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民事2015年04月20日 2つの抵当権抹消事件 弁済による抹消か、妨害排除請求か 執筆者:山田猛司

 不動産登記簿上抵当権が設定されているが、抵当権者が行方不明という場合があります。最近取り扱った2つの事件は、似てはいるのですが違う訴訟手続をとることとなったのでここにご紹介したいと思います。
 いずれも抵当権者は会社で、会社の登記事項証明書は取得できましたが、本店所在地について現地調査したところ会社は存在しなかったという事案です。
 1つ目の事案は代表者の住所確認ができませんでしたが、もう1つは代表者住所の確認が取れているが受領拒否をしているというものでした。
 2件とも、会社の本店所在地に内容証明郵便を出しましたが、宛所に見当たりませんという付箋がついて戻ってきました。そこで会社代表者の住所に宛てて再度内容証明郵便を出したところ、1件は宛所に見当たりませんという付箋とともに戻ってきましたが、もう1件については留置期間の経過により返戻という付箋がついてきました。
 通常、登記簿調査の次には、会社の本店所在地及び代表者の住所について現地調査をするという段取りになりますが、本店所在地については2社とも会社は存在せず、確認することができませんでした。ただ、代表者の住所について現地調査した結果、郵便局の付箋の通り、違いがありました。1件目は、表札も代表者の氏名とは全く別なものであり、近所の聞き込みの結果そこには居住しておらず行方が分からないというものでした。もう1件については、代表者の住所地に代表者と同一の氏の表札がかかっており、近所の聞き込みの結果でもそこに居住しているという事実が判明したのです。
 代表者の住所について確認が取れないものについては、公示送達の申立てをしました。しかし、公示送達では被告が答弁書を提出しないで第一回口頭弁論期日に欠席したとしても擬制自白の効果は発生しないので、原告は証明責任を免れません。したがって、請求内容についての確かな証拠を提出しなければならず、それができない場合には結果として敗訴の憂き目を見ることになります。
 公示送達の事件は、弁済による抵当権消滅を原因とする訴えでしたが、古い抵当権であり、弁済の事実を証明する証拠を揃えることは難しかった案件です。依頼人に確認しても相当古い抵当権の弁済なので資料は無いということでした。支払った手形の半券は残っていても、手形が落ちたかどうかはわからないので裁判所としてはそれを証拠と認めることはできないということでした。
 そこで、当初の弁済による抵当権抹消登記請求事件から、所有権に基づく妨害排除請求に訴えを変更しました。公示送達では欠席裁判による自白は認められないことから、原告が証明可能な事実で勝訴判決を得るためには、所有権に基づく妨害排除請求権によらざるを得ませんでした。物権的請求権に切り替えたところ、原告が所有しているということと抵当権が設定されているという2つの事実を不動産の登記事項証明書によって証明することが可能であること、一方で抵当権が有効に成立しているという事実は被告に立証責任があるため、公示送達事件における欠席裁判ではこの方法が最適でした。
 もう1つの、代表者の住所確認がとれるものについては、付郵便送達の申立てが認められれば、たとえ被告が訴状を受領拒否していたとしても、裁判所が訴状を書留郵便で発送した段階で到達した効果が発生することになります。そして被告が答弁書を提出しないで第一回口頭弁論期日に欠席をした場合、結果として自白をしたことになりますので、原告は証明責任を免れます。
 このように、抵当権者の行方不明について対処法はひとつでないわけですが、さらにもし会社の登記事項証明書自体も保存期間の経過により取得できない場合には会社の存在は不明ということになり、付郵便送達はもちろん今回の公示送達の方法も取ることはできないということになります。そのときには、特別代理人選任の手続きをするか、仮代表清算人の選任手続きをとって訴訟を遂行することとなります。ただし、抵当権抹消登記のような、担保権の抹消に関しては、公示催告による抹消手続きや休眠担保権の抹消手続きというような特例も認められますので、いくつかの選択肢の中でどれが一番よいかを検討する必要があります。
 逆に、抵当権者ではなく、所有者が行方不明というような場合もあります。そのときには、公示送達による訴訟提起もできますが、不在者財産管理人の選任申立てをして抵当権の抹消手続きをするという方法もあります。
 また、例えば債務者死亡による団体信用生命保険による保険金で抵当権の被担保債権が弁済されたが相続人間で争いがあるといった事件では、所有権移転登記ができない場合があり、すでに消滅している抵当権の抹消も滞っているというようなこともあります。
 最近では当事者が行方不明という事例が多くなっていますが、共同申請を原則とする不動産登記手続きにおいてはそのことが結果的に登記の障害ともなっており、未登記の原因の1つであるともいえます。
 登記手続上では弁済証書による単独抹消という規定はありますが、その場合真正担保のため抵当権者の印鑑証明書の添付が要求されており、現実には行方不明の債権者が印鑑証明書付きの弁済証書を提出しているということはあまりないので、別の方策を取らざるをえません。
 また、休眠担保権の抹消手続においても、債権全額の供託という条件があるため、抵当権の抹消の場合には当事者の負担が大きすぎるという問題もあります。
 抵当権の抹消1つをとっても、このようにいろいろな問題があり、スムーズに登記をすることができないのが現状です。裁判手続きによらざるを得ない場合には、簡裁代理権の限界という問題もあり、司法書士にとっては悩ましいところです。

(2015年4月執筆)

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