価純資産法)は、貸借対照表上の資産負債を時価で評価し直して純資産額を算出し、1株当たりの時価純資産額をもって株主価値とする方法であり、全ての資産負債を時価評価するのは実務的に困難なことから土地や有価証券等の主要資産の含み損益のみを時価評価する場合が多い。
(ハ)そして、本件ガイドラインは、上記(ロ)の三つの評価手法は、いずれも優れた点と問題点を有しており、また、同時にそれぞれの評価方法が相互に問題点を補完する関係にあるとし、評価対象会社をインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ及びネットアセット・アプローチのそれぞれの視点から把握し、当該会社の動態的な価値や静態的な価値について多面的に分析し、偏った視点のみからの価値算定にならないように留意しつつ、それぞれの評価結果を比較・検討しながら最終的に総合評価するのが実務上一般的であるとしている。
ただし、企業価値等価値形成要因を慎重に考慮しながら評価業務を行い、最終的な評価額の算定において、各評価手法の中のある評価法からの評価結果を単独で適用するのが妥当な状況も想定され、この場合には、単独法(インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ及びネットアセット・アプローチに分類されている評価法を単独で適用し、それをもって総合評価の結果とする方法)が採用されるとしている。
ロ 本件会社の財務諸表の内容等について
(イ)本件会社の設立日(×××)から平成29年5月31日までの事業年度ないし令和元年6月1日から令和2年5月31日までの事業年度(以下、各事業年度を「令和2年5月期」などという。)における各事業年度の資産及び負債の状況並びに損益の状況は、それぞれ別表3及び別表4のとおりであった。
(ロ)本件会社が本件贈与日において所有する有形固定資産は、本件不動産のみであり、本件不動産の取得後本件贈与日を含む各事業年度における本件会社の売上げは、本件建物に係る賃料収入のみであった。
(ハ)本件会社は、本件贈与日において事業計画を策定しておらず、本件贈与日までに本件株式の譲渡がされた事実もなかった。また、本件会社が雇用する従業員はいない。
(3)検討
原処分庁は、上記基礎事実等の(4)のハのとおり、本件評価機関が算定した本件贈与日における本件株式(19,998株)の価額×××(本件株式価値算定額)に基づいて、本件贈与株式(9,999株)の価額を×××(原処分庁評価額)と評価しているところ、以下、本件株式価値算定額がその評価方法において合理的なものであって、原処分庁評価額が本件贈与日の時価を上回るものではないと認められるか否かについて検討する。
イ 評価手法の選定について
(イ)別紙の2の(2)のとおり、本件評価機関は、本件株式価値算定額の算定に当たっての評価手法として、ネットアセット・アプローチに属する時価純資産法(修正簿価純資産法)の単独法を採用しており、インカム・アプローチ及びマーケット・アプローチについては採用していない。
(ロ)そこで、まず、本件評価機関が本件株式の価値の算定に当たりインカム・アプローチを採用しなかったことの当否についてみると、インカム・アプローチは、上記(2)のイの(ロ)のAのとおり、将来の収益獲得能力等を評価結果に反映させる点で優れており、評価対象会社から期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて評価する方法であるから、事業計画の策定等により、将来獲得することが期待される利益やキャッシュ・フローを適切に見積もれることが前提となる。しかしながら、本件会社は、上記(2)ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、その売上げが本件建物に係る賃料収入のみであり、本件贈与日において事業計画を策定しておらず、かつ、上記基礎事実等の(3)のロの(ハ)のとおり、本件不動産の購入資金として平成28年8月24日に×××から880,000,000円を借り入れ、その5年後の令和3年8月24日を最終弁済期限としているところ、本件建物の賃貸借契約期間は、同(ニ)のとおり、平成28年9月5日からの5年間であるから、賃料収入は最大で325,414,800円にしかならず、本件建物の賃料収入のみでは、令和3年8月24日の最終弁済期限に当該借入金の全額を一括弁済することは不可能である。そのため、本件不動産の売却代金をその弁済に充当することも一つの方法として想定していた可能性も否定できないから、将来獲得することが期待される利益やキャッシュ・フローを適切に見積もることもできない。
以上のことからすれば、本件株式の価値の算定に当たり、インカム・アプローチを採用しなかったことは、相当である。
(ハ)次に、本件評価機関が本件株式の価値の算定に当たりマーケット・アプローチを採用しなかったことの当否についてみると、マーケット・アプローチには、上記(2)のイの(ロ)のBのとおり、市場株価法、類似上場会社法、類似取引法及び取引事例法があるところ、本件株式には取引相場がなく、また、同ロの(ハ)のとおり、本件株式の譲渡がされた事実もないから、市場株価法及び取引事例法を適用できないことは明らかである。また、類似取引法は、類似のM&A取引価格等に基づいて計算する方法であるが、本件の取引形態は、M&A取引とは異なり、親族間における贈与取引であるから、類似取引法採用の前提が欠けるため適用できない。
さらに、類似上場会社法は、上記(2)のイの(ロ)のBのとおり、上場会社の市場株価と比較して非上場会社の株式を評価する方法であるが、本件会社が所有する有形固定資産は本件不動産のみで売上げも賃料収入のみであるという同ロの(ロ)の事業特性と類似する上場会社が存在するという事実は認められないから適用できない。
以上のことからすれば、本件株式の価値の算定に当たり、マーケット・アプローチを採用しなかったことは、相当である。
(ニ)本件評価機関が本件株式の価値の算定に当たりネットアセット・アプローチを採用したことの当否についてみると、ネットアセット・アプローチに属する時価純資産法(修正簿価純資産法)は、上記(2)のイの(ロ)のCのとおり、帳簿上の純資産を基礎として、主要資産の時価評価等に基づく修正を行う評価方法であるから、評価対象会社の事業の継続にとって必要不可欠なキャッシュ・フローが不動産により生じている場合であって、当該不動産の時価評価が容易であり、かつ、当該不動産の時価がその収益性を反映して算定されたものであれば、その将来の収益獲得能力を反映した合理的な評価が可能であるといえる。
そして、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件会社が本件贈与日において所有する有形固定資産は、本件不動産のみであり、かつ、本件建物に係る賃料収入が唯一の売上げであることからすれば、本件会社の事業の継続にとって必要不可欠なキャッシュ・フローが本件不動産によって生じているため、その収益性を反映して本件不動産の時価を算定することにより、将来の収益獲得能力を反映した合理的な評価が可能となるところ、本件不動産について収益還元法による時価評価が行えることは後記ロの(イ)のとおりである。
また、本件会社は、このように、本件建物に係る賃料収入を唯一の売上げとし、事業の拡大や縮小等の具体的な見込みも認められないことから、本件会社の状況が成長基調又は衰退基調にあるとも認められず、かつ、貸借対照表に計上されていない無形資産等が存在する事実も認められないことなどからすれば、時価純資産法(修正簿価純資産法)による評価が不適当となる事情も見当たらない。
以上のことからすれば、本件株式の価値の算定に当たり、ネットアセット・アプローチに属する時価純資産法(修正簿価純資産法)を採用したことは、相当である。
(ホ)上記(ロ)から(ニ)までの検討に加え、上記(2)のイの(ハ)をも踏まえれば、本件評価機関が、本件株式の価値の算定に当たり、ネットアセット・アプローチに属する時価純資産法(修正簿価純資産法)を単独で採用したことは、相当である。
ロ 本件株式価値算定額について
(イ)上記基礎事実等の(4)のハ並びに別紙の2の(2)のハ及び同3のとおり、本件評価機関は、時価純資産法(修正簿価純資産法)を採用し、本件不動産を時価評価対象資産とした上で、その価額を×××による本件不動産鑑定評価額で計算し、その他の資産及び負債は、簿価と時価で多額のかい離を生じるものは想定されないとして簿価で計算している。
上記基礎事実等の(3)のロの(ニ)並びに同(4)のハ及びトのとおり、本件不動産鑑定評価額は、本件贈与日における正常価格として収益還元法により算定されたものであるところ、これは、賃貸の用に供されているという本件不動産の収益性を踏まえたものであり、当事者間においても本件不動産鑑定評価額が本件不動産について相続税法第22条に規定する時価であることに争いはない上、その算定過程等に不合理な点は見受けられないことに鑑みると、本件不動産鑑定評価額は、本件不動産の客観的な交換価値を示すものと認められる。そして、本件不動産以外のその他の資産及び負債の額については、本件贈与日の直前の決算日である令和元年5月期の財務諸表の内容等を基礎として本件株式価値算定書において適正に算定されていると認められ、別表3のとおり、令和2年5月期の財務諸表の内容等と比較してもこれらの資産及び負債の額について大きな変動は認められないから、本件不動産以外のその他の資産及び負債を、令和元年5月期末の簿価で計算したことは合理的である。その他、本件株式価値算定額の算定に当たり前提とした事実に誤りがあるとは認められず、その過程においても不合理な点は見当たらない。
(ロ)以上のことからすれば、本件株式価値算定額は、時価純資産法(修正簿価純資産法)によって適切に算定されたものと認められ、本件株式の本件贈与日における客観的な交換価値を示すものであると認められる。
ハ 原処分庁評価額について
上記ロの(ロ)のとおり、本件株式価値算定額は、本件株式の本件贈与日における客観的な交換価値を示すものであると認められることから、本件株式価値算定額に基づいて算出された原処分庁評価額(×××)も、本件贈与日における本件贈与株式の客観的な交換価値を示すものであって、本件贈与株式の相続税法第22条に規定する時価を上回るものではないと認められる。
(4)請求人の主張について
請求人は、「請求人」欄のとおり、請求人評価額は、本件会社が継続企業を前提とした営利企業であることを踏まえ、ネットアセット・アプローチ(修正簿価純資産法)とマーケット・アプローチ(類似業種比準方式)の折衷法に基づき、市場動向の反映、将来価値も含めた継続価値や客観性等を考慮し、多角的に評価していることから、これが相続税法第22条に規定する時価であって、ネットアセット・アプローチのみによる評価は、本件会社の評価に適合せず、原処分庁評価額は同条に規定する時価を上回る旨主張する。
しかしながら、本件株式の価値の算定に当たり、ネットアセット・アプローチに属する時価純資産法(修正簿価純資産法)を単独で採用することが相当であることは上記(3)のイの(ホ)のとおりであり、また、本件株式価値算定額に基づいて算出された原処分庁評価額が本件贈与株式の相続税法第22条に規定する時価を上回らないことは同ハのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
別紙 本件株式価値算定書の概要
1 対象会社及び株式価値算定額
(1)対象会社
本件会社
(2)株式価値算定額(本件贈与日時点の本件株式の価値)
×××(1株当たり×××)
2 株式価値算定額決定の要旨
(1)株式価値算定の前提
本件会社の株式価値算定は、貸与される資料を基として、株式価値を算定する際に用いられる一般的な評価手法を検討した上で、最も適切な評価手法を選定し、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を算定する。
(2)株式価値算定方法の選定結果及び選定理由
イ インカム・アプローチ
不採用。
本件会社は、賃貸用不動産1棟のみを保有する資産管理会社であり、売上高の全てが賃貸用不動産から生じる収入であり、従業員の雇用もないため本件会社の事業特性を考慮すると、事業そのものが将来生み出す価値を基礎とするインカム・アプローチは適切な算定方法とは考えにくい。また、本件会社は事業計画を策定しておらず、本件会社が将来生み出すキャッシュ・フローが不明であるため、インカム・アプローチを採用することは困難である。
以上より、本件の株式価値算定ではインカム・アプローチを不採用と判断した。
ロ マーケット・アプローチ
不採用。
本件会社は、非上場会社であることから市場株価法は適用できず、本件は贈与であり、企業買収等の取引ではないことから、類似取引比較法も適用できないため、類似会社比較法の採用を検討した。
本件会社は賃貸用不動産1棟のみを保有する資産管理会社であるため、本件会社の事業特性を考慮すると、事業そのものの類似性(相対的な比較)を基礎とするマーケット・アプローチ(類似会社比較法)は適切な算定方法とは考えにくい。また、特定の個人(一族)財産の所有・管理を目的とした資産管理会社は上場していないため、類似会社比較法で必須となる上場類似会社が存在しない。
以上より、本件の株式価値算定ではマーケット・アプローチを不採用と判断した。
ハ ネットアセット・アプローチ
採用(修正簿価純資産法)。
本件では、①本件会社は、賃貸用不動産1棟のみを保有する資産管理会社であること、②本件会社の保有資産は実質、賃貸用不動産のみであり株式価値は当該資産が基礎になると考えられること、③不動産鑑定評価等によって不動産の時価を把握することは可能であること、④本件の株式価値算定においては、インカム・アプローチ及びマーケット・アプローチは採用できないことから、算定の目的・算定の背景・本件会社の事業特性のいずれの点においても問題がないため、ネットアセット・アプローチを採用した。
3 本件株式価値算定額の決定
上記2のとおり、本件会社は賃貸用不動産1棟のみを保有する資産管理会社で売上高の全てが賃貸用不動産から生じる収入であり、不動産(土地・建物)以外に簿価と時価で多額のかい離が生じると想定される資産・負債はないことから、時価評価対象資産は本件不動産とし、本件不動産の時価は本件不動産鑑定評価額を採用して、本件会社の修正簿価純資産法による株式価値を算定した結果、本件株式価値算定額は×××とした。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-

-

団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -















