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税務・会計2013年10月04日 印紙税の課否判定を行う上での留意点 執筆者:恒吉良典

1 はじめに

 印紙税の歴史を紐解くと、明治6年2月に公布された「受取諸証文印紙貼用心得方規則」に始まる。その後「証券印税規則」となり明治32年に「印紙税法」が制定され、その後大きな改正もなく、昭和42年まで70年間にわたって施行されていたが、同年にその全部が改正され、新たな現行の「印紙税法」が施行された。平成元年、消費税法が制定され、課税文書の見直しが行われるなどの改正を経て現在に至っている。
 印紙税は各種の経済取引に伴い作成される文書に対して軽度な負担を求めるものであるが、文書を作成する背後にある経済取引を課税対象としているものともいえることから、印紙税は「流通税」の一種であるといわれている。また一つの取引に対して文書が数通又は数回作成されれば、何通でもまた何回でも課税されることから、印紙税は「文書税」であるといわれている。
 印紙税は納税者(文書の作成者)が自主的に文書の課否判定をして、印紙税額を算出し印紙を貼り付けて納付するという自主納税方式を取っている。印紙を貼り付けなかった納税者には、行政上の制裁である過怠税(納付しなかった印紙税の額の3倍)が徴収される(自主申出(1.1倍))。

2 課税文書の概念

 印紙税の課税文書となるのは、印紙税法別表第一の課税物件表(以下、「課税物件表」という。)に掲げられている文書であり、課税物件表に掲名された特定の文書(課税文書)のみが課税の対象となる。ただし、掲名された文書であっても、公益(共)性、その他の政策上の見地から印紙税を課税することが望ましくない文書については、印紙税を課税しないこととしている(非課税文書)。課税物件表に掲名されていない文書は、課税文書でないので印紙を貼り付ける必要はない(不課税文書)。

3 課税文書の意義

 印紙税の課税文書とは、「課税物件表」の「課税物件」欄に掲げる文書に証されるべき事項(課税事項)が記載され、かつ、当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書をいい、非課税文書以外の文書ということになる。
 課税事項を証明する目的で作成された文書であるかどうかは、その文書の形式、内容、目的などを経済取引の社会(一般)通念に照らして判断することとなる。

4 課否判定の基本

 約束手形、株券、社債券のように定型化された文書であれば、課税物件表に掲げられた文書の名称と現実に作成される文書の名称がほぼ一致するので、判断に迷うことはないが、定型化されていない文書については、作成される文書が広範囲で、その名称や内容、形式が多種、多様であることから判断に迷うことが多い。
 そこで、ある文書が課税文書に該当するのか、しないのかの判断に当たっては、次の点に留意する必要がある。
(1) 文書に記載されている個々の内容について判断すること
(2) 文書の名称又は呼称及びその形式的な記載文言によるのではなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断すること
 文書の全体を一つとして判断するのみではなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断する。文書の表題、形だけに囚われないで、記載されている文言を忠実に解釈し判断することが重要である。記載文言の中に一つでも課税物件表に掲げる課税事項となるものが含まれていれば課税文書となる。
 また文書は、記載されている文言に証明力があるので、文書の内容判断は、その文書に記載されている文言のみに基づいて行うこととなる。
 なお、その文書に記載されている文言のみに基づいて内容判断するとしても、その文書が単に文言、符号、記号、略字等で記載されている時は、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解事項、基本契約又は慣習をも加味したところで総合的に判断することとなる。例えば、「ピーナツ3個受け取りました。」と記載された文書は、単に「物品の受領書」に過ぎないが、当事者間の了解事項でピーナツ1個は100万円ということであれば「金300万円を受け取りました」ということになり、売上代金であれば第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)に該当することとなる。また、売掛金の請求書に「了」、「済」の表示があり、その「了」、「済」の表示は売掛金を領収したということの当事者間の了解事項であれば、同様の判断となる。

5 その他

 課税当局の印紙税調査で大手金融機関や百貨店等の業種が多額な印紙貼付漏れを指摘され、追徴(過怠税)されたとの報道を聞いたことがある。経済取引の複雑化、社会構造の変化でグローバル化、IT化が進み広範囲にわたる文書が多種・多量に作成されている。企業はコンプライアンス並びにお客様(消費者)重視の観点(サービス)からダイレクトメール等が作成されている。文書の表題がお知らせ、ご案内、ご通知、計算書、申込書、完済、送り状、承り票など、一見印紙税とは何ら関係ないように思われるが、文書の課否判定に当たっては十分な知識と注意を持って判断し判定することが必要であると思える。

(2013年9月執筆)

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