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解説記事2026年08月03日 未公開判決事例紹介 黙示の合意による業務委託契約の成立を巡る税賠事件(2026年8月3日号・№1133)

未公開判決事例紹介
黙示の合意による業務委託契約の成立を巡る税賠事件
東京地裁、調停の税務問題助言の委任の示唆はなし

 本誌1130号4頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇原告が税理士(被告)に対し、業務委託契約に基づく義務を怠ったため、原告の兄との調停に基づく遺留分の支払に伴う更正の請求の期限が徒過し、還付金341万円余りを受け取ることができなかったとして、債務不履行に基づく損害賠償を求めた事件(令和7年(ワ)第4891号)。東京地方裁判所(園部直子裁判官)は令和8年3月19日、原告の請求を棄却した。原告は黙示の合意により業務委託契約が締結されていたと主張したが、裁判所は、原告と税理士とのメールでのやりとりから兄との調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うとの委任を示唆するものは認められなかったと判断した。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 主位的請求

 被告は、原告に対し、375万2870円及びこれに対する令和6年12月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
 被告は、原告に対し、375万2870円及びこれに対する令和6年11月22日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、原告が、税理士である被告に対し、以下の請求をする事案である。
(1)主位的請求
 原告が、①原告と被告は、黙示の合意により、被告が、原告に対して、原告の兄であるA(以下「A」という。)との調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うことを内容とする業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結したが、被告が同契約に基づく義務を怠ったため、原告は受け取れたはずの還付金341万1700円を受け取れなかったと主張し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、損害金375万2870円(上記341万1700円及び弁護士費用相当額34万1170円の合計額)及びこれに対する令和6年12月11日(請求日以降の日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求め(以下「主位的請求1」という。)、②選択的に、被告は、原告に対して負っていた信義則上の義務に違反したため、上記①と同様の損害を被ったと主張して、債務不履行に基づく損害賠償請求として、上記①と同じ金員の支払を求める(以下「主位的請求2」という。)。
(2)予備的請求
 原告が、被告は、原告に対し、税理士法1条及び信義則に基づき、相続税の更正請求についての助言を行う注意義務を負っており、また、信義則に基づき、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題について助言を行う義務がないことを説明する注意義務を負っていたが、これらを怠ったため、原告が上記(1)①と同様の損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金375万29870円及びこれに対する令和6年11月22日(不法行為日以降の日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 前提事実(証拠番号を付記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1)被告は、肩書住所地において税理士業務を営む税理士である。
  被告は、平成29年12月から令和元年8月まで、原告が代表取締役を務めていた△△△△株式会社の税務顧問を務めていたが、原告との間で顧問契約を締結したことはない。
(2)令和2年12月30日、原告の母であるB(以下「B」という。)が死亡し、Bの遺言により、原告がBの財産を全て相続した。
  令和4年2月15日、被告は、Bの相続に関し、原告の相続税の申告を行い、原告は、被告に対して報酬として77万円(税込み)を支払った。
(3)原告とAとの間で遺留分侵害額の請求調停申立事件が係属した(以下、この調停を「Aとの調停」という。)が、令和5年4月20日、同事件において、原告がAに一定の金員を支払うこと、原告とAは東京都渋谷区所在の不動産を協力して売却することなどを内容とする調停が成立した(甲5)。
3 争点及び当事者の主張
〔主位的請求1〕
(1)原告と被告との間で本件業務委託契約が黙示に成立したか(争点1)
【原告の主張】

 原告と被告との間で、遅くとも令和5年11月10日の時点で、黙示の合意として、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うことを内容とする業務委託契約(本件業務委託契約)が成立した。「Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般」の中には「調停に基づくAに対する遺留分の支払に伴うBの相続税の更正請求の要否及び更正請求の時期」も含まれ、被告は、原告に対して、Bの相続税の更正請求の要否及び更正請求の時期に関する助言を行う義務を負っていた。本件業務委託契約が黙示に成立したことを基礎付ける事実は、別紙の「原告主張事実」欄のとおりである。
【被告の主張】
 本件業務委託契約が成立したことは否認し、被告が原告主張の義務を負っていたことは争う。別紙の「原告主張事実」欄の各事実についての認否は、別紙の「被告の認否」欄のとおりである。
 原告が主張するような受任の範囲と限界が極めて不明確で、かつ、被告のみが一方的に(助言)義務を負うような契約を、税理士である被告が締結することは通常はあり得ず、まして黙示の合意で成立することは到底考え難い。原告が指摘する電子メールの内容からしても、原告の内心に被告に助言義務を負わせようとする意思が存したことをうかがわせるような記載は全くないし、仮に、原告の内心において、上記意思が存したとしても、本件業務委託契約につき原告の申込み又は被告の承諾の意思表示と評価できる事実はない。
(2)損害及び因果関係(争点2)
【原告の主張】

 被告は、本件業務委託契約に基づく義務を怠り、原告に対して、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求が必要であること及びその期限について助言しなかった。その結果、更正請求の期限が徒過し、原告は、還付金341万1700円を得ることができず、同額の損害を被った。また、弁護士費用相当額として、341万1700円の10%である34万1170円が損害として認められる。
【被告の主張】
 否認し又は争う。
〔主位的請求2〕
(3)被告が、原告に対して、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求の要否及び法定期限について助言を行う信義則上の義務を負っていたか
(争点3)
【原告の主張】

 仮に、本件業務委託契約が成立していなかったとしても、別紙の「原告主張事実」欄の各事実によれば、令和5年11月10日当時、原告と被告との間には、被告が原告に対して、「被告が原告に対してAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言する」という信頼関係が構築されていたから、被告は、原告に対して、信義則上、更正請求の必要性を指摘し、損失を回避させる義務、具体的には、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求の要否及び法定期限について助言を行う義務を負っていた。
【被告の主張】
 被告が原告主張の義務を負っていたことは争う。別紙の「原告主張事実」欄の各事実についての認否は、別紙の「被告の認否」欄のとおりである。
 契約責任でも不法行為責任でもない信義則上の義務違反という主張の法律構成自体が不明確であり、失当である。原告と被告との間に税務顧問契約が存在していたわけではなく、原告が、自己の都合で、時折、報告し又は質問を投げかけて、被告が原告の提供する情報を前提にしてその質問の限りで回答してきたという関係の中で、被告が、原告から質問すら受けていない事項について、積極的に調査・確認して、自ら進んで税務上の助言をすべき信義則上の義務を負う理由は全くない。
(4)損害及び因果関係(争点4)
【原告の主張】

 被告は、上記(3)【原告の主張】記載の信義則上の義務を怠り、原告に対して、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求が必要であること及びその期限について助言しなかった。その結果、更正請求の期限が徒過し、原告は、還付金341万1700円を得ることができず、同額の損害を被った。また、弁護士費用相当額として、341万1700円の10%である34万1170円が損害として認められる。
【被告の主張】
 否認し又は争う。
〔予備的請求〕
(5)被告が、原告に対して、税理士法1条及び信義則に基づき、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求の要否及び法定期限について助言を行う注意義務、又は、信義則に基づき、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題について助言を行う義務がないことを説明する注意義務を負っていたか(争点5)
【原告の主張】

 別紙の「原告主張事実」欄の各事実によれば、原告と被告との間には、被告が原告に対して、「被告が原告に対してAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言する」という信頼関係が構築されており、被告は、原告に対して、税理士法1条及び信義則に基づき、原告に損害が生じ得る重要な税務上の事由(更正請求の要否)について適切な助言を行う注意義務、具体的には、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴うBの相続税の更正請求の要否及び法定期限について助言を行う義務を負っていた。また、同各事実によれば、被告は、原告に対して、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について適切な助言を与えるという期待を生じさせ、原告にかかる期待が生じていることは、被告においても認識可能であったから、信義則上、被告は、原告に対して、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題について助言を行う義務がないことを説明する注意義務があった。いずれの注意義務も、遅くとも令和5年11月10日の時点で発生していた。
【被告の主張】
 被告が原告主張の注意義務を負っていたことは争う。別紙の「原告主張事実」欄の各事実についての認否は、別紙の「被告の認否」欄のとおりである。
 原告が被告に対して調停の主要な部分について説明も資料の提供もしない状況の下、原告と被告との間に税務顧問契約が存在していたわけではなく、原告が、自己の都合で、時折、報告し又は質問を投げかけて、被告が原告の提供する情報を前提にしてその質問の限りで回答してきたという関係の中で、被告が、被告が原告に対してAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言するという信頼関係が構築されていたとは到底いえず、まして、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求の要否及び法的期限について助言を行うべき法律上の義務を負っていたとは到底いえない。また、通常、税理士が、相手方から依頼を受けていない事項について、受忍義務ないし履行義務がないことを積極的に進んで相手方に告知すべき義務があるとは考えられないが、上記のような状況や関係において、原告から質問すらされていない、被告が原告に対してAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言する義務の有無に関して、被告が告知すべき義務があったとは到底考えられない。
(6)損害及び因果関係(争点6)
【原告の主張】

 被告は、上記(5)【原告の主張】の注意義務を怠り、原告に対して、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求が必要であること及びその期限について助言せず、「被告が原告に対してAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言する義務を負っていないこと」を説明することをせずに原告からの相談に対して漫然と助言をし続けた。その結果、更正請求の期限が徒過し、原告は、還付金341万1700円を得ることができず、同額の損害を被った。また、弁護士費用相当額として、341万1700円の10%である34万1170円が損害として認められる。
【被告の主張】
 否認し又は争う。

第3 当裁判所の判断
1 原告と被告との間で本件業務委託契約が黙示に成立したか(争点1・主位的請求1)

(1)原告は、別紙の「原告主張事実」欄の各事実(なお、以下、同欄の①以下の事実を「①事実」などという。)によれば、原告と被告との間で、遅くとも令和5年11月10日までに、黙示の合意として、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うことを内容とする業務委託契約(本件業務委託契約)が成立した旨を主張する。
(2)ア 令和4年2月15日、被告は、Bの相続に関し、原告の相続税の申告を行い、報酬の支払を受け(前記前提事実(2)、①事実)、その後の両者間のメールのやり取りにおいて、Aとの調停が話題に上ることがあった(甲8、9、乙3)ことは認められる。
 イ もっとも、原告と被告との間で顧問契約が締結されたことはなく(前記前提事実(1))、上記アの相続税の申告が行われた後、少なくとも明示的には、両者間で業務委託に係る合意がされたことはなかったものである(弁論の全趣旨)。
 ウ そのような中で、原告は、メールにより、被告に対し、(ア)令和4年10月3日、原告は引き続きAと戦っている旨、新展開になりそうである旨、被告から指摘もあったAの名義預金につき、ここに切り込んでおり、これが認められれば相続税の納付をやり直す必要が出そうである旨、この件で少しお話ができると嬉しい旨を伝え(乙3)、(イ)同年10月31日、今後も引き続き様々な手続に被告の力を借りたい旨を伝え、Aとの調停において相続税額が高額にならないためにC弁護士(原告訴訟代理人)から助言を受けた旨を報告するとともに、共有不動産について売却する予定であるが、この際の税務申告等、様々な落とし穴などに気を付けたいので不動産関連も指導をお願いしたい旨、指示いただけることがあれば教えてほしい旨を伝えた(甲8(11、12頁の⑯))ことが認められる。もっとも、上記(ア)は、状況の報告と面談等の希望であり、上記(イ)も、指導や指示をお願いしたいなどの漠然とした内容にとどまっており、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うとの委任を示唆するものとは認められない。
 エ 次に、原告は、令和4年11月10日、被告に対して、C弁護士のメールを引用の上、同メールの内容について相談し、被告は、これに対して返信したことが認められる(争いなし、別紙④、⑤事実)。もっとも、この相談は、飽くまで、遺留分侵害額の計算において、名義預金を被相続人の遺産とした上で計算した場合に、調停条項において計算過程の記載がなくても、追納すべき相続税が発生するかという個別の事項に関する質間であり(甲8(9~10頁)の⑭)、これに対する回答も、被告において、調停条項案作成の経緯や趣旨、遺留分侵害額の計算過程等について原告又はC弁護士から説明がない中で、調停条項案の趣旨について推測した上で、同案を前提としても、追納が必要な場合があることを一般論として述べ、末尾に「ご参考に宜しくお願いいたします」とした(甲8(8~9頁)の⑬、弁論の全趣旨)ものであって、上記の個別の事項につき、得られた情報の限りで、参考意見として一般論を返答したにすぎない。なお、同年11月13日に原告が被告に送信したメールも、被告から引き続き指導いただきたい旨の記載はあるものの、調停ではなく裁判でAの引出行為を追及したいこと、不動産を売却予定であることを報告し、遺留分の支払による税務申告や不動産売却時の特別控除等、使えるものがあれば賢く利用したいとの希望を一方的に述べる一方で、Aとの調停についての具体的な説明はなかった(甲8(7~8頁)の⑫)ものであり、原告と被告との間の令和4年12月から令和5年1月までのやり取りも、売却予定の不動産等に関する個別の相談にとどまっていたものである(甲8(5~7頁)の⑥~⑪)。以上によれば、これらのやり取りがAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うとの委任を示唆するものとは認められない。
 オ そして、原告は、令和5年4月16日、被告に対して、同月20日に調停が締結される可能性が高い旨の記載のあるメールを送信した(争いなし、⑦事実)ものの、成立予定の調停につき、調停条項案を提供したり、内容の説明をしたりせず、メールの大半は不動産の売却に関する質問が占めており((甲8(3~4頁)の⑤、弁論の全趣旨)、上記メールが、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うとの委任を示唆するものとは認められない。
 カ 原告は、令和5年7月2日、被告に対して、「相続の件ですが徐々に進展があり兄、Aとの調停は減額された、115万4150円の遺留分の支払いで終了しました。」とのメールを送り、被告は、「A様との調停の件、不動産売却の件承知いたしました。」との返答をしたことが認められる(争いなし、⑧、⑨事実)。もっとも、その際、原告が、被告に対し、調停条項を提供したり、その内容の説明をしたりすることはなく、被告の返答も、原告の報告に対する一般的な応答にすぎず(甲8(1~2頁)の①、②、弁論の全趣旨)、しかも、同調停が成立したのは同年4月20日であったにもかかわらず、原告が、被告に対して、成立の報告をしたのは、成立から2か月強が経過した後であった(前記前提事実(3)、甲8(1~2頁)の②、弁論の全趣旨)ものである。以上によれば、上記のメールのやり取りが、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うとの委任を示唆するものとは認められない。
 キ 原告は、令和5年11月8日、被告に対して、原告がAに支払う遺留分について、今回売却金額から納税した後で遺留分を支払うのが得か、遺留分を支払ってから残った金額に対して納税するのかにつき、教えてほしい旨をメールで伝え、被告は、原告に対し、遺留分の支払は相続に関するもので、譲渡所得とは別のものである旨、調停について、調停調書があると思うのでコピーを送られたい旨を返信した(争いなし、⑩、⑪事実)ことが認められる。もっとも、上記の原告のメールは、被告が原告に対し、不動産の売却に関して、所得税等の概算についての意見を告げた上で、売買契約書等の書類の準備を促すメールを送信したことに対し、原告が、遺留分侵害額をAに支払う時期と不動産譲渡所得の納税の時期の先後による損得を質問し、これに対して被告が回答したものであり(甲9(1、2頁))、調停調書についても、不動産の譲渡所得の申告に関連してコピーの確認を求めたにすぎず(なお、被告がコピーの確認を求めるまで、原告が被告に対して調停条項を提供することはなかったことが認められる。)、上記のメールのやり取りが、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うとの委任を示唆するものとは認められない。
(3)なお、原告は、代理人弁護士を依頼した上で、本件訴えを提起したが、①訴状において、被告に義務違反があり債務不履行に基づく損害賠償請求を行うとしつつも、原告と被告との間で契約(合意)が成立した旨を記載しておらず、②被告から、原告が主張する義務は、契約に基づき発生するとの主張か否かを明らかにすることを求められた後に、初めて、原告準備書面(1)において、遅くとも令和4年2月15日、Bの相続税の更正請求に関する業務委託契約が成立した旨を主張し、③原告準備書面(2)においては、令和5年11月10日又は同月16日、Aとの間で成立した調停に基づいた相続税の更正請求及びこれに関する税務上の助言を行うことを委託する旨の業務委託契約が成立した旨を主張し、④原告準備書面(5)においては、遅くとも令和5年11月10日、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言を行うことを内容とする業務委託契約(本件業務委託契約)が成立した旨を主張したものである。
  このように、原告は、被告の指摘を受けるまで契約(合意)の成立を主張せず、その後、契約の成立を主張するも、その内容は一貫しないものであって、原告自身、代理人弁護士を選任して、法的助言を受けた後も、契約(本件業務委託契約)が成立したとの認識に乏しかったことがうかがわれる。
(4)その他本件全記録に照らしても、本件業務委託契約が黙示に成立したことを基礎付けるに足りる事実は認められず、同契約が成立したとの原告の主張は採用することができない。よって、主位的請求1は理由がない。
2 被告が、原告に対して、①信義則に基づき(争点、3〔主位的請求2〕)、又は、税理士法1条及び信義則に基づき(争点5〔予備的請求〕)、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴う更正請求の要否及び法定期限について助言を行う信義則上の義務、②信義則に基づき、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題について助言を行う義務がないことを説明する注意義務(争点5〔予備的請求〕)を負っていたか
(1)原告は、別紙の「原告主張事実」欄の各事実によれば、遅くとも令和5年11月10日の時点で、①原告と被告との間には、被告が原告に対して、「被告が原告に対してAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言する」という信頼関係が構築されており、被告は、原告に対して、税理士法1条及び信義則に基づき、原告に損害が生じ得る重要な税務上の事由(更正請求の要否)について適切な助言を行う注意義務、具体的には、Aとの調停に基づく遺留分の支払に伴うBの相続税の更正請求の要否及び法定期限について助言を行う義務を負っていた旨、②被告は、原告に対して、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について適切な助言を与えるという期待を生じさせ、原告にかかる期待が生じていることは、被告においても認識可能であったから、信義則上、被告は、原告に対して、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題について何ら助言を行う義務がないことを説明する注意義務があった旨を主張する。
(2)しかしながら、原告と被告との間で、顧問契約は締結されておらず(前記前提事実(1))、Bの相続税の申告業務が行われた後、両者間で業務委託に関する合意がされたことも認められない(前記1参照)ものである。
  そして、原告は別紙の「原告主張事実」欄の各事実を指摘するが、その経緯や内容は前記1(2)のとおりであって、被告は、原告から送られてくるメールに対し、原告の提供する情報や質問の限りで、個別の事項について可能な限りで回答していたにすぎず、しかも、前記1(2)のとおり、原告は、Aとの調停につき、被告に対して、調停成立前に調停条項案を提供したり、その内容の説明をしたりせず、調停成立の報告をしたのも成立から2か月強が経過した後であり、不動産の譲渡所得の申告に関連して被告からコピーの確認を求められるまで、被告に対して調停条項を提供しなかったものである。
  以上によれば、税理士の使命に関する税理士法1条の規定を考慮しても、①被告が原告に対してAとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について助言するという信頼関係が構築されていたとは認められず、②被告が、原告に対して、Aとの調停に関連して発生する税務上の問題全般について適切な助言を与えるという期待を生じさせ、原告にかかる期待が生じていることが被告において認識可能であったとも認められない。
(3)その他本件全記録に照らしても、原告の上記(1)の主張を基礎付けるに足りる事実は認められない。よって、同主張を採用することはできないから、原告の主位的請求2及び予備的請求はいずれも理由がない。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第30部
裁判官 園部直子

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