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解説記事2020年08月10日 ニュース特集 消費税課税事業者選択届出書の提出忘れで税理士に損害賠償責任(2020年8月10日号・№845)

ニュース特集
税理士紹介サービスからのクライアントとトラブルに
消費税課税事業者選択届出書の提出忘れで税理士に損害賠償責任


 今回紹介する税理士賠償責任事件は、消費税課税事業者選択届出書の提出を忘れたことに端を発するもの。税賠事件となる最も典型的なケースといえるが、同事件は、会社が使用する会計ソフトの税理士紹介サービスを利用して顧問契約を締結した税理士事務所と最初の申告でトラブルとなったものである。裁判では税理士側の請求が棄却され、会社側に約30万円の損害賠償請求が認められているが(東京地裁、令和2年3月2日)、損害賠償額は、会社側が想定していた還付金相当額よりも低いものとなっている。会社及び税理士双方にとって大きな痛手となった事件といえそうだ。

税理士事務所の従業員が課税事業者選択届出書の提出を失念

 本件は、会社(被告(反訴原告))が税理士(原告(反訴被告))の債務不履行により消費税等の還付を受けられなかったとして損害賠償請求を行ったが、税理士は債務不履行がないとして、委任契約の債務不履行に基づく105万4,518円の損害賠償債務が存在しないことの確認を求めるとともに、会社代表者から恫喝されたとして、会社に対し、慰謝料300万円の支払いを求めた事件である。一方会社は、反訴として、税理士との間で締結した税務会計に関する委任契約について、税理士の債務不履行によって本来受けることができたはずの消費税等の還付を受けられなかったとして、委任契約の債務不履行による損害賠償請求に基づく約152万円の支払いを求めている。
 会社は、会社設立初年度の赤字が約600万円になることから、税理士に法人税の確定申告と消費税の還付申告を依頼しようとし、使用する会計ソフトの税理士紹介サービスを利用し、原告の税理士と委任契約を締結(表1参照)。しかし、会社は、消費税等の還付を受けることができなかったため、税理士会に紛議調停の申立てを行ったが不調に終わり、税理士が本訴を提起することとなった。

【表1】経緯

・平成28年10月28日に会社設立し、平成29年2月からバーの営業を開始。初年度(平成28年10月28日~平成29年9月30日まで)は約600万円の赤字。

・会社は、使用する会計ソフトの税理士紹介サービスを利用し、平成29年9月19日に税理士と委任契約。報酬は年間6万円(税込)(年商5,000万円まで)、消費税申告が必要な場合は年2万円(外税)。サービス内容は、「経理検査(仕訳間違いの検査)」「決算監査(異常値監査)」「税務署への届出書類の提出」等。

・平成29年11月28日、税理士は会社に決算の数字が確定した旨をメールで報告。メールには「※消費税は1,054,518円の還付です。」と記載されている。

・平成29年11月30日、税理士は会社の代理人として還付申告。

・平成29年12月15日、税理士事務所の従業員は、課税事業者選択届出書の提出がされていないため、申告書の取り下げが必要と会社に連絡。

 税理士は、課税事業者選択届出書の提出義務者は会社であるなどと主張。一方、会社は、委任契約は消費税等の還付申告の代行を主たる目的としたものであったなどと主張していた(表2参照)。

【表2】主な争点と当事者の主張

会社(被告(反訴原告)) 税理士(原告(反訴被告))
課税事業者選択届出書の提出義務違反等が認められるか
・委任契約は、消費税還付申告の代行を主たる目的として決算申告代行業務を委任する旨の契約であった。会社代表者は、当初から第1期の決算申告及び消費税等還付申告の代行を委任する意思であることを明示しており、税理士側も認識していた。
・会社代表者は、税理士事務所の従業員に対し、消費税等還付申告を行う際に必要な事柄の有無も確認したが、すでに必要なデータは税理士も入手していること及び当該データに関して2点の問い合わせがある旨の回答がなされたのみであった。従業員からは、会社に対し、「消費税は1,054,518円の還付です」との報告がなされたため、会社代表者は、同額の還付を受けられるものと信じていた。
・その後、税理士事務所の従業員から会社代表者に対し、課税事業者選択届出書が提出されていなかったため、還付を受けることができないことなどの連絡がなされ、これを受けて、会社代表者が税理士に電話で問い合わせたところ、税理士は、本件委任契約に還付申告の代行業務が含まれていること及び従業員の懈怠により消費税等の還付を受けることができなくなったことを認めた。
・法人税法も消費税法も申告納税制度を採用しており、税務申告の行為主体は納税者である。本件委任契約上も、行為主体は会社であるとされている。したがって、課税事業者選択届出書の提出義務者は被告であって、原告に損害賠償義務はない。
・本件で、課税事業者選択届出書の提出期限は、平成29年9月30日であり、被告が原告に法人税・消費税等の申告の委任をしたのはその11日前であるが、課税事業者選択届出書を提出するか否かを吟味するには、1か月は必要である。初年度の年商が1,000万円超であれば、3期目から消費税等がかかり、それまでは不課税である。900万円余りの固定資産投資をしても、第1期から消費税等課税があることを考えると、納税者に不利になることが多い。いずれにしても、第1期の試算表の正確性を吟味して、第2期の事業予測を立ててみないと、納税者が求める課税事業者の選択が、有利か不利か分からない。

税理士に課税事業者選択届出書提出の確認義務あり

 東京地方裁判所(田中邦治裁判官)は、委任契約の内容に消費税の還付申告が含まれていることは明らかであるとした上で、税理士が会社に代わって課税事業者選択届出書を提出する義務を負っていたか否かを検討している。
 本件では、①税理士のメールには、「サービス内容」として、「税務署届出書類一式は、弊社で作成して無料にてお届けします」と記載されている、②会社代表者は税理士事務所の従業員に対し、決算及び申告に際し会社側でするべきことがあるか問い合わせていることから、裁判所は、税理士は会社に対して少なくとも消費税の還付を受けるためには課税事業者選択届出書を提出する必要があることを説明し、提出の有無を確認する義務を負っていたと指摘。税理士がこの義務を怠ったことは、本件委任契約の債務不履行に当たるとの判断を示した。
11日間あれば確認は十分
 また、税理士は、委任契約を締結した日(平成29年9月19日)は課税事業者選択届出書の提出期限(同年9月30日)の11日前であり、提出するか否かを吟味する時間がなかったと主張するが、裁判所は、会社が税理士に消費税の還付申告を依頼した事案であり、会社において課税事業者を選択することは決定済みであったといえるから、税理士において課税事業者選択届出書を提出すべきか否かを吟味する必要はなく、税理士は会社に対し、消費税等の還付申告を受けるために必要な課税事業者選択届出書を提出しているか否かを確認すれば足りたというべきであるとした。

報酬は8万円と廉価、帳簿と領収書の突合せ作業は契約に含まれず

 裁判所によれば、課税仕入れ合計1,602万5,968円については仕入税額控除の適用要件を満たすとし、税理士による委任契約の債務不履行がなければ会社が還付を受けられたであろう消費税等の金額は27万8,228円になると算定している。
 会社は、課税事業者選択届出書の提出を怠らなければ105万4,518円の消費税等の還付を受けられると主張しているが、裁判所は委任契約の内容において、帳簿と領収書等の突合せが「サービス内容」に含まれていたことを示す記載はなく、報酬も消費税の還付申告を含めて約8万円と廉価に留まっていると指摘し、税理士(又はその従業員)も突合せ作業を行ったとは認められないとした。したがって裁判所は、税理士側が還付見込額を105万4,518円であると説明したとしても、裏付けとなる領収書などがすべて保存されていることを確認した上での説明であったとは認められず、領収書等がすべて保存されていたと推認することはできないとした。
 加えて本件は、弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難であることから、裁判所は、会社が負担した弁護士費用のうち、損害額の約1割に相当する2万7,000円は税理士の債務不履行と相当因果関係のある損害であるとし、合わせて会社の損害額は30万5,228円になるとした。

会社からの恫喝、慰謝料は?
 本件では、会社の税理士に対する言説が恫喝に当たるか否かが1つの争点となっている。この点、税理士は会社代表者から「おたくの事務所、何があったのですか」「私の会社は他にありますが、皆、あなたの税理士責任は当然だと言っていますよ。私は消費税還付金を当てにして、資金繰りをやっちゃっているんだよ。どうしてくれるんですか。」などと何度も言われ、恫喝したと主張するが、裁判所は、税理士に本件委任契約の債務不履行が認められることからすると、会社の言動が税理士の主張どおりであったとしても、税理士に対する責任追及行為として社会通念上許容される限度を逸脱しているとはいえず、不法行為は成立しないとの判断を示し、税理士の慰謝料請求には理由がないとした。

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