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解説記事2020年09月28日 ニュース特集 新会社計算規則に基づく株主資本変動の会計処理例(2020年9月28日号・№851)

ニュース特集
株式報酬&株式交付に係る株主資本の変動額等を数字を入れて解説
新会社計算規則に基づく株主資本変動の会計処理例


 改正会社法の委任を受けた会社法施行規則及び会社計算規則の改正案が9月1日に公表され、パブリック・コメントに付されている。
 同案では、改正会社法が「令和3年3月1日」に施行されることが明らかにされたほか(省令案附則第1条)、改正会社計算規則案には、株主資本の変動に関する新たな規定が設けられている。
 本特集では、近年のコーポレートガバナンス改革の流れの中で導入企業が増えている取締役等の報酬等として株式を交付(「事前交付型」を前提)する場合の株主資本の変動、及び新たな組織再編の類型として改正会社法に追加された株式交付(支配取得型株式交付を前提)に伴う株主資本の変動について、改正会社計算規則案の新規定に基づき、数字を当てはめながら会計処理例を解説する。

株式報酬に係る株主資本の変動

自己株式処分の場合、割当日にその他資本剰余金減少、各期末に徐々に増額

 株式報酬には、最初に株式を報酬として交付し、一定期間の業績等を達成した段階でその譲渡制限を解除する「事前交付型」と、一定期間の業績等を達成した段階で株式を報酬として交付する「事後交付型」があるが、本稿では、日本企業で導入が多い「事前交付型」を前提に会計処理例を確認する。
【前提】
 甲社はX年度、取締役に今後2年に渡る役務の対価として株式を無償交付した。具体的には、役務の対価の公正な評価額を合計3,600と見積もり、6月末の割当日において、新株発行2,400(24株)、自己株式処分1,200(12株、簿価1,000)により一括で支払った。

【割当日の処理】
 割当日には資本金は変動させず、自己株式の処分に係る部分だけ会計処理を行う。具体的には、処分した自己株式の帳簿価額を自己株式の額から減少させるとともに(会社計算規則24条② ※この部分は今回の改正事項ではない)、処分する自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金の額から減少させる(改正会社計算規則(案 以下同)42条の2④)。この事例では、簿価1,000の自己株の処分を行っているため、仕訳は下記の通りとなる。
 その他資本剰余金1,000/自己株式1,000
【X年度の株主資本変動日(期末)の処理】

 資本金が増加するのは株主資本変動日(期末)とされる(改正会社計算規則42条の2①)。
(1)資本金等増加限度額の計算
 資本金は資本金等増加限度額の範囲で増加させる(改正会社計算規則42条の2①)。資本金等増加限度額は下記の算式により求めることになる。

資本金等増加限度額=
{一号(イ−ロ)−二号}×株式発行割合
一号イ:株主資本変動日(期末)までの取締役の役務の対価の公正な評価額

一号ロ:株主資本変動日の直前の株主資本変動日(前期末)までの取締役の役務の対価の公正な評価額
二号 :株式交付費用のうち株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額(会社計算規則附則11五により当分の間、零)
株式発行割合=発行株式数/(発行株式数+処分自己株式数)

 上記算式に【前提】で示した事例を当てはめてみよう。まず、会社側は、取締役の2年間の役務の対価の公正な評価額を3,600としており、X年度に対応する部分は9か月/24か月であることから、一号イの金額は3,600×9/24により1,350となる。
 一号ロの金額は、前期末までの数値として対応する金額がないためゼロとなる。同様に二号もゼロとなる。また、発行株式数は24株、処分自己株式数は12株となる。したがって、資本金等増加限度額は{(1,350−0)−0}×24/(24+12)により900となる。
(2)資本金に計上しない金額
 資本金等増加限度額の1/2を超えない金額は資本金として計上しないことができる。その場合、資本金として計上しない金額は資本準備金として計上しなければならない(改正会社計算規則42条の4②③)。ここでは仮に、資本金等増加限度額900のうち100を資本準備金として計上することとする。
(3)その他資本剰余金の増加
 株主資本変動日(期末)には、上記のほか、割当日の自己株式処分に伴う資本剰余金の減少額をいわば“取り戻す”形で、その他資本剰余金の額を増加させることになる。具体的には以下の算式を用いる(改正会社計算規則42条の2⑤一)。

その他資本剰余金の変動額(増加額)=
上記(一号−二号)×自己株式処分割合(1−上記株式発行割合)

 これを事例に当てはめると以下の通りとなる。
 =(1,350−0)×(1−24/36)=450
 (1)〜(3)を一体で見た場合の期末の処理(会計上の仕訳)は次の通りである。

【X+1年度の期末の処理】
 以降の処理はX年度と同様であり、年度末に(1)〜(3)の処理を行う。
(1)資本金等増加限度額の計算
資本金等増加限度額={(3,150−1,350)−0}×24/36=1,200
※3,150は期末までの(X年度〜X+1年度の)取締役の役務の対価の公正な評価額、1,350は前期末(X年度)までの取締役の役務の対価の公正な評価額
(2)資本金に計上しない金額
 仮に100を資本準備金に計上するとする。
(3)その他資本剰余金の増加

【X+2年度の期末の処理】
(1)資本金等増加限度額の計算

資本金等増加限度額={(3,600−3,150)−0}×24/36=300
※3,600は期末までの(X年度〜X+2年度の)取締役の役務の対価の公正な評価額、3,150は前期末(X+1年度)までの取締役の役務の対価の公正な評価額
(2)資本金に計上しない金額
 仮に100を資本準備金に計上するとする。
(3)その他資本剰余金の増加

 以上の結果、全期間を通じた会計処理は次の通りとなる。

株式交付に係る株主資本の変動

株主資本等変動額=新株発行対価+その他資本剰余金

 株式交付とは株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう(改正会社法2条三十二の二 下図参照)。以下では「支配取得型株式交付」を前提に会計処理例を確認する。

【前提】
 甲社は支配取得型の株式交付を実施した。その対価は新株発行1,200(10株)、自己株式処分240(2株、なお、自己株式の帳簿価額200)だったとする。
 株式交付を行った時の株式交付親会社の株主資本の変動額は、改正会社計算規則39条の2に定められている。具体的な計算手順は同条2項に規定があり、原則的な取扱いとただし書きから構成されている。それぞれのケースにおける株主資本等変動額を見てみよう。
(1)原則的な取扱い
 株式交付親会社の資本金及び資本剰余金の増加額は、株主資本等変動額の範囲内で、株式交付親会社が株式交付計画の定めに従って定めた額とし、利益剰余金の額は変動しないものとされる。
 株主資本等変動額とは、株式交付親会社において変動する株主資本等の総額であり、支配取得型の株式交付にあっては吸収型再編対価時価などをいう(改正会社計算規則39条の2①一)。
 本事例では、対価として「新株10株+自己株式2株」を交付しているが、会社計算規則における株主資本等は資本金、資本剰余金及び利益剰余金を意味するものであり(会社計算規則2条③三十)、自己株式の帳簿価額は含まれないため、ここでいう株主資本等変動額は、新株10株と自己株式2株の時価1,440から自己株式の帳簿価額200を控除した1,240となる。これは、自己株式の時価240と帳簿価額200の差額40がその他資本剰余金となり、新株発行対価1,200と合わせ、株主資本等変動額を構成するという表現もできる。
(2)ただし書きにおける取扱い
 改正会社法816条の8の規定による手続き(債権者による異議申し立ての手続き)をとっている場合以外の場合には、株式交付親会社の資本金及び資本準備金の増加額は、「(株主資本等変動額+対価自己株式の帳簿価額)×株式発行割合(発行株式数/(発行株式数+対価自己株式数))」によって得た額から株主資本等変動額の範囲内で、株式交付親会社が株式交付計画の定めに従いそれぞれ定めた額とし、当該額の合計額を株主資本等変動額から減じて得た額がその他資本剰余金の変動額とされる。
 上記の事例では、「(株主資本等変動額1,240+対価自己株式の帳簿価額200)×発行株式10株/(発行株式10株+対価自己株式2株)=1,200」となり、これが株式交付親会社において(最低限)増加する資本金と資本準備金の合計となり、その合計額を株主資本等変動額1,240から減じて得た額40がその他資本剰余金の変動額になる。
 なお、改正会社計算規則39条の2第2項は、株式交換における条文と同じ規律を求めている(株式交換の場合、会社計算規則39条第2項において、同じく債権者による異議申し立ての手続である799条を参照している)。趣旨としては、株式交換及び株式交付については、対価として自社の株式以外の金銭等を用いる場合以外は債権者保護手続が必要とされていないが、債権者保護手続がとられない代わりに、債権者保護のために資本金と資本準備金について一定の額までは少なくとも増加させて、配当財源となるその他資本剰余金の増加額を制約するものと考えられる。

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