解説記事2026年06月15日 ニュース特集 税理士が決算期末前に契約解除、納税者にとって不利な時期に該当(2026年6月15日号・№1126)
ニュース特集
税理士に想定を超える負担があったと認めるも
税理士が決算期末前に契約解除、納税者にとって不利な時期に該当
本特集では、最近の税理士損害賠償請求事件を2件紹介する。1件目は、税理士法人が原告の会社の決算期末の2か月前に一方的に委任契約を解除したというもの。裁判所は、税理士法人側に委任契約の内容を超える負担はあったものの、契約解除により生じる損害を原告の会社に甘受させることは相当とはいえないとの判断を示し、税理士法人側に195万円の損害賠償責任を認めている。また、2件目は、税理士法人が顧問先に対する当初の消費税が還付になるとの説明とは異なり実際には消費税の納付が必要になったというもの。本件では、原告に具体的な実害が生じていたとは認められないとし、原告の主張が斥けられている。
税理士法人が決算期末の2か月前に委任契約を一方的に解除
最初に紹介する税賠事件は、納税者にとって不利な時期に税務書類の作成業務等の委任契約を解除したとして税理士法人に対して損害賠償を求めたものである(東京地裁令和8年2月6日判決、令和6年(ワ)第448号)。
原告は、被告の税理士法人は10月11日に、同月末日をもって委任契約を解除する旨を通知しており、原告らが12月決算会社であることからすれば、これは原告らにとって不利な時期に委任契約を解除したことに当たるとした。また、税理士法人は、原告らにおける業務量の増加により対応が困難になっていたのであれば、原告らと協議の上、事業年度の終了とともに契約を終了するなどの対応をとることが可能であったと主張。一方、税理士法人側は、原告A社は上場を目指し、原告B社を買収するなど、業務量は増加の一途をたどっていたことに加え、被告代表者の病気により、原告らの業務を続けることが極めて困難になったなどと主張した。
後任の税理士を見つけること自体が困難
裁判所(秋山沙織裁判官)は、原告ら代表者は前任の税理士法人(被告)が期中で契約を解除しているという経緯から後任を引き受けてくれる税理士がなかなか見つからなかったと述べており、この供述は解除の通知の時から後任の税理士法人との契約の締結まで2か月以上を要し、かつ、契約締結の日が事業年度末日の約2週間前であるという事実の経過と整合的であると指摘。これらの経緯を考慮しても、決算期まで2か月という解除の時期は、原告A社が遅滞なく他の税理士に事務処理を委任するのが困難な時期であるというべきであり、原告A社にとって不利な時期の解除に当たるとした。
その上で、裁判所は税理士法人が委任契約を解除したことにつき、やむを得ない事由があったか否かについて検討を行っている。裁判所は、事実経過(表参照)を踏まえれば、原告A社は特に令和4年5月頃以降、被告に対し、M&A案件の財務的検討や代表者の親族が経営する別会社の決算など、本来の税務関係業務の範囲を超える業務への対応を求めているほか、契約を解除する直前には、原告A社が業務上の必要に応じて試算表の修正を求め、被告代表者は夜間及び休日の対応を迫られていることが認められ、同年10月頃における原告A社との委任契約を原因とする被告又は被告代表者の負担は本来想定していた範囲を超えて増大していたものと考えられるとした。
| ・原告ら代表者は令和3年7月頃、被告代表者らとの会食の場において、原告A社においてIPOを目指す意向を明らかにし、以後、1か月に1回程度の頻度で打ち合わせを行うようになった。また、原告ら代表者は、被告代表者に対し、M&A案件の候補となる企業のデータを、特段の具体的指示をせずにメールやLINEを通じて送ることがあり、被告代表者は、データの内容を確認して質問事項を返送するなどの対応をしていた。 ・原告A社は令和4年5月、原告B社を買収。原告ら代表者は、被告代表者に対し、原告B社の決算の対応を依頼し、被告代表者はこれを了承した。 ・被告代表者は、以前から病気の治療を行っていたが、令和4年6月頃には新たな病気も発症。被告代表者は、この事実を原告ら代表者に知らせた。 ・被告代表者は令和4年7月6日のIPOに向けた打ち合わせにおいて、「(被告は)中規模以上の経理業務は本来業務として扱わない方針です。」「経理を内部に置くことが絶対必要条件なのではないかと考えます。」などと記載したレジュメを提示した。 ・令和4年8月頃、原告ら代表者は、被告に対し、原告ら代表者の義父が経営する飲食店の決算対応を行うよう依頼。同社の決算はコロナ給付金を受給した影響で利益が生じる状態となっていたため、原告ら代表者は、この飲食店で働いていた義父の娘らへの給与を計上することを提案し、給与の額を変えた複数のパターンのシミュレーションを作成し、原告ら代表者に提案した。 ・令和4年9月21日、原告A社において、労働者派遣事業許可の更新のための財務要件を満たさないことが判明。被告代表者は翌22日の夜から財務要件をクリアするための対策に着手し、23日午前3時頃に対策案を原告A社にメールで送信。 ・令和4年10月1日(土曜)の午前8時頃、原告A社の従業員は、被告代表者に対し、金融機関への財務状況の報告のための試算表を修正する必要があるとして、被告代表者に対応を求めた。被告代表者は翌2日(日曜)の午後6時頃、修正した試算表を原告ら代表者にメールで送信。 |
これに対して税理士法人は、同年7月頃に中規模以上の経理業務を扱わない方針であるとして、原告A社に経理担当者を置くべきことを進言しているが、そのほかに原告A社の要求を断ったり、委任の範囲外であるなどの具体的な反論をしたりしたことはないとした。加えて、被告代表者の病気と原告A社との委任契約との関係は必ずしも明らかではないことからすれば、本件においては、原告A社との契約に基づく被告側の負担が増大していたことを考慮しても、原告A社に契約の解除により生じる損害を甘受させることが相当ということはできず、税理士法人が契約を令和4年10月末日をもって解除することにつき、やむを得ない事由があったとは認めがたいとの判断を示し、後任の税理士法人に対して支払った費用の一部である195万円を損害の額として認めている。
税理士法人の説明が、消費税還付から一転して納付に変更
2件目に紹介する事件は、税理士法人がクライアント先に対し、当初は消費税の還付が50万円になると伝えていたものの、その後、実際には約170万円の消費税納付が必要になったというものである(東京地裁令和8年2月24日判決、令和7年(ワ)第13099号)。
具体的には、原告である納税者(法人)は、税理士法人である被告との間で締結した税務契約に基づき、税務書類作成等の業務を委託したが、被告が原告に対して税理士資格のない従業員を窓口としてサービスを提供し、実際は約170万円の消費税納付が必要であるのに予想消費税を約50万円の還付であると誤った内容の説明をしたとして、税務顧問契約の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償として合計609万円余りの支払いを求めた事件である。
税理士資格のない職員を通じて誤りを伝達
原告は、被告は税理士資格を持たない職員を通じて消費税の還付が50万円になると伝えてきたが、突然、還付ではなく約170万円の納付になる旨と告げられたとし、中小企業である原告にとって、50万円の還付が170万円の納付になるということは、資金繰り等の事業計画及び事業運営上、極めて大きな支障をきたすものであり、被告に責任があることは間違いないとした。一方、被告の税理士法人側は、実務上、決算確定前の予測が確定額と乖離することは通常見られる事情であり、最終的に予測金額が確定額と異なったからといって、原告に対する債務不履行となるわけではないと主張した。
予想消費税額が大幅に異なるも、具体的な実害は生じず
裁判所(中野雄壱裁判官)は、まず、各種サービスを非税理士資格の職員が提供した点に関し、通常、税理士又は税理士法人の監督の下、税理士資格を有しない職員が顧客の窓口となり、顧客対応を行うことは実務上行われており、直ちに税理士法違反になるとは認められないとした。
その上で、税理士法人の従業員が原告に誤った予想消費税額を説明し続けた点については、原告は税理士法人から予想消費税額を伝えられ、それを前提として、今後の事業計画を策定し、資金調達等を遂行することも考えられるとし、予想消費税額が実際とは大幅に異なっていた場合は、事業計画等に支障が生じうることは理解できる事態であり、予想が外れた要因によっては税理士法人である被告の不完全履行と構成することも考えられるとした。
しかし、税理士法人は、原告に対し、消費税の納付期限内に確定納税額に係る納付書を交付した上で、国税の納税の猶予制度を利用するための換価の猶予申請書を作成し、最終的に税務署において同申請が承認されていることが認められると指摘。結果として、税理士法人による予想消費税額の説明が誤っていたことによって、原告に具体的な実害が生じていたとは認められないことから、税理士法人の説明は原告に対する不法行為を構成しないとし、原告の主張を斥けた。
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