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解説記事2026年07月20日 巻頭特集 事業移転後の合併による欠損金引継ぎにみる法人税法132条の2の射程(2026年7月20日号・№1131) ~大阪地裁令和8年5月21日判決、東京地裁令和8年6月18日判決を素材に~

巻頭特集
対談
事業移転後の合併による欠損金引継ぎにみる法人税法132条の2の射程
~大阪地裁令和8年5月21日判決、東京地裁令和8年6月18日判決を素材に~
 北海道大学大学院法学研究科 教授(元国税審判官) 佐藤修二
 弁護士法人北浜法律事務所 弁護士・税理士(元国税審判官) 安田雄飛


 事業の承継先と欠損金の引継ぎ先が分かれる完全支配関係下の合併を、欠損金の「付替え」のためのものと見るのか、あるいは実態のある事業再編の一環と見るのかが問われた二つの事案で、裁判所が法人税法132条の2の適用の可否について対照的な判断を示し、注目を集めている。
 大阪地裁令和8年5月21日判決が、分割により事業を別会社に移転した後、欠損金等を残した法人を親会社が合併した一連の再編について、欠損金を事業から切り離して親会社に移すものと捉え、同条の適用を認めた一方、東京地裁令和8年6月18日判決は、税負担減少の目的があったことを認めつつも、従前から進められていた事業集約に沿う再編であったことを重視し、同条の適用を否定した。
 本対談では、これら二つの判決を素材に、合併に先立って事業が別会社に移されていたことをどう評価すべきか、税負担減少の目的がある場合でも事業再編としての実態を認め得るのはどのような場合かなどについて、東京国税不服審判所で国税審判官を務め、現在は北海道大学大学院法学研究科教授として租税法研究に携わる佐藤修二教授と、同じく国税審判官の経験を有し、法人税法132条の2をめぐる裁判例・裁決例についての論稿もある安田雄飛弁護士・税理士に検討していただいた。同条の適用が問題となった新たな裁判例である両判決を手掛かりに、組織再編成に係る行為計算否認の射程を改めて考える内容となっている。(文中、敬称略)

Ⅰ はじめに

佐藤:このたび大阪地裁、東京地裁で、法人税法(以下「法」)132条の2に関する判決が出ました。この条文に関する判決としては、ヤフー、TPR、PGMに続く事例ということになります。大阪地裁は法132条の2の適用を認めたのに対し、東京地裁はその適用を否定しており、結論が分かれた点も含め、実務的にも注目されるものであると思います。今回は、安田先生と、これらの判決について検討します。なお、大阪地裁の事件では、法132条の2以外にも複数争点があり、特に寄附金についても興味深い判断が示されていますが、今回は、法132条の2に関する部分に焦点を当てて検討したいと思います。

Ⅱ 法人税法132条の2を巡るこれまでの議論

佐藤:法132条の2については、本年3月に安田先生と行った日本租税研究協会の講演でもテーマとして取り上げており、その際、今回の判決の事案に関する国税不服審判所の裁決も、ヤフー事件・TPR事件・PGM事件の各判決と併せて取り上げ、議論しました(脚注1)。
 その際、安田先生は、ヤフー事件以降の議論を整理された上、結局のところ、今回の2つの事案で問題視されているのは欠損金の「付替え」であるとの分析を示されていましたね。判決の検討に入る前に、これまでの議論について簡単にご紹介いただけますか。
安田:はい。出発点となるヤフー事件最高裁判決(脚注2)は、法132条の2の不当性要件について、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用するものをいうとする、いわゆる制度濫用基準を示しました。そして、その濫用の有無は、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものか、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨・目的から逸脱する態様でその適用を受ける(又は免れる)ものか、という2つの観点から判断するものとしました。
 このうちの観点との関係で、規定の趣旨・目的をどのように理解するかが問題となります。ヤフー事件は、5年超の特定資本関係がない適格合併の事案であったことから、適格合併における未処理欠損金の引継ぎを定める法57条2項だけでなく、みなし共同事業要件に該当しない適格合併につき同項の例外を定める同条3項、特定役員引継要件を定める施行令112条7項5号の趣旨・目的とその逸脱が問題となりました。
 これに対し、その後の事例は、いずれも特定資本関係5年超の適格合併の事案です。5年超であれば、そもそも法57条3項による引継制限はかからず、みなし共同事業要件を満たすかどうかも問題になりません。そこで、欠損金の引継ぎを認める法57条2項の趣旨・目的と、その逸脱の有無が、より直接的に問われることになります。
 この点、TPR事件(脚注3)で、第一審判決は、組織再編税制の基本的な考え方は、「移転資産等に対する支配が継続」している場合には、譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり、そのような場合として、組織再編税制は、完全支配関係のある法人間の合併についても「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を想定している」と判示しました。控訴審判決もこの判断を維持しています。
 これに対しては、主として、①事業の移転・継続の「想定」は「基本的な考え方」や立案担当者の説明に依拠して導かれるべきものではなく、その後の改正を経た現行法の個別規定の文言・条文構造から一義的に読み取れるものではない、②課税繰延べに関する「移転資産等に対する支配の継続」の概念を性質の異なる欠損金の引継ぎにそのまま援用すべきではない、といった批判がされてきました(脚注4)。
 こうした批判を踏まえてか、PGM事件(脚注5)の第一審判決は、完全支配関係のある法人間の合併について、事業の移転・継続が法57条2項等の適用の一律の「前提」(事実上の要件)となっていると解することはできないとしました。法令上明記されていない一律の前提を、明確な根拠なく想定すべきではない、というものです。控訴審判決も、第一審判決を引用してこれを維持し、控訴を棄却しています。もっとも、控訴審判決は、事業の移転・継続が一律の前提ではないとしつつ、当てはめのレベルで「繰越欠損金を生じさせた事業を営んできた法人に引き継ぐという観点」という判示を付加しており、この観点については、後に東京地裁判決との関係で改めて取り上げます。

Ⅲ 大阪地裁令和8年5月21日判決

1 事案の概要
佐藤:それでは、その議論を踏まえて、まず、大阪地裁判決の事案について、簡単にご説明いただけますか。
安田:A社は、原告を中心とする企業グループの一員として、青果物の輸入卸売事業(以下「本件事業」)を営む会社であり、本件合併の直前には約12億円の未処理欠損金額(以下「本件未処理欠損金額」)を有していました。原告は、本件合併に先立つ5年以上前から、A社の発行済株式を、直接・間接に保有し、A社との間に完全支配関係があり、したがって特定資本関係5年超要件を満たしていました。
 原告は、銀行のコンサルティングチームから組織再編成の提案を受けていました。コンサルティング契約締結時の原告の決裁書面には、その目的として、グループ各社を原告の完全子会社とすることに加え、A社の繰越欠損金を原告に移し、原告の所得から控除することによる節税効果が記載されていました。また、その後の検討書面には、本件事業の新設分割は収益力の向上を目的とするものであり、従業員の心理的な負担となっている繰越欠損金を本件事業から切り離すことで新たなスタートを切ることができる旨が、無償減資に係る検討書面には、資本金1億円以下の中小法人等となることで繰越欠損金を短期間で消化することが可能となる旨が、それぞれ記載されていました。
 原告が行った一連の組織再編成は、おおむね次の①から⑥のとおりです(図1参照)。

 まず、①A社は、個人株主から、グループ内のB社の株式を時価より低い価額で取得しました。これによりA社に受贈益が生じましたが、A社には繰越欠損金があったため課税は生じず、期限切れの迫っていた繰越欠損金の一部が消化されることとなりました。次に、②A社は、別のグループ会社であるC社が保有していたA社株式(自己株式)を取得費用1億4,000万円で取得するなどして、原告の完全子会社となりました。①及び②の株式取得の資金として、A社は、原告から合計3億円を借り入れています(以下「本件借入金」)。続いて、③A社は、保有していたC社の株式(発行済株式総数の25%)を、原告に対し剰余金の配当として交付(現物分配)し、これにより、C社は原告の完全子会社となりました。さらに、④原告は、繰越欠損金の損金算入限度額の制限を受けない中小法人となるため、資本金を1億円以下に引き下げる無償減資を行いました。
 その上で、⑤A社を新設分割会社、D社を新設分割設立会社とする新設分割(以下「本件分割」)が行われ、本件事業に係る資産、負債、契約上の地位、雇用契約その他の権利義務の一切をD社に承継させる一方、本件未処理欠損金額、土地、B社の株式及び本件借入金(3億円)は、A社に残されました。本件分割により交付されるD社の株式全部は、いったんA社が取得した上で、原告に対し剰余金の配当として交付(現物分配)され、これにより、D社は原告の完全子会社となりました。D社は、その商号、本店所在地、定款上の目的及び役員構成のいずれも、本件分割前のA社と同一です。続いて、⑥原告は、本件分割の効力が生じることを条件として、原告を吸収合併存続会社、A社を吸収合併消滅会社とする吸収合併(以下「本件合併」、本件分割と併せて「本件組織再編成」。適格合併に該当)を行い、本件未処理欠損金額(約12億円)を引き継ぎました。なお、原告が本件合併によりA社から引き継いだ資産(土地及びB社の株式等)は、いずれも本件事業とは関係のないものであり、本件借入金(3億円)は、混同により消滅しました。
 原告は、こうして引き継いだ本件未処理欠損金額を、法57条2項に基づき自社の欠損金額とみなして損金の額に算入し、確定申告を行いました。これに対し、課税庁は、本件組織再編成は法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるとして、本件未処理欠損金額の引継ぎを否認する更正処分等を行いました。
 原告は、この更正処分等を不服として審査請求を行いましたが、令和4年8月19日裁決(大裁(法・諸)令4第5号)がこれを棄却し、本件訴訟に至っています。

2 本判決の判断枠組みと法57条2項の趣旨・目的の解釈
佐藤:それでは続いて、本判決の判断枠組み、いわゆる規範の部分についてご説明いただけますか。
安田:本判決は、法132条の2の不当性要件の判断枠組みについて、ヤフー事件の判断枠組みをそのまま踏襲しています。その上で、法57条2項の趣旨・目的について次のとおり判示しました。

 「法人税法57条2項……は、それまで認められていなかった、被合併法人の未処理欠損金額の合併法人への引継ぎ(最高裁昭和43年5月2日第一小法廷判決・民集22巻5号1067頁参照)につき、適格合併の場合に限りこれを認めたものであるが、その趣旨及び目的については、合併法人において欠損金の繰越控除を認めるものである以上、前述の欠損金の繰越控除制度の趣旨及び目的を基礎とするものと解するのが相当である。すなわち、法人税法57条1項の欠損金の繰越控除は、事業年度を区切りとして所得の金額の計算を行うことにより生じる不公平を緩和すべく、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するための制度であると解されるが、同条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎについても、上記のような不公平を緩和すべく、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するためのものと解するのが相当である。
 そうすると、法人税法57条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎは、被合併法人の企業活動が適格合併後も合併法人において継続的に行われることが前提となっているというべきであり、被合併法人の事業が適格合併により合併法人に移転し、合併法人において引き続き営まれること(合併による事業の移転及び継続)を想定しているものと解される。
 このような理解からすれば、例えば、①多額の未処理欠損金額を有する子会社をいったん親会社に適格合併し、その後直ちに当該子会社の事業を分割して切り出し、未処理欠損金額だけを親会社に残すような事例(……佐々木税理士の発言における平成13年度税制改正時に想定されていた事例参照)や、②上記のような子会社の事業を新会社に分割して切り出し、未処理欠損金額だけが残された旧会社を親会社に適格合併するような事例(上記①の事例の合併と分割の順序を逆にしたもの)については、子会社の未処理欠損金額を事業から切り離して親会社に付け替えるための組織再編成であり、子会社の事業が親会社に移転して継続するものとはいえないから、法人税法57条2項の趣旨及び目的に反することになるものと解される。」
 (法人税法57条3項の規定において)「未処理欠損金額の引継ぎにつき、共同事業のための適格合併の場合には特に制限がないのに、企業グループ内の適格合併の場合にはみなし共同事業要件を満たすか、あるいは支配関係5年超要件を満たす必要があるとされているのは、企業グループ内の適格合併の場合は、共同事業のための適格合併の場合とは異なり、必ずしも合併による事業の移転及び継続が担保されず、同法57条2項の趣旨及び目的に反する行為が行われるおそれがあるため、みなし共同事業要件や支配関係5年超要件により、類型的にこれを防止する趣旨のものと解される。このような共同事業のための適格合併と企業グループ内の適格合併との区別は、上記……の理解に沿うものといえる。」

佐藤:法57条2項の趣旨・目的との関係で、完全支配関係下の適格合併の場合にも事業の継続が想定されているか否か、という点に関し、TPR事件、PGM事件とで下級審の見解が分かれていましたが、本判決は、TPR事件同様、再び「想定されている」という見解を示したということですね。
安田:結論はそのとおりです。その上で、本判決の最大の特徴は、法57条2項の欠損金の引継ぎにおいて事業の継続が「想定されている」という理解が、法57条1項の欠損金の繰越控除制度の趣旨から導かれるとした点にあり、この点は、従前の下級審判決には見られなかった解釈だと思います。

3 事業継続想定論に対する批判への応答
(1)本判決の判示

佐藤: TPR事件判決における事業継続の「想定」に対する従前の批判に対し、本判決は応えられているのでしょうか。
安田:本件の原告の主張が、まさにTPR事件判決に対する従前の主な批判を踏まえたものになっており、本判決は、それらを一つ一つ取り上げて応答しています。

 これらの応答と先ほどの法57条2項の趣旨・目的に関する判示とを併せて見ると、次の三点が注目されます。第一に、事業の移転・継続が想定されているという理解の論拠を、課税繰延べの概念である「移転資産等に対する支配の継続」から法57条1項の繰越控除制度の趣旨へと置き換えたこと。第二に、欠損金の引継ぎに関連する他の規律とも整合的な解釈を試みていること。第三に、事業の移転・継続を法57条2項の「要件」ではなく「想定」と位置づけることの意味を示したことです。順に見ていきます。
(2)事業継続想定の論拠の置き換え
安田:第一に、原告の主張のうち、平成22年度改正によるグループ法人税制の譲渡損益繰延べ(③)、平成29年度改正によるスピンオフ税制(④)、平成30年度改正による従業者引継要件・事業継続要件の緩和(⑤)を根拠とするものは、いずれも、TPR事件判決が、「移転資産等に対する支配の継続」として事業の移転・継続が想定されているとしたことに対して向けられた批判を踏まえたものでした。また、TPR判決が、このような理解に基づき法57条2項においても事業の移転・継続が想定されているとしたことに対し、課税繰延べの概念である「移転資産等に対する支配の継続」と欠損金の引継ぎは別問題であるとする批判もありました。
 これに対して本判決は、「移転資産等に対する支配の継続」の意味には様々な理解があり得るとした上で、事業の移転・継続が想定されているという理解を、「支配の継続」からではなく、法57条1項の繰越控除制度の趣旨から導いています。本判決の説示は、このように「支配の継続」を経由しないことによって、上記の批判をいずれも一応は回避しているように思います。すなわち、「支配の継続」の意味を巡る前者の批判は、その「支配の継続」を経由しないことによって、かわされています。課税繰延べと欠損金の引継ぎは別問題であるとする後者の批判も、援用元を課税繰延べの概念ではなく法57条1項の趣旨に置き換えたことによって、前提を欠くことになります。もっとも、法57条1項の繰越控除制度の趣旨から2項における事業の移転・継続の想定を導けるとした本判決の論理の当否が次に問題になります。
佐藤:法57条1項の繰越控除制度の趣旨から、2項の欠損金引継ぎにおける事業継続の想定を直ちに読み取れるでしょうか。
安田:2項が1項を基礎とすること自体はそのとおりですが、両者では平準化の働く局面が異なります。1項の繰越控除は、同一の法人の中で、各事業年度の所得と損失を時間的に通算するものです。これに対し、2項の引継ぎの場面では、被合併法人に帰属していた欠損金を、別の法人である合併法人の所得と通算してよいか、すなわち、ある法人の租税属性(欠損金)を異なる納税主体にどこまで引き継がせてよいかが問題となります。そして、この租税属性の引継ぎにどのような制限を設けるかについては、従来から、事業の継続に着目するアプローチのほか、所有変化に着目するアプローチも論じられてきました(脚注6)。このように2項の引継ぎの制限の範囲については別の議論が存在するのであり、繰越控除制度の趣旨自体から、事業の継続に着目した制限が当然に導かれるわけではないように思います。
(3)欠損金の引継ぎに関する規律の理解
安田:第二に、TPR事件判決に対しては、特定資本関係5年超の完全支配関係のある法人間の適格合併の場合には事業継続要件等は規定されておらず、また、平成22年度改正により、完全支配関係にある子会社の残余財産確定時にも欠損金の引継ぎが認められた(法57条2項)ことから、法57条2項が、事業の移転・継続を必要としていると読むことは難しいとする指摘がありました(脚注7)。本件の原告も、これに沿った主張をしています (③)。
 本判決は、この指摘を正面から否定するのではなく、その含意を反対に解しています。すなわち、法57条3項が、企業グループ内の適格合併に限ってみなし共同事業要件又は支配関係5年超要件を課しているのは、共同事業のための適格合併と異なり、企業グループ内の適格合併では必ずしも事業の移転・継続が担保されず、法57条2項の趣旨・目的に反する行為が行われるおそれがあるため、これを類型的に防止する趣旨であるとし、この区別自体が事業の移転・継続の想定と整合的であると説きます(脚注8)。また、残余財産が確定した法人は事業の継続を観念できず欠損金と事業資産の結びつきが希薄になるからこそ、その段階で初めて欠損金のみの引継ぎが認められたのであり、逆に言えば、確定までは両者を切り離せない、この「想定」は改正後も維持されている、としています。
佐藤:しかし、それらの法令の規定自体から、法57条2項の適格合併に伴う欠損金引継ぎにおける事業継続の「想定」まで読み取れるでしょうか。
安田:法が、事業の継続にも着目して欠損金の引継ぎのルールを定めている、という限りでは、本判決の指摘は正しいと思います。法57条3項のみなし共同事業要件は、その一例といえます。しかし、法が着目しているのは、事業の継続だけではありません。先ほど触れたように、法は、所有の変化、裏から表現すれば所有の継続にも着目して引継ぎのルールを定めています。法57条3項が特定資本関係5年超の要件を定め、あるいは、欠損等法人の繰越欠損金等の利用を制限する法57条の2が、特定の株主による支配の獲得という所有の変化を契機としているのは、その表れといえます(脚注9)。そして、事業の継続という観点も、所有の変化という観点も、いずれもこうした個別の規定に具体化されているところ、それを超えて、事業の移転・継続について、組織再編税制の各規定の趣旨・目的からの逸脱の評価を基礎づけるような「想定」を、法令の規定から一義的に読み取ることはやはり難しいように思います。
(4)事業継続の「想定」と「要件」との区別
安田:第三は、事業の移転・継続を法57条2項の「要件」と捉えるか「想定」にとどまるとみるか、という点に関する批判です。原告は、事業の移転・継続を同項適用の前提とすること自体の当否を争っています。すなわち、定義規定が事業の継続を要件としていないにもかかわらず、これを同項の趣旨・目的に読み込むべきではないとし(①)、さらに、事業の移転・継続の不存在を「実態とは乖離した形式を作出する不自然なもの」として不当性要件の判断に持ち込むことは、明文にない事業継続要件を事実上の要件とするものであって、租税法律主義に反する、と主張します(⑥)。事業の移転・継続を伴わない有用な合併にまで萎縮効果があるとの主張(②)も、同じ前提に基づく主張と理解できます。
 もっとも、事業の移転・継続を「要件」ではなく「想定」と位置づけること自体は、TPR事件判決以来の理解であり、本判決に固有のものではありません。本判決の特徴は、その「想定」にとどまることの意味を示した点にあります。すなわち、本判決は、「事業の移転及び継続を同項の適用要件とするものではなく、事業の移転及び継続がない適格合併にも同項は適用されるし、事業の移転及び継続がないことをもって常に同法132条の2が適用されるものでもない」と明言します。つまり、事業の移転・継続がないことは、それ自体で引継ぎを否定したり否認を導いたりするものではなく、ヤフー事件判決の判断枠組みの下で、不当性を基礎づける一要素として考慮されるにとどまる、というわけです。これを前提とすれば、法57条2項を租税回避の手段として濫用する場合にのみ132条の2が適用されるにすぎないから、明文にない「隠れた要件」を設けるものでも租税法律主義に反するものでもない、という整理になります(⑥)。事業の移転・継続を一律の前提とはしないこの立場は、PGM事件控訴審判決とも表面的には整合します。
佐藤:不当性の一判断要素であって、引継ぎの要件を設けるものではないという整理は、本判決において初めて示されたものでしょうか。
安田:TPR判決の「法人税法57条2項についても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を想定して、被合併法人の有する未処理欠損金額の合併法人への引継ぎという租税法上の効果を認めたものと解される」との判示についても、濫用の一要素としては事業単位の移転がないという点も考慮したものに過ぎず、事業の移転を要件としたものではないとの理解を示す見解がありました(脚注10)。本判決は、このような見解を踏まえたのかもしれません。
佐藤:「想定」と「要件」とでは意味合いが異なるという一般論は理解できますが、具体的な判断の場面で、「想定」が実質的に「要件」と同じように機能することにはならないでしょうか。
安田:原告の主張や従前のTPR判決に対する批判(脚注11)の問題意識もその点にあり、事業の移転・継続の不存在が行為・計算の不自然性、ひいては不当性判断の決め手になるのであれば、実質的には、事業の移転・継続を要件とするのと等しいというものであったと理解しています。

4 本判決の当てはめについて
佐藤:それでは、本判決が当てはめにおいて実際どのように判断したのか、ご説明いただけますか。まず、行為・計算の不自然性(考慮事情①)からお願いします。
安田:本判決は、まず、本件分割により本件事業に係る権利義務は全てD社が引き継ぎ、D社はこれを「その事業内容を変更することなく継続することとなった」とし、D社の商号はA社が長年用いてきたものと同じで、本店所在地、目的及び役員構成も、A社と同一であった、融資の状況にも変化がなかった、と認定します。原告自身も、関係者に対しその保有資産のうち一部遊休土地を原告が取得した以外は、従前と変動のない状態と説明していた、としました。その上で、「本件事業は、本件分割により、A社からD社にほぼ同一の状態で移転されたものと認められる」と結論づけています。
 他方、原告が本件合併で承継したのは遊休土地・関係会社(B社等)の株式・株式取得のための借入金であり、「本件事業とは何ら関係のないもの」と評価しました。
 以上を踏まえ、結論として、「本件事業は、本件分割によりほぼ同一の状態でA社からD社に移転しており……、本件合併により原告がA社から引き継いだ資産等は本件事業と何ら関係のないものであること……からすれば、本件組織再編成は、法人税法57条2項……において想定されている合併による事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえず、本件事業からあえて本件未処理欠損金額を切り離し、これを原告に付け替えるもの」であって「実態とは乖離した形式を作出する不自然なもの」と判示しました。法令解釈で示した付替え型の事例②を、本件に当てはめた形です。
 ここで押さえておきたいのは、本判決が、事業の移転・継続を伴わない合併であることのみから直ちに不自然と評価しているわけではない点です。本判決は、本件分割によって本件事業がほぼ同一の状態で他の法人に移転し、実態は変わっていないにもかかわらず、あえて欠損金だけを切り離し、原告に付け替えた、という点を捉えて不自然と評価しています。したがって、事業の移転・継続の「想定」を置けば、事業の移転・継続を伴わない合併が一律に不自然と評価される、という前提を採っているわけではありません。このように、当てはめの上でも、「想定」と「要件」との区別は一応意識されているといえると思います。
佐藤:次に、事業目的(考慮事情②)はいかがですか。
安田:本判決は、まず検討過程を見ています。銀行のコンサルティングチームの関与前は、株式の持合い解消や個人株主からの買取りの検討にとどまり、本件分割や本件合併は「特に検討されていなかった」こと、関与後に、繰越欠損金を原告に引き継ぐ説明や「法人税効果」「節税効果」の説明がされ、検討チームの担当者も、調査担当職員に対し「節税につながることが決め手となって上記業務委託契約を締結することとなった旨供述している」ことを指摘しました。その上で、「本件分割及び本件合併(本件組織再編成)は、本件事業の利益では控除しきれない本件未処理欠損金額を本件事業から切り離し、これを原告に付け替えることにより、原告の税負担を減少させることを主たる目的とするものであった」と認定します。
 原告は、繰越欠損金を切り離すことで、従業員の心理的な負担を解消し、心機一転新たなスタート(「フレッシュ・スタート」)を切ることができる、と主張していましたが、本判決はこれを退けています。まず、未処理欠損金額は「負債のようにその金額の返済義務を負うものではないから、これを有する法人の事業遂行に悪影響を与えるものではない」、「むしろ、未処理欠損金額は、利益が出ている法人においては法人税額を減少させる効果があり、経済的なメリットがある」とし、切り離すことは「経済的な面から客観的に見て、本件事業にとってプラスではなく、むしろマイナスの効果があり、その再生に寄与するものとはいえない」としました。銀行の回答についても、企業評価に影響するのは「自己資本の蓄積が薄い」ことであって「多額の繰越欠損金がある」ことではないと整理します。さらに、従業員宛ての書面には欠損金を切り離す旨やそれによる「圧迫感からの解消」の説明が見当たらないこと、A社は再編について「あまり内容を知らず、原告の指示に基づいてこれを実施していた」こと、取締役も「本件事業から本件未処理欠損金額を取り除くことを目的として本件組織再編成を行ったものではない」旨述べていることを挙げ、圧迫感からの解放を目的としたとは認められないとしました。
佐藤:その他に注目される判示はあるでしょうか。
安田:本判決は、関係会社各社の完全子会社化という事業目的の存在を認めた上で、手段が迂遠だとしています。すなわち、「原告において、〔関係会社〕を原告の100%子会社とするため、その株式を取得するという事業目的はあったと考えられるが、その目的を達成するためには、原告が直接個人株主から株式を買い取ったり、A社から現物分配を受けたりすれば足り、通常想定される手順や方法というべきであって、あえて迂遠な方法である本件分割及び本件合併……を行う必要はなかった」としました。したがって、株式取得という事業目的は「本件未処理欠損金額の引継ぎを主たる目的とする本件組織再編成に組み込まれたものにすぎず、それ自体が本件組織再編成の主たる目的ではない」とし、「本件組織再編成を行うことの合理的な事業目的その他の事由があったとも認められない」と結論づけました。
 以上の不自然性と事業目的に関する判断は、相互に結び付いています。本判決は、株式取得という事業目的の存在自体は認めつつ、それを実現するには直接の株式取得や現物分配で足り、本件分割・本件合併という手段は迂遠であると評価しました。迂遠な手段が採られたこと(不自然性)と、その手段を正当化する固有の合理的事業目的が欠けること(事業目的の不存在)とが表裏の関係に立ち、両者が相まって、税負担を減少させる意図(観点)と法57条2項の趣旨・目的からの逸脱(観点)の双方を基礎づける、という構造になっています。
佐藤:原告は、ヤフー事件最高裁判決やユニバーサルミュージック事件最高裁判決(脚注12)を引用し、不当性要件の考慮事情は、一連の組織再編全体を対象として検討すべきと主張していたようですね。この点について本判決はどのように判断したのでしょうか。
安田:本判決は、ヤフー事件最高裁判決の判断枠組みにおいて「否認の対象となる行為又は計算を対象として不当性要件を判断すべきことは、その説示から明らか」であるとしました。その上で、「その判断の過程において、否認の直接の対象ではない行為等についても検討したり考慮したりすることはあり得る」とし、「税負担の軽減のために仕組まれた一連の行為」についてはそのような検討・考慮がなされることを示唆しつつ、「企業グループ内の一連の組織再編成であれば一律に一連の組織再編全体を対象として判断すべきということではない」と述べています。また、ユニバーサルミュージック事件最高裁判決は、法132条1項の不当性要件について、経済的合理性基準を採用した上で、借入れの目的の合理性に関する事情としてその一連の取引全体の経済的合理性を判断したものであって、場面の異なる法132条の2の不当性要件の判断方法に直接影響するものではないとしました。
 この点について、法132条の2の不当性要件の判断が、否認の直接の対象となる行為・計算についてなされるべきことはそのとおりであると考えます。もっとも、その判断に、それ以外の行為に係る事情が影響し得ることも否定できません。特に、行為・計算の目的という主観的要素の検討に当たっては、一連の行為の目的を考慮すべき場合が多いように思います。
 本判決も、そのような考慮の仕方は否定しておりません。むしろ、本件では、否認の直接の対象として争われたのは「本件合併による本件未処理欠損金額の引継ぎ」であるところ、本判決は、いずれの考慮事情についても、本件分割を併せた一連の行為としての「本件組織再編成」について検討しています。また、関係会社の子会社化という、再編全体に関わる事業目的の存在は認めつつ、本件組織再編成については、それとは目的の異なる行為として切り出して評価しており、この点も、関連する他の行為の目的が、目的の関連性次第で、否認の直接の対象となる行為の目的の認定に影響し得ることを前提としていると読むことも可能です。
佐藤:そうすると、本判決は、再編全体の中から、本件分割と本件合併の組み合わせの部分を、他の行為とは目的を異にする行為として取り出して捉えた、ということになりますか。
安田:そういうことになると思います。他方、直接の否認の対象となる本件合併だけでなく、本件分割と併せて考慮事情について検討したのは、これらが同じ目的で行われた一連の行為であると評価しているからです。
佐藤:仮に、本件合併だけを単独で取り出して評価すると、どうなるでしょうか。
安田:その場合には、不自然性も、事業目的の不存在も、基礎づけにくくなると思います。PGM事件の判決も指摘していましたが、事業を営む予定のない会社を、通常の清算手続によらず合併によって消滅させること自体は、手続的なコストの削減等の観点から一般に行われているところであり、これだけを取り出して直ちに不自然と評価することは困難です。事業目的の点でも、グループ内で存続させる必要のなくなった子会社を合併により整理するという説明が成り立ち得ますから、合併単体を捉えるかぎり、一定の合理性のある事業目的の存在を否定するのは容易ではありません。
佐藤:本件合併を、本件分割と一連の行為として捉えたことが、不当性を肯定した結論にもつながっているという見方ですね。

Ⅳ 東京地裁令和8年6月18日判決

1 事案の概要
佐藤:続いて、東京地裁判決の事案をご紹介いただけますか。
安田:原告は、平成17年の長期経営計画以来、α事業を強化対象に位置づけ、全国ネットワークの構築と事業規模の拡大を進めてきました。その過程で、首都圏のα事業をA社に、西日本のα事業をB社に、それぞれグループ内外の事業を集約していき、A社・B社が各地域のα事業を担う体制が形成されていました。その後、原告は、α事業を全国規模の販売会社に集約する構想の下で、平成27年2月、その完全子会社としてC社を新たに設立しました。
 その上で、平成27年9月、A社の唯一の事業であるα事業を、吸収分割によりC社に承継させ(分割1)、同年12月、A社を原告が吸収合併しました(合併1)。B社についても、同様に、平成28年12月、その唯一の事業であるα事業を吸収分割によりC社に承継させた(分割2)上、B社を、原告が吸収合併しました(合併2)。これらの分割(以下「本件各分割」)及び合併(以下「本件各合併」)により、A社・B社のα事業はC社に集約される一方、A社・B社は消滅し、原告は、A社の有していた未処理欠損金額約38億円及びB社の有していた未処理欠損金額約11億円を引き継ぎました。
 原告は、引き継いだ各未処理欠損金額(以下「本件各未処理欠損金額」)に法57条2項が適用されるとして損金の額に算入して申告しましたが、課税庁は、本件各合併は組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用するものであるとして、法132条の2により本件各未処理欠損金額の引継ぎを否認する更正処分等をしました。原告は、審査請求を行いましたが、令和5年3月23日裁決(東裁(法)令4第101号)により棄却され、本件訴訟を提起しました。

佐藤:事実関係から見て、本件のポイントはどこにあるとお考えですか。
安田:第一に、本件の組織再編の構造です。各地域のα事業は、いったん受け皿会社であるC社に分割により集約され、他方で、未処理欠損金額は、事業を失ったA社・B社を経て、合併により原告に引き継がれています。つまり、事業の承継先(C社)と、欠損金の引継ぎ先(原告)とが切り分けられている、という点です。
 第二に、A社・B社を清算ではなく合併により消滅させた理由です。本判決の認定によれば、当初はA社を清算する方針であったところ、A社からC社への事業の分割を適格分割とするためには、A社を清算するのではなく原告に適格合併させる必要があるとの助言を受けて、合併による方式に変更されています。B社についても、事業をC社に分割承継させたうえで清算する方法ではなく、原告に合併する方法が選ばれていますが、これも、清算では非適格となり課税リスクが残るのに対し、合併であれば適格となり、かつ原告が未処理欠損金額を引き継げるという理由によるものでした。すなわち、合併という方式は、原告において未処理欠損金額を利用する要請を前提に、分割を適格分割とする要請をも実現するために選択されたものといえます。
 第三に、税負担減少の動機と、事業再編としての実体の双方が認められる点です。認定事実上、検討過程の社内資料や関係者間のやり取りには、繰越欠損金の節税効果や使用期限への言及が繰り返し現れ、合併の時期も欠損金の利用を意識して定められています。他方で、本件の組織再編は、長期経営計画以来のα事業の全国販社化という構想に沿った一連の組織再編の一環であり、物流拠点の新設などの設備投資も伴っています。この、税負担減少の動機と事業再編の実体とが併存している点が、後にみる不当性の評価の分かれ目となります。

2 本判決の判断枠組み及び当てはめ
(1)本判決の判示内容

佐藤:不当性要件の判断枠組みは、これまでと同じヤフー事件の枠組みですね。
安田:はい。不当性要件の判断枠組み自体は、大阪地裁判決と同様、ヤフー事件最高裁判決の枠組みを踏襲しています。
佐藤:その枠組みの下で、当てはめはどうなったのでしょうか。
安田:本判決は、本件各合併について、行為・計算の不自然性、事業目的、法57条2項の趣旨・目的からの逸脱の順に検討し、結論として不当性を否定しました。
 まず、原告は、かねてからα事業における組織体制の強化と事業規模の拡大を経営課題として掲げ、当初の方針に沿ってA社・B社に各地域のα事業を集約してきたところ、その後にA社・B社の事業をC社へ移したのも、同業他社の事業買収への対応や組織体制の再編といった目的によるものであり、「これらの一連の過程は、α事業における組織体制の強化と事業規模の拡大という経営課題に沿うものであったといえる」と認定しました。
 その上で、行為・計算の不自然性について、本判決は、本件各分割を、「α事業の全国販社化の構想に即して、被合併各社〔A社・B社〕に分散されていた事業を受け皿となるC社に集約するもの」と位置づけ、その実行に当たっては「グループ勘定」によりC社の財務内容の健全化も図られていることなどから、「その手順や方法が、組織再編成として通常想定されない不自然なものであったり、又は実態とはかい離した形式を作出したりしたものとは認め難い」としました。本件各合併についても、「経営課題に沿った再編の結果として事業体としての実質を失ったA社・B社を整理する趣旨のもの」であるとし、「親会社が不要となった子会社を合併し、その法人格を消滅させることは、企業グループ内における組織再編成の手法として合理性を欠くものではな」いとして、「通常想定されない組織再編成の手順や方法であったり、又は実態とはかい離した形式を作出したりしたものとは認め難い」としています。
 事業目的についても、本判決は、税負担の減少以外の合理的な事業目的を認めました。すなわち、未処理欠損金額の利用を意図して合併の時期が定められたことなどから「本件各合併の主たる目的の一つが原告の税負担の減少にあったということはできる」としつつ、原告が、その子会社等が各地域で行っていたα事業をA社・B社に統合し、更にこれをC社に統合するという「一連の会社組織の再編」を実施しており、本件各合併はその結果として法人格を存続させる意義が失われた子会社を整理する目的でされたものであるから、「全体として実態のある事業再編の一環としてされたものということができる」としました。物流施設の設置などの設備投資も行われていることを併せ考慮し、「本件各合併には、税負担の減少以外の合理的な事業目的があったということができ、かつ、そのような事業目的の存在が、本件各合併の主たる目的の一つが原告の税負担の減少にあったことにより否定されるとはいい難い」と判断しています。
 さらに、法57条2項の趣旨・目的からの逸脱の有無についても、本判決はこれを否定しました。本判決は、「組織再編税制の基本的な考え方は、実態に合った課税を行うという観点から、原則として、組織再編成により移転する資産及び負債……についてその譲渡損益の計上を求めつつ、移転資産等に対する支配が継続している場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり、法57条2項に基づく未処理欠損金額の処理についてもこの取扱いに合わせたものと解される(平成28年最判参照)」とした上で、「被合併各社は、原告及び原告の子会社等が従前から各地域で展開していたα事業を統合するために原告の100パーセント子会社として維持され、又は設立された法人であり……、従前から両社の資産等に対し原告の支配が及んでいたものであるから、本件各合併により、本件各未処理欠損金額を原告が引き継ぐことが同項の本来の趣旨及び目的を逸脱するものとは解し難いというべきである」としました。
 以上を総合し、本判決は、「①本件各合併は、本件各分割とともに、原告の従来の経営課題に沿う組織再編成の一環として行われたものであるところ、その手順や方法が通常は想定されないものであったり、実態とはかい離したものであったりするということはできないこと……、②本件各合併は、支社及び子会社等を通じて営んでいた事業に係る組織再編成の過程で不要となった子会社を整理するという税負担の減少以外の合理的な事業目的を有するものであること……、③本件各未処理欠損金額を原告が引き継ぐことが、上記に述べた組織再編税制の本来の趣旨及び目的を逸脱するものとは解し難いこと……からすれば、その手順、方法及び形式や事業目的等の観点からみて、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨・目的から逸脱する態様でその適用を受け又は免れるものとは認められず、法132条の2にいう『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』には当たらない」としました。
(2)検討
佐藤:本判決の判断の特徴はどのような点にありますか。
安田:本判決は、いずれの考慮事情についても、一連の取引全体の関連性を重視して判断している点に特徴があると思います。
 否認の直接の対象となったのは本件各合併ですが、これを本件各分割とともに、組織再編成の一環として行われたものであると捉えています。すなわち、本判決は、まず、C社への事業集約が経営課題に沿うものであるとの評価を加えた上で、本件各分割について、C社への事業集約の一連の過程の一環として行われたものであり、その手順・方法が不自然なものとは認め難いと判断しています。これを前提に、本件各合併についても、組織再編成の結果として不要となった子会社を整理する趣旨でなされたものであり、その手順・方法が不自然なものとは認め難いと判断しています。
 ここで、大阪地裁判決との対比を意識しておきたいと思います。大阪地裁判決は、分割と合併とを、事業からあえて欠損金を切り離し、欠損金のみを親会社に付け替える一連の行為として捉え、これを不自然と評価しました。これに対し本判決は、分割を、あくまでC社への事業集約という再編全体の目的との関連の中で位置づけており、分割と合併を組み合わせることで事業から欠損金を切り離した行為だ、という見方はしていません。この点、本件の原告は、被告(国)の主張に対し、「組織再編成の一局面にすぎない本件各分割及び本件各合併の内容を局所的、断片的に指摘するにとどまり、α事業の再編自体に合理的な目的があったこと本件各合併に至るまでの組織再編成が真摯な検討や交渉を経て行われてきたことを看過しており、適切でない」と反論していました。裁判所も同様に、検討の経緯や目的の関連性を踏まえ、再編全体の中から本件各分割・本件各合併だけを切り離して行為・計算の不自然性や事業目的の有無を判断すべきでないと考えたのかもしれません。
 なお、本件では、A社・B社をC社に直接合併する方法によっても、α事業をC社に集約することはできたはずですが、本判決は、合併によらず分割を選択したこと自体を不自然とは評価していません。事業の全部を承継させる場面でも分割という手法を用いることに、独自の不自然性はないと考えられているものと思われます。

3 事業継続想定論に対する反論
(1)本判決の判示内容

佐藤:法57条2項の趣旨・目的をめぐっては、国が、完全支配関係適格合併でも事業の継続が想定されていると主張していました。本判決はこれにどう応えたのでしょうか。
安田:本判決は、この点を独立の項目として取り上げ、明確に排斥しています。国は、完全支配関係がある法人間の適格合併においても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続(以下「従前事業継続」)が想定されていたから、これを欠く本件各合併は法57条2項の趣旨・目的を逸脱するものだ、と主張していました。これに対し、本判決は、次のとおり判示しています。

 「法2条12号の8イは、従前事業継続を要件として明示する同号ロとは異なり、従前事業継続を適格合併の要件として定めていないのであり、被告の主張は、法132条の2の適用を通じて、法文に定めのない積極的事実(従前事業継続)の不存在を理由に納税者に有利な法の扱いを一律に否定するに等しく、同条の趣旨及び目的を考慮しても、租税法律主義の趣旨に照らして、相当と認めることができない。」
 「法2条12号の8イが従前事業継続を適格合併の要件として定めていないのは、合併法人と被合併法人との間に完全支配関係がある場合、その実質的な一体性により合併法人が合併前から被合併法人の移転資産等の処分を支配し得る関係にあり、それが合併により現実化したとしても移転資産等に係る経済実態は合併前後を通じて変更されていないと評価することができるから、課税上、合併時点における移転資産等の処分に係る損益を計上させる必要がないとの立法政策がとられたためと解される。したがって、合併前からの移転資産等に対する支配の継続(以下「移転資産等に対する従前支配」という。)のみならず、合併後における従前事業継続をも当然に想定していたとみるべき解釈上、証拠上の根拠があるとはいえない……。
 他方で、法2条12号の8ロ及びハ並びに施行令4条の3第4項は、支配関係がある法人間の合併及び共同事業を目的とする合併に係る適格合併の要件として、従前事業継続が見込まれていること等を定めているが、その趣旨は、移転資産等に係る従前の課税関係の継続を認めるに当たり、支配関係がある法人間の合併及び共同事業を目的とする合併については、その前後で移転資産等に係る経済実態に変更がないとまではいえないことを踏まえ、個別の資産等の売買取引と区別する観点から、従前事業継続の見込み等を求めることにあったと解され、〔同号〕ロ及びハの各定めをもって、従前事業継続が適格合併の共通の前提であったと解することはできない。
 被告は、従前事業継続が組織再編成税制の基本的な考え方とされている根拠として法57条3項及び法57条の2を指摘する。しかし、法57条3項は、合併時点において、合併法人の被合併法人等に対する支配関係が一定の期間を超えない場合に、支配関係が生じる前に生じた被合併法人等の未処理欠損金額等を法57条2項の適用対象から除外することを定めるものであり、その趣旨は、租税回避行為への対処の観点から、移転資産等に対する従前支配の期間が短期間にとどまる場合には、支配関係が生ずる前に発生した未処理欠損金額の引継ぎを制限したものとみるのが相当であり、その趣旨及び解釈から従前事業継続が適格合併の共通の前提であったと解することはできない。また、法57条の2は、同条の定める欠損等法人が同条所定の期間内に事業を開始した場合に、当該欠損等法人自身が有する未処理欠損金額の損金算入を一定の要件の下で制限するものであるところ、その趣旨は、休眠状態にある法人を買収し、当該休眠状態にある法人が有する未処理欠損金額を利用すること等により租税回避をすることを防止するためであると解され、合併法人と被合併法人との間の従前事業継続の有無を問題とする法57条2項とは適用場面が異なるから、同条の趣旨及び解釈によっても、従前事業継続が適格合併の共通の前提であったと解することはできない。
 なお、平成22年度の税制改正により、内国法人と完全支配関係のある他の内国法人の残余財産が確定した場合にも法57条2項が適用されることとなったが、当該改正においても、当該内国法人が当該他の内国法人の従前事業を継続することは要件とされておらず、このことは、完全支配関係にある内国法人間の組織再編成については移転資産等に対する従前支配をもって、同項適用の基礎として足ることを前提としたものと解される。」
 「以上のとおり解しても、組織再編成の過程で不要となった子会社の合併に関し、法132条の2の適用が一律に否定されるものではなく、その適否は個別の事実関係に応じて決せられるべきであるから、同条の趣旨に反することにはならない。」
 「完全支配関係がある法人間の合併における被合併会社の未処理欠損金額の引継ぎについては、上記……において説示したところに照らし、移転資産等に対する従前支配についての経済実態を考慮すべきであると解されるところ、被合併各社が本件各未処理欠損金額を有していたことは本件各分割の前後を通じて同様であり、この未処理欠損金額についても完全支配関係による原告の支配が及んでいたと認められるから、本件各分割により被合併各社の事業及び資産が失われたことのみをもって、本件各未処理欠損金額の繰越しの前提となる経済実態が失われたということはできない。」

(2)検討
佐藤:どうもありがとうございました。少し視点を変えます。組織再編税制においては、「移転資産等に対する支配の継続」が基本概念とされています。本判決は、「移転資産等に対する支配の継続」を、どのようなものとして捉えているとお考えでしょうか。
安田:本判決は、完全支配関係がある法人間の合併では、「その実質的な一体性により合併法人が合併前から被合併法人の移転資産等の処分を支配し得る関係にあり」、合併によりそれが現実化しても「移転資産等に係る経済実態は合併前後を通じて変更されていない」と評価できるとしており、「移転資産等に対する支配の継続」を、資本関係に基づく支配の継続として捉えています。
佐藤:ありがとうございます。本判決は、欠損金の引継ぎについて、「移転資産等に対する支配の継続」が重要で、基本的には、それさえあれば問題なく引き継ぐことができる、という考え方を採用しているように見えます。こうした考え方は、従前の裁判例などでは明示されていなかったように思いますが、いかがでしょうか。
安田:まず、未処理欠損金額についても完全支配関係による支配が及んでいた、という言い回し自体は、従前の裁判例に明示的に現れていたものではないと思います。本判決は、「完全支配関係がある法人間の合併における被合併会社の未処理欠損金額の引継ぎについては、……移転資産等に対する従前支配についての経済実態を考慮すべきである」とした上で、合併前から「未処理欠損金額についても完全支配関係による原告の支配が及んでいた」と判示しており、欠損金の引継ぎについても、移転資産等に対する支配と同様に、資本関係に基づく支配が及んでいたと捉えています。その出発点には、組織再編税制の基本的な考え方として、「移転資産等に対する支配が継続している場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり、法57条2項に基づく未処理欠損金額の処理についてもこの取扱いに合わせたものである」(平成28年最判参照)という、課税繰延べと欠損金引継ぎの取扱いを「合わせた」ものとみる理解があります。
 この、課税繰延べに引きつけた理解は、被告が従前事業継続の根拠として挙げた法57条3項や法57条の2に関する判示にも表れています。本判決は、これらの規定の趣旨からも従前事業継続の前提は読み取れない、としています。この点は、「従前事業継続が適格合併の共通の前提であったと解することはできない」という言い回しからすれば、なお適格合併(課税繰延べ)の要件論として述べたものとも読めます。もっとも、その理由として、法57条3項の趣旨を「移転資産等に対する従前支配の期間が短期間にとどまる場合には、支配関係が生ずる前に発生した未処理欠損金額の引継ぎを制限したものとみるのが相当」とした部分は、課税繰延べの要件論にとどまらず、欠損金の引継ぎそれ自体についての理解を示すものです。ここでの「従前支配」が先ほど述べたとおり資本関係に基づく支配を指していることを踏まえると、この判示は、同項が、事業の継続ではなく、所有の変化に着目して引継ぎの制限を定めていること(上記Ⅲ3(3))に着目したものといえるかもしれません。また、平成22年度改正により認められた完全支配関係にある子会社の残余財産確定時の欠損金の引継ぎについて、「完全支配関係にある内国法人間の組織再編成については移転資産等に対する従前支配をもって、同項適用の基礎として足ることを前提としたものと解される」とした点も、法57条2項との関係で事業の継続が想定されていないとする理解を補強しています。
 なお、本判決は、PGM事件控訴審判決が付加した「繰越欠損金を生じさせた事業を営んできた法人に引き継ぐという観点」には触れていません。PGM事件控訴審判決のこの観点は、欠損金を、それを生じさせた事業との結び付きにおいて捉える視点を示唆するようにも読め(脚注13)、欠損金そのものに対する資本関係に基づく支配の継続を基礎とする本判決とは理解が異なる可能性があります。
佐藤:整理すると、本判決は、「移転資産等に対する支配の継続」を、事業の継続ではなく、資本関係に基づく支配の継続として捉え、欠損金の引継ぎについても、これに合わせて、合併前から完全支配関係による支配が及んでいたとみる。そして、被告が援用した法57条3項、法57条の2や平成22年度改正の理解も、いずれも事業の継続を想定しないこの立場を支えるものとして位置づけている、ということですね。
安田:そのとおりです。もっとも、本判決は、この立場を、従前支配の継続さえあれば常に欠損金の引継ぎが認められる、という形では述べていない点に注意が必要だと思います。本判決は、従前事業継続の想定を否定する先の判示の結びの箇所で、「以上のとおり解しても、組織再編成の過程で不要となった子会社の合併に関し、法132条の2の適用が一律に否定されるものではなく、その適否は個別の事実関係に応じて決せられるべきであるから、同条の趣旨に反することにはならない」と付言しています。つまり、完全支配関係下の合併について事業の継続を法57条2項の想定としない、という解釈を採っても、それは同項の適用や引継ぎを一律に認める趣旨ではなく、なお法132条の2による否認の余地は個別の事実関係に応じて残される、というわけです。
 この付言は、本判決が、欠損金の引継ぎを否定すべきでないことの理由として述べた次の判示と併せて読むと、その含意がより明確になります。本判決は、本件において「未処理欠損金額についても完全支配関係による原告の支配が及んでいたと認められるから、本件各分割により被合併各社の事業及び資産が失われたことのみをもって、本件各未処理欠損金額の繰越しの前提となる経済実態が失われたということはできない」としています。これは、事業や資産が失われたことだけでは経済実態は失われない、という限度の判断であって、従前支配があれば常に引継ぎを認める、という趣旨ではありません。
 この2つの判示を併せて読むと、本判決の立場は、次のように整理できます。すなわち、本判決は、移転資産等に対する従前支配の継続を、欠損金引継ぎの「経済実態」の中核に据えつつも、従前支配の継続があれば常に引継ぎが認められるとはしていません。特定資本関係5年超で法57条3項の引継制限がかからない場合であっても、なお法132条の2により欠損金の引継ぎが否認される余地を残しているわけです。事業の継続を想定から外したことは、132条の2による否認の可能性を一律に否定するものではない、という点に意味があります。

Ⅴ おわりに

佐藤:それでは最後に、両判決の違いを整理しておきたいと思います。大阪地裁は不当性を肯定し、東京地裁は不当性を否定しました。この違いは、どこから生じていると見ておられますか。
安田:まず、法令解釈のレベルで、法57条2項の趣旨・目的について、大阪地裁判決が事業の継続が想定されているとしたのに対し、東京地裁判決が、これが想定されていないとした点に違いがあります。この違いは、趣旨・目的の逸脱の判断に影響しているほか、行為・計算の不自然性の評価にも影響している可能性があります。
 もっとも、大阪地裁判決も、事業継続の不存在をもって常に法132条の2が適用されるものではないとしています。行為・計算が不自然であるとの評価も、事業継続の不存在のみから直ちに導かれているわけではありません。その意味で、事業継続の「想定」は、TPR事件判決への批判が懸念してきたような、事実上の「要件」として機能するものではなく、より規範性の弱いものだといえるかもしれません。そして、大阪地裁判決が法令解釈のところで例示している2つの事例からすると、欠損金だけを子会社の事業から積極的に切り離して親会社に付け替える行為、いわば組織再編成の実態を伴わない単なる欠損金の付け替えが、不自然で、法57条2項の趣旨・目的を逸脱するものとして問題視されることになるのかもしれません。
 この点、東京地裁判決も、従前支配が及んでいれば従前事業継続がなくとも欠損金の引継ぎが認められる、という理解を基本としつつ、従前支配さえあれば常に引継ぎが認められるとは述べていません。したがって、東京地裁判決が、100%グループ内である限り、事業を積極的に切り出した上で欠損金を親会社に付け替えるような行為まで不当とされないとする考え方に立つのかは明らかでありません。本件で不当性が否定されたのは、事業の集約自体がかねてから検討されており、グループ内で事業を移転すること自体は不自然ではないと評価されたからだと思います。そうすると、両判決の違いとしては、事業を切り出して欠損金を付け替えるという一連の行為があったと評価されるかどうかという、事実の評価の違いも重要であると考えます。
佐藤:最後に述べられたことは、議論の分かれる点かと思います。裁判例や裁決例では事業から欠損金だけを分離する場合に欠損金の引継ぎが問題視されるのではないかという指摘は、以前からあったようですね。
安田:はい。各事件の判決や裁決において、そのような行為が不自然であり、あるいは法57条2項の趣旨・目的を逸脱すると評価されているとの指摘は、以前からありました(脚注14)。また、PGM事件控訴審判決が付加した「繰越欠損金を生じさせた事業を営んできた法人に引き継ぐという観点」についても、事業と欠損金の紐付きが分離されて、他の無関係な事業の利益と通算されるおそれがないかを確認する側面が含まれているとみる余地があるとの指摘もなされていました(脚注15)。
佐藤:しかし、事業と欠損金を結びつけ、完全支配関係の内部での欠損金の付替えを問題視する根拠はどこにあるのでしょうか。
安田:鋭いご指摘だと思います。2つの無関係な事業を1つの法人が行う場合に当然に通算が可能であることなどから、ある事業の損失をそれと無関係な事業の利益と通算することを否定する理由が明らかでない(脚注16)、所得や欠損は、納税者に対して観念されるもので、個々の事業に対して観念できるものでない(脚注17)との指摘があります。弁護士の増田貴都先生は、このような議論を紹介された上で、事業の損失と事業以外の損失とが混合して繰越欠損金を構成し得るという日本の欠損金制度の下で、個々の事業と欠損金とを一対一で紐付け可能という前提が確かなものか、との問題提起(脚注18)をされています。東京地裁判決が、欠損金と事業との紐付けにあえて立ち入らず、資本関係に基づく支配という、より形式的で明確な基準に依拠したのは、こうした紐付け論の難点を踏まえたものと理解することもできます。
佐藤:どうもありがとうございました。最後に、全体につき、私の感想を申し述べます。
 まず、法令解釈のレベルで、私は、事業の継続は不要と考えており(脚注19)、今回の二つの判決の中では、東京地裁判決に共感します。東京地裁で本事案を担当された衣斐瑞穂裁判長は、私に明確な記憶が無かったのですが、このたびご経歴を確認したところ、私が訴訟代理人をしていたTPR事件の第一審で、途中まで陪席をしていらっしゃったようです。また、大阪地裁の裁判長は、ヤフー事件最高裁判決の調査官であった徳地淳氏でした。そのような人的な流れも興味深いところです。個人的には、今回の大阪地裁判決が事業の継続が想定されているとしたことに賛同はしないものの、大阪地裁判決は、事業の継続は要件ではなく、否認を認めるか否かの総合考慮の一要素であるにすぎない、という形で、これまでの批判に一応答えているとは思っています。
 少し視点を引いて、租税政策として、欠損金の利用をどこまで制限する必要があるかを考えてみます。大学で教えるようになり、色々な本を読んでいると、法人税については、そもそも法人になぜ課税をするか、理論的に明らかではない、との指摘が多いことに気づきます。そもそもの課税根拠がはっきりしないとなると、個別の論点、たとえば欠損金の利用制限についても、乱暴に言えば、どのような議論も可能なのかもしれません。そのような中で、今回、東京地裁判決が、ざっくり言えば、移転資産の支配の継続性がある中での欠損金の利用には問題がない、としているのを見て、新鮮な感覚を持ちました。企業グループの一体性にかんがみれば、たとえば、100%の資本関係で結ばれた企業グループの中で、グループ外から欠損金を有する法人を買って来たというような「欠損金の売買」の事例はともかく、グループ内で生じた欠損金を、そのグループ内で使用することには、問題はないように思うのです。その意味からも、欠損金と事業が紐づかないといけないのだ、という議論に対し、安田先生が最後のコメントの中で引用されたように、弁護士の増田貴都先生が異論を提起されていることに共感します。
 いずれにしろ、法人税法132条の2についてさらに二つの司法判断が加わりました。これからも大いに議論がされるかと思います。今回は、安田先生に、非常に詳細に二つの判決を分析していただき、議論の材料を十分に提供できたように思います。改めまして、ありがとうございました。


脚注
1 佐藤修二=向笠太郎=安田雄飛「行為計算否認規定を巡る動向−組織再編成・無利息貸付けの2つの類型の検討」租税研究920号115頁
2 最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁
3 東京地判令和元年6月27日訟月66巻5号521頁、東京高判令和元年12月11日訟月66巻5号593頁。最決令和3年1月15日税資271号順号13508で上告不受理・棄却により確定。
4 吉村政穂「繰越欠損金の引継ぎと組織再編成に係る行為計算否認規定の適用」税務事例研究177号(2020)9-11頁、平川雄士「立法趣旨論再考−最判令3.3.11から近時の法132条の2による否認事例を考える−」租税研究864号(2021)101-102頁、105-108頁、長戸貴之「組織再編税制における租税回避−個別的否認規定の観点から」租税法研究50号(2022)73頁、佐藤修二「繰越欠損金の承継と行為計算否認−PGM事件を中心に」税務事例研究202号(2024)6頁及び同頁脚注(7)等
5 東京地判令和6年9月27日金判1715号9頁、東京高判令和7年7月23日LEX/DB文献番号25623510
6 長戸・前掲注(4)74-78頁
7 平川・前掲注(4)105頁、(平成22年度改正について)佐藤信祐『債務超過子会社の整理・統合の実務』(中央経済社、2021)82-83頁
8 谷口勢津夫「租税回避判例法理としての制度濫用基準の意義と限界−制度濫用基準による「二重の濫用」の否認と同基準の「濫用」−」税法学595号(2026)92-95頁は、TPR事件第一審判決の考え方からすると、法57条3項が完全支配関係下の合併について「不文の濫用防止要件」を「想定」することになると指摘しており、本判決(大阪地裁令和8年5月21日判決)の示した理解もこれに近い。ただし、同95-100頁は、そのような解釈は、同項の立法経緯に照らし許容されないとする。
9 長戸・前掲注(4)74-76頁
10 太田洋「法人税法132条の2の射程と課題−TPR事件東京高裁判決およびPGM事件を素材として−」渋谷雅弘ほか編『水野忠恒先生古稀記念論文集 公法・会計の制度と理論』(中央経済社、2022)374-377頁、伊藤剛志「適格合併による未処理欠損金の引継ぎと法人税法132条の2~TPR事件東京高裁判決の合理的解釈の試み~」租税研究890号(2023)134頁
11 渡辺徹也「判批」令和元年度重要判例解説(有斐閣、2020)192頁、同渡辺徹也『スタンダード法人税法〔第3版〕』(弘文堂、2023)307-308頁、谷口勢津夫『税法基本判例Ⅰ』(清文社、2023)252頁、佐藤修二「繰越欠損金の承継と行為計算否認−PGM事件を中心に」税務事例研究202号(2024)5-6頁
12 最判令和4年4月21日民集76巻4号480頁
13 増田貴都「PGM事件控訴審判決(東京高判令和7年7月23日)から考える欠損金移転と法人税法132条の2」租税研究914号(2025)152頁。他方、大石篤史ほか「最新事例解説 組織再編成に係る行為計算否認規定(法人税法132条の2)の適用を否定した裁判例(PGM事件高裁判決−東京高裁令和7年7月23日判決)」森・濱田松本法律事務所Tax Law NewsletterVol.70は、この判示は結論を左右するものではなく、完全支配関係適格合併において、個々の合併での事業の継続性等の不存在を問題としないにもかかわらず、最終的に事業とそれにより生じた繰越欠損金を併せて引き継いでいるという事情を考慮することは、論理的には整合せず、当該事情を考慮要素として一般化すべきでないと指摘する。
14 TPR事件第一審判決に関して安田雄飛「判批」税務通信3584号(2019)22-24頁、同控訴審判決に関して太田・前掲注(10)377頁、令和5年3月23日裁決に関して安田雄飛「裁批」税務通信3787号(2024)14頁、PGM事件第一審判決に関して南繁樹「判批」旬刊経理情報1732号(2025)73頁
15 増田・前掲注(13)151頁
16 岡村忠生『法人税法講義〔第3版〕』(成文堂、2007)475頁
17 岡村・前掲注(16)480頁
18 増田・前掲注(13)152-153頁は、前掲注(14)~(17)の見解を紹介・整理し、「わが国の欠損金額を構成するのは、営業外のものであって、事業からのものでないかもしれない」(酒井貴子『法人課税における租税属性の研究』(成文堂、2011)57頁との指摘に言及した上で、このように問題提起をする。
19 佐藤・前掲注(11)1頁以下。

佐藤修二 (さとう しゅうじ)
1997年 東京大学法学部卒業。2000年 弁護士登録。2005年 ハーバード・ロースクール卒業(LL.M.)。2011年~14年 東京国税不服審判所(国税審判官)。2019年~22年 東京大学法科大学院客員教授。2022年 弁護士登録取消し。現在 北海道大学大学院法学研究科教授。
著書に、『対話でわかる租税「法律家」入門』(編著、中央経済社、2024)、『対話でわかる国際租税判例』(共著、中央経済社、2022)、『租税と法の接点』(大蔵財務協会、2020)、『事例解説 租税弁護士が教える事業承継の法務と税務』(監修、日本加除出版、2020)など。

安田雄飛 (やすだ ゆうと)
2008年 京都大学法学部卒業、2010年 京都大学法科大学院修了、2011年 弁護士登録。2012年~16年 三宅坂総合法律事務所、2016年~19年 東京国税不服審判所(国税審判官)を経て、2019年 北浜法律事務所に入所し、現在、同事務所パートナー弁護士。
著作に、「ヤフー事件最高裁判決後初の法人税法132条の2に関する判断事例 “TPR事件判決”の問題点」(週刊税務通信3584号18頁)、「対談 消費税争訟事案の現状と展望」(週刊T&Amaster1010号4頁)、『対話でわかる租税「法律家」入門』(共著、中央経済社、2024)、「M&A準備中の非上場株式の相続税評価(東京地判令和6・1・18)」(NBL1267号35頁)、「対談 ~裁判所の判断における新たな傾向を探る~ 過大役員給与に関する裁判例の通時的分析」(週刊T&Amaster1031号4頁)、「東京高裁令和6年8月28日判決・仙台薬局事件」(週刊T&Amaster1050号4頁)、「組織再編行為に伴う借入れと同族会社行為計算否認−ユニバーサルミュージック事件最高裁判決」日本税務研究センター『最新租税基本判例80』(共著、日本税務研究センター、2026)など。

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