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解説記事2020年09月28日 SCOPE インサイダー取引事件、刑事は有罪も民事では損害賠償認めず(2020年9月28日号・№851)

東京地裁、知人の証言は信用できず
インサイダー取引事件、刑事は有罪も民事では損害賠償認めず


 インサイダー取引事件により社会的信用を失ったとしてSMBC日興証券(原告)が金融商品取引法違反として有罪となった同社の元執行役員に対して損害賠償を求めた事件で、東京地方裁判所(小川理津子裁判長)は令和2年2月17日、インサイダー情報を伝達した行為を認めることはできないとして、原告の請求を棄却する判決を下した。東京地裁は、インサイダー情報を元執行役員から得たとする知人の証言は信用できないとした。
 本件については、刑事事件では有罪が確定しているが、民事事件では逆の判断になっている。なお、同事件は東京高裁に控訴されている。

知人の証言のみで情報伝達行為があったとは認められず

 本件は、SMBC日興証券(原告)がインサイダー取引事件により金融商品取引法違反として有罪となった同社の元執行役員に対して、自らの業務上取得した株式公開買付けの実施に関する事実を知人に伝達したとして、債務不履行(内部者取引管理規程違反)及び不法行為に基づく損害賠償として、約5,990万円の損害賠償を求めた事件である。

元執行役員(被告)の刑事事件とは?
 横浜地方裁判所は元執行役員(被告)に対する金融商品取引法違反事件について、平成25年9月30日、懲役2年(執行猶予4年)及び罰金150万円との判決を下している。被告は、上場会社3社の株券の公開買付けを行う事実を知り、知人にその事実を伝え、公表前に上場会社3社の株券を買い付けるように促し、犯罪を実行させたというものである。
 その後、本事件は、平成29年7月5日に被告の上告が棄却され判決が確定している。

 原告は、被告の知人の証言は情報伝達行為がされた事実について、本件刑事事件第一審から控訴審の審理過程を通じて一貫しているなど、信用することができるなどと主張した(参照)。

【表】当事者の主な主張

原告(証券会社) 被告(元執行役員)
・知人の証言が、情報伝達行為がされた事実及び重要事実の伝達が焦げ付きに関する知人の被告への責任追及の過程でなされた事実について、刑事事件第一審から控訴審の審理過程を通じて一貫していること、知人は自己にとって不利益な事実であるにもかかわらず、自発的にバルス株及びマスプロ株に関して述べていること、その証言は通話記録と知人の取引の合致など客観的な証拠とも合致していること、被告が作成したバンテックの会社四季報の写しが知人の関係先から発見されたこと等からすると、十分信用できるものである。
・原告においては、内部者取引管理規程を定め、役職員の遵守すべき義務として、「役職員は、法人関係情報を取得し又は報告を受けた場合は、業務上当該情報を伝達することが必要な法人関係役職員以外の第三者に伝達してはならない」としているところ、本件情報伝達行為は、「法人関係情報」を第三者に伝達するものであり、義務違反行為として原告に対する債務不履行を構成する。
・被告が知人に本件株式の重要事項を伝達した行為は、原告の管理体制などに対する社会的信用を大きく毀損するものとして、原告に対する不法行為を構成する。
・知人の証言は、それ自体あいまいな部分や検察官からの誘導によって得られた部分が多く信用できないし、①知人の新たな株取引と被告が上場企業の情報に接することの容易性との間には何ら相関関係は認められず、②知人がした株取引の中には、独自の判断で行ったものや、TOB公表前に売って損失を被ったり、TOB 情報を聞いて買ったといいながら、TOB に至っていない取引があるなど、平成21年10月から平成23年9月までの間の知人の新規銘柄の買付けと被告の非公開情報の取得との間に偶然とは考え難い強い関連性が認められない。
・TOB実施の決定に係る公表されていない情報が原告の内部者取引管理規程の「法人関係情報」に該当することは認めるが、被告は本件情報伝達行為をしたことはない。




・被告は本件情報伝達行為をしておらず、不法行為は存在しない。

証言は具体性に欠け、変遷も多いと指摘
 東京地裁は、知人の証言は被告から事前にバンテック株、バルス株、マスプロ株のTOB又はMBOの情報を聞いて、それらの株を買ったものであるが、バンテック株のTOBの実施に関する事実を伝達した日とされる平成23年2月22日に被告との間でどのような会話をしたのか具体的に覚えておらず、TOBの価格を事前に聞いていたかという重要な事項について変遷し、バンテックの会社四季報のコピーをもらった時期等についてもあいまいなものとなっているなどとした。
 その上で、知人の証言は、具体性に欠け、変遷も多いなど信用性に欠けるものであり、これを裏付けるべき的確な証拠もないと指摘し、知人の証言のみをもって直ちに情報伝達行為があったとは認められないとの判断を示し、原告の請求を棄却した。
刑事事件で認定された損失補てんは?
 なお、刑事事件では、被告が情報伝達行為をした動機として、フォーサイドの株取引によって知人に生じた損失を補てんするためであったことが認定されているが、本件ではこの点についても検討が行われている。
 東京地裁は、被告が知人に対し、業績の良い会社としてフォーサイドの名前を出したことは認められるが、知人は自らの判断でフォーサイドの株を購入したものであると認められ、フォーサイドの株取引によって巨額の損失を被ったとしても、被告が知人に対して何らかの責任を感じるなどして、知人に生じた損害を補てんするためにインサイダー情報を提供するということは考え難いとしている。また、知人がフォーサイドの株を購入したのは平成17年夏頃であり、被告が情報提供したと認められる最後の時期が平成18年4月頃であることからすると、知人がフォーサイドの株取引によって損失を被ったことが平成21年10月以降のインサイダー情報提供の動機になり得るものとは通常考えられないとした。

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