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税務・会計2012年02月21日 広大地評価における「経済的合理性」とは 執筆者:清田幸弘

 相続税は資産の評価額に課税される税金である。そのため、多くの方にとって資産の大半を占める土地の評価額をいかに抑えるか、ということこそが相続税対策としては最優先課題となる。
 『土地の評価減』というと、納税者側にしてみれば非常に魅力的な言葉ではあるが、税務署側としてみればいささか聞こえが悪い。誤解がないように前置きをすれば、私たちの仕事は、法に則った評価方法を漏れなく活用し、本来あるべき価額を提示することである。ただし、その「本来あるべき価額」を導き出すことほど専門性が要求されるものは無い。
 一つとして同じものが存在しない土地というものの個別性。それが故に難解さと煩雑さが増す評価方法の判断。経験の蓄積が無ければ評価減に踏み切るべき境界線がどこにあるのかすらも認識できない。その代表的な例として、実務上、納税額を最も左右する評価方法である「広大地評価」を取り上げてみる。
 広大地評価とは、その地域における標準的な宅地の地積に比べて、著しく広い宅地にのみ適用できる評価方法であるが、その算式は以下のように実にシンプルなものである。
 広大地の価額=正面路線価×広大地補正率×地積
 広大地補正率=0.6-0.05×地積(※)/1,000m2
 (※ 広大地として評価する宅地は、5,000m2以下の地積のものとされている。ただし、地積が、5,000m2を超える広大地であっても広大地補正率の下限である0.35を適用して差し支えない。)
 広大地補正率を求める計算式の冒頭から「0.6」を乗じていることからもわかるように、広大地の適用が決まった時点で、その評価額は単純に「正面路線価×地積」で求められる価額より、最低でも4割減される。
 何故このような大幅な減額が認められるのかといえば、簡単にいうと、広い宅地にいくつかの戸建分譲を建てるとすれば、複数の住人が使用するための公共の場、例えば道路として使用する土地を確保しなければならない。この部分は「潰れ地」とみなして、個人の財産としての評価額から差し引いて構わないというのは、納得のいくところではないだろうか。
 広大地として評価するべきか否かの判定基準は、端的には「経済的合理性」という一語に集約できる。ただし、土地には一つとして同じものが存在しない。そのため、何が「経済的合理性」に叶っているのかという判断は、常に周辺地域の利用実態を精査してから行う必要がある。対象地の間口と奥行との関係、地積形状、土地評価額といった個別的な要因は勿論のこと、現実にそのような開発を行い、周辺の環境条件や交通条件を勘案した結果、本当に需要が見込まれるのか、という市場の動向まで考慮しなければならない。
 先日の事例でいえば、現に工場が建ち並んでいるような地域に、既にマンションが建設された土地であったにもかかわらず、広大地評価が適用された、というものがある(前述のように、広大地評価は戸建分譲の敷地として利用することを前提とした評価方法である)。このような結論に至ったのにも背景があり、地域としての競争力等から検討すると、過去に建築されたマンションの需要の見通しは芳しいものではなく、この先は工場地や空き地も戸建ての住宅地へと移行していく可能性があった。つまり、かつての開発手法はさておき、あくまでも今現在の「経済的合理性」に焦点を置いた場合、戸建分譲こそが適正な開発方法であるとして広大地評価が容認されたのである。
 このように、土地評価においては現況の利用実態に捕らわれず、過去にどのような開発がなされ、未来に向けてどのような開発が求められているのか、といった時間軸にも気を払わなくてはならない。縦(奥行)・横(間口)・高さ(容積率)そして時間という四次元の視点から「経済的合理性」という抽象語に向き合うことで、新たなる広大地評価の境界線が浮かび上がってくるのである。

(2012年2月執筆)

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