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解説記事2026年05月25日 未公開判決事例紹介 国外居住親族の扶養控除、送金関係書類以外を認めず(2026年5月25日号・№1123)

未公開判決事例紹介
国外居住親族の扶養控除、送金関係書類以外を認めず
東京地裁、生計一は法令所定書類の立証が必要

 本誌1099号40頁で紹介した処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇国外居住親族の扶養控除の適用を巡る事件(令和5年(行ウ)第289号)。納税者は、経済制裁により国際送金が事実上不可能であったから送金関係書類の添付等を求めるのは不当であり、別の方法で扶養の事実を立証できる旨を主張したが、東京地方裁判所(岡田幸人裁判長)は令和7年9月2日、平成27年改正の趣旨などを踏まえ送金関係書類以外のものによる立証は許容されるべきであるということはできないと判断した。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 以下では、納付すべき税額が増加し、又は還付すべき税額が減少する方向をプラス、納付すべき税額が減少し、又は還付すべき税額が増加する方向をマイナスとした場合において、更正処分のうち原告が主張する額よりもプラスとなる部分を「超える部分」と表現する。
1 大和税務署長が令和3年12月24日付けで原告に対してした令和2年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち納付すべき税額31万5900円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 大和税務署長が令和3年12月24日付けで原告に対してした令和元年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち納付すべき税額145万4100円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 大和税務署長が令和3年12月24日付けで原告に対してした平成30年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち還付すべき税額111万8196円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
4 大和税務署長が令和3年12月24日付けで原告に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち還付すべき税額234万3197円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
5 大和税務署長が令和3年12月24日付けで原告に対してした平成28年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち納付すべき税額93万5300円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
6 大和税務署長が令和4年1月13日付けで原告に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る還付金の充当処分を取り消す。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 原告は、平成28年分から令和2年分までの各年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、国外に居住する親族らが扶養控除の対象となることを前提に確定申告をしたが、大和税務署長は、当該親族らが原告と生計を一にすることを明らかにする法令所定の書類が提出又は提示されておらず、当該親族らについて扶養控除の適用はないなどとして、本件各年分の所得税等についてそれぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。また、大和税務署長は、平成29年分の所得税等の確定申告において生じた還付金を同年分の未納国税に充当する処分をした。
 本件は、原告が、上記親族らは扶養控除の対象となる扶養親族に該当するなどと主張して、被告を相手に、上記各更正処分のうち上記確定申告の額を超える部分の取消し並びに上記各賦課決定処分及び上記充当処分の全部取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め等
(1)本件における所得税関係法令に係る適用関係

 本件において、所得税法(昭和40年法律第33号)は、平成28年分及び平成29年分の所得税につき平成29年法律第4号による改正前の、平成30年分及び令和元年分の所得税につき平成30年法律第7号による改正前の、令和2年分の所得税につき令和2年法律第8号による改正前のものがそれぞれ適用され、所得税法施行令(昭和40年政令第96号。以下「施行令」という。)は、平成28年分及び平成29年分の所得税につき平成28年政令第145号による改正前の、平成30年分及び令和元年分の所得税につき平成31年政令第95号による改正前の、令和2年分の所得税につき令和2年政令第111号による改正前のものがそれぞれ適用され、所得税法施行規則(昭和40年大蔵省令第11号。以下「施行規則」という。)は、平成28年分及び平成29年分の所得税につき平成28年財務省令第15号による改正前の、平成30年分ないし令和2年分の所得税につき令和2年財務省令第11号による改正前のものがそれぞれ適用される。
(2)扶養親族
 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を居住者といい(所得税法2条1項3号)、居住者は所得税を納める義務があるところ(同法5条1項)、扶養親族とは、居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)の場合にあっては、その居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が48万円以下(平成28年分ないし令和元年分にあっては38万円以下)である者をいう(同法2条1項34号)。そして、扶養親族のうち、年齢16歳以上の者を控除対象扶養親族(同項34号の2)といい、控除対象扶養親族のうち、年齢19歳以上23歳未満の者を特定扶養親族(同項34号の3)、年齢70歳以上の者を老人扶養親族(同項34号の4)という。
(3)扶養控除
 居住者が控除対象扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その控除対象扶養親族1人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円、その者が老人扶養親族である場合には48万円)が控除され(所得税法84条1項)、これを扶養控除という(同条2項)。
(4)扶養控除の適用に関する書類に関係する定め
ア 平成27年法律第9号による所得税法等の改正前の状況等
(ア)平成27年法律第9号による改正(原則として平成27年4月1日に施行され、平成27年分以後の所得税について適用される。以下「平成27年改正」という。)前の所得税法は、雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除又は勤労学生控除に関する事項を120条1項の規定による申告書(以下「確定申告書」という。)に記載する居住者については、確定申告書を提出する場合には、政令で定めるところにより、一定の書類を当該確定申告書に添付し、又はその提出の際提示しなければならない旨定めていたが(平成27年改正前の120条3項(1号及び2号に係る部分))、扶養控除に関しては、親族であることを証する書類や生計を一にすることを明らかにする書類の添付等は義務付けられていなかった。
  そのため、税務官庁においては、居住者が確定申告書に記載する控除対象扶養親族のうち、国内に居住する親族(以下「国内居住親族」という。)については、必要に応じて、市町村等からその住民票を取り寄せたり、市町村等が保有する給与支払報告書等を調査したりするなどして控除対象扶養親族の要件を満たしているかを確認する一方、国外に居住する親族(以下「国外居住親族」という。)については、居住者の協力を得て、その氏名、生年月日、居住者との続柄等を確認できる書類(出生証明書等。以下「続柄証明書類」という。)及び送金の事実を確認できる書類(送金依頼書等。以下「送金証明書類」という。)の提出又は提示を求めるにとどまっていた(乙14)。
(イ)会計検査院は、国外居住親族に係る扶養控除の適用状況等について検査し、平成26年11月7日に内閣に送付した平成25年度決算検査報告において、検査の対象とした平成24年度の納税者(合計1576人)について、以下の内容を含む指摘をし、別紙1の「4 本院の所見」記載のとおりの内容の所見を示した(乙11、14)。
 ① 国外居住親族も扶養控除の対象としている納税者(国外居住親族のみを扶養控除の対象としている納税者を含む。)1296人のうち1077人が提出した続柄証明書類の状況をみると、国、地方公共団体等の公的機関が作成した出生証明書等を提出している納税者が994人、公的機関以外が作成した書類を提出している納税者が83人となっていた。しかし、これらの続柄証明書類中には、発行年月日が古かったり、住所が記載されていなかったりなどして、国内居住親族に係る住民票等と異なり、申告した年における控除対象扶養親族の生存の有無や住所を確認することができないものが見受けられた。
 ② 前記1296人のうち1132人が提出した送金証明書類の状況をみると、金融機関等を通じて送金したことを証明する送金依頼書等を提出している納税者が593人となっていた一方、納税者やその配偶者等が帰国した際に現金を手渡したとしている申立書を提出している納税者が218人、控除対象扶養親族以外の第三者に現金を手渡して、その第三者が帰国した際に控除対象扶養親族に現金を手渡したとしている申立書を提出している納税者が241人となっていた。また、控除対象扶養親族が納税者の銀行口座等から現金を引き出したとして、当該銀行口座等の入出金記録等を提出している納税者も80人いたが、これについては、実際に誰が現金を引き出したかを確認できないものであった。そして、上記1132人のうち提出された送金証明書類から送金額が確認できた1123人について国外居住親族に係る扶養控除の適用額と送金額との関係をみると、前者に対する後者の割合が20%未満である者が361人いた。
イ 平成27年改正後の所得税法の定め
 平成27年改正後の所得税法120条3項(2号に係る部分)は、扶養親族の判定をする時の現況において非居住者である親族に係る扶養控除に関する事項を確定申告書に記載する居住者は、当該確定申告書を提出する場合には、政令で定めるところにより、当該非居住者である親族が当該居住者の親族に該当する旨を証する書類及び当該非居住者である親族が当該居住者と生計を一にすることを明らかにする書類を当該確定申告書に添付し、又はその提出の際提示しなければならない旨定めている。
ウ 施行令の定め
 平成27年改正を受け、施行令262条3項(平成28年分及び平成29年分の所得税にあっては同条2項。以下同じ。)は、確定申告書に上記イの事項を記載する居住者は、当該事項の記載がされる控除対象扶養親族(以下「国外居住扶養親族」という。)の各人別に①国外居住扶養親族が当該居住者の配偶者以外の親族に該当する旨を証する書類として財務省令で定めるもの(同項1号(ハに係る部分)。以下「親族関係書類」という。)及び②国外居住扶養親族が当該居住者と生計を一にすることを明らかにする書類として財務省令で定めるもの(同項2号。以下「送金関係書類」といい、親族関係書類と併せて「送金関係書類等」という。)を当該確定申告書に添付し、又はその提出の際提示しなければならない旨定めている。
エ 施行規則の定め
(ア)親族関係書類について
 施行規則47条の2第5項(平成28年分及び平成29年分の所得税にあっては同条4項。以下同じ。)は、施行令262条3項1号に規定する財務省令で定める書類について、国外居住扶養親族に係る次に掲げるいずれかの書類であって、当該国外居住扶養親族が居住者の配偶者以外の親族に該当する旨を証するもの(当該書類が外国語で作成されている場合には、その翻訳文を含む。)と定めている。
 a 戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及び旅券の写し(施行規則47条の2第5項1号)
 b 外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(当該国外居住扶養親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限る。)(同項2号)
(イ)送金関係書類について
 送金関係書類について、施行規則47条の2第6項(平成28年分及び平成29年分の所得税にあっては同条5項。以下同じ。)は、次に掲げる書類であって、居住者がその年において国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするもの(当該書類が外国語で作成されている場合には、その翻訳文を含む。)と定めている。
 a 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(平成9年法律第110号。以下「国送法」という。)2条3号に規定する金融機関(以下「国送法金融機関」という。)の書類又はその写しで、当該金融機関が行う為替取引によって当該居住者から当該国外居住扶養親族に支払をしたことを明らかにするもの(施行規則47条の2第6項1号)
 b クレジットカード等購入あっせん業者の書類又はその写しで、クレジットカード等を当該国外居住扶養親族が提示し又は通知して、特定の販売業者から商品若しくは権利を購入し、又は特定の役務提供事業者から有償で役務の提供を受けたことにより支払うこととなる当該商品若しくは権利の代金又は当該役務の対価に相当する額の金銭を当該居住者から受領し、又は受領することとなることを明らかにするもの(同項2号)
オ 国送法等の定め
 国送法2条3号は、金融機関を、銀行その他の政令で定める金融機関と定義し、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令(平成9年政令第363号)2条は、国送法2条3号に規定する金融機関として、銀行法(昭和56年法律第59号)2条1項に規定する銀行や資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)2条3項に規定する資金移動業者等を掲げている。
 そして、銀行法2条1項は、銀行を、同法4条1項の内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者と定義している。
3 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに後掲の各証拠(書証番号は特に記載しない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告

 原告は、日本に居住するイラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)の国籍を有する男性である(争いがない。)。
(2)確定申告
ア 原告は、大和税務署長に対し、本件各年分の所得税等について、いずれも法定申告期限までに確定申告をした。原告が提出した本件各年分の確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)には、扶養控除の額として、それぞれ以下の金額が記載されていた。(甲8~12、弁論の全趣旨)
 平成28年分 1501万円
 平成29年分 1501万円
 平成30年分 1516万円
 令和元年分 1491万円
 令和2年分 1466万円
イ 上記アの扶養控除の額は、別紙2記載の対象者に関し、本件各年分のうち「対象年」欄に「○」が付された年分について控除対象扶養親族とすることを前提に記載されたものであったが、本件各確定申告書には送金関係書類は添付されておらず、また、本件各確定申告書提出の際に送金関係書類が提示されることもなかった(争いがない。)。
(3)更正処分等
ア 大和税務署長は、原告が控除対象扶養親族に該当するとして申告した別紙2記載の対象者のうち、「対象年」欄に斜線が付された年分に係る部分については扶養控除の適用を認めたが、それ以外の部分については、送金関係書類の提出又は提示がないこと(本件各年分における国外居住扶養親族として申告された対象者)又は国内に居住しておらず、送金関係書類の提出又は提示もないこと(国内居住扶養親族として申告された対象者)を理由に、いずれも扶養控除の適用がないとして、令和3年12月24日付けで、原告に対し、本件各年分の所得税等を更正する処分(以下「本件各更正処分」という。)をするとともに、本件各年分の所得税等について過少申告加算税を賦課する決定(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした(甲1~5)。
イ 大和税務署長は、令和4年1月13日付けで、原告に対し、平成29年分の所得税等の確定申告に係る還付金234万3197円(以下「本件還付金」という。)について、同年分の所得税等に未納があるとして、その全額を当該所得税等(本件還付金の額に同年分の更正処分による納付すべき金額を加えた金額)に充当する処分(以下「本件充当処分」といい、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分と併せて「本件各処分」という。)をした(甲4、6、11)。
(4)審査請求
 原告は、令和4年3月18日、国税不服審判所長に対し、本件各処分についてそれぞれ審査請求をしたが、国税不服審判所長は、令和5年3月14日、いずれの審査請求も棄却する旨の裁決をした(甲7、弁論の全趣旨)。
(5)訴訟提起
 原告は、令和5年7月4日、本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
4 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
 本件において被告が主張する本件各処分の根拠及び適法性に関する主張は、後記6に記載するほか、別紙3に記載のとおりである。
5 争点
(1)別紙2記載の対象者のうち「対象年」欄に網掛けが付された年分に係る部分(以下「本件対象者」という。)は、原告の本件各年分の所得税額等の計算上、国外居住扶養親族として控除対象扶養親族に該当するか(争点①)
(2)本件各処分に信義則違反の違法があるか(争点②)
(3)本件各処分に平等取扱原則違反の違法があるか(争点③)
6 争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点①(本件対象者の控除対象扶養親族該当性)について
(原告の主張の要旨)

ア 送金関係書類は、国外居住親族が居住者と生計を一にすることを立証するための資料にすぎず、その添付等は、国外居住親族に扶養控除を適用するための要件ではない。
  また、本件対象者はその対象年においてイランに居住していたところ、イランに対する経済制裁によって、日本からイラン国内の銀行に対して国際送金をすることは事実上不可能であった。
  以上からすれば、本件対象者について、送金関係書類がなくとも、別の方法で扶養の事実を立証すれば扶養控除を受けることができるものと解すべきである。
イ 本件では、原告が、日本にいる親族や友人がイランに帰国する際に現金を手渡し、その現金をイラン国内で配ってもらったり、イラン国内にあるテジャラット銀行(以下「本件銀行」という。)の原告及び原告の姉名義の口座(以下「本件口座」という。)から送金したりする方法によって本件対象者を扶養していたことは明らかである。
ウ したがって、原告の本件各年分の所得税等の計算上、本件対象者は国外居住扶養親族として控除対象扶養親族に該当する。
(被告の主張の要旨)
 国外居住親族が居住者と「生計を一にする」かどうかは送金関係書類によって判断される必要があるところ、原告が提出した各証拠はいずれも送金関係書類に該当しない上、これらの証拠を踏まえても、原告と本件対象者が「生計を一にする」と認めることはできない。
 したがって、本件対象者は原告の本件各年分の所得税等の計算上、国外居住扶養親族として控除対象扶養親族に該当するとはいえない。
(2)争点②(信義則違反の有無)について
(原告の主張の要旨)

 原告は、本件各年分の所得税等の確定申告を大和税務署の職員に相談した上で行っていたところ、その際、送金関係書類の添付がないことについて指摘や指導を受けることはなく、申告後に税務調査がされることもなかったことから、原告は、送金関係書類が添付されていなくとも代替書類の提出をもって国外居住親族について扶養控除の適用が認められるとの期待ないし信頼を持った。
 そして、令和2年分の所得税等の確定申告に際しては、原告は、同年12月14日、大和税務署のA職員(以下「本件担当職員」という。)から、スタンダードチャータード銀行(以下「SCB」という。)での国際送金であれば扶養控除が認められる旨のアドバイスを電話で受けた。原告は、同月15日、みずほ銀行に問い合わせたが、イランヘの送金はできない旨の回答を受け、その後、イラン国内の親族にイラン国内にあるSCBの支店への問合せを依頼したが、SCBは既にイラン国内から撤退していることが判明した。そこで、原告は、改めて本件担当職員に問合せをしたところ、本件担当職員から、イラン国内にある銀行を利用した送金でもよいとのアドバイスを受けたため、同月23日、本件口座から本件銀行に口座を持つ親族らに対して、それぞれ1億ないし2億イラン・リアル(以下「リアル」という。)を送金した。しかし、令和3年になって突然原告に対する税務調査が行われ、5年分遡って合計約3000万円もの金額の追加徴収を求める本件各処分がされた。
 本件各処分は、送金関係書類を添付しなくとも扶養控除の適用を認める取扱いがされているという原告の合理的な期待や信頼を裏切るものであり、信義則違反に該当し、違法である。
(被告の主張の要旨)
 平成28年分ないし令和元年分の確定申告について、国外居住親族に係る扶養控除の適用に当たっては、法令上、当該親族ごとに送金関係書類等を確定申告書に添付等しなければならない旨規定されており、本件各年分の確定申告に当たって、大和税務署長が、上記規定とは異なる見解を原告に対して正式に表示した事実はない。
 また、本件担当職員は、令和2年12月10日、原告に対し、イラン国内の銀行からイランに居住する親族へ送金をした書類があれば扶養控除の適用がある旨の説明をしたが、同月14日、原告に電話をして、上記説明を訂正し、送金関係書類は内閣総理大臣の免許を受けた金融機関の書類でなければならない旨、法令の規定に沿った正しい内容の説明を行い、原告もその正しい内容の説明を了解した。
 以上からすれば、平成28年分ないし令和元年分の確定申告についても令和2年分の確定申告についても、信義則違反が適用されるような事情があったとはいえない。
 なお、原告は、本件訴訟において、当初、本件担当職員が令和2年12月10日に上記のとおりの説明をしたとの被告主張を認め、当該事実が存在する旨の主張をしていたが、原告本人尋問の後、当該事実を認める旨の主張及び当該事実が存在する旨の主張を撤回し(以下「本件撤回」という。)、本件担当職員から同月14日にSCBでの国際送金であれば扶養控除が認められる旨のアドバイスを受け、その後、本件担当職員からイラン国内にある銀行を利用した送金でもよいとのアドバイスを受けた旨の新主張(以下「本件新主張」という。)をするに至った。本件撤回及び本件新主張は故意又は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃又は防御の方法であって、これにより訴訟の完結を遅延させることとなるから却下されるべきである。また、上記事実を認める旨の主張の撤回は自白の撤回に当たるものでもあるところ、本件撤回において自白の撤回が許容される要件は満たされていないから、本件撤回は許されない。
(3)争点③(平等取扱原則違反の有無)について
(原告の主張の要旨)

 国外居住親族について送金関係書類を添付等せずに確定申告し、当該国外居住親族について扶養控除の適用を受けている外国籍の者は無数に存在し、それらの者については、そのほとんどが、送金関係書類の添付等がなかったことを理由に更正決定を受けてはいない。
 大和税務署長は、原告のみを狙い撃ちにして本件各処分をしたものであるから、本件各処分は平等取扱原則に反し違法である。
(被告の主張の要旨)
 仮に原告が主張するように送金関係書類の添付等をせずに国外居住親族に係る扶養控除の適用を受けた者がいたとしても、そのことを理由に他の者に対して法を正しく適用することができなくなるわけではない。そして、法の適用を免れる者に対して、いつ、いかなる場所で、いかなる者に対して、いかなる範囲の税務調査を行って、税務署長の処分等により納付すべき税額を確定するかは、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている。
 したがって、所得税法の規定を適正に適用してされた本件各処分が租税公平主義に反して違法となることはない。

第3 当裁判所の判断
1 争点①(本件対象者の控除対象扶養親族該当性)について
(1)送金関係書類による立証の要否について

 前記第2の2(4)のとおり、平成27年改正により、国外居住親族を控除対象扶養親族として確定申告をする際に、送金関係書類等の添付等が義務付けられることとなった。このような改正がされたのは、平成27年改正前において、国内居住親族については市町村等と国税当局との連携により扶養控除の要件を満たしているかの確認を行うことができる一方で、国外居住親族については事実確認や実態把握が容易であるとはいえず、結果的に扶養控除の要件を十分に確認できないまま、担税力が減殺された分を相当上回る扶養控除が適用されていた者が多く存在する状況にあったことを踏まえたものであったものと解される。そして、前記第2の2(4)ア(イ)のとおり、平成27年改正前には、送金証明書類として、国外居住親族を有する居住者から①居住者やその配偶者等が帰国した際に現金を手渡したとする申立書、②控除対象扶養親族以外の第三者に現金を手渡し、その第三者が帰国した際に控除対象扶養親族に現金を手渡したとする申立書及び③控除対象扶養親族が居住者の銀行口座等から現金を引き出したとする当該銀行口座等の入出金記録等が提出されていたが、平成27年改正を受けた施行令262条3項に基づく送金関係書類には前記第2の2(4)エ(イ)のとおりの限定が付されたため、上記①ないし③の書類は含まれないこととなる。上記平成27年改正の趣旨に加え、送金関係書類が上記のとおり限定されていることを踏まえれば、国外居住親族を控除対象扶養親族として扶養控除を受けようとする居住者は、当該国外居住親族が当該居住者と生計を一にするものであることを送金関係書類によって立証することができない限り、当該国外居住親族を控除対象扶養親族として扶養控除を受けることはできないものというほかはない。
(2)医療費控除との対比に関する主張について
 原告は、大阪高等裁判所平成10年7月31日判決(税務訴訟資料237号971頁)及び同裁判所平成11年1月14日判決(税務訴訟資料240号1頁)の存在を指摘し、医療費控除については所定の書類の添付等をしていなくとも何らかの方法で医療費控除の適用の要件となる事実を立証すれば足りるから、国外居住親族の扶養控除についても同様に解すべきであると主張する。しかし、上記平成10年判決は平成4年分の所得税、上記平成11年判決は平成7年分の所得税についての事案であって、いずれも平成27年改正前であるところ、上記各判決当時の施行令は、医療費控除に際して添付等すべき書類について、「確定申告書に医療費控除に関する事項を記載する場合にあっては、当該申告書に記載したその控除を受ける金額の計算の基礎となる法第73条第2項(医療費控除)に規定する医療費につきこれを領収した者のその領収を証する書類」と定めるにとどまっており(平成29年政令第105号による改正前の262条1項2号)、送金関係書類等を法定した平成27年改正後の施行令262条3項等とはその規定ぶりが異なっている。また、上記各判決の事案は、国外において生じた医療費に係るものであったとはうかがわれない。そうすると、いずれにせよ、原告の上記主張はその前提を欠くものというほかはない。
(3)経済制裁に関する主張について
ア 原告は、イランに対する経済制裁によって、日本からイラン国内の銀行に対して国際送金をすることは事実上不可能であったから、このような場合に送金関係書類の添付等を求めるのは不当であると主張する。
イ 後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)イランは、核開発等に関連して米国等から経済制裁を受けていたところ、米国、ロシア、中国、英国、フランス、ドイツ及びイランは、平成27年7月、包括的共同作業計画(以下「JCPOA」という。)を発表し、平成28年1月、米国及びEUは、イランの核開発の停止と引換えに、上記制裁を停止・一部終了させた。日本も、同月、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)に基づき、①イランの核活動等に関与する者に対する資産凍結等の措置、②イラン関係者による日本の核関連企業への投資禁止の措置及び③イランの核活動等及び大型通常兵器等に関連する活動に寄与する目的で行われる資金移転防止の措置を実施した上で、それまで累次に講じてきた諸措置(イランの金融機関との取引自粛の要請等)を解除した。(甲13、16、41)
(イ)米国は、平成30年5月、JCPOAからの離脱を表明し、その後、遅くとも同年8月頃から、イランに対する経済制裁を再開した。JCPOAに基づいて解除されていた経済制裁は、米国がイランと取引を行う外国人や外国企業に対して金融制裁などを科す「二次的制裁」の解除が中心であったところ、米国のJCPOAからの離脱によって、外国金融機関によるイラン中央銀行及びその他の特定のイラン金融機関との取引も、同年11月以降再び制裁対象となった。(甲16、41、44)
(ウ)国際銀行間通信協会は、米国によるイランに対する経済制裁の再開を受けて、平成30年11月、複数のイランの銀行を同協会が提供する国際的な決済システム(以下「SWIFT」という。)から排除した(甲14、15、弁論の全趣旨)。
ウ 証拠(甲14、15)によれば、SWIFTから排除された銀行に対しては国際送金が事実上困難になることが認められるところ、上記イ(ウ)のとおり、複数のイランの銀行が平成30年11月にSWIFTから排除されている。また、上記イ(イ)のとおり、米国による外国金融機関とイランの金融機関との間の取引についての経済制裁が同月から再開されているところ、証拠(甲21~25)によれば、日本の複数の銀行が、米国による上記経済制裁の再開以降、イランヘの国際送金を制限しており、例えば、みずほ銀行は、取引の当事者や関係地にイランが含まれている米ドル建ての取引は取り扱わない旨、三菱UFJ銀行は、取引の当事者や関係地にイランが含まれている取引は通貨を問わず原則として取り扱わない旨、それぞれ公表していることが認められる。加えて、証拠(甲17、18)によれば、国際的なマネーロンダリング対策等について中心的役割を担い、日本も加盟するFATF(金融活動作業部会)は、平成28年2月19日から令和2年2月21日までに相次いで出した一連の声明において、加盟国に対し、自国の金融機関にイランが関係する取引について特別な注意を払ったり顧客管理を強化したりするよう助言することなどを求めていたことが認められる。
  以上によれば、本件各年分の所得税等の課税期間である平成28年1月1日から令和2年12月31日までのうち、遅くとも平成30年11月以降の期間については、日本からイランに国送法金融機関を通じて国際送金をすることは事実上困難であったことが認められる。
エ もっとも、前記(1)のとおり、施行令及び施行規則上、国外居住親族が居住者と生計を一にするものであることの証明方法は送金関係書類に限定されており、送金関係書類を提出することが事実上困難である場合に、別の方法によって上記の証明をすることを可能とするような規定は置かれていない。また、国外居住親族に係る扶養控除の要件確認の適正化を図るという平成27年改正の趣旨が、経済制裁下のイランに限っては及ばないものと解すべき理由もない。そうすると、上記ウのとおり、平成30年11月以降の期間、日本からイランに国送法金融機関を通じて国際送金をすることが事実上困難であったことをもって、本件対象者が原告と生計を一にするものであることを送金関係書類以外のものによって立証することが許容されるべきであるということはできない。
(4)小括
 以上によれば、本件対象者が原告と生計を一にするものであることは飽くまで送金関係書類によって立証する必要があるところ、前提事実(2)イのとおり、本件各年分の所得税等の確定申告に際して送金関係書類は添付等されていない(なお、本件訴訟において提出された証拠にも送金関係書類に該当するものはない。)から、本件対象者が原告と生計を一にするものであると認めることはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件対象者が、原告の本件各年分の所得税等の計算上、国外居住扶養親族として控除対象扶養親族に該当するということはできないものというほかはない。
2 争点②(信義則違反の有無)について
(1)認定事実

 後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(前記前提事実を含む。)。
ア 原告は、大和税務署長に対し、平成28年分ないし令和元年分の所得税等について、いずれも法定申告期限までに確定申告をしたが、送金関係書類の添付等はしなかった(前提事実(1))。
イ 原告と本件担当職員は、令和2年12月14日、電話で会話をした(乙4、原告本人・1頁。ただし、会話の内容については当事者間に争いがある。)。
ウ 原告は、令和2年12月21日及び同月26日に本件銀行に対し、本件口座からその親族に対する送金依頼をし、同月23日から同月26日にかけて、別紙2記載1ないし18、20ないし25、27、29ないし35、37、39ないし41の対象者の各口座に1億5000万リアル又は2億リアルが送金された(乙1、2、5)。
エ 原告は、令和3年4月15日、大和税務署長に対し、令和2年分の所得税等について確定申告をし、その際、上記ウの送金依頼に係る送金依頼書等を資料として提出した(甲8、弁論の全趣旨)。
(2)判断枠組み
 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、当該法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて当該法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、上記特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない(最高裁判所昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・集民152号93頁参照)。
(3)検討
ア 本件担当職員が令和2年12月に原告との間でしたやり取りについて
(ア)証拠(乙4)によれば、原告に係る「着眼調査・事後処理事績票付表」の令和2年12月10日の「応接内容等」の欄には「③外国(イラン)のB/Kから親族(イラン)へ振込みがあればOKだと伝えた。」との記載があり、「担当者」欄には本件担当職員の押印がされていること及び同月14日の「応接内容等」欄には「上記の③は内閣総理大臣の免許が必要である事を伝えた。」、「免許ないとダメと伝えた。」との記載があり、「担当者」欄には本件担当職員の押印がされていることがそれぞれ認められる。上記各記載からすれば、本件担当職員は、原告に対し、同月10日、イラン国内の銀行から国外居住親族への送金についての書類があれば当該国外居住親族について扶養控除を認めることができる旨説明したが、同月14日、当該説明は誤りであり、内閣総理大臣の免許を受けた金融機関による送金でなければならない旨改めて説明したことが推認される。
(イ)この点、原告は、令和7年3月4日に実施した原告本人尋問において、令和2年12月10日に本件担当職員からイラン国内の銀行から国外居住親族へ送金すればよいとの説明を受けたことはなく、本件担当職員からは同月14日にSCBからの送金であればよいとの説明を受け、その後、イラン国内の銀行からの送金でもよいとの説明を受けたために同月下旬に本件銀行から送金した旨供述する(原告本人・1~7頁)。
  しかし、原告は、被告が令和5年11月28日付け答弁書において、本件担当職員は、原告に対し、①令和2年12月10日、国外居住扶養親族に係る扶養控除の適用に当たって、原告がイランの銀行から国外居住親族へ送金をした書類があれば、当該国外居住親族について扶養控除の適用がある旨の説明を行ったが、②同月14日、上記①の説明に誤りがあり、国外居住扶養親族について扶養控除の適用を受けるための送金関係書類に係る金融機関は国送法金融機関でなければならない旨を説明し、原告から了解を得た、と主張したことに対し、令和6年1月26日付け第1準備書面において、上記①の事実については認める旨を、上記②の事実については否認し、本件担当職員から同月14日に①の説明に誤りがあったとの訂正の説明は受けていない旨を主張していた。また、原告は、2024年11月22日付け陳述書(甲46)においても、「2020年12月10日、私は、税務署より、イランにある銀行から扶養対象者に対して送金をするよう指示を受けました。そこで、私は、12月下旬頃、38名の親族に一斉に送金手続を行いました。」と述べていた。そうすると、上記のとおり、本件担当職員から令和2年12月に受けた説明に関し、原告本人尋問における供述の内容は、その重要部分について、上記尋問前の主張や陳述書における供述の内容から変遷しているものといわざるを得ない。原告は、この変遷の理由について、尋問に際して記憶を整理し書類の精査を行った際に記憶違いに気付いたからである旨主張するが、陳述書の作成に際しても事実関係について訴訟代理人との間で再度確認をするのが通常であると考えられるところ、上記のとおり、原告は、令和6年1月26日付け第1準備書面での認否に加え、同年11月22日付けの陳述書でも一貫して上記①の事実を前提としていたのであって、こうした経緯に照らすと、本件担当職員から令和2年12月に受けた説明に関する原告本人尋問における供述を直ちに採用することはできない。
  原告は、令和2年12月10日に本件担当職員からの説明がなかったことを裏付ける証拠として原告の同居人作成に係る日記(甲49)を提出するが、同日記は、日々の出来事が毎日記載されているものではない(例えば、令和2年12月14日における「大和税ム署のAさんよりTELあり。(チャーター銀行の件)」等の記載の前には同年11月30日まで記載がない。)から、上記日記に同年12月10日の本件担当職員からの説明に係る記載がないからといって、同日に本件担当職員から上記①に係る説明がなかったと認めることはできない。そして、証拠(甲19、20、乙8の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和2年分の所得税等の確定申告に際し、本件担当職員宛ての令和3年4月15日付けの申入書(甲20。以下「本件申入書」という。)を提出したこと及びSCBは令和2年12月当時、内閣総理大臣の免許を受けて日本において銀行業を営んでいたことが認められるところ、本件申入書には「令2年12月14日(月)A様よりご連絡頂き、指示がありました扶養家族について。」との記載や、その後の数日間にSCBからの送金についてSCBやみずほ銀行に問合せをしたが送金できない旨の回答を受けた旨の記載があるが、イラン国内の銀行から送金した事実については「従って、前回大和税務署・A様より指示を受けてイランにある◎◎◎◎の口座から各自の扶養家族に振込みました。」との記載があるにとどまる。よって、本件申入書には、上記各問合せ先からイランには送金できない旨の回答を受けた後に本件担当職員からイラン国内の銀行から送金するよう指示等を受けた旨の記載があるとはいえない。
(ウ)以上によれば、前記(ア)の推認を覆すに足りる事実があるとは認められないから、本件担当職員は、原告に対し、同月10日、イラン国内の銀行から国外居住親族への送金についての書類があれば当該国外居住親族について扶養控除を認めることができる旨説明したが、同月14日に当該説明は誤りであり、内閣総理大臣の免許を受けた金融機関(国送法金融機関)による送金でなければならない旨説明した事実が認められる一方、本件担当職員が、同日の説明の後、イラン国内の銀行から国外居住親族への送金についての書類があれば当該国外居住親族について扶養控除を認めることができる旨再度説明したとの事実を認めることはできないものというほかはない。前記(1)ウのとおり、原告は実際にはイラン国内の銀行(本件銀行)から国外居住親族の口座に送金をしているが、本件申入書に「前回大和税務署・A様より指示を受けて」とあるように、令和2年12月14日の指示に先立って同月10日にイラン国内の銀行からの送金でもよい旨の説明を本件担当職員から受けていたために、国送法金融機関による国際送金が困難であることが判明した後にいわば次善の策として当該説明に沿った送金をしたとも考えられる。
(エ)したがって、本件担当職員が令和2年12月に原告との間でしたやり取りをもって、前記(2)にいう特別の事情が存するとはいえない。
  なお、被告は、本件撤回及び本件新主張は時機に後れたものとして却下されるべき旨主張するが、これらは訴訟の完結を遅延させるものとまではいえず、これを却下すべき場合には当たらない。また、被告は、その主張に係る令和2年12月10日の事実を認める旨の主張は自白に該当し、その撤回は許されないとも主張するが、上記事実は本件担当職員が法令とは異なる説明をしたという内容であって、原告にとって不利益な事実とはいえず、この事実について自白が成立するとはいえないから、本件撤回が許されないということもできない。
イ その他の事情について
 前記(1)アのとおり、原告は平成28年分ないし令和元年分の所得税等の確定申告において送金関係書類の添付等はしていなかったところ、原告は、大和税務署側から送金関係書類の添付等がなかったことについて指摘を受けたことはなかった旨主張し、その主張に沿う供述をする(原告本人・4、5頁)。
 しかし、上記指摘を受けたことが仮になかったからといって、送金関係書類が添付等されていなくても扶養控除の適用がある旨の公的見解の表示がされていたものと評価することはできない。
ウ 小括
 したがって、本件において、前記(2)にいう特別の事情が存するとはいえないから、本件各処分に信義則違反の違法があるということはできないものというべきである。
3 争点③(平等取扱原則違反の有無)について
 原告は、送金関係書類を添付等することなく国外居住親族について扶養控除の適用を受けている者が存在する旨主張する。
 しかし、前記1(1)のとおり、法令上、送金関係書類がなければ国外居住親族について扶養控除の適用をすることができないのであって、仮に送金関係書類を添付等することなく国外居住親族について扶養控除の適用を受けている居住者がいたとしても、それは法令上誤った処理がされているにすぎず、そのような者が存在することをもって、原告に対する本件各処分について平等取扱原則に反する違法があるとはいえないから、原告の上記主張は採用することができない。
4 本件各処分の適法性について
 前記1ないし3に加え、証拠(甲1~12)及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件各年分の所得税等の納付すべき税額及び過少申告加算税の額は別紙4に記載のとおりと認められ、これらの額は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の額と同額であるから、これらの処分は、いずれも適法というべきである。そして、これらの処分により、原告には未納となっている所得税等が生じていたといえるから、234万3197円の本件還付金(甲6)を上記未納分の一部に充当した処分(本件充当処分)もまた適法というべきである。

第4 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官 岡田幸人
裁判官 曽我 学
裁判官 大門 全

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