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企業法務2020年08月07日 不本意にも退職勧奨に応じてしまった場合の対応 執筆者:大西隆司

1 退職勧奨と退職の意思表示

 会社を辞めさせられたという労働者の相談の中には、一定の割合で、解雇されたのではなく自ら退職の申出や退職届を提出していて、会社としては、合意解約の申し入れや辞職の申込みの誘因を行うにとどまる退職勧奨を行っていたにすぎず、これを受けた労働者が辞職の通知や合意解約の申入れを行ったと評価される事例が存在します。
 新型コロナウイルスの感染拡大による影響により、業績の悪化している企業などで、これによる解雇件数の増加が認知されているところですが、人員削減の必要性から解雇に至らない退職勧奨による退職も増加しているものと思われます。
 退職勧奨に対して応じるかどうかは労働者の自由なのですが、その点の認識が薄く、労働者が不本意にも退職勧奨に応じて退職する旨を発言した場合や退職届を提出してしまった場合の撤回の可否ついて記載したいと思います。

2 退職の申入れの撤回

 退職勧奨に応じて、労働者が退職届を提出した場合、労働者による告知により使用者との労働契約を一方的に解約する辞職と労働者と使用者とが合意して労働契約を終了させる合意解約(合意退職)のいずれかと判断されることになります。
 辞職の意思表示の場合、使用者に到達した時点で解約告知としての効力が生じてしまうため、労働者であっても一方的に意思表示の撤回ができません。
 一方、合意解約の申入れの後、使用者が合意解約の申込みに対し、退職届で労働者が承諾するようなケースを除いて、使用者がこれを承諾する前であれば、申込は撤回できるとされています。
 そのため、退職の意思表示の撤回ができるかどうかについて、合意解約の申入れに当たるといえるか、辞職との区別が問題となります。
 労働者による「私、今月いっぱいでやめさせていただきます」との発言が問題となった事例(広島地判S60.4.25)では、「労働者が使用者の同意を得なくてもやめるとの強い意思を有している場合を除き、合意解約の申込みであると解する」と判断され、労働者の「会社辞めたる」の発言が問題となった事例(大阪地判H10.7.17)でも、同様に合意解約の申入れと判断されています。
 裁判例の判断を基にすると、退職勧奨により不本意に応じてしまった事案では、労働者の方が一方的にやめるという強い意思を有していると認定される事例は少ないと思われるため、合意解約の申入れと判断される場合が多くなるでしょう。
 そのため、退職届の効力を認めたい使用者側としては、退職届の受理、決済や辞令の交付等の手続が必要な場合は、その手続きが終了した旨通知して、承諾の意思表示を終えておくことが必要です。
 一方、労働者の側は、使用者からの承諾の通知が来るまでに、撤回の意思表示をすることが必要となり、受領日付がわかる方法により書面で残す、又はメールを送信するなどの方法で撤回の時期を明確に証拠化しておくことが必要でしょう。また、退職金の受領など撤回と矛盾する行動は避けるべきで、一方的に会社から振り込まれた場合は、退職金ではなく賃金の一部として受領する旨を内容証明郵便で郵送するなどの対応が必要です。

3 退職の意思表示取消し、無効

 労働者の退職届の提出が、辞職の通知にあたる場合、退職の申込みに対する承諾にあたる場合、合意解約の申入れにあたるが、撤回の通知をする前に会社から承諾の通知がなされてしまった場合などは、上記の撤回が認められません。
 この場合は、錯誤、脅迫、詐欺などの民法の規定を利用して退職の意思表示の取消しや無効の主張や退職の意思表示が自由な意思と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しないことを主張して、意思表示の効力を争っていくことになります。
 過去の裁判例では、退職勧奨時に懲戒解雇事由がないにもかかわらずあるかのように告知した退職勧奨の事例、閉店に伴う退職合意について、新店舗の出店計画を隠した退職勧奨などの事例で意思表示の取消し、無効などが認められたものがあり、退職勧奨時の会社側の対応や発言内容を問題としていくことが必要になります。

(2020年7月執筆)

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著等

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