解説記事2026年09月07日 未公開判決事例紹介 税理士法人の予想消費税額に誤り、損害賠償は(2026年9月7日号・№1137)
未公開判決事例紹介
税理士法人の予想消費税額に誤り、損害賠償は
東京地裁、納税者に具体的な実害は生じず
本誌1126号4頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇税理士法人(被告)が原告である法人に対し、実際は約170万円の消費税納付が必要であるのに予想消費税を約50万円の還付であると誤った内容の説明をしたとして、税務顧問契約の債務不履行ないし不法行為に基づき損害賠償請求を求めた事件(令和7年(ワ)第13099号)。東京地方裁判所(中野雄壱裁判官)は令和8年2月24日、予想が外れた要因によっては税理士法人である被告の不完全履行を構成することも考えられるとしたが、結果として、税理士法人による予想消費税額の説明が誤っていたことによって、原告に具体的な実害が生じていたとは認められないとし、原告の請求を棄却した。
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告は、原告に対し、609万4000円及びこれに対する令和7年7月30日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、税理士法人である被告との間で締結した税務顧問契約に基づき、税務書類作成等の業務を委託していたところ、被告が、原告に対して税理士資格のない従業員を窓口としてサービスを提供し、計算ミス等の多数の不手際が発生し、実際は約170万円の消費税納付が必要であるのに予想消費税を約50万円の還付であると誤った内容の説明をする等したとして、上記税務顧問契約の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠債請求として、支払済みの顧問報酬相当額等の損害合計609万4000円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者等
ア 原告は、飲食店の企画・経営等を業とする株式会社である。
イ 被告は、他人の求めに応じ、租税に関し、税理士法第2条1項に定める税務代理、税務書類の作成及び税務相談に関する事務を行うこと等を業とする税理士法人である。
(2)顧問契約の締結
原告と被告は、令和元年12月12日付で、次の税理士の業務に関し、顧問契約を締結した(甲1。以下「本件契約」という。)。
① 原告の法人税、事業税、住民税及び消費税等の税務書類の作成並びに税務代理業務
② 原告の税務調査の立会い
③ 原告の税務相談
④ 原告の会計処理に関する指導及び相談
(3)誤った予想消費税額を伝えたこと
被告の担当職員であるA(以下「A」という。)は、令和6年8月頃に、原告の令和7年1月時点の予想消費税が還付となる旨を伝え、その後の月次監査の打合せでも予想消費税額が還付になる旨を伝えていたところ、令和7年3月頃、被告社内で検算した結果、原告が令和6年7月に実施した事業譲渡に関する消費税の処理に誤りがあることが判明し、修正後の消費税額を算出してメールや電話等で連絡した。(甲3、5、弁論の全趣旨)
(4)通知と回答
被告は、令和7年5月14日付で、原告に対し、被告代理人弁護士を通じて、代理人弁護士の受任の連絡とともに、本件契約を解除する旨の通知を送付した(甲4)。
原告は、令和7年6月11日、原告代理人弁護士を通じて、被告からの顧問契約解除通知を受け入れた上で、被告が預かっている原告の各種税務資料の返還を求める旨の通知書を送付した(乙1)。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
本件の主な争点は、被告の債務不履行責任ないし不法行為責任の有無及び損害との相当因果関係であり、これに関する当事者の主張は、以下のとおりである。
(1)原告の主張
ア 被告の債務不履行責任ないし不法行為責任について
被告は、原告の事業に関する税理士業務について、税理士資格を持たない職員(A)に担当させ、本件契約に基づくサービス提供に関して、社会保険料の誤徴収、経費計算のミスその他の不手際が多発した。被告担当者の知識・能力不足は明らかであった。被告が令和6年5月頃からは、上席者とのダブル管理体制となっていたが、その上席者も税理士資格を持たず、税務知識が不十分であったことから、二重チェックは機能せず、被告の不手際が解消されることはなかった。
そのような中、被告は、税理士資格を持たない職員を通じて、税務相談とし、原告に対し、令和7年3月末日を期限とする消費税の申告に関し、令和6年8月頃の時点から、継続的に、約50万円の還付になる旨を伝えてきた。
ところが、令和7年3月20日頃になって、突然、原告は、被告から、消費税額が還付ではなく約170万円の納付になる旨を告げられた。
中小企業である原告にとって、50万円の還付が170万円の納付になるということは、資金繰り等の事業計画及び事業運営上、極めて大きな支障をきたすものである。被告は、明らかな見当違いの見解を数カ月にわたって伝えていたものであり、被告に責任があることは間違いない。被告は、少なくとも誤った情報を伝えない注意義務に違反した過失があり、本件契約上の債務不履行ないし不法行為責任を負うべきである。
イ 損害の有無及び金額について
被告の債務不履行ないし不法行為によって、原告は、次の合計609万4000円の損害を被った。
① 支払済みの顧問報酬等の報酬389万4000円
② 還付と納付の差額220万円
被告の度重なる対応の不備や上記債務不履行の主な原因が、非税理士行為であると考えられるから、上記損害は被告の債務不履行及び不法行為と相当因果関係のある損害である。
(2)被告の主張
ア 債務不履行責任ないし不法行為責任の有無について
税理士又は税理士法人の監督の下、税理士資格を有しない従業員が顧客の窓口となり、顧客対応を行うことは何ら税理士法に違反するものではない。原告は税理士法違反の疑いを主張するが、本件契約上の債務不履行との法的関係性が不明である。
また、原告が主張する計算ミスは給料計算及び経費計算に関するものであるところ、被告の担当者によるこれらの会計上の集計業務に係る計算ミスが発覚したのは本件契約締結以降合計2回である。2度目の計算ミスが生じて以降は一切発生していない。これらは、本件契約に基づくサービスには含まれておらず、原告からの依頼に応じて被告が任意に提供していた会計上の集計業務に係る無償サービスであった。そのため、当該計算ミスが本件契約上の債務不履行を構成するものではない。
さらに、令和7年3月末日を期限とする消費税の申告に関し、被告が、令和6年8月頃から、納税予測として約50万円の還付となる旨を伝えた事実は認めるが、会計データが未確定であり決算が未了の段階にある会社に対して確定的に納税額を提示することは不可能である。原告は1月を決算期とする法人であり、令和6年8月頃から被告がその時点で決算未了の原告に伝えた金額は、あくまでその時点での会計情報を基にした予測値に過ぎない。実務上、決算確定前の予測が確定額と乖離することは通常見られる事情であり、最終的に予測金額が確定額と異なったからといって、原告に対する債務不履行となるわけではない。
イ 損害の有無及び金額について
否認ないし争う。
被告は、本件契約締結以降、原告に対し、本件契約に基づく各種サービスを継続的に提供しており、被告に債務不履行は存在しない。そのため、支払い済みの顧問報酬等の報酬総額が損害と評価される余地はない。
また、原告は予想消費税額の還付金額と実際の納付金額の差額として220万円が損害である旨主張しているが、もともと消費税は、被告の行為の有無にかかわらず、原告が納税すべき税金であり、予測納税額と確定納税額の差額が損害となる根拠はない。
第3 当裁判所の判断
1 原告は、被告が本件契約に基づく各種サービスを非税理士資格の職員が提供し、計算ミスなどの多数の不手際が発生した旨主張する。
しかしながら、前記前提事実のとおり、原告が指摘する給与計算及び経費計算それ自体は、本件契約上の被告が提供すべき債務そのものであるとは認められず、これらの計算に誤りがあったことから、直ちに本件契約上の被告の債務不履行があったとはいえない。その他、原告は、計算ミスを多発していた旨主張するが、被告が認める2回の計算ミスの他はどのような内容の不手際があったかについて具体的な主張立証はなく、本件契約上の債務不履行の内容を特定できていない。また、被告が認める2回の計算ミスによって、原告に具体的な実害が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、原告の具体的な権利利益の侵害があるとは認められないから、原告に対する不法行為も構成しない。
そして、通常、税理士又は税理士法人の監督の下、税理士資格を有しない従業員が顧客の窓口となり、顧客対応を行うことは実務上行われており、直ちに税理士法違反とは認められず、その他税理士法に違反することを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告が指摘する税理士法違反の事実が被告の債務不履行責任や不法行為責任を構成するものとは認められない。
2 次に、原告は、被告の職員が原告に誤った予想消費税額を説明し続けたことが債務不履行ないし不法行為である旨主張する。
(1)たしかに、事業者がその税務顧問である税理士法人との税務相談において、税理士法人から予想消費税額を伝えられ、それを前提として、今後の事業計画を策定し、資金調達等を遂行することも考えられるから、予想消費税額が実際とは大幅に異なっていた場合は、事業計画等に支障が生じるうることは理解できる事態であり、予想が外れた要因によってはこれを税理士法人である被告の不完全履行と構成することも考えられるところではある(なお、被告の予想消費税額の説明が誤っていた要因としては、原告が締結した事業譲渡契約の消費税額を見落としていたことが考えられる。甲2、3。)。
しかしながら、証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告に対し、消費税の納付期限内に確定納税額に係る納付書を交付した上で、国税の納税の猶予制度を利用するための換価の猶予申請書を作成し、最終的に税務署において同申請が承認されていることが認められる。そうすると、結果として、被告による上記予想消費税額の説明が誤っていたことによって、原告に具体的な実害が生じたとは認められない。その他原告に具体的な実害が発生し、経済的な損失を被ったのかについては具体的な主張立証は一切なく、被告の上記誤った説明によって原告の具体的な権利利益を侵害があったとは認められない。そうすると、被告の上記説明は原告に対する不法行為を構成しない。
(2)また、仮に、被告の上記説明の誤りが原告に対する債務不履行ないし不法行為であると考えたとしても、原告が被告に支払済みの本件契約に基づく顧問報酬相当額全額が損害となる根拠は不明というほかない。さらに、原告は、消費税の還付予想額と実際の納付額の差額として220万円を損害として主張するが、消費税は原告がその事業活動に応じて法律上負担すべき税金であるから、上記差額が被告の行為によって原告に生じた経済的な損害であるとはおよそ認められない。その他、具体的な損害の発生及び被告の行為との相当因果関係についての主張立証は一切ない。
(3)以上からすると、被告の行為につき原告の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。
3 以上のとおり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第43部
裁判官 中野雄壱
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