企業法務2020年05月20日 <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会 発刊によせて執筆者より 執筆者:中山雄太郎
新型コロナウイルス感染症が企業活動に大きな影響を与えている中、経済産業省と法務省は、2020年4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」 (以下「Q&A」といいます。)を公表しました(なお、Q&Aは、本稿執筆時点までに、同月14日と同月28日の2回、更新されています。)。
Q&Aは、新型コロナウイルスの感染が拡大する状況下において、会社が株主総会の運営に関しどのような措置を講じることが可能であるかについての指針を示したものであり、株主総会に関する実務上、重要な意義を有します。
もっとも、Q&Aの中には、主として上場会社の株主総会を念頭に置いていると思われる記述もありますので、中小企業の株主総会実務においてQ&Aを参照するにあたっては、一定の留意が必要です。
以下、Q&Aに関し、中小企業の株主総会との関係でポイントとなる点や留意すべき点をまとめてみました。
1.Q1(来場自粛の呼びかけ)について
Q&AのQ1においては、「株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけること」が「可能」であるとされ、「その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい」とされています。
この点、中小企業の株主総会においても、招集通知等で株主に来場を控えるよう呼びかけることは可能であると考えられます。
もっとも、中小企業の場合、株主数や株主構成次第では、そもそも、書面決議(会社法319条)や書面報告(会社法320条)の方法により、株主総会の開催自体を省略するという選択肢も考えられますので、そのような選択肢を含めて検討すべきものと思われます。
また、(書面決議・書面報告の方法は用いず)実際に株主総会を開催することにした上で、株主に来場を控えるよう呼びかける場合も、中小企業においては、来場に代わる議決権行使の手段として、「書面や電磁的方法による事前の議決権行使」を案内するのではなく、招集通知に委任状を同封し、株主総会への出席(来場)に代えて、委任状を返送するよう要請するという対応が考えられます(注)。
(注) 「書面」「電磁的方法」による議決権行使は、株主総会の招集の決定(会社法298条1項)において、いわゆる書面投票制度(同項3号)や電子投票制度(同項4号)を採用することを定めた場合に可能となるものですが、書面投票制度や電子投票制度を採用した場合、法定の事項を記載した株主総会参考書類や議決権行使書面を作成し株主に交付しなければならないほか(会社法301条1項、302条1項)、非公開会社であっても株主総会の日の2週間前までに招集通知を発しなければならない(会社法299条1項)など、会社の実務的負担が大きくなります。なお、株主数が1000人以上の会社においては、原則として、書面投票制度を採用する必要がありますが(会社法298条2項)、株主数が1000人未満の会社においては、書面投票制度を採用する義務はありません。
2.Q2(入場人数制限等)について
Q&AのQ2においては、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるためにやむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内で、「会場に入場できる株主の人数を制限すること」が「可能」であり、「その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能」とされています。
この点、中小企業の株主総会においても、一般論としては、感染拡大防止の観点から「やむを得ない」と判断される場合に、合理的な範囲内で、会場に入場できる株主の人数を制限することは認められると考えられます。もっとも、もともと株主数が限られている中小企業においては、入場株主数を制限することが、感染拡大防止の観点から「やむを得ない」とは認められないケースもあると思われますので、留意が必要です。例えば、もともと株主が数名程度しか存しない会社において、感染拡大防止を理由に、一部の株主の入場を拒否することは、通常、認められないと考えられます(仮に、そのような会社において、一部の株主の入場制限を行い、出席を認めた株主のみで決議を行った場合、当該決議について、決議取消(会社法831条1項1号)の問題が生じうると思われます。)。
3.Q3(事前登録制)について
Q&AのQ3においては、「株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させること」が「可能」であるとされていますが、中小企業の場合、そのような事前登録制を採用する必要性があるケースは多くないと考えられます。
4.Q4(ウイルス罹患が疑われる株主の入場制限・退場命令)について
Q&AのQ4においては、「発熱や咳などの症状を有する株主(ウイルスの罹患が疑われる株主)に対し、入場を断ることや退場を命じること」が「可能」であるとされています。
この点は、中小企業の株主総会においても同様であり、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、発熱や咳などの症状を有する株主(ウイルスの罹患が疑われる株主)について、入場制限や退場命令(会社法315条2項)の措置を講じることは可能と考えられます。
5.Q5(株主総会の時間短縮)について
Q&AのQ5においては、「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること」が「可能」であるとされています。
この点は、中小企業の株主総会においても同様であり、株主総会の時間を例年より短縮することは可能であると考えられます。例えば、報告事項の報告や議案の上程については、「お手元の資料に記載のとおり」という程度の説明にとどめることも可能です。
(2020年5月執筆)
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