解説記事2026年07月27日 未公開判決事例紹介 住宅ローン控除で選択ミス、税理士に損害賠償責任(2026年7月27日号・№1132)
未公開判決事例紹介
住宅ローン控除で選択ミス、税理士に損害賠償責任
税理士は依頼者により有利な措置を講ずるべき義務
本誌1130号4頁で紹介した損害賠償請求反訴事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇税理士(反訴被告)が顧客(反訴原告)の確定申告において、認定低炭素住宅であったにもかかわらず、一般の住宅ローン控除を選択し申告を行ったため、税理士に対し損害賠償請求が行われた事件(令和6年(ワ)第30786号)。東京地方裁判所(新井一太郎裁判官)は令和8年3月27日、税理士は租税関係法令に適合した範囲内で依頼者にとってより有利な措置を講ずるべき義務を負うと解するのが相当であるとし、47万円余りの損害賠償責任を認めた。
主 文
1 反訴被告は、反訴原告に対し、47万1702円及びこれに対する令和6年11月23日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 反訴原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その6を反訴原告の負担とし、その余は反訴被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
反訴被告は、反訴原告に対し、125万2600円及びうち115万0500円に対する令和6年11月23日から、うち10万2100円に対する令和7年2月12日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、反訴原告が、税理士である反訴被告に対し、次の各請求をする事案である。
(1)反訴被告に令和元年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告を委任したところ、反訴被告が同確定申告に際し善管注意義務に違反したと主張して、損害金108万2600円及びうち98万0500円に対する反訴状送達の日の翌日である令和6年11月23日から、うち10万2100円に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である令和7年2月12日から各支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払
(2)上記(1)の確定申告後の反訴被告の対応が違法であると主張して、不法行為に基づき、損害金17万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和6年11月23日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払
2 住宅借入金等特別控除制度の概要
家屋を居住の用に供した日が令和元年10月1日から令和2年12月31日までの期間である場合の住宅借入金等特別控除制度の概要は次のとおりである(租税特別措置法(令和2年法律第8号による改正前のもの)41条、乙1、乙2)。
(1)一般住宅の場合
個人が、国内において、居住用家屋で建築後使用されたことのないものの取得等をして、その対価の額に含まれる消費税額等が10%の税率により課されており、かつ、これらの家屋を令和元年10月1日から令和2年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合において、その者が住宅借入金等の金額を有するときは、居住年以後13年間の各年のうち、その者のその年分の所得税に係るその年の合計所得金額が3000万円以下である年については、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別税額控除額を控除する。
この場合の1年目から10年目までの住宅借入金等特別税額控除額は、その年12月31日における住宅借入金等の金額の合計額(上限4000万円)に控除率1%を乗じて計算した金額(当該金額に100円末満の端数があるときは、これを切り捨てる。)となる。
(2)認定低炭素住宅の場合
居住用家屋が認定低炭素住宅(住宅の用に供する都市の低炭素化の促進に関する法律2条3項に規定する低炭素建築物に該当する家屋で政令で定めるものなどをいう。)等である場合、その者の選択により、住宅借入金等特別税額控除額は、前記(1)にかかわらず、その年12月31日における認定住宅借入金等の金額の合計額(上限5000万円)に認定住宅控除率1%を乗じて計算した金額(当該金額に100円未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として適用することができる。
3 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)反訴原告は、大学教員であり、給与所得者である。
反訴被告は、東京税理士会所属の税理士であり、◎◎◎◎税理士事務所(以下「本件税理士事務所」という。)を経営している(甲1(11頁))。
(2)反訴原告は、令和元年9月26日、A株式会社(以下「A社」という。)から、土地及び新築建物(以下「本件建物」という。)を代金7799万円(本件建物の代金に対する10%の消費税を含む。)で購入し(乙11)、同年12月7日から本件建物に居住するようになった(甲1(3頁))。本件建物は、認定低炭素住宅であった(甲13)。
(3)反訴原告は、令和2年1月、反訴被告との間で、令和元年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告業務を報酬4万円で委任する旨の委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結し、反訴被告に対し、報酬4万円を支払った。
(4)反訴被告は、令和2年3月6日、江東西税務署に対し、反訴原告の令和元年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした(甲1)。本件確定申告の申告書において、住宅借入金等特別控除額は40万円が計上され、還付される税金額は40万8385円とされていた(甲1(1頁))。
(5)反訴原告は、令和4年11月下旬頃、A社の担当者から、本件建物が認定低炭素住宅に該当し、税額控除の限度額が40万円ではなく50万円となるはずであるとの指摘を受けたことから、同年12月2日、本件税理士事務所に対し、控除額を正しい額に変更するなどの手続を行うようメールで連絡した。本件税理士事務所の職員は、同月12日、反訴原告に対し、申告書類の訂正を行う旨返信した。(乙3の3)
(6)反訴被告は、令和4年12月19日、江東西税務署に対し、令和元年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求をした(甲2)。同請求において、住宅借入金等特別控除は50万円が計上され、還付される税金額は51万0485円とされていた。反訴原告は、その後、10万2100円(=51万0485円−40万8385円)の還付を受けた。
(7)江東西税務署の職員は、令和6年6月頃、反訴原告に対し、前記(6)の更正の請求は国税通則法の要件を満たさないものであったとして、還付した10万2100円を返納するよう指示した。反訴原告は、同年12月12日、10万2100円を返納した(乙8)。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)本件委任契約上の善管注意義務違反の有無
(反訴原告の主張)
反訴被告は、税理士として、依頼者である反訴原告に対し、本件建物が認定低炭素住宅に該当するかどうかを確認すべき注意義務を負うところ、その確認を怠り、漫然と一般住宅であることを前提として一般住宅の住宅ローン控除を選択して申告したものであり、本件委任契約上の善管注意義務に違反した。
(反訴被告の主張)
反訴原告と反訴被告との間の契約書において、「証憑類の内容等に起因する障害」として、「経理証憑が内容的に不備又は通常判断を超えた判断を要するため、どうしても間に合わない場合がある」との免責事項を記載していた。
認定低炭素住宅に係る住宅ローン控除を選択すべきことは、申告者から告知されなければ分からないところ、反訴原告は、反訴被告に対し、そのことを告知しなかった。
反訴被告は、反訴原告に対し、必要な書類を全て提出するよう要請したが、反訴原告は、住宅用家屋証明書、低炭素建築物新築等計画認定通知書及び同変更認定通知書(以下、これらの書面を併せて「本件各書面」という。)を提出しなかった。また、確定申告書の事前確認を依頼した際にも、本件各書面を提出しなかった。本件各書面は期間限定のほとんど知られていない税制に関わるものである。このような状況で、認定低炭素住宅に係る住宅ローン控除をして確定申告を行うことを税理士の義務とするのは過重である。
したがって、本件確定申告に瑕疵はなく、反訴被告に善管注意義務違反があるとはいえない。
(2)債務不履行による反訴原告の損害額
(反訴原告の主張)
ア 所得税等相当額 61万2600円
10万2100円(控除額50万円と40万円の差額である所得税10万円及びそれに対応する復興特別所得税2100円)×6年(令和元年分~令和6年分)
イ 税理士報酬相当額 4万円
ウ 弁護士費用 43万円
エ 合計 108万2600円
(反訴被告の主張)
争う。
(3)過失相殺の可否
(反訴被告の主張)
反訴原告には、反訴被告に対し、本件各書面を提出しなかったという過失がある。
(反訴原告の主張)
反訴原告は、本件委任契約の締結時には、所得税の確定申告の経験すらない税務の素人であったのに対し、反訴被告は税理士であり、両者の間には、税務知識に関して歴然とした差があった。住宅用家屋証明書には、「租税特別措置法施行令第41条の規定に基づき、下記の家屋がこの規定に該当するものである旨を証明します。」としか記載されておらず、税務の素人には、この記載をもって同証明書が住宅ローン控除の適用を受ける際に重要な書類であるとは分からない。反訴原告には、同証明書が重要な書類であるという認識や同証明書を保管しているという認識はなかった。反訴原告は、A社から、住宅ローン控除額が増額される制度の適用を受けることができるとの説明をされたことはなかった。
反訴被告は、反訴原告に対し、本件建物が認定低炭素住宅に該当するかどうか確認すべき義務があったのに、その確認を怠った。確定申告書の提出期限の2か月以上前に委任を受け、時間的余裕が十分にあったにもかかわらず、反訴被告は、反訴原告に対し、不動産購入に関する事情を対面や電話で聴取せず、電子メールで必要書類の一覧を送付しただけであった。この一覧には、本件各書面の記載はなく、本件各書面の提出が必要であると気付くことはできない。反訴被告は事情の聴取を行わずに済ませるのであれば、税務署作成のチェック表のように細かく場合分けして申告に必要な書類を伝えるべきであるにもかかわらず、非常に簡単な内容の一覧を送付するのみであった。
したがって、反訴原告が本件各書面を提出しなかったことは、反訴原告の過失ではなく、過失相殺は適用されない。
(4)不法行為の成否
(反訴原告の主張)
反訴被告は、税務署が、国税通則法23条1項3号の要件を満たさず、更正の請求はできないと説明していると反訴原告から伝えられたにもかかわらず、更正の請求を行った。反訴原告は、誤った更正の請求により一旦は還付された10万2100円の返納を求められ、その対応を余儀なくされ、精神的苦痛を被った。
反訴原告は、税務署から10万2100万円の返納を求められた後、反訴被告に対し、協議を求めたが、反訴被告は、反訴原告との協議を一方的に拒絶した。また、反訴被告は、自身が反訴原告の依頼を受けて行った更正の請求に関する税務署とのトラブルに関する質問に対する回答を拒絶しており、税務事務手続の専門家に課せられる説明義務に違反した。
反訴被告の対応・態度によって反訴原告の権利又は法律上保護される利益が侵害された。
(反訴被告の主張)
反訴被告は、反訴原告から更正の請求をするよう依頼され、後日返納することとなっても実害がないため、更正の請求を行ったにすぎない。
反訴被告が更正の請求をしたか否かにかかわらず、還付は受けられなかったのだから、更正の請求について反訴被告は責任を負わない。
(5)不法行為による反訴原告の損害
(反訴原告の主張)
ア 慰謝料 10万円
イ 弁護士費用 7万円
ウ 合計 17万円
(反訴被告の主張)
争う。
(6)消滅時効の成否
(反訴被告の主張)
仮に、反訴原告から反訴被告に対する損害賠償請求権があったとしても、本件は反訴被告が令和2年3月6日に確定申告をした案件であるから、平成29年法律第44号が令和2年4日1日に施行されたことにより無効となった。
(反訴原告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に加えて、括弧内に掲記した書証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)反訴原告は、令和2年1月6日、本件税理士事務所のウェブサイトの問合せフォームから、令和元年末に自宅を購入し、住宅ローン控除などのために確定申告の手続を依頼したいなどと連絡した。本件税理士事務所の担当者は、同日、反訴原告に対し、住宅ローン控除の確定申告代行は可能であり、報酬は4万円(税込み)であるとメールで連絡した。(乙3の1)
(2)本件税理士事務所の担当者は、令和2年1月7日、反訴原告に対し、確定申告に当たり本件税理士事務所に送付すべき資料を記載したファイルをメールで送付した(甲6)。同ファイルの住宅ローン控除の項目には、①対象となる不動産(土地・建物)の登記事項証明書(原本)、②建物の建築請負契約書又は売買契約書コピー、③金融機関発行の住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書が掲げられていたが、本件各書面は掲げられていなかった(乙4)。
(3)反訴原告は、令和2年1月24日、反訴被告に対し、確定申告の報酬4万円を支払った(乙3の1)。
(4)反訴原告は、令和元年10月30日付けの住宅用家屋証明書の発行を受け、それを保管していた。また、反訴原告は、A社から、低炭素建築物新築等計画認定通知書及び同変更認定通知書の交付を受けていた。本件各書面は、認定低炭素住宅の住宅借入金等特別控除を受けるために税務署に提出しなければならない書類であった。(甲13、乙1)
(5)反訴原告は、令和2年1月27日、本件税理士事務所の担当者に対し、署名押印した契約書のデータを送付した(乙3の1(8頁))。同契約書には、「証憑類の内容等に起因する障害」として、「経理証憑が内容的に不備又は通常判断を超えた判断を要するため、どうしても間に合わない場合がある」との記載があった(甲11)。
(6)反訴原告は、令和2年1月29日、本件税埋士事務所に、確定申告に関する資料を送付したが、その際、本件各書面を送付しなかった。反訴被告又は本件税理士事務所の担当者が、本件確定申告を行うまでの間に、反訴原告に対し、認定低炭素住宅の住宅借入金等特別控除について説明をしたり、本件建物が認定低炭素住宅に該当するか否かを問い合わせたり、本件各書面の送付を求めたりしたことはなかった。
(7)本件税理士事務所の担当者は、令和2年2月29日、反訴原告に対し、税務代理権限証書への押印を求めると共に、所得税確定申告書(第一表、第二表)及び住宅借入金等特別控除額の計算明細書を送付して確認書に署名押印するよう依頼した(甲7、乙3の2)。
(8)反訴原告は、令和2年3月2日、本件税理士事務所に対し、署名押印した確認書を送付した(乙3の2(4頁))。
(9)反訴被告は、令和2年3月6日、江東西税務署に対し、本件確定申告をした(甲1)。本件確定申告の申告書において、住宅借入金等特別控除額は40万円が計上され、還付される税金額は40万8385円とされていた(甲1(1頁))。
(10)反訴原告は、令和4年11月下旬頃、A社の担当者から、本件建物が認定低炭素住宅に該当し、税額控除の限度額が40万円ではなく50万円となるはずであるとの指摘を受けた。反訴原告は、税務署の職員に確認したところ、最初に提出した確定申告書類を基に控除額が決定されるため、過去に遡って変更することはできず、将来に向かっても変更することはできないとの回答を受けた。(甲12、乙12)
(11)反訴原告は、令和4年12月2日、本件税理士事務所に対し、上記の回答とともに、控除額を正しい額に変更するなどの手続を行うようメールで連絡した。本件税理士事務所の職員は、同月12日、反訴原告に対し、申告書類の訂正を行う旨返信した。(乙3の3)
(12)反訴被告は、令和4年12月19日、江東西税務署に対し、令和元年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求をした(甲2)。同請求書においては、住宅借入金等特別控除は50万円が計上され、還付される税金額は51万0485円とされていた。反訴原告は、その後、10万2100円(=51万0485円−40万8385円)の還付を受けた。
(13)江東西税務署の職員は、令和6年6月頃、反訴原告に対し、前記(12)の更正の請求は要件を満たさないものであったとして、還付した10万2100円を返納するよう指示した。反訴原告は、令和6年12月12日、10万2100円を返納した。(乙8、乙12)
(14)反訴原告は、令和2年分から令和6年分までについて、自身で所得税の確定申告を行った。反訴原告は、令和2年分から令和4年分及び令和6年分について、40万円の住宅借入金等特別控除を受けた。反訴原告は、令和5年分について、一旦、50万円の住宅借入金等特別控除を受けたが、税務署から前記(13)と同様の指示を受けて、10万2100円を返納した。令和6年末時点における反訴原告の住宅借入金の残高は、6121万1035円であった。(乙6、乙8、乙9、乙10)
2 争点(1)(本件委任契約上の善管注意義務違反の有無)について
(1)税理士は、税務の専門家として、納税義務者から税理士業務を依頼された場合には、租税関係法令に適合する申告手続をすべき義務を負うことはもちろん、租税関係法令に適合した範囲内で依頼者にとってより有利な措置を講ずるべき義務を負うと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると、反訴被告は、本件建物が認定低炭素住宅に該当し、各年の控除額の上限が50万円であるにもかかわらず、そのことを調査確認しないまま、一般住宅として本件確定申告を行い、反訴原告は、40万円の控除しか受けることができなくなったのであるから、反訴被告は前記(1)の注意義務に違反したというべきである。
(3)ア これに対し、反訴被告は、契約書の「経理証憑が内容的に不備又は通常判断を超えた判断を要するため、どうしても間に合わない場合がある」との記載(前記1(5))により免責されるかのように主張する。
しかし、そもそも上記記載は、その文言からして、申告期限に間に合わない場合を念頭に置いたもので、より有利な措置を講じないことを免責するものとは解されない。また、認定住宅の新築等をした場合の住宅借入金等特別控除については、確定申告書において記入欄があらかじめ設けられており(甲1)、国税庁のウェブサイトにもその説明が掲載されている(乙1)のであるから、「通常判断を超えた判断を要する」ということもできない。
したがって、反訴被告の上記主張は採用することができない。
イ また、反訴被告は、認定住宅の新築等をした場合の住宅借入金等特別控除は、期間限定のほとんど知られていない税制に関わるものであり、反訴原告が、反訴被告に認定低炭素住宅に該当することを告知しなかったのであるから、本件確定申告に瑕疵はないと主張する。
しかし、前記アで説示したとおり、認定住宅の新築等をした場合の住宅借入金等特別控除については、確定申告書において記入欄があらかじめ設けられており(甲1)、国税庁のウェブサイトにもその説明が掲載されている(乙1)のであるから、反訴被告は、税務の専門家として、その該当性を確認すべき義務を負うというべきである。したがって、反訴被告の上記主張は採用することができない。
ウ また、反訴被告は、反訴原告に対し、必要な書類を全て提出するように要請したにもかかわらず、反訴原告は、本件各書面を提出しなかったと主張する。
しかし、反訴被告は、①対象となる不動産(土地・建物)の登記事項証明書(原本)、②建物の建築請負契約書又は売買契約書コピー、③金融機関発行の住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書の提出を求めたにとどまり(前記1(2))、反訴原告に対し、認定住宅の新築等をした場合の住宅借入金等特別控除について説明をしたり、本件建物が認定低炭素住宅に該当するか否かを問い合わせたり、本件各書面の送付を求めたりしたことはなかった(前記1(6))のであるから、前記(2)の判断は左右されないというべきである。
3 争点(2)(債務不履行による反訴原告の損害額)について
(1)所得税等相当額
令和6年末時点における反訴原告の住宅借入金等の残高(前記1(14))によれば、反訴原告は、令和元年分から令和6年分につき、上限額である50万円の税額控除を受けられるはずであったと認められる。
そして、認定低炭素住宅に係る住宅借入金等特別控除は、適用の有無を選択することができるものであり、それが適用されていないからといって、申告書の記載自体に誤りがあるとはいえないから、更正の請求事由とはならないと解される(国税通則法23条1項参照)。反訴原告は、令和元年分から令和6年分につき、実際には、40万円の税額控除しか受けられなかったのであるから、反訴原告は、各年分につき差額である10万円の所得税相当額の損害を被ったと認められる。また、反訴原告は、これに対応する復興特別所得税についても損害を被ったと認められる。
以上によれば、反訴原告の損害額は61万2600円となる。
(計算式)
(50万円−40万円)×102.1%(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条による復興特別所得税の税率の加算)×6年(令和元年分~令和6年分)=61万2600円
(2)税理士報酬
反訴被告に対する税理士報酬は、反訴被告の債務不履行がなければ支払を免れることができた費用とはいえないから、反訴被告の債務不履行と相当因果関係がある損害とは認められない。
(3)合計
以上によれば、反訴被告の債務不履行による反訴原告の損害額は、61万2600円となる。
4 争点(3)(過失相殺の可否)について
反訴原告は、当初から、住宅ローン控除を受けるために本件税理士事務所に問合せを行っており(前記1(1))、住宅ローン控除に一定の関心を持っていたことが認められる。そして、反訴原告は、本件各書面の交付を受けて保管しており(前記1(4))、その文面も考慮すれば、それらが住宅ローン控除に関連することを認識することができたというべきである。それにもかかわらず、反訴原告は、本件確定申告前に、反訴被告に対し、本件各書面を交付しなかったものである(前記1(6))。
以上に加えて、認定低炭素住宅に係る住宅借入金等特別控除は、一般住宅の場合に対する特例であることも考慮すれば、損害の公平な分担の観点から、前記3の損害額から3割の過失相殺をするのが相当である。
5 小括
(1)前記3の損害額に過失相殺をした後の金額は42万8820円となる。
(2)本件訴訟は、税務申告の適否を巡る専門的な知識を要する訴訟であって、法律専門家である弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難であると認められる。したがって、前記(1)の42万8820円の1割に相当する4万2882円は、反訴被告の債務不履行と相当因果関係のある弁護士費用であると認められる。
(3)以上によれば、反訴被告の債務不履行と相当因果関係のある損害額は、47万1702円となる。
6 争点(4)(不法行為の成否)について
(1)反訴原告は、反訴被告が、国税通則法23条1項3号の要件を満たさず、税務署が更正の請求はできないと説明していると反訴原告から伝えられたにもかかわらず、更正の請求を行ったことが不法行為を構成すると主張する。
しかし、反訴原告は、反訴被告に対し、控除額を正しい額に変更するなどの手続を求めていたのであるから(前記1(11))、反訴被告がこれを更正の請求を求めるものと理解して更正の請求を行ったことは、結果的に更正の請求が認められなかったとしても、反訴原告の権利利益を侵害するものとはいえない。
(2)反訴原告は、反訴被告が反訴原告との協議を拒否したことや反訴原告からの質問に回答しなかったことが不法行為を構成すると主張する。
しかし、本件委任契約は、本件確定申告により終了したというべきであって、その後、反訴被告が反訴原告との協議を拒否したり、反訴原告からの質問に回答しなかったりしたとしても、前記2の債務不履行と別個に反訴原告の権利利益を侵害するとまではいえない。
7 争点(6)(消滅時効の成否)について
反訴被告は、反訴原告の損害賠償請求権が平成29年法律第44号の施行により時効消滅したかのように主張する。しかし、同改正法にはそのような効果を定める規定は存在しないから、反訴被告の上記主張は採用することができない。
8 結論
よって、反訴原告の請求は、債務不履行に基づき、損害金47万1702円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和6年11月23日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第50部
裁判官 新井一太郎
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