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解説記事2020年08月31日 ニュース特集 過大役員退職給与で納税者敗訴、1年当たり平均額法も合理的(2020年8月31日号・№847)

ニュース特集
東京地裁、特段の事情ありと判断
過大役員退職給与で納税者敗訴、1年当たり平均額法も合理的


 原告である会社の元代表者に対する役員退職給与(2億7,000万円)の適正額が争われた裁判で、東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は令和2年3月24日、1年当たり平均額法で算定した3,268万2,976円を超える2億3,731万7,024円が不相当に高額な部分であるとの判断を示し、原告の請求を棄却した(平成28年(行ウ)第589号)。同事件では、役員退職給与適正額の算定方法は「平均功績倍率法」ではなく、「1年当たり平均額法」が採用されている。元代表者の最終月額報酬額である100万円は、専ら役員退職給与の額の算定根拠を整える目的で支給されたものといえ、功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情があると判断されたからである。なお、判決は確定している。

原告、功績倍率を8倍として算定

 本件は、肉用牛の飼育、肥育及び販売事業等を行う株式会社である原告(納税者)が、原告の取締役を退任した元代表者に対する役員退職給与2億7,000万円(内訳は退任慰労金2億円、特別功労金7,000万円)の全額を損金に算入したが、不相当に高額な部分の金額(法法34条2項)があるとして更正処分を受けたため、その更正処分の一部取消しを求めた事件である。原告が支払った役員退職給与のうち退任慰労金は功績倍率法により元代表者の最終月額報酬額を100万円、勤続年数を25年、功績倍率を8倍としたものであった。
 原告は、①同業類似法人の抽出基準等が原告の同業類似法人を抽出するための基準等として合理的なものとは認められない、②功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利となるか否かの検討なく、1年当たり役員退職給与額を用いた算定方法によっていることからすれば、1年当たり平均額法により算定された金額を役員退職給与適正額と認めることはできないなどと主張した(表1参照)。

【表1】当事者の主な主張

被告(国) 原告(納税者)
・同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、平均功績倍率法は法人税法34条2項及び同法施行令70条2号の趣旨に最も合致する合理的な方法というべきである。他方、1年当たり平均額法は、最終月額報酬額を用いないため、その合理性において平均功績倍率法に劣る面があることは否定し難いが、退職の直前に当該退職役員の報酬が大幅に引き下げられるなど、平均功績倍率法を用いることが不合理であると認められる特段の事情がある場合には、1年当たり平均額法もまた、同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、法人税法34条2項及び同法施行令70条2号の趣旨に合致する合理的な方法というべきである。 ・元代表者の最終月額報酬額である100万円は、元代表者の原告に対する功績からすれば少額にすぎると思われるが、その功績の程度を反映したものであるとはいえるため、功績倍率を用いた算定方法によることが原告にとって有利になる限りこれによるべきである。
・平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均額により役員退職給与適正額を算定することとした場合には、同業類似法人の平均的な退職給与の額を超える部分が不相当に高額な部分の金額であるということになるが、そのような解釈は「不相当に高額」という法人税法34条2項の文言に合致しないうえ、役員に対する退職給与のうち、隠れた利益処分としての性質を有する部分について損金算入を認めないこととした同項の趣旨にも合致しない。したがって、役員退職給与適正額は、最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額を用いて算定すべきである。

功績倍率を用いることが不合理である特段の事情あり

 東京地裁は、役員退職給与適正額の算定方法には一般に「平均功績倍率法」「1年当たり平均額法」「最高功績倍率法」(表2参照)があるほか、原告が提示する1年当たり最高額法も考えられるとした。このうち、平均功績倍率法については、最終月額報酬額は退職役員の在職期間中における報酬額の最高額を示すものであるとともに、退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を最も良く反映しているものといえ、同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、最も合理的な方法というべきであるとした。1年当たり平均額法については、退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映しているものというべき最終月額報酬額を用いないため、その合理性において平均功績倍率法に劣る面があることは否めないとしつつも、功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情がある場合には、1年当たり役員退職給与額の平均額及び勤続年数を用いて役員退職給与適正額を算定する1年当たり平均額法についても、合理的な方法となり得るとした。

【表2】主な役員退職給与適正額の算定方法

平均功績倍率法
 平均功績倍率法は、①退職役員に役員退職給与を支給した当該法人と同種の事業を営み、かつ、その事業規模が類似する法人(同業類似法人)の役員退職給与の支給事例における功績倍率の平均値に、当該退職役員の②最終月額報酬額及び③勤続年数を乗じて役員退職給与適正額を算定する方法である。
1年当たり平均額法
 1年当たり平均額法は、①同業類似法人の役員退職給与の支給事例における役員退職給与の額をその退職役員の勤続年数で除して得た額の平均額に、②当該退職役員の勤続年数を乗じて役員退職給与適正額を算定する方法である。
最高功績倍率法
 最高功績倍率法は、①同業類似法人の役員退職給与の支給事例における功績倍率の最高値に、当該退職役員の②最終月額報酬額及び③勤続年数を乗じて役員退職給与適正額を算定する方法である。

 なお、東京地裁は同業類似法人における平均功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の平均値を用いない最高功績倍率法及び1年当たり最高額法は、平均功績倍率法及び1年当たり平均額法と比べて合理性において劣るものといわざるを得ないとしている。
役員退任後に役員報酬を遡及的に追加支給
 その上で東京地裁が功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情の有無があるかどうかを検討したところでは、元代表者は役員報酬として月額25万円の支給を受けていたが、平成24年の役員退任後に役員報酬の遡及的な追加支給がされ、その最高月額報酬額は月額25万円の4倍に上る月額100万円とされていると指摘。原告が役員退任後に大幅に役員報酬を増額する必要があった合理的な理由を何ら主張しない事情に鑑みれば、元代表者の最終月額報酬額である100万円は、専ら役員退職給与の額の算定根拠を整える目的で決定及び支給されたものといわざるを得ないとし、役員退職給与適正額の算定については、功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情があるとの判断を示した。
 したがって東京地裁は、各1年当たり役員退職給与額の平均額(表3参照)を基に、元代表者の勤続年数を17年として1年当たり平均額(192万2,528円)により算定した額を役員退職給与適正額(3,268万2,976円)と認めることができるとし、役員退職給与の額2億7,000万円のうち、役員退職給与適正額を超える2億3,731万7,024円が不相当に高額な部分の金額になるとした。

>親会社での先行裁判では「平均功績倍率法」が合理的、平均功績倍率は「1.06」
 今回の原告会社の親会社でも元代表者への役員退職給与の適正額を巡る裁判が行われている(本誌825号7頁参照)。同事件で東京地裁(古田孝夫裁判長)は、平均功績倍率法で算定した3,964万4,000円を超える2億5,955万6,000円が不相当に高額な部分の金額であるとして、原告(親会社)の請求を棄却している(令和2年2月19日、平成28年(行ウ)第588号)(東京高裁に控訴中)。東京地裁は、同事件では平均功績倍率法(平均功績倍率×最終報酬月額×勤続年数)が合理的であるとしており、国が採用した同業類似法人の抽出基準も合理的であると指摘し、抽出した同業類似法人3法人の支給した役員退職給与に係る平均功績倍率は「1.06」になるとしている。

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