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解説記事2026年05月18日 未公開判決事例紹介 欠損金還付請求書を失念、税理士法人に損害賠償責任(2026年5月18日号・№1122)

未公開判決事例紹介
欠損金還付請求書を失念、税理士法人に損害賠償責任
東京地裁、契約上の債務不履行に該当

 本誌1118号4頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇 税理士法人が欠損金の還付請求書の送付をミスしたことにより税理士賠償責任事件となった事件(令和7年(ワ)第15481号)。東京地方裁判所(武藤明子裁判官)は令和7年12月5日、被告の税理士法人は原告の納税者から委任を受けた還付請求を行わなかったもので、契約上の債務不履行に該当すると指摘し、原告の主張どおり1,260万円余りを債務不履行による損害と認めた。

主  文

1 被告は、原告に対し、1260万1185円及びこれに対する令和5年6月7日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを7分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
 被告は、原告に対し、1405万1185円及びうち1260万1185円に対する令和5年6月7日から、うち145万円に対する令和7年6月18日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告が原告の委任した法人税の還付請求を怠ったことが、債務不履行及び不法行為に該当すると主張し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、得べかりし還付金相当額1260万1185円(①)及び同還付請求にかかる税理士報酬相当額15万円(②)の支払、不法行為に基づく損害賠償請求として、弁護士費用相当額130万円(③)の支払、並びに、上記①に対する同還付金が還付されるはずであった日の翌日である令和5年6月7日から、上記②及び上記③に対する訴状送達日の翌日である令和7年6月18日から各支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない事実又は掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
 ア 原告は、不動産の売買等を目的とする株式会社である。
 イ 被告は、他人の求めに応じ、租税に関し、税理士法2条1項に定める税務代理税務書類の作成及び税務相談に関する事務を行うこと等を目的とする税理士法人である。
(2)欠損金の繰戻しによる法人税額の還付(法人税法80条)
 内国法人(中小企業)は、青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(以下、この事業年度を「欠損事業年度」という。)において、以下の要件のもと、その欠損金額をその欠損事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(以下「還付所得事業年度」という。)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができる。
 ① 還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である確定申告書を提出していること。
 ② 欠損事業年度の青色申告書である確定申告書をその提出期限までに提出していること。
 ③ 上記②の確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること。
(3)原告は、被告に対し、平成26年から税務書類及び決算書作成等を委任してきたところ、令和5年3月期(令和4年4月1日から令和5年3月31日まで)においては、同期の確定申告と併せ、令和5年3月期を欠損事業年度とし、令和4年3月期を還付所得事業年度とする欠損金の繰戻しによる還付請求(以下「本件請求」という。)を行うことについても委任した(甲11、弁論の全趣旨)。
(4)被告は、申告書作成の税務会計ソフトを使用して、原告の令和5年3月期の確定申告書及び還付金額を1153万8065円とする欠損金の繰戻しによる還付請求書(以下「本件請求書」という。)を作成し、令和5年5月18日、同確定申告書を同ソフトの「電子申告」メニューにアップすることにより、電子申請による確定申告を行った。このとき、本件請求書については、別途、税務署にPDFファイルを送信する必要があったところ、被告は、上記「電子申告」メニューヘのアップによって本件請求書も同時に送信できているものと考え、PDFファイルの送信をせず、その結果、本件請求はされなかった(甲3、6、7)。
(5)被告は、令和6年5月16日、税務署に、原告の令和5年3月期の確定申告において青色欠損金として記載した5086万0040円の全額を翌期(令和6年3月期)に繰り越す旨の訂正依頼書を提出し、この訂正が認められた(以下、繰り越されることとなった上記青色欠損金を「本件復活欠損金」という。)。
(6)被告は、同日付けで、原告に対し、「欠損金の繰戻しによる還付ができなかったことに関する経緯と今後の対応につきまして(お詫びとご報告)」と題する書面を送付した。同書面には、上記(4)の経緯により、本件請求ができていなかったこと、税務署の担当者に事情を説明して交渉したが却下されたこと、還付を受けられないことによる対応として、同日、税務署に、上記(5)の訂正依頼書を提出したこと、これにより、原告は、令和6年3月期以降、本件復活欠損金を使えること、被告の過失によるものであるため、損失額を補償すること、補償金額については、還付不能となった金額1153万8065円から、欠損金の繰越控除により支払われなくなった税金の金額を控除した金額としたいと考えており、補償の金額を協議させていただきたい旨等が記載されていた(甲7)。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)争点1(債務不履行の損害額)について
(原告の主張)

ア 還付相当額として1260万1185円
  被告が本件請求を怠った債務不履行により、原告は、被告が本件請求をしていれば還付を受けることができていたであろう合計1272万6485円(法人税につき1153万8065円、地方法人税につき118万8420円)の還付を受けることができず、同額の損害を被った。もっとも、原告は、令和6年3月期の確定申告において本件復活欠損金のうち75万9810円を損金算入して12万5300円の節税効果を得たことから、同額を控除し、1260万1185円を損害として請求する。
イ 税理士報酬相当額として15万円
  原告は、令和5年3月期の確定申告及び本件請求にかかる報酬として30万円を支払ったところ、令和4年3月期までの確定申告のみにかかる税理士報酬は15万円であったから、本件請求にかかる税理士報酬は15万円である。そして、被告は本件請求を怠ったのであるから、原告は、当該債務不履行により、本件請求の税理士報酬相当額15万円の損害を被った。
(被告の主張)
 本件請求による還付予定額が合計1272万6485円であったことは認め、その余は争う。本件復活欠損金は10年間繰り越すことができるから、令和6年3月期の節税効果分のみならず、令和7年3月期以降の繰越控除による節税額についても控除する必要があり、10年経過による復活欠損金の期限切れ又は原告が解散に至らない限り、損害額は確定しない。また、令和5年3月期の税理士報酬を30万円としたのは、前期までの報酬額が著しく低額であったため、原告の承諾を得て増額したものであって、本件請求にかかる報酬を15万円としたものではない。
(2)争点2(不法行為の成否及び損害額)について
(原告の主張)

 被告の債務不履行は不法行為にも該当する。本件訴えは、専門的な訴訟であって弁護士への委任が不可避であるところ、原告は、本件訴え提起を余儀なくされたのであるから、被告は、不法行為に基づき、原告に対して弁護士費用の賠償をする義務を負う。その損害額は130万円を下らない。
(被告の主張)
 争う。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実(各項末尾に証拠を掲げる。)

(1)原告は、被告との間の税務申告にかかる委任契約を解消し、令和6年3月期以降の確定申告は他の税理士に委任した。原告の令和6年3月期の確定申告では、本件復活欠損金のうち75万9810円が損金算入され、残りの5010万0230円が翌期に繰り越されており、原告は、これにより、12万5300円の節税効果を得た。また、原告の令和7年3月期の確定申告では、本件復活欠損金の損金算入はされず、当期欠損金額1276万9590円と併せて全額が翌期に繰り越された(甲4、5、弁論の全趣旨)。
(2)原告は、令和5年6月6日、令和5年3月期の国税(法人税、地方法人税、消費及び地方消費税)にかかる国税還付金(本件請求にかかるもの以外)の振込を受けた(甲9、10)。
2 争点1(債務不履行の損害額)について
(1)前記前提事実(4)のとおり、被告は、原告から委任を受けた本件請求を行わなかったもので、これは、契約上の債務不履行に該当するところ、本件請求が適時に行われていれば、原告は、前記認定事実(2)の国税還付金の振込を受けた令和5年6月6日、さらに合計1272万6485円の税金還付を受けることができたものと認められる。
  ただし、前記認定事実(1)のとおり、原告は、令和6年3月期の確定申告において、本件復活欠損金の一部を欠損算入したことにより、12万5300円の利益を得ているから、これを損益相殺により控除し、1260万1185円を債務不履行による原告の損害額と認める。
  被告は、本件復活欠損金は10年間繰り越すことができるから、未だ損害額は確定していない旨主張するが、本件復活欠損金の活用により原告が将来受け得る利益があるとしても、現時点においてこれが具体的に存在しているとはいえないから、被告の上記主張は採用できない。
(2)原告は、被告の債務不履行により、本件請求にかかる報酬相当額15万円の損害を被った旨も主張するが、当該報酬は、被告の債務不履行がなかった場合(本件請求が適時にされた場合)においても原告において負担する必要のある支出であることから、債務不履行による損害と認めることはできない。
(3)以上によれば、債務不履行の損害額は、1260万1185円と認められる。
3 争点2(不法行為の成否及び損害額)について
 原告は、上記被告の債務不履行が不法行為にも該当する旨主張するが、本件における被告の債務不履行の内容(前記前提事実(4))等に照らし、これが原告に対する不法行為にも該当すると認めることはできない。したがって、この点に関する原告の主張には理由がない。

第4 結論
 よって、原告の請求は、1260万1185円及びこれに対する令和5年6月7日から支払済みまで年3%の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから主文第1項の限度で認容し、その余の請求はいずれも理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第14部
裁判官 武藤明子

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